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「おいっ‥大丈夫か…?」
血相変えてベッドを飛び出したアルフレートが、彼の頬に手を寄せて顔色を間近で覗う。
「う‥うん、大‥丈夫…」
熱く熱を持った頬に触れて来る手のひらにビクンと躰を跳ねさせながら、ルークが息を
整えつつ答えた。
「でも‥お前‥‥」
眉を寄せ、何かに耐えるような表情。潤んだ眸に上気した頬。昨晩程強烈ではないが、
色香の立ち上る風情を纏ってゆくルークを、訝しげに見つめる。
「‥昨日の薬が、まだ残ってるのか…?」
「判‥んないけど。でも‥大丈夫だから…」
突然身内に込み上げて来た熱を、即座に指摘されたルークが、困惑と恥じらいに瞳を揺ら
がせ返した。
「でも‥昨晩みたいになったら…」
案じる彼の台詞に、ビクンと躰が震える。昨晩のような状態に陥るのは、怖い。
「…なあ。抱いても‥いいか?」
ひっそりと耳元で囁く声音は、どこか艶を孕んでいて、身内に渦巻く熱を煽り立てる。
「アルフ…。でも‥これ以上君に迷惑かける訳には…」
彼とは子供の頃からの付き合いだったので。性的志向がごくノーマルなのをルークも承知
している。自分自身もアルフレートをそういう対象として意識した事などなかったし。
意中の女性も在る。だから‥昨晩の事は、本当に他に選択の余地のないハプニングだった
と、割り切るつもりだった。けれど…
「迷惑‥? そう見えるか…?」
どこか皮肉げに微笑する彼の吐息に触れた耳が熱い。圧し掛かる彼の重みも、視線の端に
映るサラサラな焦げ茶の髪も、昨晩の濃密な時間を鮮やかにさせて、ドクンドクンと鼓動
が早鐘を打ち鳴らす。
「‥アルフレートが…後悔しないなら‥」
いいよ…と、目元を染めてルークがひっそり告げた。
昨晩の余韻がこうまで蘇ってしまっては、後に引けないと覚悟したルークが了承を示すと、
同じように昂ぶっていたアルフレートが唇を重ねさせた。
「な‥口、開けろよ…」
チュッチュ‥と音をさせて啄んで離れた彼が、ルークに乞う。色を滲ませた声音に従うよ
う、そっと閉ざしていた唇を開くと、するりと舌が忍び込んだ。
「ふ‥っ、ん…はっ‥ぁ‥‥」
口腔を弄られる感覚はまだ慣れなくて、思考がかき乱されてしまう。
「ふぁ…あ‥んっ、あ‥ルフ…う‥ん‥‥っ‥」
濃厚な口接けに翻弄されてるだけでも一杯一杯なルークは、服の裾から入り込んだ手が
胸の突起を爪先で引っ掻かくと、ビクンと背中を撓らせた。悪戯な指は、その尖りを挟ん
だり、指の腹で捏ねるよう押し潰したりと、手遊びしてくる。 手遊び→てすさび
「あっ‥ああっ…や、それ…ああっ…」
唇が解放されたと思うと、夜の冷気に晒された尖りに、生温い感触が降りた。
ぷっくり固い芯を持った実を口に含まれて、ルークが大きく仰け反った。反対の実も指先
で捏ね回されて、息すら上手く継げずに喘いでしまう。
酷く恥ずかしくて。でもそれ以上にもどかしくて。ルークは嫌々と首を振った。
「アル‥フ。はや‥く‥‥」
熱が蟠ってゆく箇所に触れて欲しいと、腰を揺らめかせて情に潤んだ瞳を注ぐ。
「‥堪らないな。」
口角を上げてアルフレートが零す。汗ばむ肌に張り付く衣服を手際よく脱がせると、張り
詰めた幹に手を添え握り締めた。
「ふ‥あっ…あ‥あっ…ふ‥ぅん…は‥‥」
「トロトロだな、もう…」
手筒を繰り返す度に溢れる樹液をアルフレートが嬉しそうに眺める。
「今日はこのままイケそうか‥?」
昨晩は目に見えぬ戒めに縛られていたが、今日はそれも無いかと確認するように、潤んだ
眸を寄せるルークを見つめた。
「た‥ぶん…。あっ‥ああっ〜〜〜〜!」
ほんのり眉を寄せたルークが、心もとない呟きを落とすと、屹立を包む手の動きが加速
した。蟠ってゆく熱が集束し、解放を求めるようなうねりに包まれる。
「ふ‥ああっ…で‥出るっ‥‥‥!」
ドクンと欲望を弾けさせて、ルークは「はあ‥はあ‥」と肩で息を繰り返す。
「奴の術‥残ってなくて、よかったな‥」
ルークを組み敷くように躰を延ばしたアルフレートが、間近に顔を寄せ笑んだ。
「‥う‥ん。…ふ‥‥‥」
彼の笑顔につられるようふわりと綻ばせたルークに口接けが舞い降りる。
しっとり重なった唇から静かに差し込まれた舌がゆっくり口内を巡って、出て行った。
躰を起こしたアルフレートを、ぼんやり眼でルークが見つめる。
ゆっくりした動作で服を脱いで行く様子を眺めながら、高揚していく自分を感じていた。
共に旅を始めて間もないけれど。男2人の気安さから、着替える場面など何度も見て来た
筈なのに。今肌を晒す彼の姿に、ドクドク鼓動が逸るのを覚えてしまう。
(あの熱を知ってしまったから…?)
引き締まった躰と力強い腕は、非力な自分には憧れでもあったけれど。それでも…
「ルーク…あんまり煽ってくれるなよ‥」
しどけなく横たわったまま熱に潤んだ瞳で見つめてくる彼に、アルフレートが微苦笑する。
「え…」
そんな自覚が全くないルークは、キョトンと首を傾げた。
「わ‥っ、ふ‥ぅん‥うん…ひゃ‥‥」
アルフレートは彼の脚を掴むと、内股へ恭しく口接けた。ビックリと目を瞬かせた彼に
ニンマリ笑って、唇を更にきわどい箇所へと滑らせて行く。そのまま中心で芯を持ち始め
た屹立の先端に軽く口接けて、ヌルんと粘膜に包まれたソレを空いた手で握り込んだ。
「ふ‥あっ‥あ…やん‥‥‥」
滴る蜜を指にたっぷり絡めさせたアルフレートが、蟻の戸渡りを辿って奥まった窄まりで
円を描くよう指を一周させると、つぷ‥と蕾みに指先を押し込んだ。
「うん‥やっぱり、ちゃんと慣らさないと無理かな‥」
固く閉ざされた様子の蕾みを確認したアルフレートがぽつんと零す。
昨晩はすぐに挿入れる程に解れていたけれど。今夜はしっかり手順踏まないと、ルークに
余計な負担を与えてしまうだろう。
「慣らす‥って、あ‥ん、あ‥な‥ひゃん。何…アル‥フ…?」
アルフレートが触れる度にどくんと熱が溜まって行く中心から滴る蜜を拭っては、蕾みへ
含ませて行く行為に、躰をびくびく跳ねさせながら、ルークが問いかけた。
「‥お前さ。もしかして…昨晩のが初めて‥だった?」
逸る気持ちを嗜めつつ、固く閉ざされた蕾みを解し始めたアルフレートが、ルークの間抜
けた質問に首を捻らせた。慣れてない‥とは思っていたけれど。そもそも知識がない‥?
「う‥だって…。こういう事って‥結婚決めた人とするもんだって‥思ってたんだもん‥」
基本的におっとりマイペースなルークは、同じ年頃の男子の中でも、そういった方面にて
んで疎い方だった。性欲が全くないと言う訳ではなかったが。淡泊だとは自覚していた。
だから、そういう知識に貪欲になる事もなくて。ましてや、男同士の営みの方法など。
詳しい所までは知らなかったのだ。
「昨日ココを使ったのは、覚えてるよな?」
第1関節をつぷんと沈めて、内部でぐるりと回転させ、アルフレートが訊ねる。
「う‥ん。ふ‥あ、は‥‥」
コクンと頷いたルークが、内奥で蠢く感覚にゾクンと肌を粟立たせて嬌声を漏らす。
「これだけ締まってる所に、いきなり挿入らないだろ‥?」
指1本をやっと飲み込ませたアルフレートが、内奥を掻き雑ぜながら説明を続けた。
「んっ…なんとなく、分かった‥けど‥‥ふ…ああっ? …な。え…? あっ‥ん…」
神妙な顔を浮かべていたルークが、艶やかな喘ぎ声を上げ、腰をくねらせた。
「うん‥ここか?」
言って、色好い反応を示した箇所を確認するよう擦る。
「あ‥ふ、そこ‥やだぁ…っ、あん‥‥‥」
「嫌って割には、ココすっかり元気だぜ…?」
つん‥と屹立をつつかれて、ルークの喘ぎが更に艶を帯びてゆく。
「はう…アル‥フの、馬鹿ぁ…も‥ど‥にか、して‥よぉ‥‥‥」
恥ずかしいのと過ぎる快楽と、焦れる躰と。自身でもどうしたらいいのか混乱し始めて、
真っ赤な顔を両手で覆うようにしながら、ルークが泣き言めかせて訴えた。
「可愛いな‥お前‥‥‥」
そんな彼に小さく笑んで、伸び上がったアルフレートが泣き顔を隠す掌に口接ける。片手
を持ち上げて覆いを外すと、唇を重ねさせた。
「ん‥ふ‥。‥‥っん、ふ‥ぅ‥く‥‥」
唇を舌先でノックされて、ほんのり開けると上唇と下唇をペロリと舐め上げ口内に侵入
して来る。口腔をゆっくり巡る感覚に、酔うように応えていると、蕾みを弄る指がいつの
間にか増やされ、ヒクヒクと物足りなさを覚え始めていた。
「ふあ…はあっ‥はあっ‥。ア‥ルフ、ね‥まだ…?」 強求る→ねだる
口接けが解かれると、強求るように色めいた顔でルークが訊ねた。
「お前、なー。人が必死に理性保とうと心掛けてるってーのに。そんな顔されたら…自制
効かねーだろ?」
はあ‥と大仰な溜め息を落として。アルフレートがぼやく。「知らねーぞ」そう吐き出して、
彼はルークの脚を押し広げると、いきり立った自身を先程まで探春を進めていた窄まり
の入口へと押し当てた。アルフレート自身も、男相手はルークが初めてだったので。
正直どんな加減でOKなのかよく分からない。昨晩のケースは参考に出来そうにないし…
躊躇しつつも、彼自身も大分煮詰まってたのもあって。彼は慎重に先端を呑み込ませると、
そのままズブズブ穿って行った。
「ふ‥あ、ああっ‥‥‥は‥っく、ああっ‥‥」
一番の難所を越えると、思ったよりは楽に挿入を果たした。
ルークは指とはまるで違う質量に、苦しげな表情を浮かべたが。アルフレートが全部納め
きったのを聞くと、安堵したよう顔を綻ばせた。
「‥大丈夫か?」
「うん‥。平気‥みたい。ちょっと‥苦しい‥けど‥‥‥」
圧迫感に顔を顰めさせながら、ルークがほんのり微笑う。確かに苦しい。けれど‥なんと
なく欠いてたものが埋まったような、不思議な感慨。
「‥な。動いても‥平気か…?」
乞うように訊ねるアルフレートに、ルークが花が綻ぶように笑んだ。
「ん‥多分…」
自分ばかりが余裕ないのだと思っていたが。アルフレートもそうなのかも知れない。そう
思うと、自分の内部に入り込んだ彼が、酷く愛おしく感じられて、擽ったい。
「ふぁ‥あっ‥あ…んっ‥‥はぁ‥っ、く…ふ…」
ジッと納まってる間は安らぎすら覚えた存在は、一旦動き始めると強いアルコールのよう
に深い酩酊を誘う凶器だった。ルークは内奥を穿ってくる熱杭に忽ち翻弄され、マグマの
ような悦楽に酔わされてしまう。
「熱‥いよ…ふ‥ああっ…。あ…アル‥ふ、ああっ‥‥‥!」
「ああ‥俺もだ。ルーク、お前の中‥すごく、熱い‥‥」
彼を受け入れた隧道は、不思議なくらい彼に馴染んで、柔らかく綻んだ。いきり立つ楔が
纏う蜜がそれを助けたのか、湿った音を響かせる度、熟れてくるようだった。
「あっ‥ああっ‥‥も、‥ぃく‥‥っ、ふあっ‥‥‥」
ドクンと弾けた飛沫が自身の腹を濡らす。湿った音が響くのにすら高揚していくのを感じ
て、放ったばかりの躰がブルリと悸えた。
「あ‥アルフ…アル‥フ‥も‥‥‥‥」
彼の顔へと伸ばした手が、そっと頬に触れる。伝う汗を拭う仕草の後、見交わされた眸に、
ルークはふわりと微笑んだ。
「ああ…」
ニッと口角上げたアルフレートが、脚を抱え直す。抽挿の深さが増し、テンポが加速され
ると、そのまま彼は熱い飛沫を内奥へとぶちまけた。
「ふ‥ああっ‥ああ‥‥‥‥!」
「はあ‥はあ‥‥」
ルークの上に重なるようにアルフレートが俯せで圧し掛かる。
互いの鼓動を肌で感じ取りながら、その心地よい疲労感に身を任せていたのだが‥
アルフレートはそっと躰をずらすと、自分が下敷きにしたままの王子の様子を窺った。
「…なんで寝てるかな。」
やけに静かだとその顔を伺えば、そこには、気持ち良さげに眠るルークの姿が在った。
自分としては、少なくとももう一戦願いたい所なんだが…
アルフレートがすやすや眠るルークを眺め、そんな事を思い苦く笑う。
汗で顔に張り付いた金髪を、そっと払ってやって、しばらく寝顔を見つめる。
「参ったな…」
そう独りごちて。アルフレートは彼の隣にゴロンと仰向けに横たわった。
あの謎の姉妹の罠に嵌まったのか。それとも、ただ気がつかされただけなのか。
その判断はつかないけれど。
これまで深く関わったどの女性よりも、気持ちが尾を引く。
触れたい‥と。
「ああ‥解んねーや…」
くしゃっと髪を掻き上げて、目を閉じる。深い呼吸を幾度か繰り返すうち、その呼吸は
寝息に変化して行った。
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