「ねえねえ。聞いた? この島の奥にね、温泉があるんですって!」

 少し遅い昼食を取った後、アリーナが嬉しそうに鷹耶へと声をかけて来た。

「どうせ今夜ここに泊まるんならさ、とことん遊びましょうよ?

  それ程遠くないようだから、今から行けばのんびり浸れるわよ!」

「あまり強い魔物も居ないようですよ? 温泉の効能も期待出来ると思います。」

「ね。ミネアもああ言ってるんだもん。きっと楽しいわよ。」

「俺は別に構わないと思うぜ‥。キメラの翼でも側に置いておけば、いざって時にも

  対処出来るしな。」

「そうよね! じゃ私、皆に伝えて来る!」

アリーナがウキウキと場を後にした。

「…あのね、クリフトさん。実は‥今日のクリフトさん、水難の相が出てるみたい。 

  一応、気をつけてね。」

ミネアが立ち去る間際、そっと彼に耳打ちした。

ふと残された鷹耶へと視線を移すと、アリーナ以上に楽しげな様子の彼がそこに居た。

「楽しみだな、温泉!」

クリフトの肩を抱きながら、鷹耶が口元を緩めた。

「…あの。私はパスしちゃ‥‥」

「駄目だぜ。却下。今度は付き合えよ。じゃないと…」

意味深に笑んでみせる鷹耶。

「う‥判りました。付き合いますよ。でも。変な事しないで下さいね?」

前科があまりにも多い鷹耶を牽制するよう、クリフトが確認した。

「大丈夫大丈夫。任せなさいって。」

「‥‥‥‥」

その笑顔に引っ掛かるものを感じながら、クリフトはまた小さく嘆息するのだった。

「ほほお〜。これはまた随分と風流な所だのう。」

 途中幾度か魔物と遭遇したものの、概ね平和に辿り着いた秘湯。

 大きな岩がごろんとある中、湯を称える姿は周囲の緑と相俟って、なかなかの風情を醸

し出していた。

「へえ〜。幾つもあるんだ。これなら、適当に区切って皆入れるじゃない。」

マーニャがワクワクと言った。

「そうですね。あの岩の向こうとこちらで分けるのがいいでしょう。一応キメラの翼は

人数分用意してありますから、適当に温ったまって、それぞれ帰る事にしましょうか

  ?」

「そうだな。女湯と男湯で分けるんなら、その方がいいな。帰る時は三人まとまれよ?」

「ええ。大丈夫よ。」

「それより。覗いたりしないでね!」

「そんなセコい真似、誰がするんだよ?」

「やるなら堂々と? 確かに‥。あんたならそうでしょうね。」

「ははは。それでは信用されてるのか否か、判断に迷うな。」

ライアンがマーニャと鷹耶のやりとりに笑い出した。

「じゃ‥とりあえず、村で合流って事で。私達、こっち使っていいかしら?」

両方を見比べて来たアリーナが、明るく聞いてきた。

「ああ。じゃ、俺達は向こう使うな。一応用心はしとけよ?」

「ええ。じゃ、また後でね!」

「はあ〜、いいお湯ねえ♪ 全身の筋肉が解されていくのが判るわ〜。」

「だよねえ。やっぱ来てよかったね!」

「ええ本当。この逢う魔が時が、また一段といい雰囲気出してるわよねえ。」

 女性陣は大きな岩影にある一番広い温泉に三人並んで座ると、のんびりとおしゃべりを

始めていた。

「私ねえ、今日は驚いちゃったわ。ミネアって、思っていた以上にスタイルいいんだも

  の。私一人で未だにお子様体型かと思ったら、嫌んなっちゃった。」

「そんな事‥。大体アリーナはお子様体型じゃないと思うわよ? ね、姉さん。」

「ええ。何、そんな事気にしてたの?」

「だって‥。マーニャと比べたら、胸なんか全然違うんだもん。」

「くすくす‥。アリーナはこれからじゃない。もう成長止まった姉さんと比べる必要な

  いわよ。」

「ちょっとお。聞き捨てならないわね! 誰が成長止まってるのよ?」

「…なんだか楽しげですねえ。」

 大岩の反対側。こちらは幾つか同じような規模の温泉が広がっていた為、三カ所に分か

れて湯船に浸って居た。

 大岩に一番近い場所に浸るのはブライ・トルネコ。

 女性陣の声がダイレクトに届くのをほのぼのと聞きながら、笑顔を浮かべていた。

「姫様もいつまでも子供だとばかり思っておったが、いっぱしの女性のような悩みを抱

  くようになってたんじゃのう…。わしとしては少々複雑だが…」

「アリーナがねえ‥。てんでお子様にしか見えねえのにな。」

大岩からは一番離れた場所の湯船でクリフトと浸っている鷹耶がブライの言葉に続いた。

「マーニャ殿やミネア殿が一緒だからかも知れんな。」

 一人のんびり浸るライアンがブライ達の方を向きながら会話に加わった。

「きっとそうですよ。ほら、それ以前はブライさんとクリフトさんだけのパーティだっ

  たのでしょう? 女性は女性同士、いろいろ通じる話もあるでしょうしね!」

「そうそう。そんで。こっちは男同士、気兼ねなく盛り上がろう!…って訳だろ?」

「こうしてのんびり湯に浸ってると、日々の戦いが嘘のように穏やかになれるしな。」

鷹耶の言葉に応えるようにライアンが話した。

(ああ…。僕も穏やかに湯に浸っていたいのに‥‥‥)

 先程から黙って皆の会話を聞いていたクリフトが、恨めしそうに鷹耶に目線を送った。

実は最初。当たり前ながら、クリフトは鷹耶と別の湯船を選ぶつもりでいた。

 それが…いつもの押しの強さに負け、気づけば鷹耶の思惑通り、二人一緒に湯船の中。

それでも。ついさっきまでは、おとなしく皆との会話に夢中になっていてくれたのだが

…。『男同士、気兼ねなく‥』とか語りながら、ちゃっかり肩を抱きに回って、そのまま

の位置をキープさせてしまったのだ。

「…あの。鷹耶さん? その…」

腕‥外して欲しいんですけど‥。と続けたかった彼の言葉は、否を言わせぬ風情たっぷり

な鷹耶の瞳に、押し黙らされてしまった。

(う…。鷹耶さんて、時々すごく怖い気がするんですけど?)

蛇に睨まれた蛙の気持ちを思わず察してしまうクリフト。

「‥なあ。昼間の続き‥してやろうか?」

耳元で囁くように、鷹耶がとんでもない事を口にした。

「な‥?!」

思わぬ言葉に、真っ赤な顔で立ち上がろうとしたクリフトだったが、しっかりと抱かれた

肩はびくともせずに、声だけが湯けむりの中響いてしまった。

「…なんて事言い出すんですか? 鷹耶さん。」

クリフトは周囲を気にしながら、ひそひそと鷹耶を責めた。

「いやあ〜。健全な若者なら誰だってやってる事だろv」

明らかに不健全な方向へ誘導しようとしながら、鷹耶がきっぱりと答えた。

「…そ‥そんなものですか?」

神学校時代、あまりそういった話題をする友人とは無縁だった彼は、自信なく聞き返した。

「そうそう。俺らお年頃世代の一番の関心事だからな。あの岩の向こう側に、彼女達

  が無防備な姿で湯に浸っているのを想像したりするとさ…ココに来ちゃうだろ?」

言いながら、鷹耶がそっと彼自身にタッチした。

「‥‥?! …え‥ちょっと…鷹耶‥さん…?」

ふと触れただけでも驚いたのに、鷹耶はそのまま彼自身を捕らえてしまった。不安気に鷹

耶を窺い見るクリフト。

ザザ‥。

 湯船から立ち上がる水音が、すぐ近くで響いた。

「鷹耶殿、クリフト殿、そろそろ拙者らも参りましょうか?」

 着替えを始めたトルネコ達を指しながら、ライアンが声をかけて来た。

ホッとするクリフトだったが…

「…あー悪い。オレ達もう少しのんびりして行きたいんだ。先に帰っててくれる?」

「な‥‥‥っ!」

「せっかくこんな所まで来たんだしさ。少しは戦い忘れてのんびりしたいじゃん?」

人質(?)を捕られたクリフトが、何も言えないでいるのをいいことに、勝手に話を進め

る鷹耶。

「う〜む。まあ、鷹耶殿が居られるなら、心配無用でしょうが‥。あまり長居は禁物で

  すよ?」

「ああ。遅くならずに戻るよ。ライアン達先に夕飯食ってていいからさ。」

「承知した。用心だけは怠らぬようにな。」

「ああ。じゃ、後でな!」



            

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