安田はサイドテーブルの小さな引き出しを開け何かを取り出してシーツの上で脱力したままの音尾をちらりと見遣ると、手にした物と交互に見比べた。
眉間に僅かな皺を作り、やや難しい顔をしながらベッドに戻る。
ベッドから落ちて床に有った小さめのクッションを拾い上げ、四肢を投げ出したままの音尾の上に覆い被さる。
音尾の腰の下に手にしたクッションを少し強引に押し込んで腰を高くすると、再び膝裏を持ち上げて奥まった部分を良く見える状態にする。
身体を割り込ませて抑え込みながら、先程持ちだしてきた物を手にする。
それはローションが入っているボトルで、今までは数々の女達との享楽に使っていた仕事道具のような物だった。片手で蓋を外すと中身をたらたらと音尾の奥まった部分に垂らした。
今まで抵抗する力も無いのかほぼ無抵抗だった音尾がびくっと身体を揺らす。
「な…………に……するの…?………」
息も絶え絶えといった様子で言葉を絞り出している。
「大丈夫大丈夫…………ちょっと我慢してたら気持ちよくしてあげられる………と、思う………」
語尾がやや自信なさげな安田だ。いくら百戦錬磨の安田でも男が相手では流石に不安らしい。
「もうやです…ぅ…………なんで俺、こんな恥ずかしい格好してんですか…ぁ………」
音尾は今にも泣きそうな顔をして顔を紅潮させている。
安田は何も言わずにじっとその目を見つめた。そして、無言のまま手にしたローションを自分の右手にも垂らしたっぷりと液体を指先に絡めた。
指を音尾の秘部に押し当て、ゆっくりと慈しむように周囲を撫で回したり押したりしていたが、やがてゆっくりと一本の指をそこに差し入れる。
音尾の口から呻き声が漏れた。得体の知れない恐怖と圧迫感が音尾の身体を強張らせる。
「………力、抜け! 音尾っ………これじゃきつい…………」
「無理! 絶対無理だってば……………怖い…ッ…………」
音尾は半狂乱で叫ぶ。自然と涙が溢れてきてぼろぼろとこぼれた。
「音尾くん………俺を信じて……………大丈夫だから…………」
安田がゆっくりと子供に言い聞かせるように耳元で囁いてこぼれ落ちる涙を舌先で舐め取ってやる。
そのまま唇を吸い上げて下を絡め合わせた。
音尾は大きく息を吸って吐いた。まだ小刻みに身体を震わせているがやや力は抜けたようだ。
「いいぞ、音尾!いいか、怖くない………怖くない……………」
音尾が落ち着くまで安田は時間をかけて入れた指を動かさず、やや落ち着いた頃ゆっくり蠢かせた。
それも中を傷付けたりしないように、痛くないように慎重に気を配って粘膜をゆっくり広げていく。
指の動きに慣れ、音尾の口から甘さを秘めた声が漏れ出すのを見計らって指の数を増やした。
時折ローションを足してやると音尾の身体の奥底から淫らな水音ががらんとした室内に響く。
くちゅくちゅと音を響かせて安田が指を動かす度、音尾は自分の口から信じられないほど甘い吐息や喘ぎ声が漏れることに驚いていた。
先程まであんなに気持ち悪くて辛かったのに、今や頭がおかしくなりそうな程強烈な快楽が時折身体を駆け抜ける。
一体自分はどうしてしまったのか――――?
頭の片隅でそんな事を思いながら、一方ではもっとこのままで居たいと思う自分もいる。
「や………すだ…さぁ………ん………………俺、なんか…………変……………」
頬を赤らめて小さな声で呟く。
安田は口許にようやく余裕の笑みを浮かべて音尾の唇を啄むように口付ける。
「いいよ………音尾、もっともっと…変になっちまえ……………」
安田は嬉しそうに音尾の唇を舐め回しながら言う。
音尾の中を掻き回していた指をゆっくりゆっくり引き抜いた。
音尾の口から切ない呻き声が上がる。ようやく慣れてきたこの行為が突然終わってしまう名残惜しさのようなものと、身体の中から何かが排出される違和感に顔をしかめる。
安田は音尾のそんな困惑の表情を見下ろしながら、満足そうに額に唇を押し当てた。
「大丈夫……大丈夫だ、音尾……」
両手で音尾をきつく抱き締め、何回か瞼や唇に口付けをする。開いた唇の中に下を滑り込ませ、水音をさせて舌を絡めてやると、音尾も怖ず怖ずとそれに応じた。
腰の下に当てたクッションを調整し、音尾の両脚を持ち上げて奥まった部分を露わにすると、今まで解していたその部分がローションにまみれててらてらと光っている。
安田は着ていたローブを勢い良く剥ぎ取ると部屋の隅まで放り投げる。音尾の視界には暗めの照明の中に浮かび上がる安田の引き締まったブロンズ色の肉体が今まさに自分の脚を抱えて自分の中に押し入ってこようとする様が飛び込んでくる。
手にしたローションを再び敏感な部分に垂らされる。安田は自分のモノにもそれを振り掛け、ローションも床に放り投げた。
力強く天を仰いだ安田の分身は今までの武勇伝をその姿のみで雄弁に語っているようだ。
透明なローションをたらたらと滴らせて光を纏っている。
安田はシーツを握り締めていた音尾の右手を取ると自分の雄を触らせてみる。
口許にうっすら笑みを浮かべて有無を言わさぬ雰囲気を漂わせながら、その指先で自分の怒張したモノを確かめさせた。液体に塗れたソレはますま力強く反り返る。
途端に音尾の背筋に冷たい恐怖が走った。これから襲いかかる未知の恐怖がじわりと音尾を現実に引き戻した。
ごくりと唾を飲み込み、身体を強張らせる。
そんな様子を安田は無表情に見つめながら、無言で音尾の秘部に自分の分身を押し当てる。入り口辺りをローションと先走りで濡れそぼるモノで撫で回すと、ゆっくり入り口に押し入った。
「…う………っ………ああ…ッ…………」
音尾が苦しそうに悲鳴を上げると、安田は動きを止めた。
ほんの少し差し入れたままでじっと音尾の中が緩むのを待つ。
「…………音尾、力抜いて………ゆっくり、息を吐いて………」
言われるまま、半泣きで音尾がそれに従う。安田が額から脂汗を垂らしながらほっと安堵した表情を見せた。
少し緩んだそこから一旦ぐいっと自分の雄を引き抜き、再び穿つ今度は最初よりも少し深めに。
そんな事を根気よく何度も繰り返す。
音尾は身体が半分に引き裂かれるのではないかと言うような痛みに無我夢中で悲鳴を上げる。
「痛いッ!………痛ぇよ…………安田の馬鹿ぁ…ッ………」
涙をぼろぼろ零してシーツを必死に握り締めて叫ぶ。半狂乱状態で上司を呼び捨てにしていることにも気付かない音尾。
安田は何を叫ばれても耳を貸さず、一心に音尾の中を自分のモノで穿つことに集中している。
ようやくすっかり中に納めてしまうと、ふうっと息を吐いてその状態で音尾を見下ろす。
音尾は顔をくしゃくしゃにして泣き喚いている。
安田がゆっくりと身体を音尾の上に重ねて両手で強く抱き締めるが、音尾は掠れた声で悲鳴を上げる。
「止め…ッ………動くな…ぁ…………っ………………ひっ…………ああ……………」
音尾の背中の下に腕を回してきつく抱き締めながら緩やかに腰を動かして音尾の身体を刺し貫いた雄を出し挿れする度、身体の下で音尾が悲痛な呻き声を上げ続ける。
「音尾………きついって………もっと力抜いてくれないと…………辛い………」
耳元に息をふっと吹きかけて耳たぶを舐めながら囁くと、ほんの少し音尾の身体から緊張が解ける。
「お前ん中…………すげえ、いいわ……音尾………」
ぐちゅぐちゅと音を立てながら徐々に動きを早め、より深く繋がるように抉っていく。
「んん………っ…………や………あ………っ……………」
音尾の声は喘ぎ声とも呻き声ともつかぬものになっていた。引き締まった綺麗な身体の中に楔を穿たれる度、時折大きく震えては一層切ない声を漏らす。
異物に慣れてきた音尾の身体が安田から与えられる陵辱行為に何らかの反応を示し出しているのは確実だ。
安田は荒い息遣いの中、夢中で腰を使って音尾の中の粘膜を擦り続ける。どの部分で一番良い声を出すか…慎重に観察を続けながら。
安田の肩に縋り付いて動きに合わせて甘い声を上げ続ける音尾だが、時折悲鳴にも似た嬌声を上げて身体を反り返らせる。
「見つけた……音尾君は、此処が好きなんだね………」
段々口調がいつもの得体の知れない安田に戻ってきているようだが、そんな事には気付かず嬉しそうな顔をして目指す部分を正確に擦り上げる。
「な………何!?………何それ…っ…!?……………ひっ…………ああ…ッ…………」
身体をびくびくと震わせて音尾が悲鳴を上げた。安田は荒い息を吐きながらリズミカルに音尾を突き上げてくる。
音尾は何が何だか解らないまま目の前にストロボが幾つも焚かれたような光景を見た気がしていた。
足のの指の先まで電流のような甘い痺れが駆け抜け、そのまま絶頂に達してしまいそうななもの凄い快楽に気が狂いそうになる。
いつの間にか安田の手が音尾の分身を弄くっていた。
先走りの液を止め処もなく滴らせているそれを指先で弄び、此方もリズミカルに擦ってくる。
「………や……あッ……………駄目…………ぇ………ッ………………」
安田がぴたりと動きを止めたほぼ同時に音尾が身体を硬直させて安田の手の中で達し、安田も大きく息を吐きながら数回身体を震わせて、音尾の中に精を射出した。
力の抜けた身体が音尾の上に覆い被さってくる。
今まで力強く動いていた筋肉質の身体がどさりと体重を掛けて倒れ込んできて、音尾の身体にぴったりと重なる。
汗びっしょりの身体は熱く、肩で盛んに息をしている。
音尾と言えばまだ安田が中に納まったままなのでまったく身動きが取れず、やはり肩で息をしていた。
「音尾………」
音尾の唇に自分の唇を何回か重ねてから、安田がぼそりと耳元で囁く。
「俺のこと………好きだろ………」
安田に耳元でそんな甘い声で囁かれ、音尾は紅潮させていた顔を更に耳まで赤くした。
「素直になってみ…………」
ぎゆっと抱き締められながらまた囁かれて、音尾は小さく頷いた。
「……………………俺も音尾好き………大好き…………………」
そう言って両腕で強く抱き締めた。
抱き締めていた身体を弄ぐる。音尾の身体は先程の余韻のせいか愛撫に敏感に感じては身体を震わせる。その度にまだ繋がっている部分も蠢いてしまうのか、締め付けられた安田が甘い吐息を漏らした。
「…………音尾、もう一回……………」
そう呟くと機敏な動きで態勢を整え、再び音尾の中を穿ち出す。
「……う…っく……は……………ぁん…っ…………」
時々腰を使って中を掻き回されるたび、音尾が口から甘い声を漏らして、あわてて両手で口を塞いだ。
「可愛いよ………音尾…………もっと聞かせろよ……」
ぐいっと腰を使うと音尾が悲鳴を上げて身体を仰け反らせる。
無意識に逃げようとする腰をがっちりと掴んで引き寄せ、リズミカルに抽挿を繰り返した。
「ひ………ッ……………あ………………」
「音尾………可愛い顔してる………もっと見せて…………」
掴んだ腰をしっかりと持ち音尾の両手を首に回させて、挿れたまま音尾を楽々持ち上げた。そのままベッドの上に座り込んだ安田は悲鳴を上げている音尾を膝の上に乗せてしっかりと上半身を抱き締めてやる。
下からの安田の雄を受け入れた状態で音尾が身体をひくつかせた。
安田が目の前にある音尾の胸の突起を口に含んだからからだ。いやらしく舌先で転がすたびに音尾の中が妖しく蠢く。
音尾の両腕が安田の頭に絡み付き髪の中に指を差し入れて所在なげに彷徨う。時折髪を握り締めてしまうので安田が痛みに顔をしかめる。
「俺………変になっちゃいそう……………」
音尾が絞り出すような声で呟く。
下からガンガン付き安慶名がら安田が答えた。
「もっともっと変になっちまえ………もっと乱れたお前を見せて、音尾。」
そう言って音尾のモノに手を這わす。
突き上げられる振動で揺らされているソレは二人の身体の狭間で反り返り、じわりと先走りの液体を滲ませている。
指先に液を絡ませたり先端に爪先をめり込ませたりして弄くり回していたが、突然するりと安田の手が離れてゆく。
困惑する音尾の顔を下から覗き込む安田。
「俺のだけで……イけるか試してみっか…………」
音尾の顔が複雑な顔つきになる。それもその筈、今日初めて身体を重ねたばかりで何とも無理な挑戦であることは音尾にも解りきっている。
だが安田は不適な笑みを浮かべつつ、今まで以上に熱心に突き上げ始めた。音尾の形の良い尻たぶを鷲掴むと、激しくかつ丁寧に音尾の弱い部分を狙っている。
安田は息も荒くリズミカルに穿ってくる。いつしか音尾は動きに合わせて嬌声を上げているだけで、余計なことなど考えられなくなっていた。
再び目の前に幾つものフラッシュが光り、音尾は自分でもビックリする程の嬌声を上げて身体を強張らせる。
びくっ…びくっと数回身体を震わせて、空中に白いものを舞わせた。宙を舞った音尾の放つ精は安田の顔に降り掛かり、ゆっくりと下に垂れていく。
驚いたことに安田は動きを止めない。意味深な笑みを浮かべたまま緩急を付けて音尾の中を陵辱し続けている。
「……………安田……さん?」
開放感の余裕に浸ることも出来ず、再び追い上げてくるような快楽に身を苛まれながら、音尾が安田の顔を見つめる。
相変わらず意味不明な笑みを浮かべたまま、音尾の胸に舌を這わせてくる。
「……………嘘だろ……もう勘弁してよぉ………」
半泣きの音尾のことなどお構いなしで安田は精力的に突き上げてくる。一体どこにこんな精力体力が潜んでいたのか。化け物のようだ…と、ぼんやりとした頭で音尾はふと思いながら安田の肩にしがみつき、時折ぎりっと爪をたてた。
身体の奥から激しい快楽が泉のように溢れ出て、音尾を蝕んでいく。いてもたってもいられないような焦れったさと痺れるような感覚で気が狂いそうになって苦しさに指先に力が籠もってしまう。
ほんの少し前に達したばかりだというのに、出口を求めて彷徨う快楽は音尾の分身をみたび怒張させていた。
「安田さ…………もう俺………イきたい…………も………限界……で……す…………」
「おうし!音尾…………一緒にイくか………」
安田が満面の笑みを浮かべて音尾を見上げた。
そう言った途端に安田はますます動きを早めた。もう音尾は何も考えることなど出来ない。
ただ安田に縋り付いて口から止め処もなく悲鳴にも似た喘ぎ声を上げ、限界を目指す。
「音尾………音尾…ッ………」
耳から忍び込む安田の甘い声がさらに音尾を絶頂へと導く。安田が自分の名前を呼びながら自分の中で達してくれる喜悦に身を震わせた。
「や………すだ…………さぁん……………」
無我夢中で伸ばした手は安田の背に縋り付き、数本の赤い蚯蚓腫れを作る。
小さな悲鳴を上げながら身体を仰け反らせる。先程と同じように数回身体を震わせて精を放つ。
放たれたものは勢い良く舞い上がり、仰け反った音尾の顔や身体に降り掛かる。張りのある胸襟や綺麗に割れた腹筋に点々と落ちては重力に従い肌を伝っていく。
勿論安田の顔にもまた掛かっていた。頬の辺りから口許に滴り落ちてくものをぺろりと舌で舐め取った。
その安田もようやく動きを止め、大きな息を吐きながら音尾の内部に自らの精を送り込んで、満足そうな笑みを浮かべていた。
そろそろ空が白んできていた。
薄明かりのみだった部屋にも外の明るさが忍び込んでくる。
ベッドの上で座りながら微睡む音尾を嬉しそうに背中から抱えて抱き締めている安田が力なくもたれ掛かってくる音尾の髪を撫でている。
音尾はもう意識も飛んだ状態でぐったりと身体を預けたままだが、その身体には彼方此方に吸い上げられた赤黒い鬱血跡が点々と散らばっている。
あれから更に夜通し安田に慈しまれ、もはや心身共にくたくたといった様子だ。
安田はやつれた様子ひとつなく、まだ精力有り余るといった風体でにやついている。
「―――――――安田さん………お願い、もう寝かして貰える?」
目を閉じたまま音尾が力なく呟いた。
「……………さあなぁ……………」
安田商事の総務二課の一角で、今日も音尾は勤勉に職務をこなしている。やや疲れた様子を見せてはいるが仕事に手を抜くことはない。
今回のパートナーは森崎だ。森崎と二人で調査してきた内容を音尾が取りまとめ、レポートとして纏めている最中だ。
「すまんなあ、音尾。お前にばっかり作業させて。」
キーボードをもの凄い速度で叩いている音尾の肩越しにディスプレイ画面を覗き込みながら森崎が言った。
「いいですよー、俺こう言うの苦にならないっスから。」
作業の手を一切止めず、音尾が笑う。
「あれ……音尾……お前首に……………」
森崎が音尾の襟元にふと目を留めた。Yシャツの襟元、首筋辺りに幾つもの痕跡を見つける。
「え!あッ!?」
慌てて首元を手で隠した。
「お前〜、随分激しい女と付き合ってんだなあ………」
羨ましそうな目をして森崎が意味深な笑みを浮かべていた。
「そ…そうだね………本当、しつっこいったらさあ!」
音尾が顔を真っ赤にして手で覆い隠した部分を数回撫でた。
その時音も立てず安田が入ってくる。
森崎がいち早く気付き、簡単な挨拶をする。音尾もゆっくりと振り返り、しかめっ面のまま同じように簡単な挨拶をするが、安田は顔色一つ変えず部屋の隅にうずくまって携帯をいじっている。
「それより音尾ぉ、そのしつこい彼女って…どうよ? そんだけ激しいって事は相当いい女か?」
森崎が興味津々に聞いてくる。
「ちょっ…ちょっと………もうその話はいいじゃん、仕事しないとさ。」
音尾は内心冷や冷やしながら森崎をあしらう。部屋の隅に居る安田を気にしつつ、仕事に戻るべくキーボードを叩き始めたが動揺しているのかミスタイプが続く。
「え〜…いーじゃん、教えてくれよ〜おーとーおぉぉぉぉぉぉぉ……」
無邪気な笑顔で覗き込む森崎。
「………なーに? 音尾君、いいこと有ったの?」
突然背後で甘くて低い声が響いた。
音尾の隣りにしゃがみ込んでいた森崎が驚いて後ろにひっくり返る。
安田がいつの間にか二人の背後に立っていた。音尾の両肩に両方の手を掛けて。
「や…………すだ…………さん……………」
音尾は顔を更に赤くして項垂れている。
「あー、音尾君首にこんなにいっぱいキスマーク付けて! 週末は随分とお楽しみだったんだねえ………」
安田はいつもとはうって変わって明るい口調で言い、音尾の肩をぽん…と叩いた。
音尾の顔が更に紅潮する。
自分で散々付けといて何故そんな事を言うのか安田の心情が理解出来ない。
森崎はようやく床から身体を起こしてその場にへたり込んだ。
いつもあまり自分から積極的に話しかけてこない安田がこんなにも親しげに音尾に絡んでいるこの光景に目を疑った。
更にこの場に今、大泉と佐藤が居ないことを残念に思った。あの二人ならさぞかし面白おかしく騒ぎ立てるだろう。
そういえばあいつら朝から嬉々として出掛けていったなぁ、最近妙に仲良しだもんなあ……。
そんな事を思いつつ、珍獣の動きを見守る心境で呆然と安田を見ていた。
「楽しみ………ましたよ、ええ! こんなにみっともない跡がいっぱい残っちゃうくらいにね!!」
音尾は顔を後ろに向けて口を尖らせながらやや語気を荒くして言う。
「へーえ……よかったじゃないのー、音尾君……」
安田係長は得体の知れない笑顔を浮かべてそう言うと、もう一度音尾の肩を軽く叩き、背を向ける。
「羨ましいねえ、本当。ねえ、森崎君!」
いつになく爽やかな声を張り上げて楽しそうに自席に戻った安田を更に呆然と見つめる森崎。
安田がわざと目立つ言動をする神経が自分のも解るような解らないような気分で、音尾は大きな溜息を吐いた。
これも安田の意味不明な愛情表現の一つなのだろうと察しがついて、もう一つ小さな溜息を漏らす。
今朝、安田のマンションの浴室で身体を丁寧に洗われた後、温かい湯が張られたバスタブの中で抱き合いながら安田が呟いた言葉を思い出す。
「音尾は………可愛いんだよなぁ。」
「男が可愛いなんて言われても嬉しくないッス……」
両腕を安田の身体に巻き付けた音尾が子供のように少し口を尖らせて言う。
「だって本当に可愛いんだよー、音尾は普段からさー………」
尖らせた唇の自分の唇を押し付けながら笑ってそう呟いた。
なんで、男の俺なんかが好きなんですか―――――?
音尾はそう問い質したい衝動に駆られたが、すんでの所で言いかけた言葉を呑み込んだ。
人が人を好きなるって……得てしてそんなもんなんだろうなあ、と一人で納得してみる。じゃないと自分だってどうしてこんなに安田が好きなのか解らない。
ただ単に格好良かったからだとか身体の相性が良すぎて絶頂天国を見られるからとか、そんな単純な理由でないのは確かだ。
今、こうして強く抱き締められているのが心地いいと感じられる、それが好きって事なんだろうなぁ……などと思う。
「お、やべっ……音尾、もう時間無いわ…………月曜日の朝から二人揃って遅刻なんてそれこそ洒落になんねえぞ………」
安田が慌てて湯船から飛び出す。
未だ余韻に浸っていたかった音尾は呆然とその背中を見、自分はゆっくりと湯から上がる。
全身を桜色に染め、何とも幸せそうな表情で。
BACK
*お戻りはブラウザを閉じて下さいませ…*
ひー。。。ようやくアップです。
昨年末辺りにアップしようと書きかけていた25小説。
結局年を越して、再び手を付けたのが今年の2月末。
何ヶ月寝かせてんのよ!?と、我ながら焦りました。
ただ、幸か不幸かハナタレでもつい最近特命シリーズをやっていたので
それだけはちょっとラッキーでした(笑)
それにしても前回の43の特命シリーズと随分雰囲気が変わってしまって。。。(汗)
何だか軽くておばかな雰囲気が満載というか。
やぱり描いてる最中にハナタレの音尾部長を見たせいか?(笑)
特命社員なのに部長。しかもセクハラモラハラ部長な音尾さんが印象強かったんですよねー。
いや、まぁライトな感じで書きたかったのでそれは関係ないか。
ともかく久し振りに25の甘々が書けて楽しかったで御座いま〜すv