巨人像を無事越えて、勇者一行は噂の古城のすぐ側までやって来ていた―――



陽がやや傾き始めた頃、丘の上に古城の姿を確認した一行は、城から死角になる場所で馬

車を止め、小さな小川の先に影を落とすよう在る城を緊張した面持ちで見つめていた。

「…やっぱり、あの城‥魔物の城みたいね。」

「うむ‥。不穏な気配の発信源のようじゃからな。」

堅い表情のアリーナに、同じよう緊張したブライが応えた。



―――あの城に、あいつが…!?



息づく魔物の気配をひしひしと感じながら、オレはそこに、知ったあいつの気配を探って

いた。



「…でしょ。だから‥‥ソロ、聞いてる?」

「え…あ、ごめん。何?」

「んもう‥。だからね、陽が暮れてしまってから魔物の相手するのは不利でしょ。

 だから今日はここで休んで、明日の朝一番に魔物の城へ潜入しましょう‥って、話して

 たのよ。それでいい?」

ぼんやりしていたオレに呆れつつも説明してくれたアリーナが、確認を取ってきた。

「そうだね。これ以上近づいて気取られても困るし‥。丁度いい洞窟もあるしね。

 今夜はここで野宿しよう。」



馬車を置いて来た場所には、ちょっとした洞窟があった。そこで今夜は泊まる事にし、

オレ達は早速夜営準備に取り掛かる事となった。

オレはクリフトと小川に水汲みへ向かったのだけど…



「‥‥‥‥」

水を汲み終え、ふと視線を上げたソロは、視界に捉えてしまった古城から目が離れず、

そのまま食い入るよう見つめていた。

「ソロ…? どうしたんですか?」

「‥‥‥‥」

「ソロ!?」

強めに名を呼ばれ、肩に手を置かれて、ようやくソロがハッと横で心配そうに彼を覗う

クリフトを見た。

「クリフト…。ごめん、なんか‥緊張してんのかな、オレ…」

「すごい妖気ですからね。空を覆う黒雲に呼応するかのように、重い気が一層増して…。」

「うん‥本当。雨が降り出す前に、さっさと水汲み終わらせちゃおう。

みんなも待ってるし‥。」

「そうですね。戻りま‥‥」

水桶を持ったクリフトが馬車に向かって歩きだそうとした瞬間、ドーンと大きな音が轟き

声をかき消した。

すぐ近くの大木に落雷があったようだ。

閃光の後にはバケツを引っ繰り返したような大粒の雨が落ちてきた。

「うっわ‥降って来ちゃったね。とにかく早く戻ろ‥‥‥クリフトっ!?」

彼の少し前方に居たクリフトの身体がゆっくり傾いでいくのを見たソロが、手にした桶を

ほおり出し、慌てて駆け寄った。

「クリフト! 大丈夫!? どうしたの!?」

雷が落ちたのは道を隔てた林の方だ‥と、チラリと目で確認し、意識を失ってる様子の彼

を注意深く覗う。…外傷はない。呼吸も穏やか‥に見える。まるでただ眠っているだけの

ような…。



―――魔法?



ソロはそう思い至ると、側に魔物が居るのではと、携えていた剣を抜き身構えた。

用心深く周囲を窺う。雨足が更に激しさを増し、視界が鈍る中ようやく捉えたのは…



―――!!



打ち付ける雨音が、一瞬途切れたような気がした。

銀の髪に黒衣を身に纏った男が、そこに居た――。



「…ど‥して、あんたが‥‥‥」

どくんどくん‥と脈打つ音をやけにうるさく思いながら、ソロは震える声を抑え訊ねた。

「‥とうとうここまで来たのだな、お前は‥。」

「じゃ‥やっぱりあそこは…」

「ようこそ、勇者殿。」

城の主‥デスピサロが作ったような微笑を浮かべると、不意にソロは強烈な眠気に襲われ

た。



―――!? …あれは‥やっぱり…魔‥法‥‥‥‥



しまった!!…そう思った時には、意識がすでに遠退き始めていた。



「‥‥最後だからな。我が城に特別招待してやろう。…ただソロとしてな…」



薄れてゆく意識の中、そんな言葉が耳に届いた気がした…



ピサロはグラリと傾いだソロを抱きとめると、そのまま崩れる彼の身体を抱き上げた。

脱力した彼の身体から剣が離れ、水溜まりとなった地面にぽとりと落ちる。

それをなんとなく見ていたピサロは、思いついたように、ソロの兜もそれの上に落とした。

そして‥予定の行動とばかりに、懐から取り出した腕輪を彼に嵌め、小さく微笑うと移動

呪文を唱え、場を後にした。



雨音が激しく響くその場所に、戻らぬ彼らを心配した仲間がやって来たのは、そのすぐ後

だった。





「…っ。‥‥? …ここは‥‥‥?」

目覚めたソロはぼんやりした明かりの灯る室内を、視線だけ巡らせ覗った。

天蓋つきのベッドに横たわっている自分。少し離れた部屋の中程にある小さなテーブルに

置かれた燭台が照らし出した空間から確認出来たのは、それだけだった。

「ようやく目が覚めたようだな。」

暗がりからフッと現れた人影が、ゆっくりと近づいて来た。

「ピサロ‥。…? …なんだよ、これ?!」

上体を起こそうとしたソロが腕を引っ張ると、ジャラ‥と鈍い金属音を立てた鎖が、彼の

動きを制した。よく見ると、細かな細工のされた腕輪が両の腕に嵌められ、その腕輪につ

いてる輪っかが、鈍色の鎖と繋がっていた。鎖はベッドの左右の支柱に括りつけられてい

るようだ。着ている(というより、羽織っている‥といった方が正確か)服も、ソロのも

のとは違っていた。薄く滑らかな布地のブラウスの下は、下着が辛うじて残っているだけ。

「なんの真似だよ、一体…」

ベッド端に立った彼を、不服を露に睨みつけるソロ。彼はそんなソロの様子を気にするで

もなく、淡々と応えた。

「ここは我が居城デスパレス。無闇にうろつかれては面倒なのでな。」

「…あの城の中‥なのか?」

俄に緊張を走らせたソロに、ピサロは小さく頷いた。

「‥ハッ。そういえば、クリフトは? オレの仲間はどうしたんだ?!」

叩きつけるような雨の中、倒れていた彼を思い出したソロが必死な瞳で問いかけた。

「…あのままだ。捨て置いて来た。」

「あのまま‥って。じゃあ、仲間に手出しはしてないんだな!?」

「目的はお前だったからな。元より[勇者]以外、どうでもよい存在だ。」

冷たく返される言葉に、ソロは幾分冷静さを取り戻したのか、短く息を吐いた。

「…それで? 勇者のオレを始末しに、出迎えてくれた‥って訳?」

挑むような眼差しで、ソロはピサロと視線を交わした。

「‥あんた、オレがここに辿り着いたら、[勇者]として扱う‥ってなコト言ってたもん

 な。[その時]が来たってコトかな。」

「…少し違うな。」

「なに‥?!」

「自力で辿り着けたら‥と言ったはずだ。

 だから…今宵は最後の訪い‥といった所だな。」         
訪い→おとない

ピサロはそう言うと、精一杯身体を起こしたソロの頬に手を伸ばした。

「最後の訪い‥‥」                       

「次に見える時は、勇者と魔王だからな。」          
見える→まみえる

「…今夜は?」

「忘れたか? ‥私の所有だ。まだ‥な。」

「…っ‥ふ。ん‥‥‥‥」

不敵な微笑を浮かべた後、ピサロは噛み付くような接吻を奪った。

久しぶりの濃厚な接吻に、ソロは頭の中まで掻き回されてしまう。あっという間に息を弾

ませたソロから力が抜けると、そのまま組み敷くよう、ピサロがベッドに乗り上げた。

「…あ。や‥ダメ‥っ…」

ブラウスの前をはだけさせながら、意図を持ったピサロの手が肌を滑る。その感触にじわ

りと広がる知った感覚が湧き起こるのを思ったソロが身動いだ刹那、ささやかな突起にねっ

とりと舌が絡んで来た。

「あ…ん、や‥‥。ちょ‥ちょっと…待‥‥っつ、ふぁ‥‥‥」

淡く色づくそこを、指と舌とでそれぞれ悪戯されて、ソロは抗議を上手く紡げず、鎖で動

きを制限されてる手をどうにか使って、彼の長い銀髪を一房掴むと、ぐいっと思いきり引っ

張った。

不愉快げに顔を上げたピサロとソロの視線が絡む。

ソロはきゅっと口を結ぶと、語気をやや強めて言い放った。

「これ、解いて。」

ジャランと鎖を鳴らし、ソロが不自由な腕を指した。

「必要ない。」

「こんなやり方、嫌だ。…最後‥なんだろ?」

最後‥という言葉を噛み締めるよう呟いたソロの瞳が揺らいだ。

「…嫌‥という割には、こっちはその気十分なようだが?」

揶揄うような口ぶりで、ピサロは彼の下着を顎で示した。先ほどの愛撫ですっかり元気に

なってるコトを指摘され、ソロの頬がみるみる染まってゆく。      
揶揄う→からかう

「バっ‥そーゆうんじゃなくて‥。…ちゃんと。今夜は‥付き合うから‥。だから…これ

外してくれよ…」

「聞けんな…。」

「どうしてだよ!?」

「…こういう趣向も悪くない。」

それだけ答えると、ピサロは中断していた愛撫を再開した。

「…! っく‥。ふ‥‥‥」

ぷっくりとしたピンクの飾りを親指で押し潰したかと思うと、鎖骨の下を辿った指先が、

脇腹を滑り弧を描いたよう腹へ戻ってくる。その軌跡からじんわり熱が広がるのを感じた

が、ソロはそれを認めたくなくて、必死に口を噤んだ。



―――こんなやり方、嫌なのに。



それでも。久しぶりの彼との行為に、心も躯も歓喜している…。



―――やっぱり‥好き…なんだ。オレ‥‥‥



戦える…そう信じていたけれど。

今こうして彼の手の中に在る自分は、明らかに彼に傾倒している。

敵の居城に捕らわれているというのに。彼の腕の中を心地よいと微睡んでいる。



―――でも。



拘束された腕が、自分と彼の距離を物語っている気がして、ソロは瞳を潤ませた。



―――伝えちゃいけない。伝わらない。そんな想い‥でしかないんだ。



ぽろぽろと涙を零すソロは、いつの間にか無防備に晒されていた蕾を探られ、大きく躯を

弾けさせた。

「ひゃ‥? や…、もう‥嫌だ‥よぉ‥‥‥」

「なにを泣いてる?」

「うるさいっ。も…やなの。オレ、帰る。帰して…!」

ブンブンと頭を振りながら、まるで駄々っ子のように、ソロが泣きじゃくった。

「だったらしっかり満足させるんだな。貴様のここで。」

拒む様が不興を買ったのか、やや低くなった冷たい声音が、ソロの耳に届いた。

それにビクンと強ばらせた躯が、少々乱暴にこじ開けられる。

大きく脚を割られたかと思うと、無遠慮に長い指が窄まりへ侵入を果たした。

「う‥ぁ。やっ…まだ無理‥っ。はあ…っ‥‥」

指1本とはいえ、急に奥まで呑まされて、苦しさとチリチリした痛みに、ソロが苦しげな

声を上げた。

「…きついな。結局、他の男とやらは作らなかったのか?」

にやり‥とようやく少しだけ表情を柔らかくさせ、ピサロが訊ねた。

「‥‥‥! そんなの‥っ、ふ…やあ‥‥‥っ。」

無理矢理捩り込んだ指先が、容赦なく敏感な箇所を擦り上げ、ソロは躯を跳ねさせた。

艶めいた嬌声が、涙と交わり掠れて上がる。

すっかりいきり立った自身からは、絶間なく樹液が滲み、その奥にある窄まりへの潤滑を

果たしていた。ピサロがそれを巧く掬い取りながら、指を増やし入れ、堅く閉じてしまっ

た後孔を丹念に解してゆく。

そうして居ながら彼の欲望をせき止めていた為、十分解された頃には、同じ声を違う意味

で発し、涙で頬を濡らしていた。

「も…や‥。やっ‥、ピサロっ‥‥もう、もう‥‥‥」

まるで溶岩でも飲み込んだような、灼ける熱流が下腹部に蟠り、ソロは切羽詰まった声で

懇願した。

「どうしたい?」

唆すよう耳元で甘く囁かれ、ソロはようやくピサロの意図を悟った。

しつこく焦らされた時、求められる解放の言葉…

「あ‥あんたが、欲しい…。来て‥くれよ。」

「…帰るのではなかったのか?」

しれっと返され、限界ぶっちぎりに越えていたソロが躯を戦慄かせた。

「今更‥こんなまま、ほおり出されてたまるかっ!

 も…いいから。早く来てくれよ。ピサロの‥でイカせて…」

素のままの思いを口にすると、ソロは熱に潤んだ瞳で彼をじっと見つめた。

ピサロは触れるだけの口づけを落とすと、彼の両足を抱え上げ、猛った自身を、引き抜い

た指の代わりに捩り込んだ。

「ふ…あっ‥。ああっ‥‥‥!」

フッと生じた喪失感を埋める以上の存在感ある楔が、熱く収縮する内壁をいっぱいに満た

した。多少の苦しさはあったが、丹念に解されていたせいか、思った以上にすんなりと、

そこは彼を受け入れた。

「あ‥ああっ…。ふ‥ぁ。ピ‥サロ‥っ。」

彼も限界ギリギリだったのか、一旦埋め込んだ楔はすぐに大きく引かれ、打ち付けるよう

再び最奥を穿った。その瞬間、戒めから解放された自身が、待ち兼ねた欲望を吐き出す。

どくんと白濁したそれはピサロの腹にかかると、彼はその樹液を指に掬い取り、味見する

よう口に含んだ。

「あ…なにしてんだよ…?」

罰が悪そうに、まだ息の整わない顔に渋面を浮かべ、ソロが口を尖らせる。

「…本当にご無沙汰だったようだな。」

「うるさいな…あっ。ふあ‥っ…」

ゆっくり動いていた侵入者が、再び勢いを増し内部をかき回して来た。

貪るように、ソロの後孔を彼が蹂躙し、解放の余韻に浸る間もなく、欲望が擡げてくる。

ソロは打ち付けられる度、彼の腹で擦られる屹立を、そのリズムに合わせて昇り詰めさせ

た。




              

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