ガーデンブルグで無事天空の盾を手に入れたオレ達は、そのまま大陸沿いに航路を取り、
南にあるというロザリーヒルを目指していた。
かつて魔族が住んでいた――という村、ロザリーヒル。
その途中立ち寄った小さな島。
なんでもメダル王とか名乗るおじいさんが所有するその島は、小さいながらも王宮のよう
な宮殿が建ち、祠や宿屋なんかも在った。
メダル王が言うには、時折旅人が立ち寄ったりするので、宿も建てたのだそうだ。
長い航海の途中、こういった場所があるのは、確かにありがたいよな。
…という訳で。久しぶりに大地を踏み締めたオレ達は、メダル王への挨拶を済ますと、
早速宿へと落ち着く事にした。
同室となったのは、いつもと同じクリフト。
彼は部屋に入ると荷物をベッドの脇に置き、そのまま西日の射す窓際へと移動した。
「船旅も慣れましたが、やはりこうして落ち着ける方が気持ちも休まりますね。」
「‥うん、そうだね。」
オレも荷物を置くと、ベッドサイドに腰掛けた。
「私は先に入浴を済ませるつもりなんですが。ソロはどうなさいますか?」
「あ‥うん。…そうだね。オレも先に済ませとこうかな。」
腰のポーチを外しナイトテーブルに置くと、オレは首にかけていたシンシアのお護りと
ピアスを外し、小袋へしまい込んだ。
着替えを携え、クリフトと2人部屋を出る。
念の為‥と鍵をかけたクリフトと一緒に、オレ達は1階にある大浴場とやらを目指した。
「おや。クリフトさんにソロ。また全員集合しちゃいましたね。」
脱衣所に入ると、トルネコがにこにこと声をかけて来た。隣にはブライもいる。
「全員‥という事は、ライアンさんもいらしてるんですか?」
「ええ。彼は我々より一足先に入っていますよ。」
クリフトに答えると、準備の整ったトルネコ・ブライが浴室へと向かう。
残されたオレ達も、服を脱ぎ彼らの後を追った。
「はあ‥。やっぱり波々とした湯に浸かると、疲れがど〜んと癒されますよねえ。」
身体を洗って湯船へ浸かったトルネコが、満足そうに微笑んだ。
「ああ‥本当だな。船の生活では、水を無駄に出来ぬからな。」
先に湯に浸かっていたライアンがうんうんと同調を示す。
今この浴場にいるのは、オレ達パーティの男メンバーだけで、貸し切り状態の気楽さから
か、ライアン・トルネコ・ブライは、随分とリラックスした様子でいろんな話をしてるみ
たいだった。
オレは‥そんな彼らの会話を半分聞き流しながら、これから向かうロザリーヒルの事が
頭から離れず、ぼんやりと身体を洗い流していた。
――かつて。魔族の住んで居た村。ロザリーヒル。
ロザリー…。あの少女と同じ名前。
これは偶然…? それとも‥‥‥‥
オレは頭から湯を被ると、身体についた泡を流し、談笑する3人が入る湯船へと向かった。
大浴場…という程立派でもないけど。趣ある岩風呂は、熱めの湯船と少し温めの湯船の2
つに分かれていて、オレは誰も選ばなかった温い方の湯へと浸かった。
「あ〜やっぱり気持ちいいね。」
う〜ん‥と手足を伸ばしながら、オレは素直な感想をもらした。
「そうじゃな。夕食前にのんびり湯に浸かって居られるのもいいもんだわい。」
「ブライ達は夕食よりも、お酒の方が楽しみなんじゃないの?
今夜は久々にのんびり出来そうだもんね。」
「ふぉっふぉっふぉ。久しぶりの宿泊まりだからな。たまにはええじゃろ?」
「翌日に障らない程度に、程々になさって下さればですけど。」
湯船の方へやって来たクリフトが、にっこりとクギを刺した。
「一番注意が必要なのは、マーニャだろうけどね。」
クスクス笑うオレと同じ湯船へ入って来たクリフトが、「最もな意見」と皆の笑いを誘う。
やっぱりこうして皆で入るのも楽しくていいな…そんな事考えながら、あれ以来一度も
顔を見せない奴をフッと浮かべ、オレは顔を曇らせてしまった。
「ソロ…?」
「あ…ううん。なんでもないよ。オレもう上がるね。上気せる前にさ…」
オレは笑みを作ると、皆にも一声かけ、浴室を出る事にした。
賑やかな夕食を済ませると、オレは早々に部屋へと引き返す事にした。
これから向かうつもりのロザリーヒルの話に話題が及ぶと、どうしても持ち上がってくる
2つの話題。そのどちらも、聞いていたくなかったから…
オレはベッドにゴロンと横になると、そのまま目を瞑り、いつの間にか寝入ってしまって
いた。
コトリ…
燭台がナイトテーブルに置かれた音に、ソロは目を覚ました。
「…あれ。クリフト…?」
「はい。すみません、起こしてしまいましたか?」
「ん‥ううん。いいよ。オレ、いつの間にか寝ちゃってたんだ…」
寝ぼけ眼を擦りながら、上体を起こしたソロが彼へ視線を向けた。
「疲れが溜まってらしたのでしょう。」
「皆ももう部屋へ帰ったの‥?」
「ええ。マーニャさんは案の定、しっかり泥酔しておられましたしね。
お開きになりましたよ。」
「そう。…虫の音が聴こえるね。」
ソロはそう言うと、窓を開き身体を夜の風に任せた。
「オレ…ちょっと散歩に行って‥‥‥!?」
言いかけたソロは、夜の闇に染まった景色を食い入るよう凝視め、クリフトに悟られない
よう静かな仕草で、拳を握り締めた。
「…クリフト。あのさ…オレ、ちょっと出て来るね。…戻るの遅くても心配しないで。」
悸えそうになる声を抑えたソロが、小さく彼に伝える。
「ソロ…。」
「‥ちゃんと朝までには必ず戻るから。じゃ…」
心配そうに彼を覗うクリフトに微笑んで返すと、ソロはそっと部屋を出て行った。
宿の外へと出たソロは、冷んやりした夜の冷気を孕んだ風を心地よく受け、こじんまりし
た森がある島の端を目指し歩き出した。
森を抜けた断崖のすぐ近くに、その男は立っていた。
いつもの闇に紛れた黒装束のその姿を、後方から低く照らす月明かりが浮かび上がらせる。
「…久しぶり。」
ソロはそれだけをどうにか紡ぎ出した。
「ソロ…」
男は彼を招くように呼ぶと、その腰を抱き寄せ口づける。
久しぶりのその感触は、ずっと待ち焦がれていた想いを一気に浮上させた。
「ん‥ふっ‥‥‥」
口腔を一巡りさせた後離れた唇は、しっとりと濡れ、艶を与える。
「降りるぞ。」
ソロを抱いた男は、そう言うや否や後方の断崖を飛び降りた。
「え‥っわ…!?」
そのまま海へ落ちてしまうのでは…と彼にしがみ着いたソロだったが、崖の中腹の岩棚に
着地しただけで済んだ。
上を仰ぎ見ると、ゴツゴツした岩が見えるだけで、下方には岩が幾つも見え隠れする波間
が月に照らされている。
「…ピ‥サロ?」
「たまにはこういう場もよかろう‥?」
ニヤリ‥と意地悪い微笑を浮かべ、緋い瞳が眇められた。
彼は黒のフードとマントを外すと、平らな岩の上へ敷く。所在なく彼を見つめたままの
ソロを組み敷くと、そのまま唇を重ねさせた。
ピサロの銀の髪が、横たわる彼の頬へと掛かる。ソロは深くなる接吻に次第に息を弾ませ
ながら、彼の細い銀糸を一房掴んだ。
「あっ‥ん…。ふ‥ぅ。…っんく‥‥」
緩々と服の上から弄っていた器用な手先が、いつの間にかはだけられた胸元の飾りを直接
捉えると、ビクリとソロの躯が悸えた。
「…なんだ。もう待ち切れないようだな。」
たったそれだけでしっかり反応を示した下肢に手を伸ばし、揶揄するようピサロが口角を
上げる。
「だっ‥て…。もう…ずっと‥‥っん。ピサロぉ…」
ソロが甘えた声で強求った。 強求った→ねだった
彼が下肢を覆う布を取り去るのに協力した為、ソロは素肌を簡単にピサロの前にさらけ出
した。「ピサロも‥」そう強求る彼の求めに応じたピサロも、身につけてた衣装を脱ぎ捨
てる。肌の温もりを求めるようにきゅっと彼の背を抱きしめたソロが、ほっと安堵したよ
う吐息をついた。
冷んやりした彼の引き締まった体躯が心地よい。ずっと‥触れたかった躯…
「ピサロ…。」
――好きだ。
そんな言葉を飲み込んで、ソロは彼に口づけた。
薄く開いた入り口から、彼の舌が滑り込んでくる。ゆったりと巡る舌先を自らのソレと絡
ませると、湿った音が響いた。
熱い吐息を上げたソロから唇を離したピサロが、湿った舌先を首筋から鎖骨へ辿らせる。
彼はふと、ソロの頬を伝う滴に気づき顔を上げた。
「…何故泣く?」
怪訝そうにソロの様子を窺いながら、ピサロが訊ねた。
ソロは小さく首を振ると、彼の顔へ手を伸ばし、そっと頬へ触れた。
「…もう、来ないかと‥逢えないと思ったから‥‥‥」
「ソロ…」
ピサロは一瞬何かを言いかけたが、それ以上は飲み込んでしまうかのように、口を引き結
んでしまった。
そのまま何事もなかったかのように、愛撫を再開する。
ソロは彼が触れてくる指先が、唇が、躯の内に熱を孕ませてくのを思いながら、その愛撫
に酔いしれた。
「…んっ。はぁ‥っ…。も‥‥‥」
彼の手であっさり昇りつめてしまったソロは、その白濁した蜜を秘所に塗り込めるよう窄
まりを蠢く指先に、焦れたように腰を揺らした。
「‥ぉ‥願い。早く…欲し‥っ‥‥‥」
「随分と貪欲だな…。」
久しぶりの行為だと言う事は、固く閉ざされた蕾から察したが、性急に自らを望んでくる
ソロに、ピサロは満たされる何かを感じ、笑んだ。
ピサロは彼の膝裏を掴み、ぐいっと開かせると、暴かれた秘所に猛る己を宛てがう。
幾度か入り口をノックさせながら、彼はそのままソロの身内に躯を沈めた。
「ああっ‥! くうっ…。」
受け入れ準備も整わないまま、強引に穿たれたソロは、苦痛に顔を歪めさせた。
「‥大丈夫か?」
苦しげなソロを気遣うよう、ピサロが身体を屈め、彼の頬へ手を添える。
「へ‥いき…。ピ‥サロ。ずっと‥‥欲しか‥た…」
ロザリーの名を出して以来、訪れなくなった彼を、本当はずっと待って居たんだ…
そう気づいたソロが、彼をその身内で感じ、ぽろぽろと涙をこぼした。
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