プルルルルル!プルルルルル!プルルルルルル!

 ベッドで横になっているところに掛かってきた電話。
正直、電話に出るのも面倒なくらいに頭がフラフラで、身体も熱を帯びている。
無視しちゃおうかな?
でも毛利さんからだったら、お礼を言わなきゃいけないし、
明日仕事に出れるかどうかも言わなきゃいけないし……静馬君、1人で心細いよ。
恋人が辛い目に会っているのに、今、君は何をしているの?
早く会いに来てよ……ギュッと抱きしめてアタシを温めてよ。
はぁぁ〜……仕事、休んじゃったなぁ。
代わりに出てくれた毛利さんにはお礼をしなきゃいけないわね。

 静馬君の部屋で倒れてしまったアタシは、夜遅くになって、意識を取り戻した。
そのままタクシーを呼び、夜間診療をしている病院へと行き、お医者様に診察してもらった。
疲労が蓄積してたところに風邪を引いちゃったんだって。
しばらくは安静にして、大人しく寝ているようにって言われちゃった。
大人しく寝ているようにって言われても……そう簡単には仕事、休めないのよねぇ。
今日は毛利さんに代わってもらえたけど、明日は無理だと思う。
となると、今日中に熱を下げて、働ける身体にならなきゃね!
……はぁぁ〜、静馬君、会いに来てよ。一人じゃ寂しいよ。

「はい、守屋です」

 フラつく足取りで電話に出たアタシの耳に入ってきた声は、一番聞きたかった声だった。

『麗菜さんですか?静馬です、昨日はどうもすいませんでした』

 無視しようかと思っていた電話の主は、一番話したいと思っていた静馬君。
危ない危ない、せっかく電話してくれたのに、無視するところだったわ。

「ううん、別に気にしなくてもいいよ。……おかげで一人で寂しく悲しい夜を過ごせたしね」
『う!……もしかして怒ってますか?』
「あははは!怒ってなんかないよ。……ただちょっとムカついてるだけ」
『やっぱ怒ってるじゃないですか!』

 うふふふ、こうしたちょっとした会話で元気になれる。
さっきまでフラフラで、布団から出るのも億劫だったのにな。
好きな人の声っていうのはどんな薬よりも効果があるわね。

「うふふふふ、怒ってなんかないわよ?ただ、帰ってきたら覚悟しなさいね?」
『か、覚悟っすか?』
「そ、覚悟。だって恋人に寂しい夜を過ごさせたんだよ?……6回くらいかなぁ?」
『ろ、6回?』
「そ、連続6回。抜かずに6回」
『れ、れんぞ……抜かずに?ひ、ひでぇ!それじゃ拷問じゃないですか!』
「あはははは!冗談よ冗談!話半分で聞いていいわよ」

 そう、話半分で聞いてね?という訳で、抜かずに3回頑張ってね。
 
『ビックリさせないで下さいよ。いくら俺でも6回は無理っすよ。
明後日には帰れると思いますから、帰ってから埋め合わせしますんで』
「うん、楽しみに待ってるわ。カレンダーに○印つけちゃおうかな?」
『ははは、待っててくださいね。じゃ、これで電話切りますね』
「え?もう?もう少し話そうよ。せっかく静馬君が電話してくれたんだからもう少し話したいなぁ」
『すんません、あまり離れてると文句言われるんで』
「文句って何?そんなの言わせておけばいいのよ」

 恋人との電話よりも優先するなんて、生意気ね!文句って誰が言ってくるのよ!
……もしかしてご両親?なら仕方ないわね。
面倒な女と付き合ってるなんて思われたくないしね。
……静馬君、ご両親にアタシと付き合ってるって言ってくれてるのかな?

『じゃ、麗菜さん、また明日電話しますね。……おやすみなさい』
「うん、楽しみに待ってるから。静馬君、おやすみ」

 せっかくの静馬君からの電話。
静馬君が電話を切ってもアタシはなかなか受話器を置くことができなかったわ。
……おやすみ?え?今ってそんな遅い時間なの?
慌てて時計を見てみる。……午後11時過ぎ。
えええ?もう11時なの?アタシ、今日一日ずっと寝てたんだぁ。
だからかな?少しは体調がマシになってる気がする。これなら明日は問題なく働けそうね。
そんな事よりも早く寝なきゃ、明日の仕事に響くわ。
静馬君の声も聞けたし、いい夢を見れそうな気がする。
愛する人の声を聞いて軽くなった足取りで、布団へと向かうアタシ。
そんなアタシの耳に、また電話の呼び出し音が聞こえる。

(また電話?もしかして静馬君かな?うふふふ、やっぱりまだ話し足りないんだ?)

 慌てて受話器を取り、電話に出る。よし!今日は一晩中話しちゃおう。寝かせないからね?

「はいもしも〜し!麗菜で〜す!」

 自分でも分かるくらいに上がっているテンションのまま電話に出てしまう。
これで毛利さんとかだったら、職場で何を言われちゃうか分かった物じゃないわね。
アタシがウキウキで出た電話の主は、毛利さんじゃなく、静馬君でもなかった。
電話の主は……前の旦那、島津義明だった。



『もしもし、麗菜か?俺だよ、義明だよ。なんかご機嫌な声してるな、いい事でもあったのか?』
「……アンタの声を聞いて不機嫌になったわよ。いい加減にしてよ!アンタ、いつまでアタシに
纏わり付くわけ?
今アタシは幸せを掴むチャンスなの!邪魔しないでよね!」

 せっかく静馬君からの電話だと思ってたのに……最低だわ。
そうだ、今度の休みにでも電話番号を変えてやろう。
もう二度とコイツの声なんか聞きたくないわ。

『そ、そうか、邪魔する気はないんだ、すまない。
今日電話したのはだな、俺、新しい就職先が決まったんだ』
「あら、そうなの?それはそれは……で、そんなどうでもいい事をアタシに言って、どうしたいわ
け?まさか、就職したからよりを戻せるかもなんて考えてるの?
アンタとよりを戻すなんてありえないから」

 コイツが浮気をしたせいで……コイツが浮気相手を妊娠させたせいでアタシの人生は狂った
のよ!
妻のアタシを妊娠させなかったくせに、浮気相手を妊娠させるなんて……馬鹿にするにも程が
あるわ!
新しく就職先が決まったからって許すわけないでしょ!ふざけないで!

『……すまない。酒に酔っていたとはいえ、あれについては言い訳もできない、俺がバカだっ
た。今日電話したのはだな、よりを戻すとかじゃないんだ。
俺のバカな行いのせいで苦労をさせてしまっているお前に、少しでも罪滅ぼしをしたいんだ。
俺も職が見つかり、ある程度の収入が見込めるようになった。
そんなに多くは払えないが、罪滅ぼしとして、お前に慰謝料を払いたいんだ』

 ……慰謝料?え?お金を貰えるの?やったぁ〜!これで少しは生活が楽になるわ!
引っ張れるだけ引っ張ってやる!苦労をさせられた仕返しよ!

「ふ、ふぅ〜ん、慰謝料ねぇ……今さら偉そうに言って、そんなもの払って当たり前でしょう
が!」
『ぐぐ……す、すまない』
「ま、貰える物は貰うわ。アンタのせいで苦労してるんだからね」
『あ、ああ、分かった。で、お前はいくらくらい欲しいんだ?』
「そうねぇ……ひと月に10から20かな?」
『じ、10から20?む、無理だ!そんなには払えない!』
「はぁ?偉そうに電話してきて払えないだぁ?ふざけてんじゃないわよ!」

 しまったなぁ、ふっかけ過ぎたかな?そういえば慰謝料の相場っていくら位なんだろ?

『払えてひと月6〜7万くらいだ』
「6,7万?少ないわねぇ、そんなはした金で慰謝料にするつもりなの?」

 おおお!6万円も貰えるの?それだけあれば生活もだいぶ楽になるわ!

「ふ、ふぅ〜ん、7万円かぁ……ま、いいわ。それで手を打ってあげるわ」
『7万?わ、分かった、7万円振り込むようにするよ』
「アンタのせいで苦労をしてるんだから、今月分から振り込みなさいよね!」
『わ、分かった、今月分から振り込むようにする。
とりあえず、振込口座や、振り込む期間を話し合いたいんだが、一度会ってもらえないか?』

 え?会う?アタシが浮気者のコイツと?なんで会わなきゃいけないのよ!
アンタはお金を振り込んでおけばいいの!静馬君に誤解されたらどうするのよ!

「……嫌よ!アンタと顔をあわせるのも嫌なの!
振込先や振込み期間は、そうねぇ……また明日電話してきなさい。
明日、教えることにするわ。明日の夜12時過ぎに電話してきて。その時に教えるから」
『あぁ、分かった。明日の夜12時過ぎだな?
……麗菜、今付き合っている男は、お前に優しくしてくれる男なのか?』
「……少なくともアンタなんかよりはね。じゃ、明日電話してきなさいよ」

 最後の言葉に苛立ちながら電話を切る。
優しくしてくれるのかって?当たり前じゃない!
静馬君は浮気者のアンタなんかと違って優しくしてくれるわよ!……そう、なのかな? 
アイツはアタシのことが好きだったけど、お酒に酔って意識していないうちに浮気をした。
静馬君は、アタシと付き合い好きだと言ってくれているけど、本当は別に好きな子がいる。
本人は気づいていないんだけどね。……どっちが優しいんだろ?
アタシのことが好きだけど、意識せずに浮気をしてしまったアイツと、
アタシを好きだと言ってくれてるけど、ホントに好きな子は他にいる静馬君。
どっちが……優しいのかな?
自分の気持ちとは関係なく浮気してしまったアイツ。
自分の気持ちに気がつかず、ホントは好きでもないアタシと付き合ってる静馬君。
どっちが……アタシにとって、本当に優しいのはどっちなんだろ?



「守屋ちゃん、風邪はもう大丈夫なのかい?急な話だったから、おばさん心配しちゃったよぉ」
「毛利さん、昨日は急に休んじゃって申し訳ありませんでした!」

 午前中に病院に行き、点滴を打って貰ってから出勤する。
お店に着くと、毛利さんが心配そうな顔をして、アタシを迎えてくれた。

「やっぱり無理しすぎだったんだねぇ。それともアレかい?静馬君に無理させられてるのか
い?」
「そ、そんなことないですよ!静馬君は……優しいですよ」

 そう、静馬君は優しい……よね?
アタシに優しく接してくれてるのが本当の静馬君、だよね?

「や、優しいのかい?そうかい、静馬君は優しく攻めてくれるんだねぇ」

 もし……もしも、だよ?
もしも静馬君が自分の気持ちに気づいて、ホントは彩ちゃんが好きなんだって気づいても……
優しくしてくれるよね?

「きっとアレなんだろうねぇ。SEXの最中も耳元で『毛利さん、愛してるよ』とか囁いてくれるんだ
ろうねぇ!ヤダよぉ!おばさん濡れてきちゃうよぉ!この疼きは直ちゃんでも呼び出して治めよ
うかねぇ」

 妊娠しても責任取ってくれるよね?……アイツみたいに彩ちゃんと浮気なんてしないよね? 
アタシを……捨てたりしないよね?
 
「守屋ちゃん?やっぱりまだ寝てたほうがいいんじゃないのかい?ボ〜っとしてるよぉ」
「……へ?だ、大丈夫ですよ!ちょっと寝すぎてまだ頭が起きてないだけですから!
1日休ませてもらったんですから、今日は働きますよ〜!」

 腕まくりをして力こぶを作ってみせる。まぁ殆どでないんだけどね。

「う〜ん、ホントなのかねぇ?おばさん、心配だよぉ」
「大丈夫ですって!念のために点滴も打ってきたし、もう元気全開ですよ!」
「家に帰って静馬君に看病される方がいいんじゃないのかい?
濡れタオルで汗を拭いてもらい、そのまま押し倒されて……やだよぉ!おばさん、もう濡れ濡れ
だよぉ!」

 いったい何を想像しているのか分からないけど、嬉しそうに話す毛利さん。
でもアタシは全然嬉しくない。……静馬君、君の彼女が苦しんでいるんだよ?
そりゃ御両親も大事だろうけど、君の大事な人が苦しんでるんだよ?
それに、ね?もしかしたら、もしかしたらだよ?
……君の子供も苦しんでるかもしれないんだよ?
まだ検査してないけど、最近はずっと生でしてるから、きっと妊娠してるはず。
お腹を撫でて、妊娠していることを祈る。……はぁぁ、アタシってほんっとに卑怯な女だよね。
彩ちゃんに勝つためだといって、こんな卑怯な手を使うなんて……彩ちゃん?
そ、そういえば今、静馬君は実家だよね?
ということは……もしかして彩ちゃんと会ってるんじゃないの?
だ、大丈夫、よね?昨日も電話してくれたもんね?今日も電話してくれる約束してるしね?

「……守屋ちゃん、ホントに大丈夫なのかい?
なんか表情が百面相みたいにクルクルと変わってて面白いよぉ」
「……へ?んな!なんでもないです!さぁ今日も気合入れて働きますよぉ〜!
接客はいつもニコニコ爽やかに!さ、いきましょうか、毛利さん!お客様がアタシ達を待ってま
すよ!」

 風邪が治ってないせいか、嫌な考えが頭をよぎる。
そんな考えを振り払うかのように必死に働くアタシ。
そのおかげで嫌なことを考える余裕もなく、仕事は無事にこなせたわ。
ただ、頑張りすぎたせいで、治りかけてた風邪をぶり返しちゃったみたいなの。
今夜は静馬君から電話があるんだから、頑張らなきゃ。
元気のない声を出して、心配なんかさせちゃいけないわ。頑張れ!アタシ!
ふらつく足取りで、部屋へと帰りついたアタシ。
化粧も落とさず、布団に倒れこむ。熱と疲れでウトウトしだしたところへ掛かってきた電話。
電話の相手は、もちろん待ちに待った静馬君。
たくさんお話して風邪なんか吹き飛ばすパワーを貰わなきゃね!



「ねぇ静馬君、明日、帰ってくるんだよね?」
『えぇ、明日には帰るつもりです。いつまでも仕事、休めないですからね』

 一晩ぶりに聞く静馬君の声。あぁ、なんか癒される気がするわ。でもね、仕事ってなに?
そこは嘘でもいいから、『アタシに会いたいから帰ります』って言ってよね!

「……うん、待ってる。あ〜あ、早く君と会いたいなぁ」

 会って元気を分けてちょうだいよ。君の元気をアタシに注いでよ。

『ははは、俺も麗菜さんと会いたいですよ』
「あら?会いたいだけ?ホントは早くエッチしたいんでしょ?」
『れ、れれれ麗菜さん!なに言ってるんですか!』

 あははは、カワイイなぁ。ちょっとした冗談で慌てるウブな静馬君。ホントにすっごくカワイイ。
静馬君がカワイイせいか、熱のせいなのか……体が疼いてきちゃった。

「アタシは……したいよ?君と、すっごくエッチなことしたい」
『れ、麗菜さん?どうしたんですか?なんか様子が変ですよ?』
「ウフフフ、確かに変かもね?」

 熱のせいか、普段のアタシよりもすっごく大胆になっている。
体が静馬君を求めて、疼いている。エッチしたいと疼いている。犯して欲しいと疼いているの。
でも静馬君は電話の向こう。今すぐにアタシを犯してはくれない。
……なら電話越しに犯してもらおう。じゃないと体が疼いておかしくなっちゃうわ。

「……ね、静馬君。エッチしよっか?」
『俺もすぐにでもしたいです。明日、そっちに帰ったら、俺の部屋に泊まりに来ませんか?』
「うん、言われなくても泊まりに行くわ。でもね……今すぐエッチしたいの。君としたいのよ」
『は?今すぐって言われても……』
「静馬君、アタシ今から服を脱ぐね?だから……君も脱いで」

 仕事でクタクタに疲れて、熱でフラフラ。
普通ならエッチなんかしたくない状態なのに、何故かさかってる。
アタシって、こんなにエッチな女だったっけ?

『麗菜さん!冗談は止めてくださいよ!』
「うふふふ、冗談じゃないよ?アタシね、ショーツを脱いじゃった。下半身裸よ?
君がつけてくれたキスマーク、もう消えちゃってるの。
今ね、君がキスマークをつけてくれた時のこと思い出して、そこを触ってるの。
足の付け根のアタシの入り口のすぐ側。君がいつも舐めてくれるところのすぐ側を。
ん……時々ね、入り口を触っちゃったりしてね、あん……気持ちいいよぉ」

 太ももの付け根にそっと触れてみる。
まるでアタシの指が静馬君の指になったみたい。……ますます体全体が疼いてくる。
入り口にも指を這わしてみると、『クチュ』とイヤらしい音を出し、体が静馬君を欲していることを
アピールしてる。

「ん、んん……ねぇ静馬君、聞こえるかな?アタシね、クチュクチュにね、濡れちゃってるの。
君にね、あん!してね、もらってるみたいにね、ん、やん!感じちゃってね……気持ちいいの」
「れ、麗菜さん……マジでするんですか?」

 ハァハァと息荒く、声も少し震えている静馬君。

「ん、マジでするわよ?君がね、あぁ……アタシを相手にしない君が悪いの。
さ、君の触ってみて。ん、今から君の手はアタシの手。……アタシの指は君の指。
いつもアタシがしてあげてるように君のを触ってみて?」

 電話越しに聞こえる服を脱ぐ音。ハァハァと興奮した様子の静馬君の荒い息。
静馬君も興奮してくれたんだ……今夜はたくさん気持ちよくしてね?



『麗菜さんの指が俺の胸をやさしく這って……うぅ、メチャクチャ気持ちいいですよ』
「ん、君の指もね、あん!アタシの胸を揉んでね、乳首をつまんでるの。
乳首を弄りながら、あん!アタシの中に入ってきて、クチュクチュ掻きだしてるの。
もうね、立ってられない位に気持ちいいの……ねぇ静馬君、胸、噛んで」

 電話を首に挟み、左手で胸の先端をやさしく弄りながら時折キュッと摘む。
いつも静馬君がしてくれているエッチな行為。
右手はアタシの入り口に入り込み、クチュクチュと掻き出すように蠢いている。
電話越しに聞こえる静馬君の興奮した荒い息。
もうアタシの指は自分の指じゃなくなった。
今アタシを弄っているのは静馬君。胸を揉んでいるのは静馬君。
アソコを弄り、掻きだしているのも静馬君。
今、アタシは、静馬君に抱いてもらっている。電話越しだけど、抱いてもらっている。
電話越しでも静馬君の体温を感じている。あぁ……やっと抱いてもらえたんだ。
風邪なんか吹き飛ばすくらい激しく抱いてね?……ねぇ静馬君、いつものように、優しく噛ん
で。

『麗菜さん……すっげぇ感じてるんだ。
こんなに乳首、立っちゃって……ヂュチュ、ヂュヂュヂュ!』
「ひゃあん!つ、強い!静馬君、強く吸いすぎ!き、気持ちいい!凄くいいよぉ〜!」

 静馬君の指を吸う音が聞こえた瞬間、胸を弄っていた指が勝手に乳首を抓り上げる。
抓って引っ張って……まるでホントに吸われてるみたい。
静馬君が電話越しに吸い上げる度に感じてしまい、頭の中が真っ白になる。

「気持ちいい!静馬君気持ちいいよぉ!ねぇ静馬君、アタシにも触らせて!
君のおっきくなった物、触らせて!」
『えぇ、俺も我慢できないです。触ってください。麗菜さんを感じて完全に勃起しちゃってますか
ら』
「あん……おっきくなってるのね?あぁ、凄く熱いわぁ……ちゅ、ちゅぢゅ……ちゅぢゅ、ずずず
ず」

 アタシの指は静馬君の指。……アタシの指は静馬君のアソコ。
いつもアタシを貫いて、アタシを狂わせる静馬君のたくましいアソコ。
電話越しの静馬君に聞こえるように指を口に含み、わざと音を立てたてチュバチュバ攻める。
口の中に広がる気がする少し苦い味。いつも静馬君の先から出る透明な液体が口の中に溜
まってる気がする。
アタシはそれをゴクゴクと飲み干し、さらに攻めあげる。

『あぁ、麗菜さんの口、すっげぇ気持ちいいです。俺にも麗菜さんを舐めさせてくださいよ』
「ぢゅ、ちゅぢゅ……あん、ダメよ。君がね、アタシを相手にしてくれなかったからもう我慢できな
いよ」
『そんなぁ、俺も舐めたいっすよ』
「ダ・メ。……もうね、アタシね、ドロドロになってるの。
指が濡れてベタベタになってて君を欲しがってるの。『早く君の精液を注いで欲しい』ってね」

 ホントはアタシも舐めて欲しいけど……もう我慢できないわ。
君がアタシを相手にしてくれないからなんだよ?
……入れて。早くアタシを犯して。メチャクチャにして!

『麗菜さん……俺も我慢できないっす!……入れます。濡れてべたべたになってる麗菜さんに
入れます!』
「あん!……あぁ、静馬君がアタシを貫いてきたよぉ。……いいよぉ、気持ちいいよぉ!」

 静馬君の声を聞きながら、指を中に入れる。キュキュキュっと締め付けてくるアタシ自身。
まるで静馬君が入ってきたことを喜んでいるみたいに。……ゴメンね?これ、アタシの指なの。
でもね、今日だけは静馬君のアソコだからたくさん入れてあげる。いっぱい気持ちよくなろう
ね?

『うあ!すっげぇ熱いです!熱くてヌルヌルで……キュキュって締め付けてきて最高です!』

 静馬君も自身の指でアタシを感じてくれているのか、気持ちいいと声を上げてくれる。
うれしいなぁ……君もアタシを求めてくれているんだ?……んん!

「い、今ね、グチュグチュとね、犯されてるの。ああ!犯しながらね、クリトリスをね、弄られてる
の」
『麗菜さん、入れられながら触られるのが大好きですからね。いっぱい触りますよ?』
「あん!触って!もっと激しく弄って!」

 首に電話を挟んだまま座り込み、片手でグチュグチュとあそこを掻きだし、
もう片方の手で、いつも静馬君がしてくれるようにクリトリスを弄る。
グチュグチュと掻きだしながら、クリトリスをクチュクチュと指で押さえつけるように弄る。
いつも静馬君がしてくれているように……電話越しの激しい行為でアタシは一気に上り詰めは
じめる。

「静馬君!静馬君!もっと、もっと犯して!好きにして!」
『うぅ、麗菜さんのが俺をキュキュキュと締め付けて……やばいっす、気持ちよすぎて出ちゃい
そうです!』
「あん、まだダメよ。もう少し、アタシはまだイケそうにないわ。もう少し待って……」
『ダ、ダメだ!もう出る!……うっ、く、ううぅ』

 苦しそうな声を出したかと思うと、ハァハァと荒い息を吐く静馬君。
静馬君、もしかしてイっちゃった?

「あ、ん……もうイっちゃった?……今日はいつもより早いね」

 電話越しに流れる気まずい空気。しまった!早いとか言っちゃダメだったわ!

『……あぁ、まずいっすよ……床に出しちゃいました』

 よかったぁ、早いとか言っちゃったのを気にしてたわけじゃないんだ。
……ティッシュを用意する暇もなくイっちゃったの?静馬君、かわいいなぁ。 

「あははは!床に出しちゃったんだ?我慢できずに出しちゃったの?……そこまで気持ちよか
ったんだ」
『はい、最高でした。たまにはこういうのもいいっすね』
「たまにはいいかもね?まぁアタシはイケなくて欲求不満だけどね」

 ホントは君の体温を直接感じたいんだけどね。今回は特別だよ?

『ぐぅ!……早くてすみません』
「あははは!ま、いいわよ。電話越しでも静馬君を感じることが出来たんだし。続きは明日、っ
てことでね」
『はいっす!明日は今日の分までがんばりますよ!』
「あははは!期待してるわよ」
『任せてください!すんません、あまり離れてるとうるさいんで、そろそろ電話切りますね』 
「うん、早く明日になればいいね。……うるさいってご両親のこと?もしかしてアタシ、迷惑かけ
ちゃってる?」

 恋人であるアタシとの電話にうるさく言ってくるのであれば、アタシにいい印象派を持っていな
いはず。
……あれ?アタシ、何か失礼なことしたのかな?もしかしてバツ1のことがネックになってる?
いやいやいや、静馬君ですら知らない離婚のことを、ご両親が知ってるわけないわ。
じゃあなんで迷惑かけちゃったんだろ?もしかして静馬君がアタシのことを変に紹介したのか
な?
……年上の恋人だって紹介してくれたのかな?アタシが年上だからかな?

『はははは!俺の親じゃなくて、前に話したことがあると思うんですけど、隣に住んでる彩って
子ですよ』

 ……彩?アタシと話してたら、彩ちゃんがうるさいから電話を切る?

『今回の帰省だって、彩が熱がでて死にそうだって話だったから慌てて帰ってきたのに、ただの
風邪でしたからね』

 え?実家に急用が出来たって、彩ちゃんのことだったの?

『せっかく帰ってきたのに、彩の相手ばかりしててゆっくりと休めなかったんですよ』
「……その子はもう元気になってるの?」
『えぇ、慌てて帰ってきたらほとんど治ってましたね。ならなんで俺を呼んだんだって話ですけど
ね』

 静馬君の言葉に、さっきまで感じていた幸せな充実感は消え去った。
アタシはまだ熱が引かずに苦しんでいるんだよ?それなのに君は……彩ちゃんを選んだの?

『病気にこじつけて、いろいろやらされましたからね。りんごの皮むきや料理まで作らされました
よ』

 アタシが苦しんでるときに、そんなことをしてたんだ?
アタシが苦しんでることは、気づいてくれなかったのに……君にとってアタシはいったいなんな
の?

『ホントに手のかかる我儘なやつなんですよね。じゃあ麗菜さん、相手をしないとうるさいんでこ
れで切り……』

 ガチャン!

 静馬君に切られる前に電話を切る。悔しくてたまらない。涙が溢れて止まらない。
静馬君、彩ちゃんのために、会社を休んでまで実家に帰ったんだ。
アタシと会う約束を無視してまで、彩ちゃんを選んだんだ。
静馬君は、アタシが風邪で苦しんでいることを知らない。
でも、知っていてもアタシじゃなく、彩ちゃんを選んだんじゃないの?
……多分、選んでるんだろうな。
じゃなきゃ会社を休んでまで会いに行かないよ……悔しいよ。
アタシじゃ静馬君の中の彩ちゃんを消せないの? 
アタシじゃダメなの?……まだ手はあるわ。そう、静馬君の子供さえ妊娠していれば……うん、
きっと大丈夫。
結構危ない日でも生でしてたしね、きっと妊娠しているはずよ!
……貴女が悪いのよ。病気にかこつけて、静馬君を独占しようとした貴女が悪い。
そう、彩ちゃんが悪いの。アタシの静馬君を誘惑する貴女が悪いのよ。
……こうでもしなきゃ、アタシに勝ち目がないんだから仕方ないわよね?
でもね、彩ちゃん安心してね。貴女の分までアタシ達、幸せになるから。
そう、貴女じゃなく、アタシを選んでよかったと思わせるから。
……彩ちゃん、貴女邪魔なの。風邪をこじらせて死ねばよかったのにね。
そうすれば、アタシに静馬君を取られるところを見なくてすんだのにね。
あらかじめ買っておいた、妊娠検査薬を持ち、トイレへと向かう。
この検査薬を使えば数分後には結果が出る。……アタシ達2人の子供が出来たって結果が。
電話が鳴っているみたいだけど、多分静馬君かな?電話、勝手に切っちゃったしね。
でもね、今は検査をするとこの方が先決よ。検査結果がでれば教えてあげるから。
『静馬君、貴方はパパになるのよ』ってね。
ドキドキしながら結果が出るのを待つ。……名前、なんて付けようかな?
男の子かな?それとも女の子?……無事に生まれてくれればどっちでもいいわ。
無事に、妊娠していればどっちでもいい。
だから……お願い!静馬君をアタシだけの物にさせて!
祈るように結果を見てみる。結果は……ダメだった。妊娠していなかったわ。
妊娠していなかった……その結果を見て、アタシの中で何かが終わった。
そう、もうアタシは彩ちゃんには勝てないと悟ったの。
アタシでは彩ちゃんに勝てない……静馬君を自分の物に出来ないって分かってしまったの。



 静馬君との関係ももう終わり……そんな考えが頭の中に浮かび、ボロボロと涙が零れてく
る。
そんな中、また電話が鳴る。きっと静馬君からの電話。
ちょうどいいわ、この電話でもう終わりにしよう。
『鈍感なアンタなんかともう付き合ってられないわ!』ってフッてやろう。
あはははは、いきなり別れ話を切り出したら、驚くんだろうなぁ……ひっく、イヤだよ、別れ話な
んかしたくない!
でも……目の前で取られるのはもっとイヤ。もう二度とあんな思いはしたくない!
別れ話を一気にまくし立て、電話を切ってやろう。そう覚悟を決めて電話に出る。
……涙を流しながら、電話に出る。……これが大好きな静馬君との、最後の会話になるだろう
なと思いながら。

「……ぐす、はい、守屋です」

 震える声で話しかける。これが最後の会話だと思うと、声が震えちゃう。
静馬君、アタシの様子が変だって分かってくれるかな?
……きっと分かってくれないよね。だって彼、鈍感なんだもんね。

『麗菜か?俺だよ、島津義明だ。昨日話した慰謝料についてなんだが、時間大丈夫か?』

 ……最低。何でアンタはこんな最悪な時に電話してくるのよ!

「……バカ。ひっ、なんで電話なんかしてくるのよ!」
『な、なんだ?いったいどうしたんだ?……何かあったのか?お前、泣いてるんじゃないの
か?』

 何かあったかですって?あったわよ!最悪なことがあったのよ!
なんでアンタなんかに心配されなきゃいけないのよ!アンタにアタシの何が分かるってのよ!

「ひぐ、アンタなんかに、アンタなんかに、アタシの何が分かるって言うのよ!」
『どうしたんだ?いったい何があった?』
「……ひっぐ、ばかぁ!なんでアンタが電話してくるのよぉ!……なんでこんな時に、アンタが電
話してくるのよぉ!」
『だから何があったんだ?俺でよければ力になるぞ。いったい何があったんだ?』
「……熱で体はボロボロ、男には振られて心はズタズタ……最低よ!もう死んじゃいたいくらい
よ!」
『麗菜……そうか、ダメだったのか』

 ダメで悪かったわね!ダメになって悪かったわね!こうなったのも、全部アンタのせいなんだ
からね!
アンタが浮気なんかしなければ、アタシは静馬君と出会うこともなく、アンタと暮らしてたんだか
ら!
全部アンタが悪いのよ!どうしてくれるのよ!

「バカ!アンタのせいよ!アンタが浮気なんかするから、アタシが苦しまなきゃいけないのよ
ぉ。……ひっく、慰めてよぉ。一人はもうイヤなの。もう一人じゃ生きていくのがイヤなのよ!
寂しいのはもうイヤ!」

 きっと熱で頭がおかしくなってたんだろうね。
あれほど嫌っていたコイツに、部屋の住所を教えちゃったんだから。
すごくショックだったんだろうね。静馬君が彩ちゃんを選んだことが。
どうでもよくなってたのかな?静馬君の子供を妊娠していなかったことで。
だからかな?……コイツとえっちしちゃったのは。
静馬君と別れることを決めた夜に、違う男に抱かれる。アタシってこんな女だったっけ?



 久しぶりにしたコイツとのSEX。正直気持ちよかったわ。
そりゃそうよね?付き合ってるときから何度もしてたんだから、アタシの気持ちいいところ、全
部知ってるんだもんね。
……そっか。コイツはアタシのこと、いろいろ知ってるんだ。
静馬君と違い、コイツはアタシを分かってくれてるんだ。
浮気者のコイツの胸に抱かれながら思う。
……アタシ、コイツのこと、まだちょっと好きかも知れない。
コイツとだったら、静馬君の時のように遠慮なんかせず、言いたいことを言えるのかもしれな
い。
赤の他人の二人が家庭を作る。大事なのは、お互いに、言いたいことを言い合える仲なのか
もしれない。
静馬君とは嫌われることを気にして、言いたいことを言えなかった。
彩ちゃんなんかよりも、アタシを大事にしてと言えなかった。言って、嫌われるのが怖かったか
ら。
けど、コイツになら言えると思う。前の結婚生活では言えなかったけど、今は言える。
こういうことが、大切なんだろうね。夫婦生活っていうのは。
……そっか。結局、アタシの相手は、コイツなのか。
遠回りしちゃったけど、やっと分かったわ。
アタシの一番お似合いの相手は、コイツなんだって。
アタシの肩を抱き、幸せそうに寝ているコイツの顔をのぞいて見る。
……なんか悔しい。えい、抓っちゃえ!

「い、いで!いでででで!な、何するんだ?」
「この顔でよくも浮気なんかしたわね!……次はないからね」
「いで、いでででで!つ、次はないって……え?い、いいのか?麗菜、俺とよりを戻してくれるの
か?」
「ラストチャンスよ。次したら、慰謝料1億円ぶん取ってやるからね!」
「あ、ああ!1億でも10億でもいくらでも払うさ!俺は浮気なんかしない!お前一筋だ!」
「なに恥ずかしいこと、真顔で言ってんのよ!……そういうことは態度で示しなさいよね」

 うれしそうな顔してさ、そこまでアタシとよりを戻したかったわけ?
……ゴメンネ、静馬君。アタシ、何も言わずにいなくなるね。
君は、突然いなくなったアタシを、必死に探すんだろうなぁ。
アタシをもてあそんだ罰よ、苦しみなさい!……彩ちゃんと幸せにね。
……早く気づきなさいよ?自分の気持ちに。
……早く気づいてあげてね?彩ちゃんの気持ちに。
……あ、いいこと思いついちゃった。

「ねぇ、義明。再婚するにあたって条件があるの。聞いてくれる?」

 もし静馬君が知ったら、驚くかな?彩ちゃんが知ったらどう思うかな? 

「おお、何でも聞くぞ!お前の言うことなら何でも聞く、さぁ言ってくれ!」
「子供ね、男の子が生まれたら、名前は『拓』にしたいの」
「たく?なかなかいい名前だな、いい子に育ちそうだ」
「当たり前じゃないの、アタシの好きな人の名前なんだからね」

 そう、アタシが好きな……愛した男の名前。
素直で優しくて、かなり鈍感……そんな素敵な彼の名前。

「す、好きな人の名前って……そんなのを子供につける気なのか?」
「そんなのってなによ!でね、女の子だったらね……『彩』ってつけたいの」
「あや?いい名前だな。素直ないい子に育ちそうな名前だ」

 アタシが愛した人の好きな子の名前よ?いい子に育つに決まってるじゃないの。

「うふふふ、当たり前じゃないの。アタシの恋のライバルの名前なんだから。
……ま、完敗しちゃったけどね」
「おいおい、大事な子供にそんな名前を付けていいのか?」
「いいに決まってるじゃない!だって静馬君ってすっごくいい人よ?アンタなんかと違ってね!
その静馬君が好きな女の子の名前なんだから……彩もいい子に育ってくれるわよ」

 いつかは生まれてくるであろう、アタシ達の大事な子供。
貴方達が生まれてくるころには、コイツとももっとうまく生活できてるかな?

「じゃあアタシ、今日からアンタのところに引っ越すから。仕事も辞めるからね。……しっかりと
働きなさいよ?」
「え?きょ、今日から?でもまだ何も用意なんかしてないぞ?」
「な〜に慌ててるのよ。用意も何も、寝る場所さえあればいいわよ。……2人で一緒に寝れる
布団が一組あればね」

 さて、さっそく引越しの準備をしなきゃいけないわね!
ま、荷物は少ないから、コイツとアタシの二人いれば十分ね。アタシはまだ熱でフラついてるか
ら、コイツ一人にさせよう。
時計を見てみる。もう朝の9時過ぎ。いつの間にか朝になってたんだ……ちょうどいいわ、この
まま職場に行っちゃおう!

「じゃ、アンタはこの部屋の荷物を纏めててね。アタシは会社に行って、仕事を辞めるって言っ
て来るわ」

 辞める理由は毛利さんだけに話そう。
毛利さんには公私共に、いろいろお世話になってるからね。
毛利さん、怒るかな?それともよかったねと言ってくれるかな?
毛利さんなら喜んでくれると思うんだけどなぁ……まさか激怒したりしないわよね?

「わ、分かった。適当に片付けておくよ」
「あまり荷物はないから、アンタ一人でも大丈夫でしょ?……下着、頭にかぶったりしないでよ
ね」
「だ、誰がするか!下着はかぶるより、脱がすほうが好きなんだよ!」
「あっはははは!じゃ、任せたわよ。夕方までにはこの部屋出て行くんだからね」

 服に着替え、部屋を出ようとしたら、ある雑誌が目に止まった。
これって、静馬君の部屋にあったのと同じもの。なんでこんなの買ったんだっけ?
……そうだ、この雑誌に載ってたアクセサリーを、誕生日プレゼントであげようと考えてたんだ
ったわ。

「あぁ、そうだったわ。ねぇこの銀のアクセサリー買ってよ。ちょっと高いからアタシには手が出
ないんだよね」

 折り目のついたページを開き、丸印のついたアクセサリーを指差す。
どれどれと覗き込む義明。その表情は買ってあげる気満々といった顔をしてる。

「おお、再婚祝いだ、買ってやるよ。……け、結構な値段するんだな。お前、こんなアクセサリ
ーつけてたか?」
「アタシはこんなのに興味ないわよ。これは……大好きな人への誕生日プレゼント。
最初で最後のプレゼントになるんだから、いい物をあげたいの」

 そう、大好きな静馬君へのプレゼント。このアクセサリーを送ったら、どんな顔するかな?

「す、好きな男って……おいおい、それを俺に買わせるのかよ」
「そう、買わせるの。なんか文句あるの?」

 渋る義明をにらみつける。とたんに視線をそらす義明。まったく情けない男ねぇ。こんな男を
選んでよかったのかな?

「……いえ、ありません」
「ないなら文句を言わないの!……じゃ、行ってくるから」

 義明を部屋に残し、職場へと向かう。
もう二度とこの職場へ向かう道を歩くこともないんだろうな。
アタシの人生を変えた、大切な場所。
駅前にある、派手な看板が目印のお店、パチンコチャンプ。
この会社に勤めていなければ、義明とよりを戻すこともなかっただろうし、毛利さんと知り合うこ
ともなかった。
それに……静馬君と出会い、素敵な恋をすることもなかった。
今、アタシはこの大切な場所から旅立つ。新しい生活をするために。

「……うん、恋する乙女の時間は終わりね。
これからは、旦那を支える妻としての時間よ。……おし!頑張るか!
『接客はいつもニコニコ爽やかに!』。この心意気で、頑張るぞ!」

 気合を入れてお店に入る。人生の新しいスタートを切るために。

 こうしてアタシ、守屋麗菜は、再び名前を島津麗菜へと変えた。
毛利さんにだけ、事情を説明し、引越し先を教えて。
……静馬君、何も言わずにいなくなってゴメンね?でもね、これはアタシのちょっとした復讐。
アタシよりも彩ちゃんを選んだ、君への復讐。
アタシも苦しんだんだから、君も少しは苦しみなさいよね?
……少しは苦しんでくれるのかな?くれなきゃかなりショックだなぁ。



「おやおや、また来たのかい?静馬ちゃんはパチンコ強いから、あまり来られちゃ困るんだけ
どねぇ」

 守屋ちゃんがお店を辞めて3ヶ月。守屋ちゃんがいなくなってから毎日のように静馬ちゃんは
お店に来ている。
今日こそは、守屋ちゃんが来ているんじゃないかって期待してね。

「毛利さん、麗菜さんから何か連絡はありましたか?」
「ないねぇ、連絡の『れ』の字もないよぉ」
「そう……ですか。もし連絡があれば教えてください!」
「分かってるよぉ。静馬ちゃんには連絡するよぉ」

 毎日繰り返される、同じやり取り。
はたから見れば振られた男の、未練がましい情けない行動。
誰が思うだろうねぇ、振られたのはいなくなった女のほうで、捜している男が振っただなんて。
あたしも守屋ちゃんから聞くまで、信じられなかったよぉ。
静馬ちゃんには他に好きな女がいて、その子も静馬ちゃんが好きなんだってね。
守屋ちゃんも頑張ったけど、勝てなかったって。勝てないから身を引くんだってね。
……二人は相思相愛で、お似合いだと思ってたんだけどねぇ。
ま、今、守屋ちゃんが幸せならどうでもいいんだけどねぇ。
今日も情報がないことに、がっくりと肩を落とし、パチンコ台に座る静馬ちゃん。
今日は池田直樹……直ちゃんは一緒じゃないんだねぇ。
守屋ちゃんがいなくなって、仲直りしたそうだけど……おばさんとも仲直りしてほしいよぉ。
主に下半身だけをね。
……本当はね、おばさん知っているんだよぉ。
守屋ちゃんが……島津麗菜ちゃんがどこに住んでて、何をしているのかを。
けどね、教えることは出来ないよぉ。
今、彼女は幸せに暮らしているんだ、今さら静馬ちゃんが出て行っても、もうどうにもならないし
ねぇ。
結局静馬ちゃんは知らないままだったんだねぇ。『彼女は×1』だったってことを。
これからも知らないんだろうねぇ……もう彼女は人妻なんだってことを。
昨日電話でね、嬉しそうに話していたよ。……妊娠したってね。
静馬ちゃん……守屋ちゃんは幸せになったんだ。今度はあんたが幸せになる番だよ?
早く気づくといいねぇ、自分には好きな子がいることをね。
守屋ちゃんもそう言っていたよ。
……振られて悔しいから、教えることは絶対にしないでって言ってたけどね。
静馬ちゃん……あんたは若いんだから、いつまでも引きずってないで頑張んなさい!
おばさん、応援してあげるからね!


 今、あたしの目の前で、しょぼくれた顔してパチンコをしている男性、静馬拓。
このなかなかの色男を振った女性、守屋麗菜は、あたしの元同僚であり、×1でもあった。
でも、今、彼女は一人の女性としての幸せをつかんだ。
……大好きだった静馬ちゃんとは違う相手とね。

 そう、彼女は別れたた旦那と再婚をし、島津麗菜となった。
……そう『彼女は人妻』になったんだよぉ。

 ……あたしもそろそろ若い男を引っ掛けて、結婚しようかねぇ。ねぇ直ちゃん?


                      彼女は□□  終り


おまけ


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