そこは、どこか失くした故郷を思い出すところだった―――



パデキアの根を取りにやって来た村ソレッタ。

のんびりした田舎町は少し故郷と重なって、懐かしさを感じながら、オレは独り夜の村を

散策していた。

村の端にある木の柵に腰掛け、星空を見上げる。

今にも降ってきそうな瞬く星々は、遠くに昇りかけた月より明るく辺りを照らしているよ

うだった。

「何を見ている?」

ぽかんとその景観に見惚れていたオレは、背後からかかった声に驚き、危うく柵から落ち

そうになった。慌てふためきながら、なんとか体勢を整え直そうと試みる。

「何をしている。」

健闘空しく後ろから落ちそうになったオレを、呆れ声の主が支えた。

オレは小さく礼を返しながら、村の外に立つ男と向き合うように立った。

「…もう来ないかと思った。」

ぽつりと呟いた声に返事があった。

「何故‥?」

「‥‥飽きちゃったかな‥とか。」

聞きたかった言葉と違うものが口をついて出てしまう。

俯きがちに視線だけ向けると、彼がなんだか少しだけ、苦く微笑った気がした。

くいっと顎だけで促すような仕草の後、男が歩き出した。

村の外に広がる小高い丘へ向かう彼の後にオレも従う。

黒いフードの縁から銀の髪が一房さらりと風に乗って流れていた。



この前会ったのは、コナンベリーだった。

あの時は‥自分の気持ちでグルグルしちゃって、こいつの所から逃げるように戻って

しまった。それからぱったり音沙汰なくなって…オレは‥‥‥

「…何を考えてる?」

ふと立ち止まった彼が、振り返りオレを覗き込んでいた。

かあっと頬が火照ってゆくのを感じながら、オレは左右に首を振る。

「べ‥別に…なんでもない。」

「…ソロ。」

ピサロはオレの頬に手を添えると、そのまま上向かせた。

しっとりと唇が重ねられる。誘うように薄く開いた入口から、彼の舌が滑り込むと、

待ち侘びてたようオレからも絡めた。

グルグルしちゃった気持ちは、今もまだ答えが見つからないままだけど。

こうしてまた会えたコトの方が嬉しいから、なんだかどうでもよくなっちゃった。



―――この想いが快楽から生まれたのであっても。…別の源からの感情であっても。

  こいつを求めているオレが、確実に在るのだから‥‥



「…ピサロ。‥どうして、しばらく顔出さなかったの…?」

草地に敷かれたフードとマントの上に座ると、奴が慣れた手つきでオレの上着を剥ぎ取っ

てゆく。時折悪戯に弄る指先に吐息をこぼしながら、オレはようやく一番に訊ねたかった

事を口にしていた。

「…多忙でな。体がなかなか空かなかったのだ。」

「本当に…それだけ?」

「他になにがあるのだ‥?」

淡々と返すピサロが胸の飾りを舐め上げる。びくんと弓なりに背が反った。

「あ‥ん。…だって。‥もう…飽きちゃった‥かなって‥‥‥」

不安な思いが瞳に現れていたのか、ピサロが不思議そうにオレを覗う。

「…先程も申してたな。

 生憎だが‥せっかく仕込んだ伽の相手を下げ渡しする程酔狂でもなくてな。」

「‥‥‥? …んっと。それって‥‥‥」

頭が回らない状況下で難しく言われても解らないよ。

考え込むオレにピサロは小さく嘆息すると、口の端を上げてきっぱり言った。

「お前は私の所有だ‥‥そう言ったであろう? 私がお前を殺すまで‥‥な。」

薄く笑うピサロがオレの顔を覗き込む。オレはどくんと鼓動が跳ね上がるのを感じた。

ふっと頬に触れ落ちる奴の銀糸を一房掴む。逸る鼓動を嗜めながら、挑む瞳をぶつけた。

「違うだろ? オレがあんたを殺すまで…だ。」

笑んだオレに噛み付くような接吻が降りてくる。荒々しく貪るようなソレは、仄かに色づ

いていた躯を一気に熱く焦がしていった。



――なんだか…すごく嬉しくて。



「…ピサロ。」

焦らすように触れてくる指先が、欲しい場所を掠めながら緩々と弧を描く。

甘い吐息をこぼしながら、さらに甘ったるく強求ると、意地悪い笑みが返された。

「どうして欲しいか、言ってみろ。」

低い声が耳をくすぐる。

耳朶を甘噛みされると、朱の走った頬がさらに熱く耳まで染まった。

「‥‥オレのに…触って‥‥」

恥ずかしくて堪らないのをがんばって声にしたのに、ピサロはまだ足りないというように、

オレの表情を窺ってくる。

腹の周囲を彷徨う奴の腕を掴むと、オレはおずおずと、刺激を待ち侘びる下芯にその手を

導いた。

「…ね、お願い‥‥」

情に潤んだ瞳で再び強請むと、きゅ‥とその中心を握り込んでくれた。

ピサロが緩く扱き始めると、安堵の息が漏れ、艶を孕んだ声が短くこぼれ出す。

「今宵は‥随分余裕ないようだな?」

…そんなに溜まっていたのか?―――揶揄するような声音に、ソロは羞恥に染まった顔を

背けながら小さく頷いた。

元々そういった行為に対して淡泊だったソロは、ピサロに教えられた快楽を知り、欲望―

―というものに目覚めた。だが、コナンベリーでの逢瀬の後から今日まで、出逢ってから

一番長く離れていたこの間、不安に揺らいでいたソロにそんな余裕はなかった。

もう逢えないかも…という不安。

それが単なる杞憂だったと知った今、それまで抑えていた欲望は解放され、熱くその身内

を滾らせていた。



「んっ‥はぁ…っ。ああっ‥。ん‥‥‥」

滴る蜜をたっぷり掬った長い指が、奥まった窄まりにつぷりと挿入る。

ゆるりと回されながら奥へ侵入してくる指先に背中を粟立たせるソロ。解放を求めて腰が

揺らぐと、探春する指とは反対の手が下芯の根元を絞めた。

「や‥ん…。ピサロぉ…」

涙目で不満気に眉を顰める。ピサロは薄く笑うと、ひっそりと囁いた。

「口でしてやろうか‥?」

潤んだ瞳が情欲に染まる。束の間の逡巡の後、ソロは小さくこぼした。

「…して。…お願い‥‥‥」

恥じらう表情が常にも増して艶めいて見え、ピサロは満足気な微笑を浮かべソロを口に含

んだ。溢れる蜜を器用な舌先で掬い、裏筋を舐め上げる。どくんと脈打つ中心は、さらな

る熱を帯び、腰が小刻みに揺らいだ。

「はぁ‥ん…っ。も…達か‥せて‥よぉ‥‥‥」         焦燥る→じれる

焦躁るようにピサロの頭に手を伸ばしたソロは、先に触れた銀糸を指に絡め引っ張った。

不意に頭部を引かれたピサロは、目線を一瞬彼に向けた後、戒めを解き中心を煽り立てた。

加速する刺激に酔いしれながら、ソロは集束する熱を感じ、促されるまま迸らせた。

「ああ…っ! はあ…はあ…。はあ‥‥‥」

心地よい疲労感を覚える身体がどっと弛緩する。ピサロが白露を嚥下するのをぼんやりと

眺めながら、ソロは荒い呼吸を整えていく。

「…ピサロも‥する…?」

既に猛っている下芯に視線をやったソロが、控え目に訊ねた。

「私は‥こちらで構わぬ。」

ピサロはそう返すと、ソロの脚を開き秘所へ指を差し挿れた。

「あ‥ん…。」

深く突き挿れられた指の感触に、ソロが背を仰け反らせる。

「今宵はとっくりと相手させるぞ?」

指を増やし挿れながら、強引に内壁を押し開いてゆく。

ソロはその先に待つ快楽を思い、躯を戦慄かせた。

コクコクと頷き返し、熱っぽく潤んだ瞳を投げかける。

「来て…ピサロ。あんたで…いっぱいにして…!」

ピサロの広い背に両腕を回したソロが、しがみつきながら吐露した。



「あ‥ああっ。…ピ‥サロ‥。」

猛る塊を呑み込んでゆく感覚は、欠けてしまった何かを埋めてくれる気がして、オレは充

足感に浸るよう奴に縋り付いた。しっとりと汗ばんだ奴の身体が心地いい。

奴もいつもより余裕ないのか、性急に繋がりが深まると、律動が開始された。

「あ…ふ‥ぁん。…はぁ‥はぁ‥ん…っ。」

苦しく感じたのは最初だけで、すぐに馴染んでしまった悦楽が内から溢れ始める。熔ける

ように熱い内壁が掻き回され、熱い衝動が躯中を駆け巡った。

「…すご‥く、熱い…よ‥」

生理的に滲んだ涙をこぼしながら、浮かされたように呟く。

「…ああ。私もだ。」

短い言葉はほんのり艶めいて届いた。柔らかく細められた紅の双眸が蒼の瞳と交わされる。

ソロは満足そうに微笑を浮かべると、さらりと滑った銀糸を指先で漉き上げた。

愛おしむようなその仕草に、ピサロは高揚感が更に昴まるのを覚えた。不思議な感慨。

――飽きちゃった?

そう訊ねられて初めて、深く彼に執着している自分を知った。

「あ‥っ‥ああ―――」

激しく突き上げられたのと同時に、熱い飛沫がソロの最奥に叩きつけられる。

彼は大きく背をしならせると、後を追うように自らも昇りつめた。



「…ソロ。戻るぞ。」

予告通りとっくりと相手をさせられたソロは、意識を飛ばし寝入ってしまっていた。

そんな彼に、すっかり身なりを整えたピサロが声をかけた。

「…ん。‥あれ‥‥?」

眠そうに目をこすりながら、ぼんやりと起き上がる。

ぼーっと傍らに立つ彼へ視線を向けると、すでに情事の名残を払った姿がそこに在った。

ソロは慌てて服をかき寄せ、そそくさと着込んでゆく。

(あれ‥‥?)

きれいに拭われてる自分に気づいたソロは、途中ふとその手を止めると、ピサロへと視線

を向けた。

「なんだ?」

「‥ううん。なんでもない‥‥」

ソロは小さく微笑うと着替えを続ける。小さな気遣いがなぜだか心地いい。



「ピサロ…また‥ね?」

身支度を整えたソロは立ち上がると、そっとピサロを仰ぎ見た。

「‥ああ。またな。」

ふわりと頭を引き寄せながらピサロが答えた。

安堵の笑みを浮かべ、そっと彼の胸に頭を預けるソロ。

白く滑らかな肌が黒衣から覗いているのを見ていると、不意に衝動が芽生えた。

つい‥ときめの細やかな肌に指を辿らせたソロは、そのまま鎖骨の辺りに唇を寄せた。

いつもピサロがするように、少しきつく吸ってみる。

「あ…あれ?」

思ったようにいかなくて、ソロは眉を顰めた。

「…なにがしたいのだ、貴様は?」

呆れ口調でピサロが問いかけた。

「…あんたが。いつもオレにしてるみたく、跡つけるつもりだったんだけど‥」

ちっともつかないや…ムクれたようにソロがこぼした。

「残念だったな。」

ピサロは軽く口角を上げると、ソロの顎を捉え上向かせた。

ふわりと重ねられるだけの口づけが幾度か降りてくる。

身体が離されると、甘やかな吐息がかすかにこぼれた。

「‥おやすみなさい。」

柔らかな微笑を浮かべたソロが静かに離れる。

「ああ。」

紅の双眸が優しく細められた気がして、ソロは嬉しそうに笑った後、移動呪文を唱えた。



どさ…。

村の入り口までは僅かな距離だったのだが、ルーラの着地には変わらない。まだあまり上

手く呪文を扱えきれていないソロは、着地に失敗し崩れた体勢を整える間もなく地面に倒

れ込んだ。

「いったぁ〜。…やっぱ送って貰えばよかったかなあ…」

腰をさすりながら独りごちる。

徒歩でもたいしてない距離を、魔法に頼ったのは、足腰がふらふらだったからに他ならな

い。けれど。それを告げて頼るのは、あまりに不甲斐なさ過ぎる気がして自力で戻って来

た。宿への道をよたよたと辿る。寝静まった村には、時折蛙の鳴き声が響くだけで。起き

てる者の気配はどこからも感じられなかった。

(随分遅いんだろうな…)

すっかり高く昇った月を仰ぎ見ながら、ふと息をつく。

夜の冷気が頬を撫ぜていくと、かすかに海の香が届いた。…あの丘にも届いてた海の香。



「はあ…。」

オレは宿の部屋に戻ると、そのままベッドになだれ込んだ。

俯せのままころんと身体を横たえると、安堵の息がこぼれる。

今夜は一人部屋だったから、誰を気にするコトなく、ほうっと息をついていた。



――もしかしたら。もう逢えないのかも知れない。



そう考えた時、最初に感じたのは…喪失感だった。

ぱったりと音沙汰が無くなったのは、あの晩のオレが気に入らなくて飽きちゃったからな

のかも…って。そう考え出したら、オレとあいつのそもそもの繋がりは[敵同士]ってだ

けで。…戦いの場で再会すれば、剣を交える関係に戻る事も、今更ながら再認識した。



―――でも。



気づいてしまった。オレはあいつと戦いの場で遇いたくないんだって。

[勇者]として、いつかあいつとの決着をつけなければならない日が来るとしても。

それは…ずっと先であって欲しいと望んでる自分に。

『オレがあんたを殺すまで…だ。』

――あの時、そう答えたけど。

今のオレには、あいつと剣を交える自信がない。

実力以前の問題で。オレは‥‥‥



ぼんやりと考え事をしながら、オレはいつしか深い眠りに落ちていった。







無事パデキアの種を入手したオレ達は、嬉々とソレッタに戻った。

はっきり言って。この日の洞窟はめちゃキツかった。

ただでさえ、昨夜の疲労が抜けきらなくてしんどい所へ、滑る床だらけの洞窟。

昨夜はついつい感情のままに溺れちゃったけど。戦いに響くのは不味いよなあ…。

夕食の後散歩に出たオレは、昨夜と同じ木の柵に両腕を預け前に寄りかかりながら、

あの丘を眺めていた。

(あいつの訪れを『嬉しい』と思えるなんてな…)

ひっそりと吐息をつく。



――そう。嬉しかったんだ。あの言葉も…



『…私がお前を殺すまで‥‥な。』



それまでずっと、オレはあいつのモノだ‥って。

それって‥これからも会いに来てくれるってコトだもんな。

それに‥‥‥

「ソロったら、今夜は早く寝なさいって言ったでしょう?」

不意に背中に声がかけられた。

「マーニャ。」

「今日は体調悪そうだったじゃない? ちゃんと休まなきゃダメよ。」

両手を腰に当てながら、子供を叱り付ける口調で彼女がまくし立てる。ミネアもマーニャ

もとことんオレを子供扱いするんだよな。(実は出掛けにミネアにも同じような事言われ

てるのだ)

「は〜い。ちゃんと身体休めます。今日はいろいろご面倒おかけしました。」

「熱は…ないみたいね。本調子じゃなかったら、早目に申告するのよ?

 パーティが増えた分、負担を軽減しやすくなってるんだから。」

オレの額に手を当てた後、マーニャが更に言葉を続けた。

「うん。ありがと。」

オレは柵から身体を離すと、宿へ向かい出した。

「そうそう。ブライさんから聞いたんだけどね。アリーナ姫がデスピサロを追ってる‥

 って話、どうやら本当だったようよ?

神官の彼の病が治ったら、彼女からも詳しい話聞いてみましょうよ。」

隣を歩くマーニャが思い出したように話しかけてきた。

オレは歩みを止め、彼女へ視線を移した。

「どうしたの?」

そんなオレを不思議そうに彼女が覗う。

「…ううん。何か新しい情報が入るといいね。」

それだけ答えると、少し足早に歩き出した。マーニャは歩調を変えずに居たので、自然と

距離が開く。先に宿に戻ったオレは、少し振り返っておやすみを告げ、そのまま部屋へ向

かった。



デスピサロを追っているというサントハイムのお姫様一行。

彼女達もまた、オレのようにあいつに故郷を奪われたのだろうか?

オレのように‥‥‥





‥‥正直。彼女達に会うのが恐かった。




             

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