「あれ‥クリフトは?」

風呂から上がったソロが浴室から戻ると、部屋にはピサロしか居なかった。

部屋を一巡りして、首を傾げながら、その彼に問いかける。

「‥奴なら飲みに出掛けたぞ。」

「え…クリフトが?」

嘆息交じりに答えたピサロに、ソロが眉根を寄せ俯いた。

「‥気を回したんだな。恐らく。」

「そんな…。なんで‥‥だって、今までだって‥‥‥」

きゅっと口を結んで惑いを見せるソロに、予想をしていたピサロが盛大に嘆息する。

「‥なんなら探しに参っても良いぞ、ソロ?」

「ピサロ‥」

そっと頭に置かれた手の暖かさに甘えるように、ソロが寄り添った。

「‥クリフト、本当は‥‥‥」

自分の存在が負担になってたのではないか‥そんな思いを過らせて、瞳が曇る。

「今宵は自制が効かぬ‥そう申したろう?」

ソロを抱き寄せて、ぽつりとピサロが話し出した。

キョン‥と不思議そうに彼を見上げると、更に言葉を続けさせる。

「奴も‥なのではないか?

 常ならばともかく。今はまだ無理はさせられぬ。だから今宵は引いたのだろう?

 お前の身体を気遣ってな。」

「‥身体を? オレが厭になったんじゃなくて…?」

「‥そんな理由なら、私には有り難いのだがな。」

お前を独り占め出来る…そう囁いて、キスを落とす。

頬から唇へと移った口接けは、やがて深いものへと変わっていった。

「…ん‥ふ‥‥ピ‥サロ…」

体重を預けるように縋りついたソロが、熱っぽい瞳を注ぐ。

ピサロはすっと回していた腕を滑らせて、ソロを横抱きにし間近のベッドへと横たわらせ

た。覆い被さるように自身も乗り上げ、顔を近づける。

「すまぬな‥。中断出来そうにないぞ。」

そう断って、噛み付くような口接けを仕掛けた。

最初こそ途惑いも現れたソロだったが。熱が灯れば中断出来ぬのは同様で。ピサロに応え

てゆく。2人を繋ぐ銀糸が解け、唇が解放される頃には、すっかり息が上がってしまって

いた。

「はあ‥はあ‥‥んっ、‥ふ‥ぁ‥‥‥」

口接けの合間にさらけ出された胸の飾りを指の腹で潰されて、捏ね回される。

執拗に弄ってくる対に位置する突起には唇が降りてきて、固さを増したそれを舐ってくる

ので、じんじんと痺れるような、痛みにも似た感覚が運ばれてきた。

「や‥ん…、はあ‥っ、ふ‥‥‥ぅん…」

急速に熱を煽って来られて、ソロが追いつかないと抗議めいた声を発するが、それはすぐ

に艶めいた嬌声へと変化した。熱く渦巻く奔流が、ドロドロと押し寄せ、思考よりも本能

が勝ってしまう。

貪るように容赦なく施される愛撫は、ソロを掻き乱し、酔わせた。

「ピ‥サロ…っ、ね‥もう…」

組み敷く彼の背に腕を回して、強求るよう紡ぐ。

胸に腹に背に‥と滑る器用な指先は、直接的な快楽を齎す箇所を態と外してくるので、

焦れたのだ。触れて欲しいのに…

「余‥裕、ない‥ん…でしょう…? ならもう…っ、ね‥‥」

「確かに‥な…。だが‥‥」

脚を絡ませてくるソロに口の端で笑んで返したピサロが、ぐい‥とそれを掴んで、開かせ

た内股へ唇を落とす。

「メインは全身味わってからだな。でないとお前、持たぬだろう…?」

くつくつと笑い交じりに唇が股を滑る。びくびくと反応返すソロに、興が乗った様子で、

ピサロは更に愛撫を深めた。

「あん…、もう‥意地‥悪…っ、やだぁ‥‥‥」

涙目できつく睨むが、甘くこぼれる吐息が止まらない。

伏してから、幾度か躰を重ねたが、その度に手加減してくれていたのを、ソロは知ってい

る。その行為が弱った躰の負担にならないようにと。だが…

今夜は抑えが効かない…そう宣言されたように。

その加減が緩まれば、身の内から涌き出す悦楽の波に翻弄されるばかりの自分が在る。

そう、ちょうど‥

夜の訪いを受けていた頃のような、熱い情動に支配されてしまう自分…

けれど――

「ね‥ピサロ…」

手を目一杯伸ばして、シーツにこぼれる銀髪を一房掴む。それをくい‥と緩く引いて、

ソロは両手を差し伸ばした。

求める仕草に身体を前へと移動させたピサロが、彼と顔の距離を近づける。

「ピサロ…」

広い背に回した両腕を引き寄せて、ピサロと躰を密着させる。汗ばんだ肌越しに伝わる早

鐘を打つ鼓動。それが酷く嬉しくて、ソロはふわりと笑みを浮かべた。

「ピサロ…大好き‥‥」

熱の奥にずっと閉じ込めてきた想いは、もう隠さずとも良いのだ。

「ソロ…!」

唸るような声の後、口接けて来たピサロが口腔を貪ってくる。

「ふ‥ぁ…っ、あんっ…」

絡め取られた舌がくぐもった音を響かせ、離れたと思うと、蜜を滴らせる屹立に手が添え

られた。手の筒で上下させたピサロが、体躯を屈めて唇を寄せる。

「取り敢えず、これで凌いで置け‥」

そう言い置いたピサロが、その屹立を口に含んだ。

途端躰を跳ねさせたソロが、熱い吐息をはく。

「あっ‥ん、ピ‥サロぉ‥‥ふ‥ああっ‥‥!」

どくん‥と導かれるまま弾かせて、ソロは躰を弛緩させた。





一方。

宿を仲間に見つからぬようこっそり抜け出したクリフトは‥

路地を入った先の奥まった場所にあるカクテルバーへとやって来ていた。

こじんまりしたその店には、以前ソロを伴って来た事もある。

店へ入ると、奥のカウンター席に落ち着いて、彼は強めの酒を注文した。


「‥隣良いかな? 店主、私にも同じものを。隣の彼にもね。」

まるで水割りでも飲むかのような勢いで、ロックの酒を2杯程煽った所で、背中に声が掛

かった。前半はクリフトへ、後半は店主に掛けられた、落ち着いた物腰の声音。聴き覚え

のある…

クリフトは頬杖着いて、グラスに残っていた酒を無造作に飲み干した。

「‥こんな所までいらして、よろしいのですか?」

呆れ交じりでぽつんと零したクリフトが、のんびり首を巡らせた。
                                                           微苦笑う→わらう
明るい金髪を後ろに流し、一括りにまとめた壮年の紳士が、微苦笑う。

「誰も報告に来ぬからな。ならば出向くしかあるまい? こんな所でも‥な。」

タンっ‥と、少々乱暴にグラスがカウンターへと置かれた。

それに肩を竦めてみせた紳士が、隣の青年を促しながらグラスを手に取った。

「‥うん、美味いな。」

そう褒めて、更に喉を潤す。店主が新たに訪れた客の元へ向かうのを目だけで追うと、改

めてクリフトへと向き直った。

「…報告なんて。貴方には不要でしょう?」

何時だって見られるクセに‥と腐して、来たばかりのグラスを手に取った。

「幾ら私とて、張り付いて見ている訳ではない。これでも業務に追われる身でな‥」

「見えませんけどね、全然‥」

くすっ‥と嘲って、コクリと喉を湿らせる。

その視線はほとんど手元に注がれたままだったが‥不意に彼は紳士に目線をくれた。

「ソロなら順調に回復してますよ。まだ不安材料は残ってますが。…まあ、とりあえず危

 機は脱出してくれたと思います。…以上、報告終わりです。御足労様でした。」

事務的口調で言い立てて、ぺこりと形だけの会釈をしたクリフトが、言外に帰るよう勧め

た。

「‥折角足を運んだのだ。もう少しなんかこう‥心がこもっても罰は当たらぬと思うが?」

「そうですか? 崇めて欲しかったなら、人選ミスでしたね。」

にっこりと笑顔を浮かべて話すクリフトに、紳士が渋面を作った。

「そんなモノは望まぬが…。そもそも此度の件に関しては、お主か当人、魔王にしか訊け

ぬではないか。ソロを呼び付ける訳にも行かぬし。魔王が来るはずもなし…」

「私だって。そちらへ赴く手段など、ありませんよ? 残念でしたね。」

最初から無理な話なのだと、クリフトがにこにこ返す。

グラスが空く頃合いを計って、紳士は更におかわりを注文した。

「…まだ飲むおつもりですか?」

「どうせまだ部屋には戻らぬのだろう? ならば付き合いたまえ。私の奢りだ。」

「高い酒になりそうですけどね‥」

はあ‥と盛大な嘆息をつくクリフトだった。





「ピサロっ‥ピサロ‥‥!」

秘所を穿たれたソロが、彼に縋りながら浮かされた様子で名を繰り返した。

呼ばれたピサロが口元で笑んで、十分に解した蕾を押し開いてゆく。

あれから。

少し呼吸の整ったソロがお返しに‥と彼を含んで。

多少の余裕を取り戻したピサロが、丹念に蕾を綻ばせていったおかげで、灼熱の楔を受け

止める頃には、どろどろに思考が溶けてしまっていた。

「あ‥ああっ‥‥熱い‥よぉ‥‥」

「ああ‥私も‥だ‥‥‥」

少しだけ掠れた声は艶を孕んで、熱い吐息がソロの躰にかかった。

「ピサロ…」

口接けを強求るように彼の背に回した腕に力を込めると、すぐに望みは叶えられた。

互いに貪り絡み合う舌が、水音を立て、その息すらも絡めとってゆく。

「ふ‥ぅん‥っ、はあっ‥‥‥」

新鮮な酸素を求めるように、唇を解放されたソロが大きく息を吸い込んだ。

そのままぜいぜいと荒い呼吸を繰り返しながらも、ピサロの首に回した腕の力を緩めず居

るソロに、ピサロが苦笑し、そっと囁きを落とす。

「‥もう動いても良いか?」

フッと耳にかかる吐息にソロが身動いで、それから腕の力を抜いた。

「…ん。‥いっぱい、ね‥?」

そっと彼の肩へ手を乗せたソロがふわりと微笑う。それに促されるように、ピサロは律動

を開始した。



「はあ‥はあ‥‥。」

根こそぎ体力を奪われてしまったソロが、ベッドに四肢を投げ出したまま、荒い息を繰り

返す。そのすぐ隣で、片肘立てたピサロが満足げにそれを見守る。

「う〜、なんかオレ、フルで戦闘してきた気分だ‥‥。ってか。ピサロ復活早過ぎだし‥」

じと目で涼しげな眼差しを寄越す魔王を睨んで、恨みがましい呟きをこぼすと、ピサロが

口の端で笑んだ。

「本来なら、まだまだ挑みたい所だがな。流石にまだ無理は効かぬだろう?

 これでも随分抑えたのだぞ?」

「…向こうでは、本当に加減してくれてたんだね。それがよく解った。」

ぐでっとしたままソロが苦笑った。

「オレ‥まだまだ体力戻ってないんだなあ。」

そうぽっそり呟くソロに、ピサロが目を細めて、柔らかな翠髪を撫ぜた。

「なんだ。もしや今日の外出で自信つけて、旅立てそうだとでも考えてたのか?」

呆れた様子で訊ねられて、ちろっと彼を窺ったソロがむう‥と口尖らせた。

「‥悪い?」

「回復は確かにしているがな。お前は死線を彷徨ったばかりなのだぞ? 忘れるな。」

こつん‥と額を指で弾かれて、ソロは拗ねたような表情の後、クスリと微笑んだ。

「…過保護。」

「気に入らぬなら、もう一戦お相手願うだけだが?」

「それは本気で勘弁して。オレ今夜はもう、指1本動かす体力もないから。」

「口は元気みたいだがな。」

フッと微笑んで、ピサロが唇を重ねさせた。ソロもゆったりした動作ながら彼の背に腕を

回して。その温もりを存分に味わったのだった。





翌朝。

ソロは泥のように眠っていた意識をゆっくり浮上させ、目を覚ました。

昨晩はピサロがほんの一時ベッドを離れた所で寝に入ってしまったソロだったが。

目を覚ますと、躰がきれいに清められていて、服もしっかり身につけていた。

自分をしっかり抱いたまま眠るピサロをそっと窺って、ソロが小さく微笑む。

――大好き。

そんな気持ちを込めて、頬へ掠めるようなキスを贈ると、頤を掴まれ唇が重ねられた。

「ん…っ、ピサロ‥起きてたの?」

「‥まあな。お前に付き合ってただけだ。昨晩は少々無理させたようだしな。」

「べ‥別に。もう平気だもん。さ‥起きようっと。」

さっと頬に朱を走らせて、ソロがそそくさ上体を起こした。

朝の光が射し込む室内は、ほんのり明るい。

ふと、その視線を空いたベッドへ向けたソロが、苦い顔を浮かべた。

動きを止めた彼を訝ったピサロが、彼の向く方へ目を移す。

「…クリフト。帰って来なかったんだ。」

「‥そうだな。」

ぽつんとされた呟きに、ピサロが嘆息混じりに返答した。

沈んだ表情のソロの頭を抱き寄せて、少々乱雑に翠髪を掻き乱す。

ソロは慌てて彼から離れると、むう‥と頬を膨らませた。

「もお‥何するんだよ…?」

絡まった髪を手櫛で整えながら、大きく息を吐き出す。

「子供じゃないんだ。そう案ずる事もなかろう。」

「…そんなの、解ってるけど。でも‥さ。」

俯くソロが、しばらく考え込むよういた後、すくっと立ち上がった。

ベッドから降りると、パタパタ着替え始めるソロ。

のんびり眺めていたピサロだったが、外出準備まで始めている事に気づき、慌てて腰を上

げた。

「おい‥ソロ。お前、探しに向かうつもりか!?」

「‥だって。待ってるの嫌なんだもん。」

腕を掴み訊ねてくるピサロに、ふい‥と目線を反らせたソロが答えた。

「‥奴の事だ。朝食までには戻るだろう。下手に外へ出れば行き違いになるだけだ。」

大仰な吐息の後、ピサロがやれやれと言い聞かせた。

のろのろとピサロと戸口を交互に見やって、重い息をこぼす。

それからやっと、ソロは側のベッドへ腰を下ろした。



ややあって。

靴音が部屋へ近づいて来ると、ソロはバッと立ち上がった。

ドアノブが回るのとほぼ同時に、戸口前で構えていたソロが、部屋へやって来た人影に抱

きつく。

「わ…! ソロ‥?」

「クリフトぉ〜。遅いよ〜〜」

ぎゅうっとしがみついたソロが、泣き出しそうな声を振り絞った。

「‥すみません。私も昨晩のうちに戻るつもりでは居たのですが…」

「…クリフト。なんか‥いい匂いする‥」

スン‥と鼻を鳴らして、ソロが不審の眼差しを彼に向けた。

「‥‥‥女の人と‥一緒だったの?」

「は…? いえ‥違いますよ。」

「だって、いい匂いするもん。」

「いい匂い‥って。ああ、もしかしてあの部屋の…」

疑惑いっぱいの不機嫌な眼差しに、考えるよう顎に手を置いたクリフトが、思いついたと

頷く。

「ソロにも憶えある匂いでしょう?」

「え‥?」

にっこりと言われて、毒気抜かれたソロは、もう一度匂いを確かめた。

「…あ。本当だ‥。えっと‥どこで嗅いだ匂いだろう‥?」

「‥天空城です。」

仕方ない‥とクリフトは語らず済ませるつもりだった話をする覚悟を決めた。

「天空城!?」

びっくり眼でクリフトを見つめるソロ。

動向を見守っていたピサロも、意外とばかりに片眉を上げた。



                 

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