「どうする‥? 飯行くか?」

随分長〜いバスタイムの後、しばらく身体を休めていたクリフトに、鷹耶が声をかけた。

部屋に備えられていた部屋着を身につけ、ベッドに横になっていたクリフトが静かに身体

を起こす。すっかり夕闇に覆われた窓の外を見つめ、クリフトが深い息を吐いた。

「すっかり暮れてしまいましたね‥。もう夕食ですか。」

「腹減ってるだろ?」

「‥そう言われれば、なんとなく。」

腹部を押さえたクリフトが答えると、「じゃ‥行こうぜ」と鷹耶が彼を促した。

「‥あ、そーか。」

ドアノブに手をかけた鷹耶だったが、思い出したように動きを止めた。

「なんですか?」

「お前だよ。その格好のままじゃ、不味いだろ?

 一応ここには[女]として泊まってるんだし…。」

「え‥? …女装、まだ続けるんですか?」

思いきり顔を顰めさせ、クリフトがいやそうに訊ねる。

「…お前には不本意だろうけどな。諦めろ。」

「他人事だと思って‥。また、あのスカート姿になるんですか…」

苦々しく言うクリフトが、深く嘆息した。

「う〜ん‥この部屋着は男女兼用みたいだし。ほら、さっきのあのタンクトップ。

 あれを下に着込めばいいんじゃねー? 外へ出る訳でもねーしな。」

「はあ…。‥承知りました。ちょっと待っててくれますか?」     
承知り→わかり

「ああ。」

観念したように着替えを置いてある場所へ向かうクリフト。落ちた両肩が哀愁を漂わせて

いた。



「いらっしゃいませ。今日ここへ到着したお客様ですね。」

食堂の空いてる席に腰掛けた2人に水を運んで来たエプロンドレスの少女が、にっこり笑

んだ。

「ああ‥まあな。」

「ふふふ‥。街の女の子達が噂してましたよ、お客様のコト。」

「噂‥?」

「素敵な男性が立ち寄られた‥と。

 フリーだったら女の子達がほおって置かないでしょうね!」

頬を染め楽しげに語る少女が明るく笑う。彼女は向かいの席に座るクリフトへ視線を移す

と、彼にも微笑みかけた。

「こんなに素敵な彼女がいるんじゃ、入り込める余地ないでしょうけど。」

「判るか? 俺こいつにゾッコンだから、他の女に目入らねえんだv」

赤く俯くクリフトに、にんまり笑んだ鷹耶がヘラヘラ返した。

「ふふ‥ごちそうさまです。今夜はこちらの鶏のトマト煮がオススメランチとなってます。

パンとスープがセットになってますので。あ‥もちろんこちらのメニューから単品での

 ご注文も承っておりますから。お決まりになりましたらお声かけて下さいね。」

ペコリ‥と会釈をすると、少女が奥の厨房へと戻って行った。

「う〜ん、俺はオススメランチでいいかな。クリフ…クリスは?」

名前を言い直した鷹耶に、肩を竦めて返したクリフトが、メニューへ目線を落とす。

「‥私もそれで。」

小さく答えると、クリフトがひっそり嘆息した。

「そんなに構えなくても‥。大丈夫、可愛いからv」

軽く請け合う鷹耶に目角を立てたが、すっかりご機嫌な様子の彼に、クリフトは毒気が抜

けてしまった。



何事もなく食事を済ませ、2人は部屋へと戻った。

クリフトは女装だとバレやしないか、随分と気を揉んでたようだったが、それも杞憂に終

わり、彼は複雑な心境を抱えながら、ベッドに腰を下ろした。

「はあ…。ただ食事するだけだったのに、ひどく消耗しましたよ‥」

「大丈夫だって言ったろ? 誰も不審がってなかったじゃねーか。」

「…それもあんまりありがたくないんですけど‥?」

クリフトが今日何度目か解らぬ溜め息をこぼした。

「クリフト。寝酒になんか貰って来るか? 外へ出る気にゃなれねーだろ?」

沈んだ面持ちの彼に、気遣うよう鷹耶が声をかけた。

「…そうですね。」

「じゃ‥適当に貰って来るよ。」

力無く微笑うクリフトの返事を聞き、笑んで返した鷹耶が、部屋を出て行った。

独り部屋に残されたクリフトが、小さく吐息をつく。

彼は上着を脱ぎ、下に着込んでいたタンクトップを脱ぎ捨てた。

余分なモノを脱ぎ去ると、再び上着を着込む。

一連の動作を終えたクリフトは、そのままコテンとベッドに上体を沈めた。



「‥では、とりあえずガーデンブルグ到着お疲れさま‥ってことで。乾杯。」

貰ってきた果実酒を、氷を浮かべたグラスに注いだ鷹耶と、それを更に水で薄めたクリフ

トが、グラスを傾けた。

それぞれのベッド脇に腰掛け、向かい合った2人がコクコクと果実酒を口に含ませる。

一気に半分程空けてしまったクリフトは、サイドテーブルにグラスを置くと、静かに息を

吐いた。

「あの…鷹耶さん、明日もその…私はあの格好しなくちゃならないんですか?」

「そうだな‥。一応[女]ってコトで国に入ったんだ。

 最低でも出るまでは、女で通して貰うぜ?」

「どうしても…ですか?」

「そ。どうしても。ま‥いいじゃん。ここはどうやら若い男が注目浴びるようだからな。

 …それとも。女の子達に、ちやほやされたかったか?」

「別にそんな事‥!」

「それに‥女装してる方が、目当ての女と親密になれるみてーじゃん?」

グラスの酒を飲み干した鷹耶が、お代わりを注ぎながらトーンを落とし口を滑らせた。

「え‥? それって‥どういう‥‥」

クリフトが言葉の意味を計り兼ね、怪訝そうに訊ねる。

「‥‥! …別に、なんでもねーよ。それよりお前も作ろうか?」

残り少ないグラスの中身を指した鷹耶が、手を差し出した。

「あ‥はあ…」

2口程残っていた酒を飲み干し、彼へグラスを渡す。手際よく水割りを作っている彼の動

作を眺めながら、クリフトは先程の鷹耶の言葉を反芻した。



―――目当ての女性と親密に‥?



自分に向けられた言葉という事は、アリーナを指しているのだろう。

けれど。女装したからと言って、これといって‥‥



―――!!



クリフトは馬車から出た時、彼女に自分の手を引いて貰った事を思い出した。

途端、彼の頬が朱に染まる。

鷹耶はそんな彼を横目で確認し、ひっそり嘆息した。

気持ちを切り替えるよう、静かに瞳を閉じ、明るい顔で彼へ向き直る。

「ほい。お待たせ。」

「‥ありがとうございます。」

渡されたグラスを受け取ると、口元へ運びコクンと喉を鳴らした。

「濃さはどお‥?」

「あ‥はい、丁度いいです。」

「そっか‥。」

鷹耶はふわりと笑い、自分もグラスの酒を煽った。



「はあ〜。なんか‥ふわふわします‥‥‥」

3杯目を空ける頃。トイレから戻ったクリフトが、鷹耶の隣に腰掛け身体を預けた。

「大丈夫か‥? そんなに強い酒じゃねーと思ったんだけどな。」

「ですよねえ‥。口当たりも良くて美味しいし…」

「だから飲み過ぎたのかな‥?」

とろ〜んとした瞳の彼を覗いながら、鷹耶が苦笑んだ。

「鷹耶さんは〜、顔色変わりませんね…」

唐突に彼の頬を両手で挟んだクリフトが、彼の顔を横向けた。

間近で向かい合わせに視線が交わされる。ほんのり頬を染めたクリフトの、どこか熱っぽ

い瞳が不機嫌に細められたが、鷹耶には婀娜めいて映っていた。

「クリフト‥。そんな風にされると、俺…我慢出来ねーんだけど?」

「いいですよー?」

苦笑する鷹耶に、クリフトがクスクスと返す。

すっかり酔った様子の彼に小さく笑った鷹耶が、そっと彼を組み敷いた。

「ん‥‥」

しっとりと重ねられた唇が、口唇を啄むよう優しく食んでくる。

上に下に‥幾度か繰り返されると、薄く開いた入り口へそろりと舌が差し入れられた。

「ん‥ふ…。はぁ‥‥」

熱い口内は侵入者をすんなり受け入れ、更に深く求めるよう両腕が彼の背に回された。



「んっ‥ああっ‥‥」

すっかり衣服を取り除かれたクリフトが、屹立した自身をやんわり握り込まれ、嬌声を上

げた。散々焦らすように弄っていた指が齎す快感に、彼の背がビクンとしなった。

滴る蜜を塗り込めながら、熱を煽るよう器用な指先が滑る。

「あ…はあ‥っ。鷹‥耶さん‥‥もっ…」

直接的な刺激を受けたクリフトが、緩やかな動きに焦れたように腰を揺らした。

「…もっと、気持ち良くしてやろうか?」

鷹耶はそう言うと、昂ぶる花芯を口に含んだ。

ねっとりとした熱い感触に包まれたクリフトが、不思議そうに顔を上げる。

「たっ‥鷹耶さん!? やっ‥な‥んで。ダ‥ダメ、ですっ‥やぁ‥っ!」

自身が彼の口に覆われてているのを知ったクリフトが、涙目で拒絶した。

「あっ‥ふう…。や‥んっ‥た‥かやさん、ダメ‥‥んっ…」

ざらりとした熱い舌が、猛る屹立を根元から先へと滑ってくる。手淫とは違う悦楽を齎す

愛撫に、クリフトは途惑いながらも、イヤイヤと首を振った。

「お願…っ、ダメぇ‥っ!」

ポロポロと涙をこぼし、クリフトが彼の頭を退かそうと手を伸ばす。

「あ‥っ。いやぁ〜、ああっ…!!」

強烈な感覚に支配され、クリフトがその昂ぶりを解放した。

口内に受け止めた白露を躊躇いなく嚥下した鷹耶が、荒い呼吸のまま泣きじゃくるクリフ

トの目元の滴を指先で拭う。

「クリフト‥」

「鷹‥耶さん…、な‥んで? …あんな‥。汚いじゃ‥ないですかっ!」

しゃくり上げながら、行為にショックを受けたクリフトが抗議した。

「汚くなんかねーよ。…クリフトは、気持ちよくなかった‥?」

彼の髪を梳いてやりつつ、鷹耶が柔らかく訊ねた。

「それは…。でも‥だって‥‥‥」

「俺はさ…お前を悦ばせてやりたいと思うし、感じてくれると嬉しいと思ってる。

だから…お前が本気で不快に思うなら、やらないよう注意する。残念だけどな…」

「…残念‥? …鷹耶さんは‥その‥‥本当に躊躇いないんですか? 先程の行為に…?」

「全然。だから…お前が本気で泣き出すとは思わなかった。」

「鷹耶さん…」

クリフトは途惑った。行為そのものが不快‥というより、本当にただ驚いたのだ。

想像しなかった行為に晒されて。だから…

「鷹耶さん。…不快というんじゃないです。ただ‥驚いてしまって…」

クリフトは正直に思いを伝えた。

「‥そっか。じゃ、ゆっくり慣れていこうな。」

鷹耶は安心したように微笑むと、彼の頬に口づけた。

唇が頬から耳朶へ移り、ねっとりと舌が差し入れられる。先程の熱流とは違う、じんわり

した熱がそこから広がってゆく。

中断していた行為がゆっくりと再開され、クリフトは甘い吐息を漏らした。

「ん…っはぁ‥‥」

首筋から鎖骨を辿った唇が、胸の飾りを捉えると、より甘やかな声が上がる。

脇腹から太股を巡る指先が、足の付け根をリズミカルに動き、もどかしげな熱がこもった。

高度を取り戻しつつある屹立に、脚を辿っていた指先が、その裏筋を根元から伝う。

ビクン‥と大きく躯を跳ねさせるクリフト。

しっとりと濡れそぼる先端に軽く弧を描くと、一瞬だけきゅっと握り込み、悪戯な指先は

奥まった蕾を目指した。

「ふ‥っあぁ…っ。」

湿った指先がゆっくりと解すように忍び込む。数時間前受け入れた入り口は、いつもより

容易くそれを呑み込んでゆくようだった。

「ああっ…。ふ‥‥‥」

順調に増やされた指が、脈打つ内壁を蠢き回る。先端から滴る蜜を巧みに塗り込めながら、

我が物顔で内壁を巡る指達が、じわじわと熱を孕ませていった。

「ん…鷹耶さん‥‥‥」

「クリフト…」

身体を屈め小さく口づけた鷹耶は、後孔の指を引き抜くと、代わりに己を宛てがった。

ぐいっと脚を開き、ゆっくりと自身を沈めてゆく。

息を詰めるように衝撃に耐えるクリフトの表情が緩むのを合図に、鷹耶は一気に楔を彼の

中に沈めた。

「はあっ…。くっ‥」

「…クリフト、動いてもいいか?」

強求るように熱い吐息混じりに鷹耶が乞う。

コクン‥と確かに頷くのを確認した鷹耶は、小さく笑んだ後、ゆっくりと抽挿を開始した。

浅く深く、穿つ楔が内壁を擦り上げる。熱い奔流が躯中を駆け巡るのを感じながら、クリ

フトはぽろぽろと艶めいた吐息をこぼした。

「あ‥っ。ああ‥‥!」

シーツをぎゅうっと握り締め、クリフトが快楽を追いかける。

鷹耶の腹にあたる昂ぶりが、身の内の熱を更に焦がし、解放を待ち望んでいた。

「鷹‥耶さん…」

決定的な刺激が欲しくて、クリフトが彼の背に腕を回す。       
強請む→せがむ

強請むようなその仕草に、鷹耶は笑んで返すと、律動を速め大きく穿った。

幾度目かのグラインドの後、彼の最奥に鷹耶が欲望を叩きつけた。

「ああ‥‥っ!」

それに触発されたクリフトも弾けさせると、そのまま身体を弛緩させた。

ゆっくりと彼の中から出て行った鷹耶が、彼の上に重なるよう身体を預ける。

鷹耶がそっと、間近にあるクリフトの顔を覗き込むと、彼はスウスウと寝息を立て始めて

いた。

「クリフト…?」

静かに声をかけてみるが、返事がない。

どうやら解放と同時に緊張が緩み、そのまま眠気を誘発したらしい。

鷹耶はひっそり嘆息すると、小さなキスを彼に落とした。



             
  




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