置き忘れた記憶






其の壱



 キシ…と、ベッドの軋む音。いつものように俺を抱いて、いつものように耳元で好きだと囁く。そして、俺も。行く先は行き止まりだと分かっていても、彼の愛撫に喘いで、イかされて、『好き』の言葉に俺もと答える。――――――彼には、帰る場所があるのに。待ってる人がいるのに。分かっていて拒めないのは、俺の弱さ。胸の奥深く、いつの間にか彼は棘みたいに深く――――刺さっていて。自分ではもう、切り取ることも引き抜くことも出来なくて。言ってくれればいいのに。こんな関係は、もうやめようって。
「琢ちゃん…大丈夫…?」
大きな波が過ぎた後、気だるい身体を持て余してぐったりとしたままの俺に、顕ちゃんが心配そうに聞いてきた。
「大丈夫だよ…今更、これくらいで参ったりしないよ」
何度、身体を重ねてきただろう。ずっと仲良しで、大好きで。『大好きだよ』『愛してるよ』…冗談混じりに言われ続けたその言葉に、胸に痛みを覚えるようになったのは、いつからだっただろう。彼に押し倒されても、何一つ抵抗できない自分がいた。抱き締められて、キスされて、愛撫されて―――――イかされて。
 未来を約束して欲しい訳でも、永遠が欲しい訳でも無かった筈なのに。彼女がいることを分かっていながら、抱かれたのに。心は、どうしようもない虚しさに覆われていく。どんなに強く抱かれていても、悲しくて、……寂しい。
「待ってるんじゃないの…?帰んなくて大丈夫?」
時計は午前一時を廻ってる。
「大丈夫。遅くなるから、先に寝ててって言ってきたし」
「…そんなふうに…嘘、つけるんだね」
「…嘘じゃないでしょ。帰り遅くなるって言ってきただけだし」
――――――それ、本気で言ってるの?…知らなかったよ。君が、そんなに器用で残酷だったってこと。
「…じゃあ…」
言いかけて、止めた。
「何?」
「…何でもない」
言ってどうする?“遅くなる理由が仕事じゃなく、浮気だって言える?”
―――――馬鹿みたいだ。こんなの、つまんない女の台詞だ。ホントに、何なんだろうね。俺たちの、この関係は。たまってんなら、家帰ってやればいい。わざわざ男の俺と寝る必要なんて、無いじゃんか。
「琢ちゃん…?」
顕ちゃんに呼ばれて、視線が合う。そっと…唇が重ねられて、目を閉じた。いつもと変わらない、優しい感触。変わったのは、顕ちゃんが家庭を持ったことで。どっちが大切かって聞いたら、君はきっと“どっちも”って答える。分かってるから、聞かない。それに、俺だって君と同じだ。彼女の存在を知っていながら、拒まなかった。だから今、どんなに苦しくたって…当然の報いなんだ。自業自得。

……ただね、…ただ。疲れちゃったなあ…少し、ね。

 「音尾!何ボーッとしてんだよ!全員揃ったから、そろそろ収録始めるぞ!」
モリがファックスの束で、ぺしっと頭を叩いてきた。言われて周りを見ると、顕ちゃんの姿が無い。仕事の関係で集合時間ギリギリにやってきた洋ちゃんとシゲが、ファックスやメールに目を通し、慌ただしく選曲したりしてる。
「え?あ?安田君は?」
「今日は仕事で欠席。……お前、顔色悪くないか…?」
「そう?別に何ともないけど」
「そうか?なら、いいんだけど」
モリは俺の返事に安堵の表情を浮かべ、スタジオに入っていった。…本当は結構前から胃が痛くて、あんまり食べられなくなっていた。でも、仕事に支障をきたす程では無かったから、忙しさにかまけて放っておいたままだった。…顕ちゃんが休みと聞いて、正直ホッとしている自分がいる。会いたい気持ちも半分、だけど、仕事の時は居ない方が、変に意識して普通にしてようって無理しなくていいから前は、ただただ楽しかったのに。皆どんなに仕事が忙しくてバラバラでも、週に一度はここで五人揃うことが出来て。今だって楽しいけど、もう、純粋に楽しいって気持ちだけじゃ無くなってる。……顕ちゃんに、カラダを許してしまってから。

 収録を終えて家へ着くと、午前を廻ってた。すぐに寝たいけど、何か少しでも腹に入れて、薬飲まないと…。食欲なんか無いんだけど、仕方ない。買い置きのレトルトの雑炊を温めた。
 五分経って火を止めて、器に移しかえようとした、その時。不意に、携帯が鳴った。誰からの電話か画面表示を見なくても分かる。出るか出ないか迷って、結局出た。
「琢ちゃん…?今、何処?家?」
聞き慣れた、低温の綺麗な声。
「うん、収録終わって帰ってきたとこ。そっちは?仕事終わったの?」
「うん。…今から行ってもいいかな」
会いたい気持ちと会うのがこわいって気持ちが混じり合う。いつもそうだった。二人きりで会ってしまえば、またいつもの繰り返し。後に残るのは虚しさだけで。心の透き間は身体じゃ埋められないって…分かっているのに。なのに。
「…いいよ。じゃあ、待ってるから」
電話を切って、ふ、と自嘲の笑みがこぼれた。待ってる、だって。おかしいよ、俺。
…食べる気力も失せて、ベッドにばふっと横になった。折角温めた雑炊は、そのまま冷えていった。
 顕ちゃんが着く頃には、俺はうとうとしかけてて。玄関のチャイムではっと目を覚まし、鍵を開けた。少し疲れた顔をした顕ちゃんが、俺の顔を見て嬉しそうに目を細めた。愛しさが沸き上がるのと同時に、辛くなって―――――目を逸らした。顕ちゃんからは雨の匂いがしてる。
「雨、振ってるの?」
「ああ、今降ってきた。――――琢ちゃん?」
顕ちゃんが何かに気付いたように、すっと頬に手をのばしてきた。
「顔色、良くないね。具合悪いんじゃないの?」
「…ん、胃の調子がね、ちょっと良くなくて。大したことは無いよ」
顕ちゃんを部屋の中に招き入れながら答えた。
「ちゃんと食べてる?少し痩せたんじゃ…」
心配そうな、顕ちゃんの声。顔色とか、痩せたとか。ちょっとした俺の変化を、見逃さないんだね。
「食べてるよ、大丈夫。何か飲む?」
「いいよ。気、使わなくても。…琢ちゃん」
顕ちゃんの腕が背中に廻されて引き寄せられ、口付けられた。唇が離れた後も、黙ってただ優しく俺を抱き締めて……。心地良くて、顕ちゃんの肩口に顔を埋めて、目を閉じた。
ずうっと…こうしていられたらいいのに、なんて思う。無理だからこそ、余計にそう思うんだろうね、きっと。顕ちゃんがそっと俺から離れる。俺の両肩を掴み、顔を覗き込んだ。
「今日は帰るよ。ゆっくり眠った方がいい」
「…顕ちゃん…」
俺の、ほんの少しの変化も見逃さないくせして。苦しい胸の内までは、見抜けないんだね。…もっとも自分自身でも、どうしたいかなんて分かってないから…顕ちゃんにだって分かる筈無いのは、当たり前だよね。
帰ろうとする顕ちゃんの腕を、俺は咄嗟に掴んでいた。
「琢ちゃん…?」
「…帰っちゃうの?…セックス出来ない俺とは…一緒に居る価値も無い?」
「…琢ちゃん…!!違うよ、僕はそんなつもりで…!!」
顕ちゃんの慌てぶりに、つい笑ってしまった。
「分かってるよ。ごめん、変な言い方して。気を付けて帰ってね」
俺は精一杯笑ったつもりだったんだけど。顕ちゃんには、そう見えなかったようで。
「ひゃっ?!」
いきなり、勢いよく…いわゆる、お姫様だっこっていうものをされて…ベッドに運ばれて、すとん、と降ろされた。顕ちゃんはコートを脱ぎ、シャツもズボンも脱いで、俺を抱き寄せ、毛布と布団を引っ張ってベッドにすっぽりと収まった。
「顕ちゃん…?!」
「明日は仕事、夕方からなんだ。泊まってく」
“家に連絡は?!”…喉まで出かかったけど、言わなかった。
「ずっと、こうしてよう?ゆっくり眠りなよ」
顕ちゃんにそう言われて。目を閉じて、顕ちゃんの胸元に顔を埋めた。あったかくて、優しくて――――安心出来る温もり。
「………あ、ごめん琢ちゃん。Gパンのままだったね」
―――――そうだった。忘れてた…。
「…顕ちゃん、脱がしてよ。シャツも」
誘うつもりなんかじゃ無くて…ただ、甘えてみた。子供みたいに。それは顕ちゃんにもちゃんと伝わっていて。少し、困ったように笑って、服に手を掛けた。上も下も脱がして貰って、Tシャツとトランクスだけになった俺の身体を見て、顕ちゃんの顔が、少し曇った。
「顕ちゃん…?」
「…琢ちゃん…、いつからちゃんと食べてないの?…さっきも、軽くてびっくりしたんだ」
どうやら、見た目にもハッキリ、肉が落ちてんのが分かるらしい。顕ちゃんは痛々しそうに、俺を見つめた。
「…食べてるって。胃のせいで量は少し減ったかもしれないけど…」
口籠もってしまう。嘘だって、顕ちゃんにはバレてるね。でも、顕ちゃんはそれ以上は立ち入らなくて。
「仕事の時間があいたら、ちゃんと病院に行かなきゃダメだよ」
そう言って、また俺を抱き寄せた。俺は、無言で顕ちゃんの背中に腕を廻し、目を閉じた。
朝が来なければいいと思いながら……。

 久しぶりにぐっすり眠ったような気がして目を開けると、もうかなり日は高くなっていて、隣にいる筈の顕ちゃんの姿は無かった。代わりに、ご飯の炊ける匂いと、台所の方から何やら音がする。
「………?顕ちゃん…?」
起き上がり、目を擦りながら、音のする方へ行ってみる。
「あ、起きた?お早う」
顕ちゃんが台所に立ってた。
「…何してんの、顕ちゃん…」
「朝飯の仕度。一応、胃に優しいものをね」
…ザ・不器用さんの顕ちゃんが?
「…食えるの?」
「…どういう意味だよ」
俺の超失礼な言葉に、顕ちゃんは憮然とした表情で仕度を続けた。手際の良さは、以前番組で一緒に料理を習ったときとは、全然違っていて。……そっか。奥さんがいるから。きっと、時間ある時なんかは一緒に台所立ったり、奥さんが風邪引いたときに、代わりに炊事したり……してるんだよね。
「冷蔵庫カラッポだったから、買い物行って来たよ。その間に琢ちゃんが目覚まさなくて良かった」
「……何で?」
「目、覚ましたときに独りって嫌じゃない?病気のときって」
「……気にしないよ俺、そんなの…」
「そう?」
仕度を続ける顕ちゃんの背中に、こつん、と頭をぶつけた。
「琢ちゃん?」
“だって、同じじゃないか……どっちにしたって、置いてかれるんだもの”……ほら、また。自分からはこの関係を断ち切れないでいるくせに、まるで自分が被害者みたいな…愛人の常套句みたいな台詞が浮かぶ。
「琢ちゃん?どうしたの?」
顕ちゃんが手を止めて、俺に向き直った。俺は今きっと、凄く情けない顔をしてる。答えない俺に、顕ちゃんは困り顔で。宥めるように俺を抱き締めて、背中をさすった。顕ちゃん……こんな俺、早く愛想尽かしちゃっていいよ。
「…ごめん…、何でもない…」
俺は作り笑いで、顕ちゃんをやんわりと押し退けた。
「折角仕度してくれてんのに、邪魔してごめん…」
「琢ちゃん…」
俯いたままの俺の顔に、顕ちゃんの手が伸びてきて………上向かされた。おずおずと目を合わせてみると、顕ちゃんは切なそうな目で見てた。胸が苦しくて目を閉じた俺の唇に、顕ちゃんの唇が押し当てられた。
「…顕ちゃん……抱いて………」
身体じゃ埋まらないのに。辛くなるだけなのに。それを分かっていて尚、俺は。

 顕ちゃんの唇が、手が、肌の上を張っていく。どうしようもない疼きに、頭の中まで侵されていく。与えられる快感に身を湯だね震えながら、口から漏れるのは顕ちゃんの名前と、嬌声。慣らされた俺の身体は、ほんのちょっとの刺激にも貪欲に反応した。顕ちゃんの愛撫に狂わされながら、いっそ、本当に―――――狂ってしまえたらと思った…………。


 数日が過ぎた。不精して、相変わらず病院にも行かないまま、毎日淡々と仕事をこなしていくだけの日々が続いていた。胃の痛みは小康状態を保っていたし、顕ちゃんが沢山作ってキープしてってくれた食事のお陰で、何となく体の調子が良くなった気もしていた。………なのに、今日の仕事は旅コミでグルメレポーター。不安を抱えつつ、テレビ局へ向かった。そして見事、焼肉店巡りなどという、元気なときなら大喜びの筈のきかくが言い渡された。普段なら好きな肉も、今は見ただけで気持ち悪くて。スタッフに心配かけつつ、五件取材して、演技力で乗り切った。
「…気持ち…悪ィ……」
やっとの事でその仕事から解放されて、次の仕事に向かうために車に乗り込んで、俺はぐったりとハンドルにもたれかかった。次の仕事場までそう遠くはないけれど、運転の集中力さえ欠きそうな程、胃が気持ち悪かった。大丈夫だと自分に言い聞かせて、エンジンをかけ、車を走らせた。―――――次の仕事場……いつものFM局へ。
 何とかFM局が入ってるビルに辿り着き、エレベーターに乗って、スタジオの階のボタンを押した。
「…………!」
エレベーターが動き出した途端、吐き気に襲われ、手で口許を覆った。ヤバい………。目的の階に着き、ドアが開く。俺は口許を覆ったまま、おぼつかない足取りでトイレに直行した。個室に入り、思いっきりリバース………。吐けるだけ吐いて、肩で息をしながら呼吸を整え、自分の吐いたものを見て、はっとした。朝から食ってきたものがほとんど消化されていない上、血が混じっていた。息をするだけで胃が痛んで、喉がひりひりする。これから仕事なのに、立ち上がることも出来ない。………どうしよう………誰か………。
動けずにうずくまっていると、朦朧としかけた頭に、ドアをノックする音が響いた。
「音尾さん?!音尾さん、いるんでしょう?どうしたんです、大丈夫ですか?!」
………このイントネーション………。
「………藤尾………?」
「そうです、僕です!気分悪いんですか?大丈夫ですか?!」
ラッキーだと言っていいだろうか。ドアの向こうには、何故か事務所の後輩の藤尾がいた。こんなみっともない姿を見られるのは情けないが、そんなことも言ってられない。
「気持ち悪くて、戻しちゃったんだ………」
無理矢理声を絞り出して、そう言うのがやっとだった。
「鍵!鍵だけでも開けられますか?!」
「うん……、でも俺、汚いよ………」
「何言ってんですかー!!そんなこと言ってる場合と違うでしょう?!開けて下さいって!!」
藤尾がドアをバンバン叩いて叫んでる。………煩すぎたよ。人が集まって来たらどうするつもりだよ。
仕方なく何とか立ち上がり、鍵を外してドアを開きかけたところで、よろけてしまった。倒れそうになったところを藤尾が抱き留めてくれ、手を借りて口を濯ぎ、廊下へ出た。
「大丈夫ですか?控え室まで歩けます?」
俺を支えながら、心配そうに聞いてくる。
「……俺以外、皆揃ってるか?」
「はい、さっき顔出したときには全員……」
そうか…それなら、エレベーターで鉢合わせすることも無いわけだ。……こんな惨めな姿……顕ちゃんに晒すのは、絶対嫌だ。
「……悪いんだけどさ、藤尾………控え室までじゃなくて、車まで…手、貸してくれるか?」
「え?車って……」
「俺の車まで。誰にも見られないうちに、早く……。頼むから」
事情を飲み込めてない藤尾を促して、エレベーターに乗った。ホッとひとつ、息を吐く。
「ごめん…。こんなんじゃ、どうせ仕事にならないし……皆に余計な心配かけたくないからさ」
「……まさか、そんな身体で運転して帰るつもりじゃないでしょうね」
「うん…、車で少し休んで……良くなったら運転くらい出来ると思う…」
吐いた直後よりは、少しは体の自由がきく。何とかなるだろう……。
「…僕、送ります。僕が運転しますよ」
「…免許、持ってたっけ…」
「持ってますよ。維持費が追いつかなくて、車は手放しましたけどね」
藤尾の好意に甘えることにして、助手席に乗り込んだ。自分の車なのに助手席に座るのは、変な感じがする。
と、藤尾が携帯を取り出して、何やら調べ始めた。表示画面を見て考え込み、一人でうん、なんて納得して、車を走らせた。………あれ?ちょっと待て。
「藤尾……方向違うよ…」
「いいんですって、こっちで」
藤尾がきっぱりと言った・
「ここから近くて夜間診療もやってる病院、探しましたから。そっちが先です」
え?病院って……?思いがけないことを言われて、驚いた。
「え、あ、でも…保険証持ってないし…」
「そんなん、後で持ってくりゃいいんです。診てもらう方が先でしょう」
そう言った藤尾の横顔は、今まで見たこと無いくらい真面目で。仕事のときの、いっぱいいっぱいな感じは無くて。“言うこと聞いて貰いますよ”みたいな、威圧感さえあるような気がした。俺はおとなしく、シートにもたれ掛かった。
 リバースしたとはいえ物は食っていたので、胃カメラは後日ということになったが、診断の結果はストレスからくる『神経性胃炎』だろうということだった。喉の痛みは、恐らく吐瀉物で喉の粘膜が傷ついたせいだろうとのことで、大したことは無いらしい。でも胃炎の方は、面倒臭いことに週一回、血管注射をしてもらわなければならないとのことで。そして今は、藤尾に付き添われて点滴中。
「………なーんか……情けないよなあ……大の男が付き添いつきで病院くるって……」
「病気なんだから仕方ないでしょう?それより、具合どうです?」
「んー…、少しは楽になったかなあ…。そういえば、お前どうしてあそこに居たの?」
都合良く現れてくれて、助かったけど。
俺の言葉に、藤尾は複雑そうな顔をした。
「…僕たちも収録があったんです。たまたま同じ日で良かったですよ。ちょうど終わって帰ろうとしたら、音尾さんが凄い顔色でトイレ駆け込んでいくのが見えたから、どうしたのかなって思って、暫く廊下で待ってたんです。でも、なかなか出てこないから心配になって………」
………ああ、全部見てた訳ね。俺のみっともないとこ。
「びっくりしましたよ。鍵も開けられない位だったら、隣の個室の便器踏み台にして、そっち行くしかないかなあって」
………聞けば聞く程、情けなくなってくる。
「でも、大したこと無くて……良かったですよ」
そう言って笑った藤尾の目は、とても優しかった。
「…藤尾…、俺の身体のこと、皆には黙っててくれな。頼む…」
「…それは構いませんけど…。…音尾さん、安田さんと何かありました?」
突然顕ちゃんの名前を出されて、ぎくりとした。
「…なっ…何で?」
「…ここに来る途中、うわ事で何回も読んで………泣いてましたから」
「…俺が?まさかぁ。顕ちゃんとだって、何もないって」
俺は笑って誤魔化したが、内心ヒヤヒヤしていた。………そっか。泣いてたんだ、俺…。
「……なら、いいんですけど。ストレスからきてるって先生が言ってたでしょう?原因、思い当たります?」
「…最近忙しかったから、きっとそのせいだろ」
やけに突っ込んでくるような気がして、俺の声も少し苛立ってしまった。
「…立ち入ったこと、聞くつもりはありません…。ただ、音尾さんが心配なだけです…」
呟くように、藤尾が言った。……そうだ。俺、こいつに助けられたのに。第一こいつは俺と顕ちゃんの事なんて、何も知らないんだ。
「ごめん、藤尾……。今日はほんとに助かったよ。…有り難う」
「礼なんていいんです。早く直して下さい」
「今度さ、飯奢るよ。好きなもん、何でも」
飯と聞いて、藤尾の顔がぱっと明るくなった。
「ホンマですかー?僕、吉牛がいいです!」
「…安上がりだなぁ…そんなんでいいんだ?」
呆れ口調の俺に、藤尾は悪戯っぽいかおをして、ニヤリと笑った。
「一回だけなんて言ってませんよ、僕。安い分、何回奢って貰いましょうかねえ……」

 点滴も終わり、家まで送ると言い張る藤尾を『大丈夫だから』と説き伏せて、家路についた。帰り際、『吉牛、何杯でも食える身体になって下さいよ』と藤尾に言われたのを思い出し、つい思い出し笑いをしてしまった。体調は最悪だけど、今夜は何となくぐっすり眠れそうな気がする。そんなことを考えながら、アパートの階段を登った。上着のポケットを探って鍵を取り出し、顔を上げてぎくっとした。俺の部屋の前に、佇む人影。
「―――――顕ちゃん……?」
顕ちゃんが俺に気付いて、向き直った。
「どうしたの?いつからここに…」
「いや、ついさっきなんだけど。収録来ないから皆で携帯に掛けまくったんだけど、ずっと留守電だったし、ちょっと心配になって…顔だけでも見れたらと思って…」
「あっ…ご、ごめん…前の仕事が長引いちゃって…連絡する暇も無かったし、仕事中だから電源も切ったまんまだったんだ」
俺は必死に嘘の言い訳をした。ほんとは病院の中だからって、藤尾が気を利かせて電源を切っといてくれてたんだ。顕ちゃんはそれに対しては何も言わず、俺の顔をじっと見てる。
「顕ちゃん…?」
やっぱり、無理がある嘘だったかな…。
「…この前よりも顔色が酷い。ちゃんと行った?病院」
顕ちゃんらしからぬ、厳しい口調。本気で心配してくれているのが分かる。
「明後日、検査の予約入れたんだ。取り敢えず簡単な診察だけして貰ったけど、大したことは無いから。……心配、しないでよ」
「そっか……。結果、分かったら教えてよ」
「……うん…。あ、折角だからあったまって行きなよ。お茶入れるから」
言いながら、顕ちゃんの手に触れて、はっとした。ついさっき来たばかりだと言った顕ちゃんんの手は、凄く冷たくて。………ほんとはずっと待っててくれたんだ、俺を。
でも、俺はそれに気付かないフリをして、顕ちゃんを中に招き入れた。
「顕ちゃんの作ってくれた飯のお陰でさ、これでも最近はかなり調子良かったんだよ」
お湯を沸かしている間、何だか手持ち無沙汰で……ペラペラ喋ってしまう。
「僕の作ったやつ…って、何日分も無かったでしょ?」
「ん、お粥なんかは自分で作ったけど、おかずは結構もったよ?鍋一杯だったじゃん。野菜の煮付けとか」
「ああ、あれねー…。注意されるんだ、よく。いろんな具材が入ることを頭に入れないで、適当に材料ぶち込んで行くとね、ああなっちゃうの。だから…」
そこまで言って顕ちゃんは、しまった、って顔をした。馬鹿だね……。俺も大概、馬鹿だけど。いいんだよ。そんな気、遣わなくて。だって結婚する前は、煮付けどころか玉ねぎのみじん切りのやり方さえ知らなかったじゃない。
「それれでまずけりゃ大変だけど、旨かったからいいんじゃない?」
顕ちゃんの言葉にも表情にも気付かないフリで、俺は話を続けた。丁度お湯も沸いて、ティーバッグを放り込んだカップに注いだ。顕ちゃんにカップを渡し、自分も一口啜る。じり……と胃にしみて、医者の言葉を思い出した。極端に熱いものや冷たいもの、刺激の強いものは避けろって言われてたっけ。………ストレスの原因も、取り除くように心掛けろって。―――――ストレスの、原因………。
「琢ちゃん?」
「あっ、ごめん…ボーッとしちゃった。今日の仕事、最悪でさあ。旅コミの焼肉店巡りで、すっかり胃がくたびれちゃって…」
明るくしようと思えば思う程、空回りしてくのが自分でもよく分かる。顕ちゃんに肩を抱き寄せられて、俺は顕ちゃんの胸にもたれ掛かった。
「……俺さあ…、大っ嫌いだ……今の自分……」
思わず、口を突いて出た虚ろな呟き。顕ちゃんはどう思っただろう。何も答えず、ただ俺の肩を抱く手に力を込めた。
「…ごめんね…。分かってるんだ。俺がこんなだから…突き放せないんだよね……顕ちゃん、優しいから………」
「…琢ちゃん…?」
「…俺ね、大丈夫だよ?顕ちゃんがいなくても、大丈夫だから……。だから……」
……何だろ…。何だか熱い。だんだん力が入んなくなってきた……。
「琢ちゃん…?!」
顕ちゃんの手が頬に触れた。まだ冷たいままの、手。ほんとに馬鹿だね、顕ちゃん……。何時から待っててくれたんだよ…。

 胃が痛くて気持ち悪い。……息が苦しい。――――――ストレスの原因が何かなんて、考えるまでもない。でも、分かってても…情けないけど、自分じゃどうすることも出来ない……。
「……ん……ちゃ…ん……」
「琢ちゃん?!」
顕ちゃんの声に、うっすらと目を開けた。俺の顔を心配そうに覗き込んでる。状況を把握出来なくて、周りを見渡した。自分の部屋だよな……?ここ……。
「……どうしたんだっけ……俺………」
頭が朦朧としてて、何がどうなったのか覚えていない。
「倒れたんだよ。……酷い熱でびっくりした……気付かなくてごめん…」
「…ああ、そっか……。何か熱いなーって思ってて、それで……」
顕ちゃんの手が、優しく髪を梳いた。
「泊まってくからさ、ぐっすり眠りなよ」
「……いいよ。確か明日は早朝ロケでしょ?家帰って……顕ちゃんもゆっくり寝ないと」
傍に居てくれようとするのは嬉しい。嬉しいけど。
「でも…」
「だいじょぶだって!寝てれば治るから。…ね、帰って休んでよ」
渋る顕ちゃんを無理矢理追い返し、胃の辺りを押さえてベッドに丸くなった。
「……て……」
痛み止めが切れてきたのか、じりじりと痛みだしてきて、全身に汗が滲んだ。それでも、胸の痛みよりはずっと………マシだった。

 胃の痛みで、ちょっと眠っては起きてを繰り返しているうちに、朝を迎えてしまった。頭がボーッとする。そう言えば昨日は注射やら点滴やらで、風呂にも入っていなかったっけ…。のっそりと起きあがって、風呂場まで歩いてみる。何とか大丈夫みたいだ……。服を脱ぎ捨て、鏡に自分の姿を映してみて、溜息をひとつ。貧相になった気がする……顔色も相変わらず良くない。仕事に支障をきたすほど身体ボロボロにして、周りに心配かけて…何やってんだろうね、俺は。
 熱めのシャワーを頭から浴びて、少しは頭もすっきりした。薬を飲まなきゃならないから、何か一口でも食わなきゃと思い台所を探っていると、携帯が鳴ってドッキリした。顕ちゃんからかと思ったが、違った。
「…もしもし…?」
「音尾さん?お早うございます。どうです?具合…」
藤尾だった。気を張らなくてもいい相手からで、ホッとした。
「まだ痛むけど大丈夫だよ。明日はオフで検査だし、今日さえ乗り切れれば」
「…明日、僕も暇なんですよ。ついていきましょうか?」
真面目な声で言われて、面食らってしまった。
「藤尾、お前それ……本気で言ってんの?」
「…本気ですけど」
「…あのな…、大丈夫だから!昨日のことは感謝してるし、心配してくれるのも有り難いけどさ。………お前、それでわざわざ電話くれたの?」
「……はい。心配だったもんで」
“いけませんか?”とでも言いたげな、不満そうな藤尾の声。後輩にここまで心配されるなんて、はっきり言って情けない……。
「とにかく、大丈夫だから。………有り難うな、藤尾」
「…忘れないで下さいよ、約束。それじゃ」
電話を切って、はて?と昨日のことを思い出してみる。ああ、吉牛のことか……。結局それかよ、あいつ。そう思いながら、俺は笑っていた。


 検査の結果、胃に傷が見つかったが大したことは無く、前回言われた通り、当分飲み薬と週に一度の通院が必要とのことだった。面倒臭いが、仕方ない。でも、こうなると仕事が来るのは有り難いことだと思いつつも、当分グルメレポーターだけは遠慮したいと思う……。
病院から戻り、少しでも身体を休めようと、ベッドに入った。せっかくのオフなのにな……などと思いつつも、考えてみればいつも寝て過ごしてたっけ。でも、好きでごろごろ寝てるのと、病気で仕方なく横になってるのとは違うもんな………。そういえば顕ちゃん、検査結果を教えろって言ってたけど……きっと今頃仕事してるよな。メールしておこう……。枕の横に置いてあった携帯を開き、大したことなかったと一言だけメールを送信した。一昨日、無理矢理追い返してしまったから、気を悪くしてるかも知れないな……。冷たい手だった。いつ帰ってくるか分からない俺を、心配してずっと外で待ってた。俺の調子が悪そうなときや疲れてそうなときは、絶対抱こうとしなかった。………顕ちゃん。そんな風に優しいから、余計に辛くなるんだよ……。顕ちゃんが俺を初めて抱いたとき……押し倒されたとき、俺も気付いちゃったんだ。友達として大好きだって感情とは別の思いに。彼女がいるって知ってても、心の中でずっと、そうなることを望んでいたんだって……。だからもしあのとき抵抗して、そういうことになってなかったとしても………きっと、結果は同じだった。仲のいい友達として無邪気に笑い合うことが出来た、以前の俺たちには……いずれにせよ、戻ることは出来なかったんだ………。
 いつの間にか熟睡していたらしく、目を覚ますと、外はとっぷりと日が暮れていた。時計を見ると、顕ちゃんがレギュラーで出てる夕方の情報番組も、とっくに終わっている時間だった。……メール、見たかな……なんて思っていたら、携帯が鳴った。顕ちゃんだ。
「もしもし…?」
「琢ちゃん?寝てた?」
「ううん、今起きたとこ。メール見た?」
「うん。今から行っても大丈夫かな」
「大丈夫だよ。気を付けて来てね」
いつもの通りの顕ちゃんだった。きっと、検査結果や治療のことなんか、根掘り葉掘り聞くつもりなんだろうな……。
 三十分経って、顕ちゃんが晩飯片手にやって来た。デパ地下で買ってきたというそれらは、やっぱり胃に優しいものばかりで。煮魚や、かぼちゃの含め煮やら。
「どうせろくなもの食べてないと思ってさ。お粥炊くのは時間がかかるから、今日はレトルトね。俺も腹減ったし」
顕ちゃんはそう言って鍋でお湯を沸かし始めた。
「で、どうだったの?検査」
「どうって…メールしたじゃん」
「あれじゃ大雑把過ぎて分かんないよ。どういう状態だった訳?」
やっぱりね。予想してた通りだ。
「…胃に、いくつかの傷があるって。飲み薬と、週一で通って血管注射とかしなきゃならないんだって」
「そっか……じゃ、食事も気を付けないとなんないね」
「ん……。極端に熱いものと冷たいものは避けて、消化の良くないものと刺激のあるものは食べるなって言われた…」
医者に言われるまでもなく、胃の調子が良くないときに揚げ物たっぷりのロケ弁を食べて死ぬ目にあっていたから、ずーっとお粥やら果物やら、消化のいいものばかりを食べてはいたけど。その結果、体重が激減してしまってて。家には体重計は無いから、病院で計ってびっくりしてしまった。どうりで、ズボンのウエストがブカブカな訳で……。
「僕もさあ、もっといろんな料理マスター出来るように頑張るよ。不器用の汚名は返上したいしね」
顕ちゃんの言葉に、思わずぷっと笑ってしまった。顕ちゃんはそんな俺の顔を見て、にっこりと微笑んだ。
「…何?顕ちゃん」
あんまり綺麗に笑ったから。
「…最近、琢ちゃんの笑った顔、見てなかったからさ。笑ったなあって思って……」
はにかむように顕ちゃんが言った。言われてみればそうだ。心の底から笑ったこと……もうずっと、無かった。
「で、原因とかも解った訳?」
核心を突かれてどきっとしたけれど……言ったらどんな反応するか見たくて、言ってしまった。
「うん……、不規則な生活と………ストレスのせいだろうって。ストレスの原因を、取り除くようにしろって……」
顕ちゃんが、俺に向き直った。少し、悲しそうな顔をしているように見える。俺はそれを見て、嬉しいなんて思ってる。……………最低。
「琢ちゃん……、僕は………」
言いかけた唇を、自分の唇で塞いだ。
「琢ちゃん……?」
答えず、ガスを止めた。困惑した顔で俺を見つめている顕ちゃんに、俺はもう一度口付けた。
「…顕ちゃん……、何も言わないで。…抱いて……?思いっきり……」
目茶苦茶にして。何も考えられないくらい……。…ごめん。“サヨナラ”の言葉は、まだ………聞く覚悟、出来て無いんだ………。
顕ちゃんは切なそうに俺の顔を見つめた後、俺を抱き上げた。大幅に体重の落ちた俺の身体は、たやすくベッドまで運ばれた。顕ちゃんの手がもどかしそうにパジャマのボタンを外していき、顕わになった肌に口付けられた。
「……っ、あ……」
胸の突起を舌で転がされ、きつく吸い上げられて、声が漏れた。顕ちゃんは、どこをどうすれば俺が感じるか、よく分かっていて……的確に、俺が感じる場所を刺激してくる。
「顕ちゃん……顕…、ちゃ……」
胸が苦しくて仕方ない。好きで好きで……どうしようもなくて。切なさで胸が張り裂けそうになる。涙が溢れて、止まらなかった。
「琢ちゃん……、泣かないで?」
耳元で優しく囁いた。指先で涙を拭い、深く口付けられて、俺は顕ちゃんの背中に両腕を廻した。顕ちゃんの唇が、胸、腹と辿っていく。
「…ふ…っ…、あ、ああんっ…」
顕ちゃんの唇が俺の一番敏感な部分を含み、舌先で舐め上げては先端をきつく吸い上げた。
「や……、いやっ……」
顕ちゃんは頭を上下させて、更に刺激を与えてくる。舌先で先端を何度もつつかれて、身体ががくがくと震えた。
「あ、あっ……も…う……!!」
一瞬、頭の中が真っ白になって――――――俺は、シーツの上にぐったりと身体を沈めた。俺の吐き出したものを飲み込んだ顕ちゃんが、そこから顔を離し、息が荒いままの俺を見下ろした。
「可愛いよ、琢ちゃん……」
俺がイった後で、顕ちゃんがいつも言う言葉。恥辱を煽られて、全身がカッと熱くなる。
「もっと…可愛い声、聞かせて?」
「…ひぁっ?!あ、ああっ……!!」
顕ちゃんが言い終わるか終わらないかのうちに、身体の最奥に指が差し入れられた。
「…ぃや…っ……あ、あんっ……」
内壁を擦られ、どうしようもなく身体が疼き出す。指を増やされ掻き回されて、自分でも信じられない程の甘い声を上げていた。次の刺激が欲しくて……目を開けて、ねだるように顕ちゃんを見上げた。
「…どうしたの……?琢ちゃん…」
どうして欲しいか分かっていて、わざと意地悪く聞いてくる。
「ああっ…!!顕…ちゃ…、ぃや、ああっ……!!」
顕ちゃんの指が、更に奥まで突き入れられて……俺は、泣き叫んでいた。
「…顕ちゃっ……、お願い……も…う…!!」
指じゃなく、顕ちゃん自身が欲しくて。もっともっと狂わせて欲しくて。
くちゅ…といやらしい音を立て、顕ちゃんの指がそこから引き抜かれた。脚を大きく開かれ、強烈な圧迫感と快感が、同時に俺を襲った。
「ああっ…は、あ、ああっ……!!」
激しく突き上げられて、俺は頭を振りたくっていた。壊されてしまいたい。顕ちゃんの存在を全身で感じながら、このまま死んでしまえたらいいのにと思った。
そうして、空が白みはじめるまで何度も――――――身体を重ね、快感を貪り合った………。

 目を覚ますと、顕ちゃんはもういなかった。枕の横にメモが置いてあって、“早朝ロケがあるので帰ります。ちゃんと食事摂るんだよ。また連絡します。”と書かれてあった。睡眠時間なんてほとんど無かった筈だ。そういえば、腹減ってるって言ってたのに、結局食べないままだったっけ……。出掛ける前に、何か食べていっただろうか。そんなことを考えながら起きあがってみると、身体の節々と、胃までもがズキッと痛んで、俺はまたベッドに突っ伏した。身体が痛いのは仕方ないとして……胃の方は、恐らく昨日の晩、薬をサボったせいだ……。幸い、今日の仕事は夜からだから、それまでに何とか調子を整えよう……。
よいしょ、と起きあがって冷蔵庫を開くと、手付かずのままの二人分のおかず。ガスコンロには、鍋に放り込まれたままの、レトルトのお粥。やっぱり、何も食べて行かなかったんだ。昨日のままだもの。家にはちゃんと連絡入れたんだろうか……。
「い……てっ………」
胃が、突然ぎりぎりと痛みだして、俺はその場にうずくまった。
『ストレスの原因を取り除くように』
医者に言われた言葉が、頭をよぎる。―――――無理だよ。分かっちゃったから。このままでいい訳ないのは、頭ではよく分かってる。でも、顕ちゃんがいないと、どっちにしたって俺、きっとダメだから。もしこのまんま胃が悪化しちゃって、ぼろぼろになっても………俺は顕ちゃんと居たいから。その先にあるものが絶望だとしても………。



  






Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!