その9
「鷹耶‥」
静かに泣き続ける彼に、堪らずオルガが口づけた。
「…気の済むまで泣かしてやろうと思ったけどさ。
駄目だわ。…そんなに泣くなよ。」
降参‥とでも言いたげな表情で、彼が苦笑する。
「あまり自分を責めるな。お前は護れなかった事を悔やんでいるんだろうが。
きっと、お前に何かを託した彼らは、それを誇りに思っているはずだ。
自責の念に囚われてる姿を知ったら、哀しませるだけだと思うぞ?」
鷹耶の頭に腕を回すと、静かに抱き寄せながら諭すような声音で話す。
「…それでも苦しみが募るなら‥軽くする術を身につけろ。」
「オルガ‥。…ふ‥うん‥‥っ。ん‥‥‥」
口づけが深さを増すと、始めは戸惑いを見せた鷹耶だったが、やがておずおずと応え始めた。
彼の首に両腕を回し、力を込める。温もりを分け与えるかのように、口腔内で舌が絡まって
くる。鷹耶はそれを必死で追いながら、口づけを貪った。
「…ん‥んんっ。は‥‥ん‥‥‥」
一旦離れそうになった唇を、逃さないよう追いかけ、再び口づける。
懸命に追い縋る彼の姿に愛しさを覚え、オルガは背に指を滑らせた。
意図を持って這い回る指先が、別の熱を呼び覚ましていく。
ぴくん…と反応を示した鷹耶は、唇を解放すると、目の前の男を窺い見た。
「悪りい‥。その気になっちまった。」
「オルガ…。…うん‥俺も。…お前が欲しい。抱いて‥溺れさせてくれよ。」
「身体‥辛くないか…?」
「今は…こっちの方が辛いんだ。」
先程彼がしたように、鷹耶は自分の左胸を指さした。
「…そうだったな。じゃ‥うんと優しくしてやるよ。」
小さく微笑ってみせると、オルガは静かに彼を組み敷いた。
額に頬に鼻先に、キスの雨を降らせながら、胸を弄るように手が滑っていく。
布越しに突起を押し潰されると、ぴくん‥と身体が跳ねた。
首筋へと降りて来た唇が、鎖骨をなぞり花びらを落とす。
幾つもの跡を散らす頃、すっかりボタンの外されたシャツの合わせから、手先が忍び込んで
来た。脇腹へと滑っていく指先は、緩やかに這い回り、もどかしさを募らせる。
「…なあ、オルガ。」
決定的なものが欲しくて、焦れた鷹耶が催促するような瞳を向けた。
オルガが瞳を眇がめ、唇を彼の耳元に寄せ囁きかける。
「‥どっちに欲しい?」
低く甘く響く声音が熱い吐息を伴い届いた。
「…お前が欲しい。‥来てくれよ…。」
腕を回しぎゅうっと抱き寄せた鷹耶が、縋るようにねだった。
「…可愛いな、お前。マジ‥嵌まりそう。」
啄むようなキスを贈ると、柔らかな笑みを浮かべるオルガ。
彼は鷹耶の腰に手を滑らせ、そのまま双丘の谷間を辿った。秘所の入り口を解すように、
指が円を描く。つぷり‥と指が沈むと、鷹耶は小さく身動いだ。
「ん…。」
オルガにしがみつきながら、最初はどうしても生じてしまう異物感に、微かに眉を寄せる。
ゆっくりと沈んでくる指先に神経を集中させていくと、甘い疼きが込み上げて来て、
熱い吐息が零れた。
オルガは一旦指を引き抜くと、中途にはだけた彼の服を取り去り、自分も上着を脱ぎ捨てた。
ローションをたっぷり指に馴染ませ、鷹耶の脚の間に身体を割り込ませる。
脚を大きく開かせると、奥まった蕾に指を這わせた。
解されたばかりの秘所は、あっさりと指を飲み込む。すぐに増やされていく指も抵抗なく
受け入れると、不規則に蠢くソレに艶めいた声が零れ始めた。
内壁の滑りをよくする為、塗り込められたモノが、湿った音を響かせる。
十分に解された事を確認すると、未練なく指が引き抜かれた。
「う…あっ‥‥くっ…う‥‥」
指の代わりに侵入して来た彼自身が、一気に最奥まで穿った。
「‥悪りいな。俺も余裕なくてな。…辛いか?」
苦しげに眉根を寄せる鷹耶に、オルガが声をかけた。
「…平‥気。もっ‥と…お前を…感じ‥させて‥‥」
「鷹耶…」
「…ん‥ふう‥‥。は…ん‥‥‥」
痛みに耐えながらも微笑んでみせる彼が伸ばした手を取ると、オルガは小さなキスを贈り、
そのまま身体を曲げ唇を奪った。
絡み合う舌が水音を立てる。口の端から伝い落ちる滴が首筋を流れた。
「あっ‥は…。ん…」
抽挿を繰り返す彼を穿つソレが、敏感な部分を擦り上げてくると、艶を孕んだ声が
次々零れていく。
「こっちも、大分来てるみたいだな。」
ふふ‥とオルガが彼の屹立した部分を握り込んだ。
ビクンと身体を跳ねさせる鷹耶。
先端の滴りを指の腹で撫ぜられると、ねだるように腰を揺らした。
「…先に達くか?」
「‥一緒に…達きたい‥‥」
ふるふると小さく首を振った後、彼の背に回した手に力を込め呟いた。
「…本当、可愛いな‥。」
「あ…ああっ。はあ…っん‥‥く‥‥‥」
本格的に腰を使い出した彼に、快楽に身を委ねるようしがみつく。
「…ん‥オル‥ガ。…もう‥‥」
「‥ああ。俺ももう‥‥」
彼が鷹耶の戒めを解き、自らのリズムに合わせるよう扱き上げる。
既に臨界点に達してたソレは、瞬く間に昇り詰め、彼も同時に絶頂を迎えた。
「ああっ…。はあ‥はあ‥‥‥」
「はあ‥はあ‥‥。なんか‥離し難くなりそうだぜ…。」
俯せに身体を投げ出したオルガが、満足そうに息を吐くとぽつりと漏らしていた。
「…なあ、オルガ。」
行為後のまったりとした微睡みの中。ふと思い出したように鷹耶が彼に視線を向けた。
「ん‥?」
「…すげえ今更なんだけど。あんたルーエルの恋人なんだろ?
俺とこんな事してて大丈夫なのか?」
「…本当。今更だな。」
神妙な顔付きで問いかける鷹耶に、一瞬ぽかんとさせた後、オルガが苦笑した。
「別に気にする事ねーさ。元々あいつがエンドールを離れてる間、お互いフリー
という事で了解済みだからな。
目の前に居る可愛い子ちゃんに手出した所で、問題なし。納得した?」
「‥誰が[可愛い子ちゃん]だって?」
「そりゃ‥目の前で不服顔してるお前だろ。」
「納得いかねー。」
嫌そうに顔を顰める鷹耶。オルガはきゅっと抱き寄せると小さなキスを奪った。
「そうやって変な所でムキになるのが新鮮でな。すげ可愛い。」
「俺なんかより、ルーエルの方が似合うだろ。そういう言葉はさ。」
「ルー? …まあ。確かに奴も昔は可愛かったな‥。」
「…? 今だって十分可愛いんじゃねー? きれい‥つった方が合うけどさ。」
ほんの少し遠い目をしたオルガに、不思議そうに鷹耶が返した。
「そっか。あいつ‥お前の前では猫かぶりっぱなしだったんだな。」
「え…?」
にんまり笑う彼を途惑うように鷹耶が覗う。
「あいつな…俺達がこーなってる事、とっくに承知してるんだぜ?」
「‥‥‥?」
「元々俺とルー、好みのタイプが似てるしな。あいつが気に入った男を俺も気に入る
事なんざ、ざらだって事さ。しかも‥‥‥」
オルガはそこで一旦言葉を切ると、意味深に笑んでみせた。
「お前さ、あいつから俺宛に手紙預かって来たろ?
書いてある内容読んだら、絶対泣くぞ?」
「な‥泣くって…。‥んだよ、それ?」
愉しげに語る彼に退避ぎならも、怪訝な瞳で切り返す。
「あいつさ。表面は涼やかだけどな。実は結構いい性格してるんだぜ?
本性知ったら、驚くぞ。可愛い‥なんて単語、絶対使えねーって。」
「本性…?」
確かに有無を言わせぬ迫力のようなモノを滲ませた事はあった。
だが‥どちらかと言うとおっとり優しい印象の方が強かった彼の本性って…?
鷹耶が小さく息を飲んだ。
「知りたいか‥? 後悔しないなら、手紙見せてやってもいいぜ?」
「…そんなにすごい手紙なのか?」
「俺はあいつを知ってるから、別に『奴らしいな』‥で済んだがな。
お前、あいつを誤解してそうだからな‥。どうする?
…まあ。夢壊したくなければ、読まねー方が無難だけどな。」
「…そこまで言われたら、気になるじゃねーか。…見せてくれよ。」
オルガはベッドから出ると、机の上に置いてあった手紙を持って戻って来た。
「ほいどうぞ。…後悔するなよ?」
「…脅すなよ。」
怖々と手紙を受け取った鷹耶が、苦く笑んだ。
彼は渡された手紙が、確かに自分がルーエルから託された手紙と確認すると、
封の中にある紙を取り出した。
手紙はそれ程長いものではなく、それを届ける役目を請け負った鷹耶についてが
簡略に伝えられていた。エンドール滞在の間、面倒見てやってくれないか‥と。
危なかしげで心配だと…。それだけなら、なんの問題もなかったのだが…
追伸に書かれていた部分まで読み進めた時、怪訝な顔が一転し青ざめた。
「…こ‥これ。…『一服盛ってやっちゃった』‥って読めるんだけど?」
ルーエルに誘われて、関係持ったのは確かだったが、何やら薬らしきモノが使われてた
なんて、思いも因らなかっただけに、困惑を隠せない。
「ああ‥そう書いてあったな。」
冷汗たらしながら言う鷹耶に、あっさりとオルガが答えた。
「お前酒かなんか勧められなかったか?」
「…飲んだ。」
「それに混ぜたんだろうな。あいつ‥ノン気の男落とす時に、たまに使うから。」
「…マジ?」
「マジ。‥まあ今回は、お前をなんとか元気付けたかった‥ってのが一番の理由
だろうけどな。お前女に難色示したんだろ? 一応奴なりの親切心さ。」
「…この、最後にある『なんだったら、やっちゃっても‥』て部分もか?」
驚きを通り越して、呆れ顔で鷹耶が更に訊いた。
鷹耶がエンドールに滞在する間、どうにか彼を慰めてやって欲しい‥という言葉に
続いた一文が、そう締め括られていたのだ。
「そう。お前を元気付ける一番手っ取り早い方法だと踏んだんだろ。」
「まさか‥あんた、それを受けて俺を抱いたのか?」
「それこそまさかだ。ルーエルの頼みだ。きっちりと面倒見るつもりはあったが、
感情なしに寝る程面倒見いい訳じゃねー。…もっとも。お前みてーなの、ほおって
おける性分じゃねー事見越して、奴はお前をここに寄越したんだろうがな。」
「あんたが俺に手出す事見越してたって?」
「そういう事。」
「はー。あんたらって判んねー。」
「長い付き合いだからな。…だからってんじゃねーが、ルーの事怒らないでやってくれな。
あいつも悪気があったんじゃねーと思うからさ。」
手紙をサイドテーブルに置き、ベッドに身を投げ出した鷹耶にオルガがフォローに入った。
「ああ‥。別に気にしてねーさ。驚いたけどな。結局、俺の方がイイ思いさせて
貰った訳だしな。それに‥あいつとの事があったから、あんたともこーなった訳だし…。
他人の温もりが、こんなに心地良くて頼もしいなんて思わなかった…」
そっと髪を漉いてくる彼の手を心地よく感じながら、小さく鷹耶が微笑んだ。
「鷹耶‥。」
覗き込んでくるオルガの頬に手を伸ばす鷹耶。
彼は腕を首に回すと、引き寄せキスをねだった。しっとりと重なった唇から甘い吐息が
漏れる。静かに唇が離れると、誘うような声音で鷹耶が囁いた。
「な…もう一度‥しよ?」
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