「さて…と。」

 先に帰った女性陣を追うように帰って行ったブライ達を見送った後、鷹耶がにんまりと

クリフトを見つめた。

「やっと二人っきりになれたなv」

「僕はなりたくなかったですけど?」

まだ捕らわれの自身を気にしつつも、精一杯睨みつけながら、クリフトが低く答えた。

「だけど、帰りたいとも言わなかったぜ?」

しれっと鷹耶が返答した。

「それは鷹耶さんが言わせてくれなかったからじゃないですか!」

「別に口を塞いでいたつもりはないけどな。」

「だから…! …っていうか。あの‥もう離してくれませんか?」

「なにを?」

「…さっきからずっとあなたが握ってるモノです☆」

真っ赤になりながらも、努めて冷静にクリフトが自身の解放を願い出た。

「ああコレ? いや‥悪いな。つい握り心地良くてさ…。」

とか言いながら、さわさわとソレを撫で上げる鷹耶。

「…! ち‥ちょっと、鷹耶さん? …あ。‥ねえ‥あの…っ。」

思いがけず走る感覚に、言葉を上手く紡げないクリフト。

「適度に抜いてやらないと、身体に悪いんだぜ? だ・か・ら。」

――俺が抜いてやるよ。耳元で甘く鷹耶が囁いた。

「‥‥‥‥!!」

遠慮させて欲しい‥と瞳で訴えるクリフトに、鷹耶は甘い瞳で微笑みながら、切実な彼の

願いを退けるよう、唇を寄せて来た。

「…んっ。ふ…あ‥‥っ。‥‥んんっ‥。」

深く重ねて来た唇は、自身へ与えられる刺激で緩んだ隙を狙って素早く入り込んだ舌に翻

弄される。

茹だった身体は力も上手く入らず、それどころか思考力まで鈍ってしまい、気がつくと

彼への抵抗も忘れ、湯よりも熱く感じる自らの熱に浮かされて…。彼自身、自覚がないま

ま、深い口づけにも応えていくのだった。

 初めて返される反応に、気をよくした鷹耶がしっかり図に乗る。

「…ん‥あっ‥。はあ‥はあ‥。鷹耶‥さん…もう‥‥‥」

握りこまれたままのソレは、すっかり熱を持ち、いつでも大丈夫なくらい昇りつめている

のに、追い込むだけ追い込んで焦らしにかかられてしまった。

 そんな状態が一番ツラいのに…。

「イキたい?」

彼の顔にかかった濡れた髪を優しく掻き上げながら、その表情を覗き込むよう鷹耶が訊い

た。

コクリ‥。恥ずかしさは正直残っていたが、切羽詰まった熱に負け、素直に彼が頷いた。

「いいよ。イッて‥。」

ゆるゆるとした手の動きが急速に速められると、同時に与えられる刺激が増した。

「あっ‥ああ…は‥‥っ。ふ‥はあ…はあ‥‥‥。」

リズミカルな動きに促され、クリフトはあっさりと弾けてしまった。

ズク‥ン。そこらの女性より、数段色気が増して思えるクリフトの上気した表情に、鷹

耶自身がすっかり反応してしまう。

「‥‥‥? どうかしたんですか?」

何やら困惑顔でいる鷹耶に気づいたクリフトが、けだるそうにしながらも訊ねてきた。

「え‥いや。はは‥。なんかお前見てたらムスコがな…」

元気になっちまったんだ。‥と当惑気味に返答した。

「なんでです‥?」

クリフトが困ったように頬を染める。

「あんまりお前が色っぽいからだよ。決まってるだろ?」

「そ‥そんな事言われても‥。」

「ああ、そんな事より。ほら、ちゃんと肩まで浸れよ? 一度温ったまったら帰ろうぜ。」

湯船から半身上がったままでいるクリフトを促す鷹耶。

「大丈夫。今日はこれ以上やらねーからさ。」

訝しげに彼を見るクリフトを、さらに優しく促した。



「はあ…。」

 ほわほわと暖まっていく温もりが、心地よく疲労した全身に浸透していくのを感じなが

ら、クリフトが深い吐息をついた。            吐息→ためいき

「なあ。悪くなかったろ?」

他人にしてもらうのってさ…とそっと耳打ちしながら続けた。

「…う。だってあんなの反則じゃ…ん‥‥。」

鷹耶の方へ顔を向けた途端、あっさりキスを奪われてしまった。

「怒ってる‥?」

「…別に怒ってる訳じゃ‥。」

「嬉しいよ…。」

「え…?」

「それってさ。少なからず好意持ってるって事だろ?」

「え? ええっ!?」

(そうなのか〜!?)

あまりに思いがけない言葉に、頭が揺らいでしまった。

「え‥おいっ。クリフト!」

湯船にぶくぶくと沈んで行く彼を抱き上げながら、必死で彼を呼びかける鷹耶。



『好意を持ってるって事だろ?』

 好意‥? 誰が誰に? だって僕が好きなのは‥‥‥‥

「は‥? ここは…?」

 見慣れぬベッド。見慣れぬ天井。意識を取り戻した彼は、不思議そうに周囲を伺った。

「あ。クリフト。気がついた?」

側についていた様子のアリーナが、明るく声をかけて来た。

「…アリーナ様。私は‥一体…?」

「ああ。クリフトったら湯あたりしちゃったみたいよ。長湯し過ぎなのよ。」

「え‥? あ‥! あの‥はあ…。すみません…。」

先程の行為を思い出して、真っ赤になったり青ざめたりを繰り返しながら、クリフトが小

さく詫びた。

「大丈夫? まだ気分悪いの?」

「あ‥いえ。もう大丈夫です。あの‥それで鷹耶さんは?」

「ああ。彼なら食事に行ってるわ。あなたが起きるまで待つって言ってたんだけど、朝

  まで眠っちゃうかも知れないって、マーニャが連れて行っちゃったの。」

「そうですか…。」

「あなたもお食事にしてきたら?」

「あ‥いえ。もうしばらく休んでから戴きます。」

「そう? じゃ、とりあえずあなたが気が付いた事、鷹耶に知らせてくるわね。」

アリーナはそう言うと、椅子から立ち上がり部屋を後にした。

「はあ…。」

深く嘆息する。

温泉ではすっかり浮かされて、鷹耶の思うままになってしまった自分。激しい自己嫌悪

に陥っていた。

まさか。イカされてしまうなんて――

 自分でああいった行為に及んだ事がない訳ではないが、どちらかと言うと淡泊なのか、

普段はそれ程必要に駆られた事もなかった。

 だが…。今日は朝からハプニング続きで、どうしても意識がそっちに向かされて‥揚げ

句、それに気づいていてしまった鷹耶にしっかり思うようにされてしまった。

 それがなんだか情けない…。

「…なんであんなに慣れてるんだろう…?」

自分よりも二つ年下なはずなのに。妙に手慣れていて…それで‥‥‥‥

「…!」

あの時の熱をふと思い返してしまったクリフトがかぶりを振った。

カチャリ‥。

「クリフト、気分はどうだ?」

静かに入って来た鷹耶が、案じるように声をかけて来た。

「‥あ。ええ‥もう大丈夫です。すみませんでした。」

「クス‥。何言ってるんだよ? 謝らなきゃならねーのは、オレの方だろ?」

「え‥? えっと‥でも‥‥‥」

「‥そんな所に弱いんだよなあ、オレ…。」

クリフトの柔らかな髪を漉くように触れた後、顔を寄せながら甘く呟いた。

「鷹耶さん…。」

 なんでこの人はこんなに甘く笑うんだろう? どうして僕は‥‥‥‥

「ん? どうした?」

無言で見つめる彼に、鷹耶が優しい瞳を返した。

「あ‥別に…。」

息苦しさを思いながら、クリフトは視線から逃げてしまった。

「ふ…。さあ、飯食って来いよ? ここは田舎だから、食堂遅くまでやってないぞ?」

「あ‥はい。鷹耶さんはもう済まされたんですか?」

「ああ。何? 一緒に行って欲しい?」

「一人で行って来られます。」

軽い口調で聞いてくる鷹耶に、突き放すようにクリフトが答えた。

「…じゃ。行って来ます‥。」

 それでも。部屋を出る間際、先程の言い方が気になったのか、残す鷹耶へ静かに声をか

けて行くクリフト。

 ぱたん…。

 静かに閉じられた扉を見ながら、鷹耶が複雑そうな笑みを浮かべた。

「‥‥そのうち、自制効かなくなりそうだな☆」

 クリフトが聞いたら卒倒しそうな言葉をサラッと口にする鷹耶。

彼は小さく嘆息すると、外の散歩へと出掛ける事に決めた。



              

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