その3




翌日。鷹耶とサントハイムの一行は城、その他のメンバーは城下町へと情報収集を開始

した。城の入口で、ここの王様が何やらお触れを出している事を知ったのだが。謁見の間

までずらりと繋がる奇妙な行列に、ブライが渋い顔を見せた。

「どれくらい待てば、王様にお会い出来ると思う?」

 アリーナも溜め息混じりに苦笑する。

「わしはこんな行列には並ばぬぞい。絶対ごめんじゃわい。」

「‥まあ。とりあえず、先に情報収集するか。王様は後回しだな。」

鷹耶も長蛇の列の最後尾に並ぶのは気が進まぬ様子で、予定変更を即決した。



城の学者に話を聞けた一行は、この城に[天空の兜]が伝わっている事を知った。

 他にも天空に纏わる話が聞けないかと城内を歩き回っていると、兵士の鍛練場らしき

場所に出てしまった。

「うわあ。ここって鍛練場? ここの兵士って強いのかなあ? 手合わせ願えないかな?」

ワクワク顔のアリーナがキョロキョロと周囲を見渡す。

「おや、冒険者かい?」

 中の様子を窺っていた一行に、後ろから声がかかった。

長身ですらりとした印象の青年は、さらりと顔にかかった前髪を軽く掻き上げると、

一行を一瞥するように視線を巡らせた。

「こんにちは。私達旅の者なんですけど。こちらは兵士の鍛練場なんですか?」

「ええそうですよ、お嬢さん。」

「あの‥よかったら見学させて頂けないかしら?」

「アリーナ様。」

 窘めるように言うクリフトに、アリーナが鷹耶へと視線を向ける。

「あ‥鷹耶。…駄目かなあ?」

「もう一通り回ったしな。後は王様だけだろう? 随分長い列みたいだったからな‥」

「じゃ、ちょっとだけいい?」

嬉しそうに訊く彼女に、鷹耶が頷いた。

「…という訳なんだけど。見学出来るかしら?」

待たせてしまった青年に向き直ると、頼み込むように手を合わせた。

「構いませんよ。ではどうぞ。」



青年に案内され建物の中に入ると、一対一で戦う剣士の姿が目に飛び込んで来た。その

周囲を囲む兵達の応援すら気づかぬ様子で、じっとその試合の行方を見守るアリーナ。

「…いかがです? 彼らはこの城でも有数の使い手なのですが。」

 鷹耶の隣に立った青年が、声をかけた。

「近頃魔物の襲撃が勢いを増してるとか。日々の鍛練を欠かく事は出来ませんが、

実際我々の力が、どこまで魔物に通用するものかと。

実際の冒険者の方から忌憚ないご意見が伺いたいのですが。」

「…何故俺に?」

「パーティのリーダーとお見受けしましたので。剣士でもいらっしゃるようですし。」

抑揚なく訊ねる鷹耶に、小さく肩を竦ませた青年がさらりと答えた。

「…実戦でどれだけ彼らが戦えるか‥か。…まあ。この辺に棲息してる奴らなら、

これだけ人数いれば、どうにかなるんじゃねーの?」

「…人数ね。」

「本気で強くなりてーなら、実戦積まねーとな。

実際必要なのは、型でなく生き残る事だしよ。」

「成る程。つまり、我々の鍛練は実戦向きでない‥と?」

「…ま、そういう事だな。」

愉快そうに笑んだ青年の言葉に乗った鷹耶が口の端を上げた。

 彼らの回りに居た兵士達が、俄に不満そうに騒めき出す。

「勝手な事を」「馬鹿にして」等々、彼らの不満が伝染して行く。

「鷹耶さん‥?」

クリフトが心配そうに声をかけた。

彼は大丈夫‥というように目線を送ると、熱心に勝負の行方を見守っていたアリーナの

肩に手を乗せた。

「アリーナ。」

「‥ん? どうしたの、鷹耶?」

振り返った彼女が不思議そうに彼を見る。

「お前さ。彼らと戦って、勝つ自信あるか?」

「戦うって‥ここで? …試合って事?」

「そ。どうだ?」

「…そうね。いけると思うわよ?」

彼女としては控え目な表現だったのだが、あまりにあっさり勝てると判断した細身の

女の子の発言に、更に周囲がどよめいた。

「…って。ど・どうしたの、一体?!」

ぽつりと返した一言の波紋に、アリーナが退避ぐ。

「お前さっき手合わせしたいって言ってたろ? やってみろよ。」

「え‥本当? …あの、いいのかしら?」

彼女は嬉しそうに瞳を輝かせると、遠慮がちに彼の隣に居る青年を見た。

「ええ。どうぞお願いします。実戦で鍛えた腕前を拝見させて下さいませんか?」



試合開始が決まった時。小柄で非力に見える女の子が相手では、てんで話にならない

だろう‥と兵士達は囁き合った。

 …が。実際試合が始まると、身軽な彼女の動きに、相手はすっかり振り回されていた。

 彼女の倍はある体格の大男も、かなりの使い手だったが、先程散々その動きを見ていた

アリーナには通用しなかった。先の動きを読んでいるかのように、彼女はその攻撃を躱し

ていく。彼がバランスを崩した時、あっさりと勝負は着いてしまった。彼女の手刀が見事

喉笛を捉らえたのだ。

「次は自分が!」

 先程大男と対戦していた青年が名乗りを上げる。

「いいわよ。」

アリーナはあっさり承知すると、早速第二試合が開始された。



 パワー重視の大男と違い、技に長けた青年との戦いは意外に長引いた。

 どちらも間合いを窺いながらの攻防を繰り返す。

「アリーナ様‥大丈夫でしょうか?」

ぽつりと心配そうなクリフトが零した。

「まあ。彼女はああいうタイプとは、やりにくいだろうけどな。丁度いいハンデだろ?

人間相手に必殺は出せねーからなあ‥。」

のんきそうに鷹耶が話す。

「はあ‥‥。」

「つまり彼女はまだまだ本気を出せてない…と?」

二人の会話を興味深げに聞いていた青年が会話に加わった。

「‥ってゆーか。試合は試合。実際の戦闘とは違うって事だろ?

命のやり取りしてる訳じゃねえからな。」

「…そうですね。」

青年は楽しそうに笑うと、目線を彼女に戻した。

試合の方は、新たな展開を見せていた。

アリーナの蹴りで空を舞った剣。その剣が床に突き刺さる前に、勝敗は決した。

 残念そうな溜め息があちこちから漏れる。

「流石ですね。サントハイムのアリーナ姫様。」

パンパンと拍手を送りながら青年が近づく。

「…アリーナ姫だって? あのエンドールの武術大会で優勝したっていう?」

「あのサントハイムのじゃじゃ馬姫か‥?」

兵士達が口々に噂話を始めた。

「あら…私の事、知ってたの?」

 アリーナが不思議そうに青年を見つめた。

「初めは分からなかったですけどね。お名前とその腕前を拝見して、確信致しました。

それに。そちらのご老人はブライ老ですよね? 見覚えがあったのでもしや‥と。」

「へえ。ブライって結構顔広いんだ?」

感心したように鷹耶がひやかす。

「うむむ‥。わしは記憶にないんじゃがな。」

「…それで。あなたはどちら様かしら?」

アリーナが隣に立つ青年に声をかけた。

「これは申し遅れまして。私はウィルフォード、ウィルとお呼び下さいアリーナ姫。」

「アリーナでいいわ。それで、満足して貰えたのかしら?」

「ええ。お見事でした。彼らの今後の為にも、いい経験だった事でしょう。」

「…あなたも結構強いようだけど。もう一戦くらいの体力はあるわよ?」

「私‥ですか?」

「そう。」

「…構いませんけど。立て続けに三戦はきついと思いますよ?

負けた時の言い訳にされても、困りますしね。」

「あら強気ね。そこまで言われたら、ますます引けないわ。」



結局。アリーナはウィルフォードと対戦する事となった。

「…結局こうなるんですね‥。」

「姫様も好きじゃからな…。」

サントハイムの面々ががっかりと肩を落とした。

「…でも。アリーナ様なら、大丈夫ですよね?」

気を取り直したクリフトが、鷹耶に話しかける。

「…さあな。あいつ‥それなりに強いと思うぜ? 他の奴らとは気配が違うからな。」

「そんな‥。」

心配顔のクリフトを余所に、すっかり活気づいた兵士達。彼らは口々に声をかけた。

「ウィル様、頑張って下さい!」

「王子様ならじゃじゃ馬姫にだって負けません!」

「おお! 確かウィルフォードとはスタンシアラ第三王子の名じゃったわ!」

ようやく憶い出したブライが、ポンと手を打った。

「…へえ。あなたこの国の王子だったの。‥なら、尚更勝たなくちゃね!」

 間合いを取りながらアリーナが話しかける。

「オレも負ける訳には行かないのさ。行くぞ!」

掛け声を発すると、彼は果敢に攻撃を仕掛けて来た。



「…はあ‥はあ‥。確かに‥口だけじゃないみたいね‥。」

 意外に早く息が上がり始めたアリーナが、少し距離を置くとぽつりと話した。

「お褒めに預かりまして。では‥そろそろ勝負着けさせて貰おうかな。」

ウィルは小さく息を吐くと、剣を構え直した。

切っ先が彼女を掠めるように横切る。

それまでとは違う殺気のこもった剣先に、アリーナの頬に緊張が走った。

彼は更に連続した攻撃を繰り出す。アリーナはなんとか紙一重でそれを躱していたが、

すっかり防戦一方となってしまった。

「さ…これで、エンドだ。」

ウィルは剣を躱す為に身体を反らせた彼女に飛びついた。

そのまま彼女の背を床に着けると、剣を肩口すれすれに突き刺した。

「あ…」

「「おお〜〜〜!!」」

兵士達から歓声が上がる。

「アリーナ様…。」

「負けちまったな。」

ウィルは身体を起こすと剣を外し、アリーナに手を差し出した。

「大丈夫かい? 多少本気出させて貰ったからな。怪我はない?」

「ええ‥なんともないわ。…それにしても。悔しいなあ‥。」

彼の手を取ると一緒に立ち上がったアリーナが、唇を尖らせた。

「でも‥楽しかったわ。」

「オレもだ。一度お転婆姫と手合わせしてみたかったんだ。」

お互いの健闘を称えるように握手を交わすアリーナとウィル。

ウィルの言葉にやや呆れを込めて彼女が零す。

「…さっきから、[お転婆]だとか[じゃじゃ馬]だとか聞こえて来るけど。

スタンシアラに来てまで、そんな呼び方されるとは思わなかったわ。」

「エンドールの大会でのサントハイムの姫君の活躍は有名だからな。」

「おいアリーナ。そろそろ行くぜ?」

鷹耶が彼女に声をかけた。

「あ‥そうだったわね。そろそろ列も解消されたかなあ?」

本来の目的を憶い出したアリーナが苦笑した。

「そう言えば、父上に会いに来たんだっけ?」

「あ‥ええ。なんでもこの国には天空の兜が伝わってるのですって?

私達それを譲って貰えないかと思って…。」

「天空の兜‥? そりゃまた大胆な願いだな。」



ウィルは彼女達と共に場所を移した。

応接セットのある来賓室へと通されると、早速お茶とジュースが運ばれて来る。

「わあ嬉しい。喉カラカラだったの。」

アリーナは差し出されたジュースをゴクゴクと飲み干した。程よく冷えた飲み物が、

乾いた喉を潤していく。

「…それで、ウィル王子。

スタンシアラ王に天空の兜を譲り受けるのは、やはり難しいのかの?」

コホン‥と小さく咳払いをしたブライが切り出した。

「そうですね。あれは特別な物ですから。

いくらサントハイムの姫君の頼みでも、そう簡単には…。」

「一番手っ取り早いのは、あのお触れ通り、王様を笑わせる事なんじゃねーの?」

「う〜む。正攻法でいくしかないかの。」

「そうですねえ…。

トルネコさんなら、よく駄洒落で魔物を笑わせてますし、どうにか…」

「‥確かに、笑わせる事が出来ればそれが一番良策とは思いますが。」

ウィルは一旦言葉を切ると、苦く笑った。

「…父。生半可な芸では落とせませんよ?」





 その日は結局王様への謁見はせず、彼らは宿へと戻った。

 夕食の後のミーティングで、お互いの情報を話し合いながら、今後の予定を詰めていく。

城下町での噂話から、いろいろな芸人が何人も失敗してる事を聞き、ますます八方塞が

りとなってしまう一行。

「…う〜ん。今巷で話題の芸人パノンなら、なんとかなるかも知れませんが。

人気の芸人ですからねえ。随分と諸国を転々としてるようですし…。」

トルネコが憶い出したようにぽつりと話した。

「パノンねえ…。あれ‥パノン?

‥‥そう言えば確かモンバーバラの劇場に彼が来るって聞いたわよ?」

 

マーニャの情報を確かめる為、マーニャ・ミネア・鷹耶・トルネコがミーティングの後

モンバーバラへ赴く事となった。

「さ。とっとと用件済ませて帰ろうぜ。」

 着いて早々そんな事を口にする鷹耶。マーニャとミネアは顔を見合わせ苦笑した。



一方。スタンシアラに残った面々は…

ブライとライアンは情報収集と称して酒場へ向かい、アリーナ・クリフトはそれぞれ

自室に戻って行った。

「ふう…。」

 部屋に戻るとクリフトは深く嘆息した。昼間の事がふと過る。連戦の後とは云え、あの

アリーナが対戦で負けてしまうなんて。…しかも王子相手に。

「…やっぱり、ああいった強い方が相応しいんだろうな。」

自分と違って相応の身分も持ち合わせている王子は、まさに彼女の理想じゃないか‥と、

クリフトはもう一度溜め息をついた。

キイ‥パタン。

 クリフトは部屋を出るとそのまま宿を出た。

「あ、クリフト! どこ行くの?」

 通りに出た途端頭上から声が掛けられた。

「アリーナ様。…その。ちょっと散歩でもと…。」

「ええ? 私も行く行く! ちょっと待ってて!」

部屋の窓から声を掛けていたアリーナは慌ただしく言うと、部屋を飛び出した。

クリフトがその場に釘付けとなってると、パタパタと足音が近づいて来る。

「お待たせ〜! さあ行きましょう。」

「…アリーナ様。あの‥どちらへ参りましょうか?」

二人っきりで夜の散歩なんて。デートみたいだと思った途端固まってしまった彼が、

ぎこちなく訊ねた。

「うふふ。クリフトに任せるわよ。どこに行くつもりだったの?」

「適当に歩こうかと‥。」

「それでいいじゃない。じゃ、行きましょう?」

 アリーナとクリフトは夜の街をのんびりと散策し始めた。

「昨日は舟であちこち回ったけど。こうして歩いて見ると、また違った印象よね。」

街並みに視線を巡らせながら、アリーナがにこにこと話し出した。

「そうですね。そういえば、我々は朝から城へ出掛けてしまったので、街を歩くのは初

  めてなのですね。」

「そういえばそうね。なんだかんだとお城に一日居たものね。」

「え‥ええ…。」

「…あ。ねえあそこ、座りましょう?」

アリーナが水路脇に造られた憩い場のベンチを指した。

「今日はさ‥すっごく悔しかったなあ…。」

 トン‥と腰を下ろした彼女が空を仰ぎながらぼやいた。

「…負けてしまった事がですか?」

隣に腰掛けたクリフトが遠慮がちに訊ねる。

「うん‥そう。結構強くなってるつもりだったんだけどなあ…これでも。」

「アリーナ様は十分お強いと思いますよ? …それに。試合では確かに負けてしまいまし

  たけど、本来の力を発揮出来たなら、また結果は違っていたかも知れません。」

「あはは‥クリフトったら。残念だけど、手抜きしたつもりはないわ。」

「あ‥いえ。そうではなくて。…鷹耶さんが。

‥彼が、姫様には初めからハンデがあるとおっしゃってたので。」

「ハンデ‥?」

アリーナが訝しげに聞き返した。

「試合と実戦は違うから。その…人間相手に必殺は出せない‥と。」

「ああ。そういう事。まあ、それは確かにね。…でも。…やっぱり負けは負けだわ。」

「アリーナ様‥。」

「でも…次は負けない。私‥もっと強くなるんだもん!」

「きっと‥なれますよ。」

悔しいと話しながらも、既に高みを目指そうと前向きにとらえている彼女に、クリフトが

微笑みかけた。



「ああやれやれ。結局パノンは明後日になっちまったな。」

 交渉後。ルーラでスタンシアラに戻って来た鷹耶達。宿へと向かいながら鷹耶がうんざ

りと零した。

「でももしかしたら、今日は得られなかった情報が、まだ眠ってるかも知れませんし。

明日もう一日、あちこち当たってみましょうよ。」

「そうですよ、鷹耶さん。流石に一日で隈無く歩き回れませんでしたからね。明日もう

一日あるのでしたら、今日行ってない場所を当たってみる事が出来ます。」

ミネアに応えるようにトルネコも話した。

「そうだな…。ぼんやり過ごす訳にも行かねーし。」

「…あれ? アリーナ達じゃない?」

 水路へ伸びる通りの向こうからやって来る人影に、マーニャが足を止めた。

「あーやっぱりマーニャ達だ! お帰りなさーい!」

アリーナが大きく手を振り、小走りして来る。置いて行かれたクリフトは、そのままの歩

調で、少し遅れて彼らと合流した。

「ねえねえ。パノンには会えたの?」

 アリーナが興味津々訊いてくる。

「それがね‥会えたのだけど。公演が明日まであるから‥と言われてしまって。明後日

の朝、もう一度モンバーバラに迎えに行く事になったの。」

「そっかあ‥。でもなんとか来て貰えそうなのね。良かったわ。」

 アリーナとミネアが和気藹々と話してる少し後ろを、鷹耶・マーニャ・クリフトが歩く。

「…悪かったな。邪魔しちゃってさ‥。」

 鷹耶がぼそりとクリフトに声をかけた。

「…え? そんな事‥。もう戻る所でしたし…。」

俯きがちに答えたクリフトは、向けられる視線には気づかなかった。



「…あの、鷹耶さん。明日は結局どうするんですか?」

 宿の部屋に落ち着くと、クリフトが同室の彼に声をかけた。

「ああ。もう一日情報収集だな。」

「…そうですか。」

「気が乗らねーか?」

「あ‥いえ。そんな事…。」

「せっかくのデートだったってのに、やけに元気ねーじゃん?」

腰掛けてたベッドにごろんと転がった鷹耶が、案じるように言った。

「で‥デートだなんて! …そんなんじゃ‥ありません。私などがそんな…」

鷹耶に背を向けるように、クリフトがベッドサイドに腰を下ろし項垂れてしまう。

「…昼間アリーナが負けた事。お前の方が気にしてるみたいだな?」

元気ない様子の彼に、上体を起こした鷹耶が深く嘆息した。

「‥‥‥‥」

「アリーナより強くて。しかも一国の王子様‥なんて。

お前には嫌な野郎でしかないもんな。」

「な‥んで、私がそんな事、気にしてるだなんて…。」

途惑うような震える声を絞り出すクリフト。

「‥それはお前がアリーナを好きだからだろ?」

 後ろからそっと抱きしめた鷹耶が囁いた。

「わ‥私などがそんな‥。私は‥別に…んっ‥」

頬を染め否定する彼の唇が塞がれた。顎を捉えた彼が強引に横向かせたのだ。

「…それさ、やめろよ。」

「え…?」

「『私など』って言い方さ。 二度目だぜ?」

鷹耶は斜めに向かい合うよう体勢を変えると、じっと彼を覗き込んだ。

「俺にはクリフトは『なんか』じゃねーからさ。すっげー気分悪い。」

「鷹耶さん‥。」

「別に『好き』って気持ちは自由だろ? そこに資格は必要ないと思うけどな。」

「でも…僕は‥‥‥」

「クリフトは自分に自信が持てないんだよな。…だから、すぐ後ろ向きに考えちまう。」

 俯く彼の両頬に手を当て、視線を合わせる鷹耶。

「…でもさ。もう少し自分を信じてみろよ。俺を信じてくれた時みたいにさ。

俺より余程信頼に足る人間だと思うぞ。違うか?」

「鷹耶さん‥。そうですね。」

クスリとクリフトが微笑んだ。

「だろ‥?」

クスクスと顔を近づけ笑い合う二人は、そのままどちらからともなく口づけた。

差し入れられた舌がしっとりと絡み合う。

仄甘い余韻を残すように、静かに唇は解放された。

「…ん‥。」

穏やかな表情のクリフトが、そのまま彼の肩に頭を預けた。

(‥なんでだろう? 不安が消えてる。こうしてると暖かくて、なんだか‥‥)

広がる安堵感に、不思議な心地よさを覚えるクリフトだった。






          

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