「はあ‥っ。はあ…はあ…。」
2度目の吐精にすっかり力が抜けたソロだったが、ドロドロした欲望が沸き起こる箇所は
彼に支配され、疲労を訴える前に、甘い吐息がこぼれてゆく。
「あっ…ああ‥。は…ピ‥サロ…。も‥‥‥」
両手の動きを制限する鎖をきつく握り込み、ソロは甘ったるく強求った。
その気持ちが現れたようきゅっと引き締まった内壁が、彼自身に熱く絡みつく。
大きく穿った瞬間、ソロは最奥に熱い迸りを感じ、ソロは充足感を思いながら意識を手放
していた。
「あ…ああ‥‥。もう‥本‥当に、限‥界‥‥‥」
あのまま眠りに落ちさせてくれる筈もなく、ソロは体位をあれこれ変えられながら、幾度
も彼を受け入れさせられていた。
いつの間にか、腕の鎖は外され、ソロはくったりした躯をピサロに預け、彼の背に回した
腕を、だらんと下げた。
体面座位で昇り詰めた後、ソロは指先1つ動かす気力もなく、彼の胸に倒れ込んだのだ。
「…相変わらず、体力がないな。」
不満そうにピサロが漏らす。少しでも余力が残っていれば、反論の1つ2つ返したいソロ
だったが、口を開く気力すら残ってはいなかった。
閉ざした瞼がじわじわ重さを孕んでゆく。
ソロはそのまますうっと深い眠りに落ちていった。
「…ハッ!?」
泥のように眠っていたソロが目を覚ましたのは、翌日の昼下がりだった。
ふ‥と覚醒した彼は、重倦怠い躯をのろのろ起こし、窓のある方へ視線を移し、跳ね起き
た。
―――寝過ごしちゃった!?
厚手のカーテンの隙間から入る光の量は、まだ降り続く雨模様から考えると、とても明る
く思えた。
―――帰らなくちゃ!!
そう思ったソロがベッドから出ようとした時、ジャラン‥と片側だけ鎖に繋がった腕が、
金属音を立てた。
「…! あいつ…っ!」
忌ま忌ましそうに唇を咬むと、どうにか外れないか鎖と格闘を始める。
昨夜は確か行為の最中、いつしか外されていた。なのに‥
今は右の腕輪が鎖と繋がっている。左腕にもおかしな腕輪がきっちり残されていた。
ガチガチと鈍い金属音を響かせていると、部屋の扉が静かに開いた。
「何をしている?」
「――ピサロ! おい、一体どういうつもりだよっ!? オレ、もう帰らないと!!」
ベッドサイドへやって来る彼を睨みつけながら声を荒らげるソロに、ピサロが薄い冷笑を
浮かべた。
「それは無理だな。」
「なにっ!?」
「この島の人間は、この時期降る雨を、死の雨と呼び、決して外に出たりはしない。」
「え…?」
意外な言葉に、ソロが不審げに眉を寄せた。
「この時期の雨は、人間には毒気があり過ぎるらしい。魔物には、恵みの雨なのだがな。
だから、雨が止むまでおとなしく待つのだな。」
「そんな…困るよ、そんなの‥。みんな‥心配している‥‥‥」
「‥その腕輪はお前の魔力と力を封じている。どちらにしても、そのままでは戻れまい。」
「‥‥! この腕輪‥それで…?」
ベッド端に腰を下ろしたピサロは、困惑に揺らぐソロの頬へ手を伸ばした。
「…やはり発熱してるな。」
「え…」
「お前も昨日雨に打たれているだろう。‥まあ、精力使い果たしたのも要因かも知れんが。」
ニヤリとほくそ笑むピサロに、ソロが頬に朱を走らせる。
『絶対ピサロのせいだっ!!』
そう叫びたい気持ちを飲み込み、ソロはキッと彼を睨みつけた。
「…雨が。雨が止んだら、帰してくれるんだな!?」
「ああ…。それまでゆるりと滞在して行くといい。
いずれ、貴様の墓場となる場所なのだからな。」
「違うだろう? あんたの…だ。…いいよ。それならその手向け代わりに、あんたにイイ
思い出‥ってやつ、作ってやるよ。」
挑むような視線でそう語ると、ソロは彼の首に腕を絡ませ、口づけた。
啄むような口づけは、すぐに深いものへと変わり、ソロの口腔へピサロの舌が滑り込んだ。
「ん…ふ‥‥‥っん‥」
湿った音を立て、ざらりとした舌が柔らかい粘膜を犯してゆく。ねっとりとしたその感触
に肌を粟立てさせながら、ソロは熱く蕩ける口内を思い、彼の首に回した腕に力を込めた。
「はあ…はあ…。なんか‥すごいフラフラして来た。」
唇が解放されると、ソロは紅潮した頬で、ピサロの肩口に顔を埋めた。
「…先刻より上がっているのか。とにかく休んでいろ。夜にはまた、相手を努めさせるか
らな。」
「‥‥‥‥」
ありがたいんだか、そうでないのか解らない台詞に、ソロは眉根を寄せ、渋々身体を横た
えた。実際、身体を起こしているのは、かなりキツかった。
「…あのさ。」
それを見届けたピサロが立ち上がると、ソロが弱々しい口調で声をかけた。
「とりあえず…雨が止むまでは、ここに居てやるからさ。‥これ、外してよ。」
ソロが鎖を鳴らし訴えた。
「‥‥‥‥」
「…部屋から出るな‥ってんなら、ちゃんと解っているからさ。
だから‥な?」
「…腕輪は外せぬぞ。貴様も城の者に気取られたくあるまい?」
「…解った。鎖だけでも‥いいよ‥。」
ピサロはソロの様子を窺った後、腕輪に繋がれていた鈍色の鎖を解いた。
ソロはそれが外されると安堵の息を吐き、瞳を閉ざした。
そのまま寝入ってしまった様子の彼に、ピサロはひっそり嘆息すると部屋を静かに去った。
それから小1時間程経った頃…
かちゃり…。ゆっくり開いた扉から、栗色の髪をした少年が盆を抱え入って来た。
ベッド端に置かれた洒落たサイドテーブルに、持って来た盆の上にあった食事を移してゆ
く。かちゃかちゃと不器用な音を立てながら並べてゆくと、その音に目を覚ましたソロと、
思わず目が合ってしまった。
「あ…っ!」
カチャン‥落としたスプーンが食器にぶつかり、軽い音を立てた。
「…君は‥誰?」
「…言っとくけどな。おれはピサロ様に頼まれたから、仕方なく、申し使った仕事をして
るんだ! ‥人間と関わるのなんて、本当はごめんなんだからなっ!」
ビクンと身体を強ばらせ後退さった少年が、虚勢を張るよう言い切った。
ソロはゆっくり身体を起こすと、少年がなにかしていたテーブルへ視線を移した。
「…食事、持って来てくれたんだ。ありがとう…。」
「…仕事だからな。食えなくても、それ‥その器に入ってるの、薬だからきちんと飲んど
けってさ。ちゃんと伝えたぜ?」
それだけ言うと、少年はぴゅーと足早に出て行ってしまった。
それを呆気に取られたまま見送ったソロは、彼が持って来た食事へ目線を戻した。
スープにパン、飲み物・果物…どれも普通に人間が食べているもののようだ。
唯一不味そうな匂いを漂わせているのは、[薬]と称された液体だけ。
ピサロは変な薬も飲ませるが、実際体調悪いソロに与えられた薬は非常によく効いた。
多分…これもこの不調を改善する為のモノなんだろう。
一眠りして大分気分がよくなったものの、熱っぽい身体は気倦怠さを訴えていた。
「…仕方ないか。」
ぽつん‥と呟いて、ソロは運ばれた食事に手をつけ始めた。
食事の後、意を決して飲み干した見た目まんまの苦〜い薬に顔を顰めさせ、ソロは口直し
にとって置いたバナナにかぶりついた。
「うえ〜、苦かったあ…。なんであんなに苦いんだろ? 信じられない。」
ブツブツ文句を言いながら、ぱくぱくバナナをほおばる。
「う〜、まだ口の中が不味いよぉ‥。」
あっと言う間に平らげ、残っていた飲み物も空にしてしまったソロは、口内に残る薬の苦
味に、渋い顔を浮かべた。
そこへ、食器を片付けにさっきの少年がやって来た。
「おい。もう済んだか?」
ぶっきらぼうに訊ねながら部屋へ入って来た少年は、きれいに片付いている食事を目にし、
てきぱきと器を盆に乗せ始めた。
「…あ、あの!」
そのまま用事を済ますと早々に踵を返し、部屋を去ろうとした少年に、ソロが声をかけた。
少年が足を止め、渋々振り返る。
「あいつ…オレの事、なんて‥?」
城に者に知られて大丈夫なんだろうか‥と、ソロは迷いながらも訊ねた。
「…退屈しのぎの玩具だって。」
「‥そう。」
「あのなあ。あんた、ピサロ様に拾われてラッキーだったんだぜ?
雨の中倒れてたんだろ!? この時期の雨は人間には毒なんだ。母さんはそれで…」
言いかけて、少年はハッと口を噤んだ。
「…君のお母さん、人間なの‥?」
「‥‥‥母さんは‥な。」
逡巡した後開き直った様子で、少年が答えた。
「ここへ来る道中、この季節の雨に打たれて…身体壊して、そのまま‥。
妹だって、ピサロ様がいらっしゃらなかったら、きっと‥‥‥」
「…そう。大変だったんだね。」
「元はと言えば、父さんが人間なんかに殺されなかったら、おれたちは‥‥‥!」
「‥人間に、殺されたの? お父さんを‥?」
「ああ! 人間の冒険者にな! ‥だから、人間なんか大っ嫌いなんだ!!」
そう言うと、少年はそのまま部屋を出て行ってしまった。
残されたソロが深く嘆息する。
ただ魔族の少年だと思っていた。それが‥母は人間で、父は恐らく魔族故に人間に殺され
た。そういうコトなのだろうと。
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