「ただいま〜!彩〜、いい子でお留守番してたかな?」

 玄関のドアを開け、愛する娘に声をかける。
ウフフフ……今日は懐かしい顔に会っちゃったから、ちょっとテンション上がってるわね。

「ママおかえり!彩はいい子におるすばんをしていた。
おるすばんをしてたら拓がかれーをたべたいといいだした。
だからきょうのばんごはんは、かれーがいいと思う。拓のためにかれーをつくってほしいのだ
が、どうだろうか?」

 まったく誰に似たのかしらね?この女の子らしくないしゃべり方は?
はぁぁ〜……拓がカレーを食べたいなんて言うわけないでしょ?貴女が食べたいだけでしょ?
まったく……弟を利用するなんて悪い子ね。ま、いいわ。どうせ今日は家では食べないんだし
ね。

「あららら、カレーが食べたいの?う〜ん、どうしようかな?
今日はパパがお仕事でいないから、毛利おばさんのお店に、ご飯を食べに行くつもりだったん
だけどなぁ。拓がカレーが食べたいって言うのなら、お店に行くの辞めちゃおうかな?」

 毛利さんの名前を聞いて、目がキラキラと輝きだした彩。
我が娘ながらとっても素直で分かりやすい子ね。我ながら惚れ惚れしちゃうわ。

「ええ?おばさんのおみせに行くの?ならかれーはちゅうし!」
「でも拓が食べたいって言ってるんでしょ?お姉さんは弟のために我慢しなきゃいけないわ
よ?」
「ちがう!拓はそんなこといってない!
わたしがたべたいからいったんだ……というのはうそで、ほんとはパパがたべたいといってた」
「あ〜や?仕事でいないパパがそんなことを言うわけないでしょ?
ママね、嘘をつく悪い子は、お姉さん失格だと思うの」
「おねえさんしっかく?……ママ、しっかくってなに?おいしいの?」

 何でこの子は食欲旺盛に育ったのかしらね?まぁそこが可愛いんだけどね。

「失格っていうのは、お姉さんになる資格がないということよ。
つまりはね、お姉さんを辞めなきゃいけないってことね」
「え?お、おねえさんをやめなきゃいけないの?」
「そう、嘘をつく悪い子はおねえさん失格なの。じゃないと拓も嘘をつくようになっちゃうでし
ょ?」
「ひぃ、ひぐ……ごめんなざいぃぃ〜!あやがうぞをづぎまじだぁぁ〜!うわぁぁぁ〜ん!」

 大きな口をあけ、ワンワンと泣きじゃくる可愛い愛娘。
あぁ、ホントに素直に育ってくれて、ママとっても嬉しいわ。

「よしよし、もう反省したわね?ならお姉さん辞めなくてもいいわよ」

 泣きじゃくる娘を、ギュッと抱きしめ頭を撫でる。
あぁ、こうして娘を抱きしめてると幸せだなぁって実感するのよねぇ。

「ほんどにやめなぐていいの?おねえざんでいいの?」
「うん、お姉さんでいいよ。その代わりもう嘘をついちゃだめよ?」
「うん!もううそはいわない!拓がうそをつかないようにもおしえてあげる!」

 うん、とっても素直でいい子。あなたはママの自慢の愛娘よ。

「よし、今日は毛利おばさんのところで好きなもの食べていいわよ。
ママ、今日はご機嫌だから何でも食べさせてあげるわね」
「わわわ!ホ、ホントにいいの?ママ、なにかいいことがあったのだろうか?」
「んん〜?それはねぇ……ひ・み・つよ」
「ママずるい!おしえてくれないなんてずるくはないだろうか?」

 今日は毛利さんのお店で、昔話に花を咲かせちゃおう!
まさか静馬君にまた会えるなんて!
静馬君は大人の男に成長してますますかっこよくなっていたわ。
静馬君が大人になる……つまりはアタシがおばさんになったってこと。
くやしくて、ついひどいことを言っちゃったけど、ま、いいでしょ?
嘘も方便っていうしね。……こういう時も使うのかな?

「そうだ!今日はおばさんの家に泊まっちゃおう!
パパは出張でいないし、おばさんも彩とお風呂に入りたがってるしね」
「うん!あやもおばちゃんのあかいろあたまをあらいたい!」

 ピョンピョンと飛び跳ね、体全体で喜びを表している。
毛利さんの赤色頭が気に入ってるたいね。
……まさか自分も染めたいなんて言い出さないでしょうね?

「ママもね、おばさんと昔話をしたい気分なの。パパがいなくてちょうどよかったわね」
「……パパだけなかまはずれはよくないのではないだろうか?」

 ピョンピョン飛び跳ねていたのが一転して暗い顔になる。
ホントにいい子ね。とても素直で優しくて……貴女はママとパパの自慢の娘よ。

「大丈夫よ。おばさんのところで、パパが大好きなお酒をお土産に買って帰るから」
「ならだいじょうぶ!パパもおおよろこびするとおもう!」

 また跳ねだした彩。ホントに可愛いわ。貴女を産めて、ママはとっても幸せよ。

「じゃ、さっそく行こっか?彩は拓を連れてきてね。ママは出かける準備をするからね」
「うん!彩はしっかりとてをひいて、拓をつれてあるく!」

 あぁ……ホントにアタシは幸せだわ。
愛する旦那と愛する娘達に囲まれて……来年にはもう一人、増えるんだけどね。
アタシが妊娠してるって彩が知ったらどう思うのかな?喜んでくれるかな?
またピョンピョン飛び跳ねて喜んでくれるかな?
毛利さん、また子供を産むのかいって驚いてくれるのかな?

 ……今日、久しぶりに静馬君に会って分かったことがあるの。
アタシはまだ静馬君が好きなんだってね。
でも旦那も愛してるのは間違いないわ。……女って不思議な生き物ね。
二人の異性を同時に愛せるんだからね。ふふっ、毛利さんに話してみよう。
きっと毛利さんも賛同してくれるはずよ。あの人は恋多き女性なんだからね!

 幼い弟、拓の手をギュッと握っている彩の小さな手を握り、部屋を出る。
懐かしい話をしに、あの時、同じ時間をすごした仲間の下へ。
今日は徹夜で話しちゃおう!毛利さんとあの頃の話を……パチンコチャンプで過ごした懐かし
い時のことを。

 彩、あなたもいつかは分かる日が来るかな?女という生き物は、恋多き生き物なんだって
ね。
……この子にもいつかは好きな男の子が出来る日が来るのかな?
連れて来たりしたら、バカ旦那は発狂しちゃうんじゃないのかな?
楽しみだなぁ、彩が好きになった子と話すのが。
早くその日が来ないかな?彩、その日までに女を磨いておきなさいよ?
じゃないとママみたいに苦労しちゃうからね?



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