ANDROMEDA
〜The princess currently restrained〜
[1]
ここ数ヶ月、大泉は何とも言えない苛立ちを感じていた。
何がと言われると答えに詰まってしまうのだが、漠然とした不安に苛まれているとしか言い様がない。
不安材料とは勿論シゲだ。
テレビの仕事で一緒になることも多く、今では公私ともに相方と言って差し支えのないシゲではあるが、夏頃から嫌な雰囲気を感じることが多々ある。
心変わりしたとかそう言った類のものではないようなのだが、どちらかと言えば浮気よりも質が悪いものだと大泉は思っていた。
それだけに当のシゲにきちんと問い質すことも出来ず、かといって自分の中で消化出来る程の余裕もなくて、ここのところ悶々とした思いを抱え込んでいるのである。
今日はお互い仕事もバラバラで、事務所でもほんの少ししか顔を合わすことは無かった。
大泉としては今日は久し振りにゆっくり食事にでも行こうと思い、仕事の合間にメールを送ってみたのだが……『今日は用事があるから駄目』と、にべも無い答えのみが返ってきた。
仕方がなく意気消沈のまま仕事を終え、駐車場に停めてあった車に乗り込む。だが自分の奥底からふつふつと沸き上がってくる苛立ちと、ただ純粋に逢いたいと思う気持ちが入り混じって、大泉はもう一度携帯を手に取った。
今度は直接電話をかける。
暫くのコール音の後、シゲがぶすっとした声で出た。
『…何よ大泉。今日なら駄目だって言ったべ。』
そんなにあからさまに不機嫌そうに出なくったっていいべや…と、大泉は内心傷つきながらもいつもの虚勢を張ってしまう。
「あ? 何がよ! 俺からの電話が迷惑とでも言いたげですけどね、佐藤さん! 俺まだ何も言ってないんですけど、その態度って…どうよ?」
言ってしまってからしまったと思いつつも、今更どうすることも出来ずに大泉は喧嘩腰で言い切ってしまった。
『………で? 何の用? 俺、今タケシとDVD見てるからさ、急ぎの用じゃないなら後にしてくれる?』
シゲはかなりムッとしながらそれだけを言って、さっさと切ってしまった。
慌てて聞き返そうとした大泉の声は、暗い駐車場に響き渡った後、微かな余韻を残して消えていく。
―――――大泉の中で漠然としていた不安が、今しっかりと嫉妬という形を持って現れ始めていた。
「何だったんですか? 何か怒ってるみたいですけど…」
手慣れた手つきでペットボトルからお茶をグラスに注いだタケシが、シゲにそれを差し出した。シゲはと言えば、自慢のプラズマテレビを見ながらも、心此処に有らずと言った感じでふくれっ面をしている。
「なんでもねーよ。お前が心配することじゃねーから…」
ぼそっと決まりが悪そうに呟いて、シゲはお茶を一口飲んだ。
内心、悪いことをしたという思いが大きかった。大泉にしてみれば少しでも余裕のある時に逢いたいと思っているのであろう事は、シゲにも理解出来た。
だが今日はタケシがわざわざ自分のために取って置きの有名アニメを持ってきてくれている。タケシとは趣味も合うし、話をしていても楽しい。何より可愛い後輩だ。
子犬のようにシゲさんシゲさんと慕ってくれれば、流石に悪い気もしなくて…ついつい最近はタケシと遊ぶことを優先させている。
それが少なからず大泉を傷付けていることも薄々感じてはいるが…どうもタケシに誘われると弱くて、つい大泉を後回しにしてしまうのだった。
「…そういや、あいつ…気にしてたっけなあ……」
ぽつりと呟いた。
ガタメの収録の際、調子に乗ってタケシの話を繰り返していたシゲに対し、いつになく大泉の声が真剣な色を帯びて『お前はいつになったら俺を下の名前で呼ぶのよ!』と叫んだ事があった。
その気持ちも解る。
ちゃんと解っているし、後から反省することもあるが、今更下の名前を呼ぶなんて事は気恥ずかしくもあり………結局素直になれずにいつも丁々発止のやり取りを交わし、喧嘩すれすれの会話で誤魔化していた。
「何が気にしてるんですか?」
タケシが気を遣って笑いながらシゲの顔を覗き込んだが、シゲは苦笑しながらグラスの中身を空にして、その質問には答えなかった。
暫くそんな風にDVDを見ていたが、どうも居心地が悪くてつい席を立つ。洗面所に向かい、じっと鏡の中の自分の顔を覗き込んでから…大きな溜息をひとつ吐いた。
鏡には冴えない顔の自分が映っている。楽しい筈の時間が思ったより楽しくなくて、無理に笑顔を作っているような…そんな疲れた表情に見えてしまうのが不思議だった。
何となく水を勢い良く出すと両手いっぱいでその流れを受け止め、顔をざぶざぶと豪快に洗った。
それからコンタクトを外し、眼鏡をかけてビデオを見に戻る。
「わーりぃ! コンタクトの調子が悪くてさ。外してきた。」
さも目の具合が悪かったというフリをして目を擦ってみせた。タケシは少し心配そうな顔をして見ていたが、何も言わずにリモコンを操作して一時停止しいた映像を流し始めた。
「あ、ごめんごめん。停めといてくれたのか! いやー、タケシやっぱ気が利くわ!」
バン…と背中を叩いて笑い、シゲは隣りに腰を下ろす。
………大泉には、タケシが帰った後でちゃんと謝ろう。
そう思い直して大きく深呼吸をし、タケシに酒を持ってくるよう命令して、ソファにふんぞり返った。
「シゲさーん、ビールより日本酒の方がよかっ……」
タケシが冷酒と猪口を両手に持ちながらそう言いかけた時、背後の扉がかチャリと音を立てて静かに開かれた―――――。
大泉は仏頂面で車を飛ばしていた。
腸が煮えくり返って今にも怒鳴り出したい気分だったが、ぐっとそれを堪えてただひたすら運転することに集中しようとしている。
混雑した街中を抜け、川を渡ればもうすぐ目的地だ。
通い慣れた道を通り、いつもの場所に車を停めると、帽子を目深に被ってとあるマンションの入り口へと向かった。
目的の階のボタンを押し、機械音のみが響くエレベーターの中でぎゅっと唇を噛みしめる。今にも叫びだしたくなる気持ちを必死で押さえようと、深呼吸を繰り返した。
エレベーターは目的の階に着くと静かにその扉を開けた。再び大きく深呼吸をして大泉は足を踏み出す。
廊下の窓からは黒々と流れる川と、対照的に煌めく街の灯りが見えていた。
目当ての部屋の扉の前に立つと、大泉はおもむろにポケットに手を突っ込んで鍵を取り出し、鍵穴にそっと差し込んだ。
カチャリ…と聞き慣れた音が静かなマンション内に響く。
そっと扉を開けて玄関に入ると、その奥の部屋からは楽しそうな音楽が聞こえてきている。恐らくタケシと見ているアニメだろう。
大泉はすうっと息を吸い込むと奥の扉に近付き、カチャリと扉を開けた。
目の前には日本酒を持って佇むタケシと、ソファにどっかりと腰を下ろしたまま呆然としているシゲの姿があった。
「……な…………によ、お前…………」
シゲの顔色がさっと変わるが、大泉はそれには反応せずじっとタケシの方を見つめてから、重い口を開いた。
「―――悪いな、今日はこれで帰って貰えんか? ちょっとしげと大事な話があるから………」
いつものおちゃらけた雰囲気を微塵も感じさせない大泉の迫力に呑まれたのか、タケシは無言で頷くと持っていたものをその場に置いて、そそくさと帰り支度を始めた。
「…おい、ちょっと待てって、タケシ! 大泉もお前一体何様のつもりよ!」
暫く呆気にとられていたシゲが慌てて叫んだが、タケシは『すみません、大泉さん何だかお急ぎみたいだし……今日のところは帰りますよ、俺!』と会釈をしてバタバタと出ていってしまった。
残された室内には無言で佇む大泉と、怒りに顔を真っ赤にしているシゲだけだ。
愉快な音楽が流れる室内で、大泉は静かに被っていた帽子を取り、ぐしゃぐしゃになった髪を両手で掻き上げて、真っ直ぐシゲを見据えた。その顔はいつもの笑顔を持つ大泉ではなく、静かな怒りを秘めていた。
「……なっ…………………んだよ…………突然やって来て………」
大泉の無表情な怒りに呑まれたのか、途端にシゲの言葉から力が消え失せていく。
……こんなに怒っている大泉を見るのは久し振りだったのと、怒らせているのが自分の態度にあると言うことを解っているからこそ、シゲはそれ以上強く言うことが出来ず、さりとて素直に謝ることも出来なくて、狼狽えながら言葉を濁しているのだった。
「いくらなんだって…お前何考えて…んのよ……ここは俺んちで、今日は駄目だって………言っといたべや……。」
後ろめたい気持ちがある分真っ直ぐ大泉を見られなくて、シゲはそっぽを向いて幾分不機嫌な声を作りながら必至にそれだけを言った。正直なところ、これ以上の言葉は言いたくても言えそうになかった。
そんなシゲを微動だにせず黙って見つめていた大泉だったが、突然つかつかとシゲに近付いた。ソファに座っているシゲに逃げ場はなく、あっさりと上から押さえつけられて顔を近付けられた。
鼻と鼻が触れ合うくらいの至近距離で、大泉はシゲの目の奥を覗き込みながらゆっくりと口を開いた。
「………お前、マジでぶっ殺したいわ……今。」
いつになく怒りを秘めた顔で静かにそう言われて、シゲの背筋に冷たいものが走る。
半端じゃなく怒っているのがよく解った。長い付き合い、しかも四六時中一緒にいることの多かった分、本気で怒りに震える大泉を見るのも最近では滅多になくて、その分より恐怖の感情が先立っていた。
大泉はと言うと、自分が今どのくらい感情を高ぶらせているのかすら解らない状態だった。
想像していたとおり、シゲの部屋にはタケシがいて。しかもまるで自分の部屋のように過ごしている姿など、大泉にとって到底許せることではなかった。
シゲの部屋は一人住まいの割には広くて、いつも事務所の後輩連中が入り浸っていることが多いが、こんなにしょっちゅうというわけではなかったし、それをとやかく言う権利は無いと思って、いつも無理矢理呑み込んでいた。
だが、この頃の状況は今までとは明らかに違う。
―――――どうしてもシゲが許せなかった。
暫く膠着状態が続いていた。シゲは蛇に睨まれた蛙のように動くことが出来ず、大泉もまたシゲから目を離すことが出来ずにいた。目を離せばこのままするりと逃げられてしまいそうな…そんな強迫観念にも似た思いに駆られていた。
感情の高ぶりが頂点に達した頃、大泉は咄嗟にシゲを上から押さえつけた。無我夢中でのし掛かり、両手首をがっちり掴んで離さずにいる。
「……ちょ、ちょ……っ……………何………………」
ようやく身の危険に気付いたシゲが何とか大泉を退かそうと藻掻き始めたが、抑え込まれた後ではもうどうにもならない。
大泉は黙ったままシゲの手首をギリギリと締め付けていた。捕まえたまではいいが、その後のことを全く何も考えていなくて、内心では少し狼狽していた。
手を離せばシゲを失ってしまいそうな気がして、どうしても手を離せない。かといって、このままずっと押さえつけているわけにいかないことも解ってはいる。
頭の中でぐるぐると色々な思いが巡っていたその時、目の端にソファの上に無造作に脱ぎ捨てられたシャツが飛び込んできた。
ぱっと片手を離し、それをひっ掴んで素早く元の体勢に戻る。ほんの少し解放されて怯んだ一瞬の隙にシゲは再び手首を拘束され、今度は自分がさっきまで着ていたシャツでぐるぐる巻きにされてしまう。
「お前また…ッ!」
精一杯睨み付けるが、今度は先程までの怒りを秘めた表情とは一転して薄笑いを浮かべている。
大泉がこういう表情を浮かべているときはアウトだと言うことを、シゲは経験上よく知っていた。
最早逃げることも叶わない。
元はと言えば自分が素っ気ない態度であしらったのが悪かったのだと…痛いほど解ってはいたが、背も高く見た目よりもずっと体力のある大泉に、抑え込まれたまま好い様にされてしまうのは流石に悔しい。
「いい加減に……すれ…ッ…………クソったれこの!」
両手首を頭の上できつく縛られたままじたばたと脚を動かして暴れるシゲを大泉はじっと見ている。シゲの動きを封じ込めたことで余裕を取り戻したのか、目をぎらつかせてまるで舌なめずりしているかのようだ。
「大泉! こういうの嫌だって俺いっつも言ってんべや! ふざけんなやお前ッ!」
必死で叫んでみる。こうなってしまったらもう後がないことは重々解っているが、やはりあっさり言うことを聞くのはプライドが許せなくて。
そんな様子を見ながら大泉はそっとシゲの顔に手を伸ばし、唇を重ねようとした。だが、眼鏡がそれを邪魔していた。
「……邪魔、これ。」
静かに呟くとそれを掴み、シゲの顔から外してしまう。
「大泉! 返しやがれてめえ!」
「何よ……こんなもん必要ないでしょうが、今。」
余裕綽々で眼鏡を畳み、ソファから少し離れた床にぽんと置いた。
それからちょっと考えるような表情をしてから、その辺に落ちていたタオルを拾い上げてシゲの顔の前に突き付ける。
「どうせろくに見えないなら、こんな事しちゃってもいいか……」
あっと言う間にシゲの目の辺りに巻き付け、手際よく縛って目隠しをしてしまう。
「バカやろっ……外せ! ………外せってぇ…ッ…………」
半泣きで暴れるシゲの傍から一旦離れ、大泉はシゲのベッドの下に近付く。
そこにはいつも使っているローションが隠して置いてあるのだが、かなり奥の方にはシゲが深夜のラジオをやっていたときにリスナーから送られてしまったというSMグッズの数々が収められた箱が、埃を被ったままそっと隠されていた。
以前一度だけその中の物を使ったことがあったが、その時は挿入するタイプの物を幾つか使っただけで、箱の中身は殆ど使われずにいたのだった。
腰を屈めてベッドの下に手を伸ばし、その箱を取り出す。埃を手で軽く払って蓋を開けると…未使用のローションやらバイブやらがごろごろと無造作に入っている。
ごそごそと探っていると、ソファの方からどさっ…と音がした。見ればシゲが体をくねらせてソファから落ち、必死で藻掻いてた。
折角の目隠しタオルも半ばはずれて片目だけが覗いている。
「……おま……お前……何してんのよ!」
唇をわなわなと震わせながら、シゲが怒鳴った。
「何って……内緒。何? 佐藤くん、何か文句あるってかい?」
つらっとした物言いの中に、有無を言わさぬ迫力があった。
ずれたタオルの隙間、しかも裸眼のぼやけた視界の中でうすぼんやりとしか見えない大泉が、何やらごそごそと動いている姿はかえってシゲの恐怖心を煽ってくる。
「……頼む…………頼むって………大泉ぃ……………俺が悪かったから………もうこんなの止めて。……な?」訳も解らずただ謝罪の言葉を口にした。この状態から何とか抜け出したくて。
だが大泉はそんな事にお構いなしと言った風情で何かを手に取ってから箱を閉め、またシゲの元に近付いた。
「…あ〜あ、折角ちゃんときつく縛って目隠しして上げたのに……」
やれやれと言ったポーズをとりながらシゲに近付き、フローリングの床にしゃがみ込む。シゲはと言えば手を拘束されているせいで、脚だけで這って逃げようと足掻いている。
「………相っ変わらず諦め悪いのな、お前。」
取れかけのタオルを引き剥がす。
シゲの視界に飛び込んできたのは黒っぽいベルトのような物を右手に持ち、左手にはピンク色のふわふわした物を持つ大泉が自分を覗き込んでいるところだった。
「………何…それ……………」
ぼやけた視界で捉えたそれらを正確に認識出来ず、きょとんとしているシゲの顔に、大泉は細長い革製のベルトのような物を巻き付けて固定すると、途端にシゲの視界はタオルの時とは比べ物にならないくらい真っ暗になる。
「大泉! やだって! ちょっ…勘弁してくれって…ッ………」
本格的に視界を奪われて慌てふためくシゲを見ながら、大泉はピンク色の物体を片手に持ったままシャツできつく縛り上げられた手首を掴み上げた。
シゲの耳にカチャ…という小さな音が響く。そして縛られていた手首からシャツがするすると解かれている感覚。急に血液が通ったような痺れの中で、手首に感じる新たな違和感を感じていた。
慌てて手を動かそうとしたが、ガチャガチャと金属音のようなものが聞こえてくるが、あまり手首は痛くない。
どちらかと言えば何か柔らかいものが巻き付いているかのような感触だった。
「……可愛いわー、佐藤さん。ピンクのファーがお似合いですよ。」
いつもの人をおちょくるかのような口調でそう言われて、シゲは自分がAVでお馴染みのSMグッズで拘束されていることにやっと気が付いたのだった。
「あんまり可愛くて憎たらしいから、お前今日お仕置きね………」
目が見えない分、大泉の言葉が怖かった。さっきまでは目で怒っている大泉を確認することが出来たが、今はもう全く見えない。いつもの調子で語りかけてくる大泉の口調の中に底知れぬ不気味さを感じて、言い返そうとする気力までが吸い取られるかのように失われていく。
「……なんで…………」
絶望感に溢れた言葉を漏らし、シゲは唇をきつく噛みしめた。
「何処よ…ここ……」
投げやりな問いかけの言葉は一方通行のまま消えてゆく。何を聞いても大泉の答えは返ってこなかった。
突然抱きかかえ上げられて部屋の中を移動し、たった今部屋の何処かにすとんと降ろされたところである。しかし何やらとても嫌な予感がしていた。
「なんか言えって大泉!」
苛立ちを含んだ声で再度問いかけをしてみる。そして嫌な予感は何となく的中しているようだ。
問いかけの声が狭い個室特有の微妙な余韻を残して反響している。
「……何処やろな〜? しげ。」
そう言ったかと思うと急に拘束されたままの両腕を持ち上げられたまま壁に押しあてられ、手首は頭のすぐ上で固定された。その間も精一杯逃げようと暴れてはみたが、頭上からはガチャガチャと嫌な音が響くばかりだ。
「お前……いつからこんな本格的な変態になったのよ。」
まだ諦めずに腕をガチャガチャと鳴らして吐き捨てるように呟いたシゲを、大泉は意地悪く見つめていた。
シャワーヘッドのフックに手錠付きの腕を引っ掛けられて固定されたまま、シゲは中途半端な姿勢で壁に寄りかかって立っていた。
「変態じゃねえって。これはお仕置きって言ったやろが、どあほ。」
抵抗出来ないシゲの頬を指先で軽くつついた。
そのまま指は口許に当てられ、ゆっくりと唇をなぞっていく。形の良い桜色のそれはきゅっと引き結ばれていたが、そんなことはお構いなしに少しずつ唇の中へと侵入を試みた。
……相変わらず敵は手強い。死んでも口を開くかと言わんばかりに唇に力を入れ、その先の歯列もがっちり閉じられたままだった。
「―――貝か? お前は。なんでこんなにがっちり口閉じてんのよ。」
半ば呆れながら、大泉は強硬手段に出ることにする。
シゲが何も見えないのを良いことに、そっと首筋に顔を近付けて生暖かい舌先で舐め上げた。
「…ああ…ッ……あああ……ッ!」
心底驚いたのか、シゲはまるで幽霊にでも出くわした時の絶叫にも似た声を上げた。
「な……っ………なななな……………やめ………やめ…ッ………バカこの………」
殆ど半狂乱で叫んでいる。
シゲにしてみれば暗闇の中でいきなり首筋に生暖かくてぬらぬらしたものが這ってきたのだから、死ぬほどびっくりしたのに違いなかった。
そんな叫びも一向に気にしないのか、大泉はわざと時折音を立てて舐め回していた。徐々にエスカレートしてきたのか、右手でシゲの頬を撫で回し左手でシゲの右肩を掴んだまま、無我夢中で愛撫を繰り返す。
首筋だけでは飽きたらずに耳朶を甘噛みしたりしていたが、やがてシャツをたくし上げてその中に左手を滑り込ませていた。
ほんの少し滑らかな肌に触れただけで、シゲは弾かれたように体をひくつかせた。
「ひ…ッ………」
いつもと同じようにしているだけなのに、まるで媚薬に冒されでもしたかのような甘い悲鳴をあげる。
「やめ……いや……やだって、大泉…ッ…………」
指先でそっと突起をつつくと、電流でも流れたようにびくっと体を仰け反らせた。
「止めてって…お前、まーだ自分の立場解ってないか。」
うなじに舌を這わせながらぼそっと囁き、頬を撫でていた右手の指を薄く開いていた唇の中に滑り込ませた。
長い人差し指と中指が口の中をやわやわと犯していく。歯列にそっと触れ、舌に絡み付き唾液を纏っていやらしい水音を奏でている。
シゲの唇の端からはすうっと唾液が滴り落ちていった。
―――――――気が狂いそうだ。
暗闇の中でシゲは恥辱に震えながらそう思った。
全く何も見えない中で突然与えられる愛撫は、心臓が止まりそうになる程の衝撃と、普段からは考えられない程の甘美な快楽が入り混じっている。
次の瞬間に何をされるか全く読めない分、もたらされる悦びが大きいというのは、前によくモリから聞いたことがあったのだが、実際に体験させられる日が来るとは思っても見なかった。
シゲの耳元には段々荒々しくなる大泉の息遣いと、口の中を蹂躙されている音が響いている。唾液は絶えず口許を流れ落ちていた。肌を伝い落ちるその感覚は更にシゲの羞恥心を煽っている。
どうにかして逃れたくもあり、逆にもっとドロドロの愛欲の中に堕ちてしまいたくもある。そんな紙一重の快楽の中で、結局はどうすることも出来ずにただ大泉の為すがままになっていた。
大泉はと言えば、そろそろ次の段階に移ろうとしているところだ。
唾液を絡ませていた指をそっと口の中から引き抜き、一旦体を離した。我ながら上手いことを考えついたものだと自分で感心しながら、囚われのお姫様をしげしげと見つめる。
ピンク色のふわふわに手首を拘束されて壁際につり下げられたようなお姫様は、黒いベルトで目隠しをされ、口の端からしどけなく涎を垂らしている。着ていたシャツは胸元までたくし上げられていて、何ともいえないいやらしさを醸し出していた。
「……さあて。」
ぼそっと呟きながら、音も立てずに浴室を出てまたすぐに戻ってきた。手には何かを持っている。
「しげちゃん、ちょっとだけ動くなよー……動くとなまら危ねえから。」
その途端、浴室内に一種異様な音が響き渡った。
………ジョキ……………ジョキ…………………
シャツを引っ張られる感覚と、布を切る耳障りな音が聞こえ始めて、シゲは身を固くした。
大泉の言うとおり、ここは動けば身の安全は保障されないだろう。何故なら今、大泉はシゲのTシャツをハサミで切り裂いている真っ最中なのだから。
「……しん…ッ…………信じらんね…………ッ……………」
シゲが唇を震わせながら言葉を吐き捨てた。いくら部屋着の着古したシャツだからって、まさかハサミで切られるとは思ってもみなかった。
シャツの前面、上下にほぼ真っ直ぐで切れ目を入れられた後のシャツは、今やただの布きれと化していた。申し訳程度に袖が通っている…ただそれだけのものだ。
そんな姿に満足げな大泉が、シゲを抱き締めた。やはり驚いてびくっと身体を震わせた細い肉体をぎゅっと抱き締め、肌を弄ぐりながら唇を重ねる。
鍛え上げられた筋肉に纏われた細い身体。肌理の細かな白い肌は大泉の指先によく馴染み、絡め取った舌は肌を撫で回される度、淫靡な動きで跳ね回る。
耐えきれずに右手を下腹部に伸ばしていた。Tシャツの下はジャージ素材のハーフパンツだった為、大泉にとってはとても好都合だった。ウエストのゴムの部分からするっと中に侵入した指先は、簡単にお目当てのものを見つけて生き物のように絡み付いた。
「…………あ…っ…………」
柔らかい吐息が大泉の耳元に吐き出されていた。絡ませた指先でやんわり握ったりさすったりすると、更に甘い吐息が耳元に紡がれていく。
「……やーらしーいわー……な〜まら濡れてんじゃん、お前…………」
大泉の指にぬるりとまとわりつく液体は、勿論シゲのご自慢の分身が流した蜜だ。
弄ってやる度、くちゅ…と小さな音を立てて蜜が少しずつ溢れてくる。
鎖骨の辺りに本当に小さな口付けの跡を付けながら、大泉はくっくっと笑いを漏らした。
「何? お前……こんなことされて感じちゃってるの?」
シゲが顔を真っ赤にして何か叫ぼうとしたが、その声は細い悲鳴に変わっていた。大泉の唇が胸元の蕾を啄んだせいだった。
「………ひ……っ……………あ………………」
舌先で舐め回され、転がされては軽く啄まれる。その度に痺れにも似た小さな痛みが、とろけるような甘い疼きに変わっていく。
胸元と下半身からちゅくちゅくと水音をたてられて、シゲは徐々に理性を麻痺させていた。
「……おおい…………ず…………みぃ……………」
その名を呼ぶ口元からは、また透明な雫が一滴、伝い落ちた。
頭の中がどんどん真っ白になっていく。視界を遮られているせいで感覚がより鋭敏になり、直接与えられる愛撫と耳から入ってくる音が、より深い快楽を求めさせている。
「お前の声………やたらとエロいって、しげ。」
嬉しそうに囁きながら舐め回すと、またもやぞくぞくするような悲鳴が上がった。
「や……っ……も……………やだ……………ッ…………」
それだけを言うのが精一杯のようで、あとは必死に唇を噛みしめて何とか声を出さないように耐えている。
「やならこのままでいいのかい? 俺は別に良いんだよー、しげ。お前のこのえっち臭い格好見ながら自分で処理しちゃえんだから。」
意地悪くそっと囁く。シゲはますます唇を噛みしめた。
「ちゃーんと自分で言ってごらん。…………舐めて下さいって。」
暫く口を噤んでいたシゲがぼそりと呟いた。
「…………死ね…ッ…………」
その言葉が終わりきらないうちに、大泉は下着の中に突っ込んでいた手をずるっと引き抜いた。
「………やっぱ、腐っても佐藤さんやなあ………」
半ば呆れ顔でそう言うと、強引にハーフパンツと下着を一緒にずり下ろす。多少抵抗されてもものともせず、大泉はシゲの左脚をぐいっと抱え上げた。膝頭が胸元に来るくらいに折り曲げさせ、右手で膝裏を押さえ込むと、シゲの奥まった部分が露わになっていた。
先程ハサミと一緒に持ってきたのであろうローションを左手で素早く取ってその部分にたっぷり振り掛け、更に自分の指先にも取る。
ローションの冷たさに身体を強張らせたシゲは、抵抗する間も与えられずに大泉の指に侵入されて耐えきれずに声を上げた。
慣れているとはいえ心の準備もろくにないまま入り口を掻き回されて、痛みと異物感に口から声が漏れてしまう。
「い…………痛ッ……………い……………やめ…………ッ……………」
何かを言おうとしても自分の悲鳴にかき消された。
「ばーか。お仕置きって言ってんだから、このくらい当然だろうよ。」
ぐちゅ…と指先をめり込ませる。
少しずつ侵入しては出ていく。そんなことを数回繰り返して、大泉の長い指はみるみる中へと呑み込まれていた。
いつしかシゲは痛みよりも陶酔感と快楽に支配されていく。
慣れきった身体が異物を快楽として受け止め始めていた。
知らず知らず上げてしまう声が甘さを帯び、シゲは苦しそうに喘いでいた。
指はくちゅくちゅと音を立てながら、弱い部分を巧みに責め立てる。その度にシゲ自身が更に天を仰いでは、静かに蜜を滴らせた。
「言っちゃえって…………しげ。」
悪魔が囁く。甘くて柔らかい、優しげな声で――――そっと。
「あ〜あ、こんなになって…可哀相だべや……………」
抑え込んでいたシゲの左脚を自分の右肩に掛け、その場に傅いて、イきそうでイけないまま放置されているモノにほんの微かに唇を当てた。
「……ぁ………………は……ッ………」
その僅かな感触にシゲは身を震わせてしまう。欲しくて欲しくてたまらない愛撫の、ほんのひとかけらにすら貪欲に感じてしまっていた。
そしてそんな様子を見逃さないのは、当然大泉洋である。
イかないようにある程度セーブした動きで指先を動かし、更に触れるか触れないか程度に唇を押し当てる。
シゲが焦れてその口で強請るように。
「……や…ぁ…ああ……………………頼む………ってぇ…………」
にやりと笑みを浮かべながら、大泉は口を噤んだ。
「大………泉ぃ……………っ…………」
シゲの声は悲痛な響きを含んでいた。
「…………お願い…! ……………もう……頼むから…………なあってば…ぁ…………」
ひくひくと小さく身体を痙攣させて半狂乱で叫ぶが、大泉はそれでも無言でシゲの中を柔らかく抉り続ける。
そんな根比べが続いて、漸く観念したのかシゲの口から消え入りそうな声で哀願の言葉が漏れた。
「……だから、いっつも言ってるべって。全っ然、聞こえないよ〜しげ。そんなんじゃ何〜にも、してあげられないですなあ。」
その言葉に血が出るかと思うほど唇を噛みしめたシゲが、ゆっくりともう一度その言葉を口にする。
「………舐めて…………くだ………さい…っ……………」
言い終わらないうちにぼろぼろと涙が零れてきて、目隠し用のベルトの下から頬を幾筋も伝って落ちると、切り裂かれたシャツの上に瞬く間に染みを作っていた。
「何よしげ………そんなに泣くなって! ……可愛いんだからなあ、もう……」
下からシゲを見上げて満足げな笑みを浮かべた大泉は、目の前でやはり同じように涙を零しているモノにそっと唇を近付けた。
ゆっくりと唇を押し当て、何度も愛しそうに口付けを繰り返した。その度にシゲの分身はビクッと震えて体積を増していく。
「ん……っ…………や……………焦らすな…って……………」
焦れったそうに手錠の鎖をかちゃかちゃと鳴らして、シゲが甘い声を上げた。
「おーやおや、我が儘なお姫様ですこと。」
舌先でぺろりと先端を舐めると、鈴口からとくんと透明な蜜が溢れ出た。それをちゅっと音を立てて吸い取り、割れ目に舌を差し入れて舐め取ってやる。頭の上からは甘くて切ない喘ぎ声が切れ切れに聞こえててきて、大泉の耳を存分に楽しませてくれていた。
綺麗に舐め回してから、大泉はそれを口に含んでやる。長くて立派だとテレビやラジオで散々触れ回ってやったシゲのソレは、やはりギチギチに反り返って立派な風体を晒している。ソレを口の中一杯に含んで吸い上げるようにしながら顔を上下させた。
更に、奥底に飲み込ませたままの指先をぐちゅぐちゅと動かしてやると、シゲの身体がびくりと跳ね上がった。
「……や…っ………だあ…ッ………あ………はあ……っ…………あ……ッ…………」
手錠の鎖がフックに当たってガチャガチャと鳴っている。
しげの身体はまるで電流でも流されたかのように断続的に跳ね上がって、がくがくと震えていた。
「あ………ふ……っ……………ああ…っ……………ん……ッ………………」
軽く指先で抉りながらゆっくりとシゲのモノを貪り続ける。
「……ぁ……大泉…っ……もう……俺…………………………っちゃう……ッ…………」
一瞬硬直した後、ぴくん…と跳ねた身体は耐えきれずに精を吐き出していた。数回びくびくと身体を震わせて放出されるものを、大泉はわざと喉を鳴らして飲み下し、自身の中に残った最後の一滴までも丁寧に吸い取った。
シゲはぐったりと脱力し、自力では立っていることすら危うそうだ。
中に差し入れていた指をそっと抜き、大泉は立ち上がって華奢な身体を両手で抱き締めた。ありったけの想いを込めるように力強く抱き締め、しどけなく開かれた唇に口付けを繰り返す。
「…………かーわいいわー、しげちゃん。してまた最高にいやらしいんだもんなー、お前。」
満足そうな笑顔でそう囁いて、また唇にキスをする。たまに色付きのいいピンク色の唇をそっと甘噛みしては、ぺろりと舐めた。
その度にシゲの口の中に青臭い苦みがうっすらと広がった。
その苦みにふっと恥ずかしさを思い出し、シゲは慌てて手首をカチャカチャ鳴らした。
「………いいから早くこれ外せって…………もう腕辛ぇよ、大泉!」
「お? 何だね君は。もう早、自分の立場を忘れちゃったのかい?」
怪訝そうな顔で鼻先をシゲの鼻の頭にくっつけ、大泉が憮然とした声を出す。
「忘れて貰っちゃあ困るなあ佐藤くん。今日は君、お仕置きされてるんですよー…」
そう言ってからすっと身体を離した。目隠しされたままのシゲには当然、大泉が何処にいて何をしているのかが全く解らなくて、背筋に冷たいものが走る。
脳裏には嫌な予感があった。そしてそれは往々にして当たってしまうものである。
案の定再び近付いてきた大泉は、シゲの片脚をぐいっと持ち上げた。今度は反対側の右足裏を持ち上げて自分の左腕に掛けさせ、そのまま壁に手をつく。右手で先程まで解し続けていた秘所を探り、指先で何度か押すようにしてから自分のいきり勃った雄を宛ってゆるゆると擦り付けてくる。
ローションを塗り込まれたソレは、シゲの中に入ってきそうで入ってこなかった。
「…………くっそ…………おま…えぇ……っ…………………」
言葉に詰まってしまう。大泉が自分を焦らしていることは百も承知だ。
頭では解ってはいるが―――――身体が既に受け入れ態勢に入っていて、またもやシゲは焦れったさに身を震わせてしまう。
「…………………欲しいかい? しげ。」
悪戯っけを含んだ甘い囁きが、シゲの耳からするりと忍び込んできて、理性をあっと言う間に蕩けさせていく。
だがそのまま素直に欲しいですとは死んでも言えなかった。そんな恥ずかしいことは、たとえ天地がひっくり返ったって素直に言えるものではない。
仕方がなく首を縦に振って頷く。これでは許して貰えないかもしれないと思いながらも、これ以上はまだ無理だった。
「………ああ、そう。んじゃ…今お前の欲しいモノあげっから………ちょっとだけ我慢しれや。」
その言葉にまた何か変なモノでも突っ込まれてしまうのかと一瞬身を固くしたが、意外にも大泉は素直にシゲの願いを聞き入れることにしたらしかった。
頬に口付けされ、擦り付けられていた固いモノがぐっと押し入ってくる。
この瞬間ばかりは例えようもない圧迫感に襲われて、シゲは毎回悲痛な悲鳴をあげてしまう。
「……大丈夫やから。いいこにしててなー、しげ。息吐いて………ほら、もう入ってるからなー……」
首筋に口付けをされ、いつもの甘い声で囁かれて、シゲは奥底からぞくぞくと感じてしまう。
大泉のこの優しげで甘い声は、いつも魔物のようにシゲの理性を易々と奪い取っていくのだ。
ぞくりとするたびに、身体の奥底に異物が埋め込まれていった。淫らな音を立てて抽挿を繰り返され、奥へ奥へと異物が入り込んでいく。
すっかり埋め込んでしまうと、大泉は満足げに息を吐いた。シゲの中は相変わらず狭く、更には大泉の雄を銜え込んでひくひくと蠢いて、何とも言えない征服欲を満たしてくれる。
ねっとりとまとわりいては、更に深い悦びを得ようと収縮する粘膜を、確かめるようにゆっくりと擦り合わせながら、まだ時折小さな悲鳴を上げる桜色の唇に自分の唇を重ねた。
「………!?……」
びくっと震える唇を優しく捉えて、何度か愛しげに重ね合わせては舌を絡ませた。
結合部から響いてくる音に唾液の小さな響きが混ざって、狭い浴室内一杯に卑猥な水音が響き渡っていた。
大泉は壁に付いていた右手をシゲの身体にまとわりつかせ始める。
頬を優しく撫で、首筋をなぞり、鎖骨に指を這わせる。更には胸元の肌をゆっくりと円を描くように弄ぐりだし、ぷちんと固く凝っている蕾を指の腹で捉える。
捏ねるように刺激を与えてやると、シゲの中の内壁がきゅっと収縮を繰り返した。
「………なまら、すっげえ……………」
ぐちゅぐちゅと音をさせながら、より強い刺激を欲して大泉の腰が大きく動き始めた。深く突き上げる度に、芯から蕩けそうな快楽が大泉に襲いかかってきていた。
そしてシゲもまた、同じ様な喜悦に身体を支配されていた。より深く楔を穿たれる度に、口付けを繰り返されている唇からは自分の声とは思えないような甘やかな喘ぎ声が漏れてしまう。
狂気と正気の境目が徐々に溶けだして、鮮やかに混ざり合っていくような感覚に襲われ、頭の中が真っ白になっていく。何も見えない真っ暗な闇の中に置かれているような孤独感と、奥底で繋がり合いながら抱き締められる時の多幸感にそれは似ていた。陰と陽の交わりのような表裏一体の感覚だ。
もっと、自分を貫いて欲しかった。もっともっと、真っ白になるまで。
どろどろの快楽の中で、気が狂うほどに愛されて犯されているこの瞬間を、シゲはこころの奥深いところでいつも求めて止まない。
だがその想いを開放できるのは、いつもこうやって大泉にギリギリまで追い詰められてからだ。
楔を穿たれ、激しく抽挿を繰り返されて揺さぶられる事で、奥底に封印されていた淫らな欲望が解き放たれてくる。
―――――そして大泉は、恐らくその事を理屈ではなく本能で嗅ぎ取っているのだった。
響き渡る淫らな粘液の音に混じり、荒々しい息遣いと掠れた喘ぎ声が入り混じっていた。
声は突き上げられる動きに連動して絶え間なく上がり、助けを求めるような哀願の声すら混じり始める。
共に限界はすぐそこにまで来ていた。
大泉は先程イッたばかりのシゲのモノに指先を絡め、緩やかに擦ってやる。少しでも達しやすいように。
そしてなるべく二人同時に果てる為に。
「……あ…ッ………………や……ッ………………ひ…………ぁあ…………………ッ……………」
シゲの掠れた声が、より大泉を煽ってやまなかった。思いの丈を込めて自分の分身をシゲの中へと穿ち、最も感じやすい部分を何度も何度も執拗に擦り合わせた。
やがて目の前が真っ白に霞んでくる。強烈な浮遊感と達成感が襲いかかり、小さく吐息を漏らして大泉は全てのものをシゲの中に注ぎ込んだ。
そしてシゲもまた、泣き声のような悲鳴をあげて体を強張らせ、自分と大泉の身体の狭間に再び精を放っていた。
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