その5
しばらくして。鷹耶の元にオルガがトレイを持ってやって来た。
「ほい、お待ちどーさま。」
彼はサイドテーブルに持って来たトレイを置いた。その上には雑炊のような
モノとリンゴをすりおろしたモノ、温かいお茶が乗っかっていた。
「俺も今日はこっちで食うからさ。ちょっと待ってろよ。」
そう声をかけると、彼は自分の食事を同じようにトレイに乗せ戻って来た。
同じメニューとは感じられないボリュームの雑炊とパン、リンゴが半分、お
茶。鷹耶は目の前に並べられた食事が、とても控え目に盛られている事を再
認識した。
「んじゃ、食べようぜ。戴きます。」
昼間仕事をしていた机にトレイを置いたオルガは、椅子に腰掛けると手を合
わせた。早速スプーンを口元へと運んでいく。
「お前も冷めねーうちに食えよ。美味いぞ?」
ぼけっとオルガを見ている鷹耶を促す。
「あ‥ああ。」
「どうだ? もう少し食えそうか?」
きれいに食事を平らげた鷹耶に、オルガが声をかけた。
彼の食いっぷりに引きずられるように、鷹耶もなんとなく食が進んだようで。
ようやくまともな量を食べてくれた彼に、オルガがホッと笑んだ。
「あ…いや。もういいよ。ごちそーさま。」
「そっか。んじゃ、薬飲んで横になってろよ。疲れたろう?」
サイドテーブルに置かれた薬の瓶と水差しを指すと、彼は後片付けを始めた。
「‥‥あれ? お前まだ起きてたのか?」
食事の後片付けやらその他の家事を済ませ、風呂を浴びて戻ったオルガは、
寝室に入るとむくりと起きあがった鷹耶を意外そうに見つめた。
「‥‥‥眠れねー。あんた‥風呂行って来たんだ。いいな。」
濡れた髪から雫を滴らせ、上半身裸のままで戻ったオルガに彼が零した。
「お前はまだ止めとけ。さっぱりしたいんなら、身体拭こうか?
昨晩拭いたばかりだけど…」
「昨晩‥?」
怪訝な瞳で鷹耶が訊ねた。
「あ‥そうか。お前覚えてねーんだっけ? 全然思い出せねー?」
オルガはベッドサイドに歩み寄ると、顔を覗き込むよう身体を曲げた。
「まあな。けど…。もしかして、昨晩俺‥あんたと寝た訳?」
照れるでもなく、不愉快さもなく、淡々とした表情を見せる鷹耶。
「‥‥そーゆー事だ。」
本当は必要ない筈の、バツの悪さを覚えるような瞳でオルガが答えた。
「そうか‥。」
「…ショックじゃねーの?」
なんのリアクションも示さない鷹耶に、彼が問いかけた。
「なんで?」
「だって覚えがないうちに、男にヤられちまった訳だろ?」
「…別に。覚えてないんだから問題ねーだろ?」
「あ‥さいですか。‥んで。身体は拭くのか?」
あまりにも感情がこもらない彼の様子に、寂しさを覚えたオルガが切り替え
るよう訊ねた。
「‥ん、そうだな。それは後でいいや。」
「後…?」
「ああ。それよりさ‥‥昨夜どんな事したか、教えてよ。」
鷹耶はそう言うと、彼の首に腕を回し引き寄せた。
「それとも…気が乗らない?」
「‥‥いや。けど、昨日の今日じゃ身体が辛いと思うぞ?
お前…初めてだったろ? こっちは。」
オルガが愉しげに手を腰から尻に滑らせた。
「‥‥その方がいいさ。」
誰にも聴こえぬようひっそりと、鷹耶が呟いた。
「ん…? 今何か言ったか?」
「いや…。なんでもねー。な、やろうぜ?」
「‥‥昨夜はもっと可愛くねだってくれたんだけどな。」
なんだか全然色事を誘われてる気がしないオルガが苦笑する。
「んー。じゃ‥‥」
ほんの少し考える仕草を見せると、鷹耶は彼に口づけた。
「ね…しよ‥‥?」
甘えるような囁きで彼の耳元をくすぐる。
オルガは寄り添ってくる彼の唇を塞ぐと、そのまま深く口づけて来た。
口腔を貪りながら、シャツのボタンを外してゆく。前がはらりとはだけると、
鷹耶がそれまで首に絡めていた腕を解き、自らシャツを脱ぎ捨てた。
昨晩程ではないが、まだ通常よりかなり高めな体温は、直に触れ合うと更に
その熱さを実感させる。縋るように抱きついて来る両腕が、肌の密着度を上
げると、口づけも更に深さを増した。
何度も角度も変えながら、絡み合う舌。下しきれず伝い落ちる蜜が触れ合う
2人の間に届く頃、未練を残しながら離れた。
「‥‥ん。…はあ‥‥っ。‥‥お前、巧すぎ。」
「お褒めに預かりまして。でもどうせなら、名前で呼んで欲しいな。
その方が気分出るだろ? 鷹耶?」
低い声音で甘く誘うように、彼は唇を首筋から胸元へ滑らせた。
ぴくん…と僅かに鷹耶が跳ねる。昨晩の事を記憶として残してなくとも、身
体が刻み込んだ快楽への道程を覚えているかのように‥‥‥
「あ‥‥。オル‥ガ、待っ‥て‥‥‥んっ‥‥」
突起に伸びた指がキュッと摘み上げられると、甘い疼きが広がっていくよう
な、そんな予兆に躊躇う鷹耶が、彼を引き剥がそうと腕で胸を押し退ける。
…が。それに合わせるようにオルガが彼を支えていた腕を緩めたので、結果
的に自らベッドに沈み込んでしまった。組み伏せられるカタチになった鷹耶
の肩を抑え込むと、唇をぷっくりと尖ったソレに這わせて来る。
「オル‥ガぁ‥‥‥。」
不満ありげな瞳で責める鷹耶だが、艶を滲ませる声音まで隠せなかった。
「お前、こっちの方が弱いんだよな。昨晩もイイ声で泣いてくれました。」
「…ん。‥‥やめ‥ろよ。…もっと‥ひどくして…いいから‥‥‥」
優しい愛撫に居たたまれなさを覚え、鷹耶が本音を吐露した。
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