「おやじ、おふくろ。この人が前から話している、ニース・E・ラインフォード様だよ。
ニース様、これが私の両親です。父の一郎と、母のすみれです」
リクに連れられ、リクの実家に来たはいいけど……な、なんでこんなに緊張しちゃうの?
「あらあら、こんなに可愛い女の子を連れて帰ってくるなんて……理来ちゃん、おかえり」
「ラインフォードさん、いらっしゃい。息子が旅先で世話になりました。
せまい家ですが、どうぞ上がってください」
「は、はい!お、お邪魔いたしますです!」
し、心臓が破裂しちゃいそうだわ!な、なんでリクの親に会うだけでこんなに緊張するの?
アタシの前にはニコニコと微笑んでいる中年のおば様と、髪の毛が少し少ないおじ様がいる。
あ、挨拶に来たのはいいけど……ど、どうすればいいの?
「は、初めまして!アタシ、ニース・E・ラインフォードです!
ニッポンにはリクを迎えに来ました!」
「あらあら、女の子が迎えに来ただなんて……外人さんは積極的なのね?
こんなどら息子でよければ、どうぞ持って帰ってくださいな」
「おふくろ!ニース様の前でどら息子はないだろ?」
『ドラムスコ』ってなに?初めて聞く言葉ね。後で調べなきゃいけないわ。
「流暢な日本語を話せますなぁ。これなら私たちとも気兼ねなく話せそうですな」
「は、はひ!話せますです!ですからリクを連れて帰ります!」
「はっはっは!どうぞどうぞ、そう焦らずとも好きなだけ連れて帰ってくださいな。
ですがその前に、玄関先で話すのもなんだから……まぁ上がって下さい」
おじ様に促されて家にお邪魔する。……やはりニッポンはこうなのね、せまい家だわ。
2階建ての小さな家。部屋数もきっと5、6しかないわね。
リク、こんなせまい家に家族3人で住んでたんだ。……うん、立て替えさせよう。
せまい、嗅いだことのない匂いのする部屋に通される。
床には薄い緑色をしたマットが敷かれている。これが『タタミ』というものなの?
これが有名な『タタミ』かぁ。この匂いもタタミの匂いなのかな?
クンクン……この匂い、アタシ好きかもしれないわ。
……屋敷に帰ったら、タタミを敷き詰めたニッポン部屋を作らそう。
「ところでラインフォードさんは、何歳なんですかな?」
どんな部屋を作らせようか考えてたら、急に話しかけられた。
はわわわ!な、なんで話しかけてくんのよ!
え〜と、え〜っとぉ……なに話せばいいか分んないじゃないの!
「は、はひ!13歳です!去年は12歳でした!来年は14歳です!リクと会った時は11歳!」
「ニ、ニース様?何をそんなに緊張なされてるんですか?」
「うっさいこのバカリク!アンタは黙ってなさい!」
自分でもなにを言ってるのか分かんないアタシに、リクが話しかけてきた。
アンタのせいでこうなってるんでしょうが!黙ってなさい!
「女の子がそんな汚い言葉を使ってはダメですよ?
せっかく可愛いのに、汚い言葉を使っては可愛さ半減になっちゃいますよ?」
「は、はひ!気をつけますです!ですからリクを持って帰ります!」
ダ、ダメだわ!シミュレーションしてきたのに、頭が真っ白で何を言ってるのかわかんない!
おじ様もおば様もアタシを見て笑ってるし……ぐす、嫌われたのかな?
「はははは、そう緊張なさらずに……ど、どうなされたのですかな?」
「ひっく、ゴ、ゴメンナサイ……アタシ、なに言ってるのかわかんなくて……嫌わないで下さい」
涙がボロボロ溢れてくる。アタシ、なんでここに来たのかな?
黙ってリクを連れて帰ればよかったのに……挨拶しようなんて考えなきゃよかったのかな?
そうすればヘンな子だと思われなくてすんだのに……嫌われないですんだのに……
アタシのバカ!
自分の不甲斐なさが悔しくて、涙が止まらない。そんなアタシを柔らかい温もりが包む。
なんだか懐かしい、柔らかい温もり。温かくていい香りもするし……え?えええ?
「お、おば様?なんで急に抱きしめて?」
「ゴメンね、ニースちゃん。貴女の事は息子から色々聞いているの。
小さい時に交通事故で両親を亡くした、目が見えないワガママな女の子。
でも本当はとても寂しがり屋で、とっても優しい可愛い子だって聞いてたの。
どんな子なのか一度会ってみたいと思ってたんだけど……
想像してた以上に、可愛くて素直な子ね。理来ちゃんが夢中になるのも分かるわ」
優しく頭を撫でてくれるおば様。あぁ……この感じ、すっごく懐かしい気がする。
ずっと前にもこうしてもらった事があるような気がするわ。
「ご両親を亡くされて辛かったでしょ?
ニースちゃん、これからは理来にいっぱい甘えていいからね?
いっぱいワガママ言って、いっぱい困らせていいからね?
もし理来が文句を言ってくるようだったら、おばさん達に言いなさいね。
おばさんたちは、ニースちゃんの味方だからね?」
「お、おばさま……」
「そうそう、いっぱい甘えなさい。ニースちゃんは一生分の不幸を使い切ったんだ。
きっと神様はその不幸を見せないために、一時的に目を塞いでいたんだよ。
ニースちゃん、その見えるようになった綺麗な目で、幸せをいっぱい見るといいよ」
「お、おじさま……2人とも、ひっく、アリガト。アタシ、幸せになる!幸せになるわ!」
おばさまたちの優しい言葉に、止まりかけてた涙が溢れ出てくる。
なんていい人たちなの?アタシにウソついて、イタズラしてたリクの親とは思えないわ!
おばさまの胸に抱かれて泣きじゃくるアタシ。
……あ、思い出した。この温もり……お母様だ。
小さい時に、お母様に抱きしめてもらった時の温もりだ。
目を瞑り、記憶の奥にあるお母様の温もりを思い出す。あぁ……お母様……ママぁ!
「……マ。……ママぁ」
「ママ?ニースちゃん、急にどうしたの?」
「……へ?い、いや!これはその、間違いです!
おばさまの胸が温かくて、気持ちよくてつい、死んだお母様を……ママを思い出して」
バカ!バカバカバカ!アタシのバカ!
せっかく仲良くなりかけてたのに、なんて失礼なことを言ったのよ!
そんなアタシをそっと撫でてくれる優しいおばさま。おばさま……ホントにママみたい。
「……ニースちゃん、これからはおばさんの事をママって呼んでいいわよ。
こんな胸でよかったら、いくらでも抱きしめてあげるわ。
それともおばさんがママじゃイヤなのかしら?」
ギュッと優しく抱きしめてくれるおばさま。
ナルディアの絞首刑とは違い、身体全体を包むような温もり。
心まで包んでくれるような柔らかさ。……ぐす。ママぁ……ママぁ〜!
「ひっく、マ、ママ……ママぁ〜!」
アタシは顔中を涙でグシャグシャにしながら、おばさ……ママの胸で泣きじゃくったわ。
その日はママたちの家に泊まったの。
夜はママと一緒にシャワーに入り、背中の洗いっこをしたわ。すっごく楽しかったぁ。
それにね、ママとパパ、アタシのワガママを聞いてくれて、一緒に寝てくれたの。
タタミの上にフトンってマットを並べて、3人で寝たの。とっても嬉しかったぁ。
……リク?そういえば、そんなのもいたわね。どこで寝てたのかしらね?
「ニース様、指示された物を作らせて来ました。
さすがは技術大国ニッポンですね。小さな工場だったのですが、すぐに作り終えましたよ」
「そ、アリガト。これでいつでも出来るわね。よくやったわね、ウッド。ご苦労様。
その工場には工賃をはずんだんでしょうね?
ラインフォードの名を汚さぬよう、気前よく払いなさいよね。……ウッド、もう下がっていいわ」
オレは今、日本を離れる為に飛行機に乗っている。……ニースのプライベートジェットにな。
おいおいおいおい!ニース、こんなもんまで持ってたのかよ!凄すぎんじゃねぇか!
こんなもんを持ってる女がオレの嫁になるのか……おいしすぎるな!
オレ、大富豪じゃねぇか?これからはやりたい放題だな!
そのオレの嫁になるニースは、木箱の中から何か棒のような物を取り出して頷いている。
なんだ?そのヘンな丸い棒状の物は?……ステンレスか?棒を集める趣味があったのか?
それともオレの肉棒だけじゃ満足できないと?
……生意気な!尻に突っ込まれて喘ぎまくってたくせに!
さすがに昨日はできなかったが、今日はハメまくってやる!
……でもよかったな。ニース、オレの両親ともすっかり仲良くなったもんな。
今日実家を出る時には、ニース、泣いてたしな。
ニース、おふくろ達に優しくされたのがよっぽど嬉しかったのか、一晩中一緒にいたもんな。
……その間オレは放置されてたんだけどな。
婚約者を無視して親と仲良くするってどうなんだ?
寝る時もオレは1人だけだったし……これはきっついお仕置きが必要だな!
一晩抜いてないおかげで、精液チャージ満タンだぜ!
今日は子宮に全部注ぎ込んでやるからな!覚悟しろよ?
夜の事を想像し、下半身を触る。……早くぶち込みてぇ〜!
「ちょっとリク!なんてとこ触ってるのよ!このヘンタイ!」
『ゴス!』
頭に走る衝撃!お、お前、そんな金属の棒で殴ったら、人間なんて簡単に死ぬんだぞ?
いくらお前が非力だからって……いってぇぇぇ〜!
「あ、頭が!頭がぁぁぁ〜!」
「ゴ、ゴメン。そんなに痛かった?でもヘンなとこ触ってるアンタが悪いんだからね?」
「……こ、これはお仕置きですな。こんな痛いことをする悪い子には、きっついお仕置きです」
「お、お仕置き?……今夜もお仕置きされちゃうの?」
お仕置きと聞いて、顔が真っ赤に染まるニース。
やはりコイツはエロい子だな。もう濡れてんじゃねぇのか?
そんなエロいニースの耳元で囁く。
「えぇ、しちゃいます。今夜は子宮にたっぷりとお仕置きしちゃいますよ」
「……え?し、子宮?それはダメ!それだけはダメなの!」
ニースは子宮にお仕置きと言われて驚いたのか、慌てて金属棒を振り出した。
今度は顎にヒットする金属棒。
だ〜か〜ら〜!そんな棒で殴ったら、人間は簡単に死んじゃうって!
「……アタシはね、結婚するまで妊娠できないの。
リクにはまだ言ってなかったけどね……アタシね、おじい様を当主から蹴落としたの。
『使用人を妊娠させたおじい様は、当主失格だ』と言って、蹴落としたの。
当主の座を奪い取ったの。
そのアタシが結婚もせずに、妊娠することはできないわ。だから……ゴメンね?」
え?そ、そうだったのか?
オレ、てっきりカシューじいさんが自分から譲ったもんだと思ってたよ。
そうだったのか……ニースが奪い取ったのか。
「アタシね、ナルディアが妊娠したって聞いて、その相手がおじい様だって知って……
おじい様もアタシを見捨てたと思ったの。ナルディアと一緒にアタシを裏切ったと思ったの」
「ニース様……」
大きな目に涙を溜めて話すニース。
そうか、オレがいなくなってから、いろんな事があったんだな。
ナルデイアさんの事。カシューじいさんの事。
……日本に来るまで、大好きな2人に裏切られたと思ってたんだ。ニース、辛かっただろうな。
「でもね、ナルディアは裏切ってなんかない、アタシを大事に思ってくれてたんだよね?
だったらおじい様も……ねぇリク、おじい様とも仲直りできるかな?
アタシ、おじい様をナルディアと会わせちゃいけないってヒドイ命令を屋敷の皆に出しちゃった
の。おじい様、絶対にアタシをキライになってるよね?……仲直りできないかなぁ」
真っ赤な顔で、ボロボロと涙と零すニース。
オレはそんなニースの眼鏡を取り、涙を親指で拭き取りそっと抱きしめる。
ニース、オレと再会してから泣いてばかりだな。……いなかったんだろな。
ナルディアさんにカシューじいさん。
二人がいなくなってから、ニースが涙を見せれる人が側にいなかったんだろう。
……大丈夫だ。これからはお前の涙、オレが全部拭き取ってやる!
オレの胸で全部吸いこんでやる!
「……ニース様、大丈夫ですよ。カシュー様はきっと許してくれます。
私は知っています。カシュー様がどれだけニース様を大事に思っていたか。
どれだけニース様が素直になって喜んだか。だから素直に謝りましょうね?
そうだ!カシュー様と仲直りして、一緒にナルディアさんを迎えに行ってはどうですか?」
「……うん、そうするわ。リク、アリガト。やっぱりアンタはアタシに必要ね。
これからも使用人として、アタシを支えてね?」
「す、好きな女を支えるのは、男として当たり前……使用人?」
面と向かって好きと言うのは恥ずかしいな。……なんで使用人なんだ?
「ス、スキって……ちょ、調子に乗ってんじゃないわよ!
だいたいなんでアタシを抱きしめてんのよ!使用人のクセに生意気ね、放しなさい!」
オレの言葉に涙は引っ込み、照れ隠しなのか、真っ赤な顔で金属棒を振り回すニース。
だから金属棒で叩くなって!マジで痛いんだよ!なんでそんなもん持ってんだよ!
「ちょ、痛いです!痛いって!マジ痛いからやめろって!」
「し、使用人のクセに、アタシに、ス、スキとか言って……ウソだったらお仕置きだからね!」
照れながら殴るな!オレを撲殺する気か!だから痛いっての!
「だからイテェっての!いい加減にしろって!だいたい何なんだ、この棒は!」
「なにって……お仕置き棒よ」
『なに言ってんの?そんなの当たり前じゃないの』と言いたげな、キョトンとした表情を見せる。
か、可愛いじゃねぇか。……いかん、ムラムラしてきた。押し倒すか?
いや、ベルドさんやウッドさんがいるし、さすがにジェット機の中じゃ無理だよなぁ。
……お仕置き棒ってなに?
「お仕置き棒?なにそれ?……ま、まさかそれでオレをぶっ叩くつもりなのか?」
金属棒でぶっ叩くなんてシャレにならんぞ!
それはお仕置きじゃない!暴力だ!暴力反対!痛いのはイヤだぁぁ〜!
「なんでそんな事しなきゃいけないのよ!アタシは暴力はキライなの」
「え?違うの?じゃあなんなんだ?何に使うんだ?」
「だからお仕置きよ。アタシ、女だからリクと違って、その……ア、アレがついてないでしょ?
だからアンタがウソをついた時に使う為、ウッドに命令して作らせたの。
直径4センチ、長さ14センチにぴったり作らせたわ」
……へ?オレに使う?ウソをついた時に使う?なんだそれ?
「アタシはウソをついた罰を受けたわ。おかげでまだお尻が痛いしね。
今度はアンタの番よ、覚悟なさいよ?
ある程度自分で馴らしてたアタシでさえ、あれほど痛かったんだから。
アンタは痛さで泣いちゃうかもね?」
意味不明の事を言いながら微笑み、小指を立てるニース。
なんだ?小指なんか立てて、また指きりしたいのか?
……ゆ、指きり?ま、まさかこの棒は……オ、オレの尻に?
「ニ、ニニ、ニース様?も、もしやこの棒は……私のお尻に?」
「そうよ、そのための棒よ。アンタ、指きりの時にこう言ったわよね?
『お互いにウソをつかないという約束』ってね。ウソをついたアタシはお仕置きを受けたわ。
だからアンタもウソをついたらお仕置きを受けなきゃね。
これってアンタが言い出したのよ?指切りは守らないとね〜」
汗がドバドバと出てくるのが分かる。
そしてニースが冗談ではなく本気で言ってるのも分かる。
……ひぃ!い、嫌だ!オレにはそんな趣味はない!に、逃げなきゃ!
ニースを散々騙して身体を弄りまくってたんだ、ニースも気づいてたし……
オ、オレは逃げるぞ!今すぐ逃げなきゃ尻に棒を突っ込まれる!
……って、ここはジェット機の中じゃねぇか!逃げれねぇ!
「な〜に汗かいてんのよ。……アンタが前についたウソは許してあげるわ。手紙のお礼よ」
「そ、そうですか。ありがとうございます、助かりました」
「だ・け・ど!アタシと再会してからのウソは許さないわ。屋敷に帰ったら調べなきゃね。
『お尻と口の大きさは同じ』。リクに聞くまで知らなかったから、すっごく勉強になったわ。
……ウソじゃなければいいんだけどね」
ど、どこにパラシュートは置いてあるんだ?非常口はどこだ?
「そうだ!アンタも気づいてるでしょうけど、この契約書、婚姻届だから」
ありもしない逃げ道を探すオレに、ひらひらと紙切れを見せるニース。
そうだ!オレはニースの婚約者なんだ!未来の旦那様だぜ?旦那様に酷い事しないよな?
紙切れ一枚に淡い希望を見出したオレに微笑む悪魔が1人。
な、なんでそんな黒い笑顔なの?お前には似合わないよ?
「この書類でアタシとアンタは一応は婚約者ってことになってるわ。
ママとパパにも挨拶を終えたしね。
だから、ね?……アタシから逃げようなんて考えない方がいいわよ。
逃げたら婚約破棄とみなして……ラインフォード家当主のアタシとの婚約を破棄するのよ?
莫大な慰謝料を請求するわ。ラインフォードの名前を汚すんだからね。
もちろんアンタが人生を100回やり直しても払えない金額よ」
ニッコリと微笑む金髪の悪魔が1人。オ、オニだ!悪魔だ!オレを嵌めやがったな!
「だから、ね。……浮気なんてしないで、ずっとアタシの側にいなさいよ?」
「お前、なんでそんなに黒くなっちまったんだ?なにがお前をそうさせたんだよぉ〜」
「アンタでしょうが!アンタがアタシを好き勝手にイタズラしたからでしょうが!
アンタにしたい放題されて、アタシは悟ったのよ。『騙される方が悪い』ってね。
だからアタシは騙す方に回ったってわけ。で、アンタは見事に騙されたのよ」
オ、オレか?オレのせいなのか?オレのせいでニースが黒くなっちまったのか?
「今回のウソはママたちに免じて許してあげてもいいわ。
ただし!毎朝アタシにアンタの考えてる事を話すこと!
使用人とのコミュニケーションは当主にとっても大事だからね。
……いや、朝はダメね。夜ね、やっぱり夜にするわ」
なにを考えてるのか、頬を赤く染め、緩んだ顔をしているニース。
お前、オレを恐怖のどん底に叩き落しといてなんて顔してんだ?
毎日夜にオレの考えてる事を言えだぁ?考えてる事ってなにを言えばいいんだよ!
「私の考えていることですか?え〜っと、例えば御飯は何を食べたいとかでしょうか?」
「そんなの聞いて何が楽しいのよ!ほら!あれよ、あれ!
アンタがさっきアタシに言った……その、ス、ススス……」
『ス』?オレ、『ス』から始まる事何か言ったか?
それよりなんでニースは真っ赤な顔して身体をくねらせてるんだ?
オレ、何を言ったっけかなぁ……ス……ス……ス、ねぇ。
身体をくねらせてるニースを見て考える。
……オレの言った事を思い出してこんなになってるのか?
……あ!そういや言ったな!『ス』から始まるニースが喜びそうな言葉を!
オレは頬を赤く染めながら身体をくねらせているニースを抱きしめる。
そして耳元でそっと囁いた。
「ふわ!ちょ、ちょっとなにすんのよ!このバカリク!」
「ニース様、好きで……いや、違うな」
「んな!な、何が違うのよ!アタシを好きじゃな……」
「愛してます。私、藤原理来はニース・E・ラインフォードのことを心から愛してます」
その瞬間、全身の力が抜けたのか、オレにもたれ掛かってきたニース。
「な、なんて恥ずかしいセリフを言うの?どんな顔して『愛してる』なんて言ってるのよ!
……眼鏡を外してるから、顔がよく見えないわ。もっと顔を近づけなさい。
あんたの恥ずかしい顔、たっぷりと見てあげるから」
そう言って目を瞑り、唇を突き出すニース。ははは!キスしてほしいってか?
好きだと言ってほしかったり、キスしてほしかったり。まったくニースはワガママな女だな!
「分かりました。では顔を近づけます。たっぷりと見てくださいね?」
「さっさと見せなさいよ。……ん」
日本から離れるジェット機の中、オレはニースとお互いを求め合うキスをした。
改めて思うけど、オレ、とんでもない子を好きになっちまったんだな。
絶対に尻に敷かれるよなぁ……今夜は騎乗位でやってみるか?
そんな事を考えている間にも、オレ達を乗せたジェットは日本を離れ飛んでいく。
さて、と。屋敷に帰ったら大忙しだ!
まずはカシューじいさんと仲直りさせて、そのあとはナルディアさんだ!
オレの当面の仕事は、ニースと2人を仲直りさせることか。おし!いっちょ頑張るか!
オレはワガママな彼女をギュッと抱きしめ思う。
オレはこの金髪ワガママお嬢様に一生振り回される事になるだろう。
だけど、愛するニースのワガママだ。いくらでも聞いてやるさ。
オレはワガママな彼女を抱きしめながら、これから始まるであろう刺激たっぷりの新生活に
心を躍らせた。
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