◇2◇
そうやって毎日が変わり映えもなく過ぎていく。
花男は何ら変わりなく寺の境内で子供達に太鼓を教え、秀一も時間が許す限りそれに付き合った。
終われば和やかにお茶を飲み、夜は「白樺」で酒を飲む。
他愛もない会話を交わしながら、秀一はいつも花男を目で追い続けた。
時折花男に気がありそうな客と際どい会話を繰り広げる様子を唇を噛みながら耐える。
………せめて自分の気持ちは伝えたい。そんな事を思い始めたのがあの夜から一ヶ月ほど経った頃の事。
どうにか二人になる時間が欲しいと毎日店の終わりまで粘ってみるがなかなかそのチャンスは訪れない。
この時期は丁度復活した秋の村祭りに向けて実行委員会が立ち上げられ、連日「白樺」に人が集った。
実行委員の中心は秀一や高志達であり花火は光太が全面的に担当し、太鼓は花男達を中心に今年は子供達の祭太鼓を披露する予定になっていたからだった。
連日打ち合わせと飲み会が平行し、皆心底くたくただった。
だが五作が望んでいた村祭りを継続させていくことは彼らの希望であった。
無事に祭が終わる頃、花男が体調を崩したと店を休んだ。
年中休み無しでフル稼働していたのと、祭の準備や太鼓の練習で弱っていたところにここ数日急に寒くなったのが原因で風邪をひいたらしかった。
メールで大事をとって休む旨の文章を送ってきた花男に、秀一はいても立っても居られなくてメールを返す。
『大丈夫かい? ちゃんと食べてる?』
そんな短い文に戻ってきた文が『食べてない』のみ。
慌てて「白樺」に走っていき、店の裏の小さな階段を駆け上がる。
秀一が自宅から持ち出した食料の袋を両手にひっさげて呼び鈴を鳴らす。
「花男くん! 大丈夫!?」
扉の前で声を掛けるとやや暫くしてから赤い顔をした花男がパジャマ姿でのろのろと現れた。
「は………花男くん!?」
花男は入り口とろんとした目つきでふらふらと佇み、今にも倒れそうな様子だった。
慌てて身体を支えながら家の中に入る。
「ごめん………心配させるつもりじゃ…なかったのに……」
秀一に縋り付くように歩きながら花男が小さな声で呟いた。
「僕こそごめん。でもどうしても心配で……」
初めて入った花男の部屋。入り口からすぐにキッチンと居間。その奥が寝室になっているようだ。
少し距離が有る――――そう思った瞬間自然に身体は花男を抱き抱えていた。
華奢な身体がふわりと腕の中に抱き抱えられると、花男の小さな顔が自分の顔の近くにある事に感動を覚える。
「しゅう…い…ち…!?」
何か言いたげな花男だったが熱のせいで意識が飛んでいるのかそのままぐったりと身体を預けたままだ。
寝室に入り、ベッドの上に静かに降ろして横たえた。
つい自分までその隣りに滑り込みたくなる衝動を必死に抑え、高鳴る鼓動を沈めようと数回大きく息を吸い込む。
「はな…っ……花男くんはゆっくり寝てて! 今、お粥さん温めてくるから……」
しどろもどろになりながら布団を掛けてやり、食料の入った袋をキッチンに持っていく。
レトルトのお粥を鍋に入れて湯煎している間に茶碗を探す。
きちんと食器がしまわれた食器棚から適当な器を選び出し、温めたお粥を移し替えて花男の元にいそいそと運んだ。
「起きれるかい?」
「うん………ごめん…………」
ゆっくり起き上がった背中に枕を当ててやろうと近付くと花男の身体が随分と熱いことに気が付き、慌てて持ってきた荷物の中から冷却ジェルシートを探して額に貼り付けてやる。
「ほんと…ごめんねえ………秀一ぃ………」
目を潤ませて花男が見上げてくると秀一は思わず生唾を呑み込み、慌てて大きく深呼吸。
ドキドキしながらお粥を食べさせ、更に自分の鼓動が高まるのを感じた。
口許に持っていくレンゲに怖ず怖ずと口を開ける様子が何とも可愛らしくて、レンゲを持つ手が震えてしまう。平常心を保とうと必死で深呼吸を繰り返す自分が滑稽に思えた。
どうにかお粥を食べさせてから薬を飲ませ、再び熱で火照る身体を横にさせた。
「何か……して欲しい事とかないかい?」
そう聞く声すら震えてしまう自分が本当に滑稽だ。
「……ん、大丈夫……頼っちゃってごめん………でも来てくれて有り難う…………」
そう呟くと花男は安心したように寝入ってしまった。
「いいんだよ………僕は花男くんを見守っていきたいんだから…………」
そう小さく呟いて、花男の顔に張り付いた髪をまだ震える手で掻き上げてやる。
そのまま頬に口付けたい衝動に駆られてふと思い出した。
あの夜の花男の口付けを。
どうしてこんなに好きになってしまったんだろう…………そんな事も思う。
相手は殆ど女性にしか見えなくても性別は確実に男だ。
今まで男性に対して恋愛感情なんて感じたことはなかった。それでどうしてかこんなにも花男が好きで好きでたまらない――――自分がおかしくなるほどに。
今の関係を保ちたい、大事にしたい。花男の笑顔を見守りたい……そう思う心の裏側にどす黒い想いも渦巻いている。
けっして消えない黒い心は力づくででも花男を手に入れることを切望している。だがそんな事をしても花男の心は決して手に入らないのだということも嫌と言うほど解りきっていた。
万が一肉体の関係を結べたとしても、どんなに欲しくても花男の気持ちは他の男の方をを向いたままだろう。
ましてやあの花のような可憐な笑顔を闇雲に涙で曇らせるだけかもしれない。
そこまで想いを巡らせて秀一は考えることを止めた。
再び大きく深呼吸をし、持ってきた飲み物等を冷蔵庫に収納したり部屋の隅にうち捨ててあるパジャマや使った後のタオル等を拾い集めて袋に入れた。
此処で洗濯をしたいが無闇に音を立てて折角寝付いた花男を起こすわけにもいかず、洗濯物を持って一旦寺に戻ることにした。
どうせ村内。此処から寺へは歩いて十分少々だ。
テーブルの上に置きっぱなしの鍵を見つけて持ち、花男の家を出た。
洗濯を終えて部屋に戻り鍵を開けて静かに中に入る。何か錯覚をしてしまいそうだ。
合い鍵を渡されるような仲になったような甘酸っぱい気分で静かに部屋の中に入る。
花男はまだ眠っていた。
呼吸が酷く荒いようだ。熱も未だ高いようで汗だくになっている。
ただの男同士なら湿ったパジャマを着替えさせたり身体を拭いてやったりも気軽に出来るが、何せ相手は心は可憐な乙女。
迂闊にそんな事をすればどれだけ傷つくかしれない。
仕方なしに洗濯してきたパジャマを袋から取り出す。まだほかほかした乾燥機の温もりが残っているそれらを不器用ながら丁寧に畳んでいる時、寝室の花男が悲鳴を上げった。
ベッドの上に身を起こし、呆然としている。
「なした?………恐い夢でも見た?」
畳んだパジャマを手に持ちながら寝室を覗き込んだ秀一の顔を見るなり、花男が大粒の涙を両目に溢れさせた。
「え……………はな……はな…お……くん…っ!?」
慌てた秀一がパジャマを放り投げて駆け寄ると花男は両手で顔を覆い隠してしゃくり上げていた。
「大丈夫大丈夫……恐い夢はもう終わったから………なあ?」
気が付くと床に跪き、秀一は花男を抱き寄せて抱き締めて頭を撫でていた。
花男は肩を震わせながら小さく頷き、そっと縋り付いている。
「熱がある時って恐い夢とか見ちゃうんだよね………大丈夫だよー。」
優しく頭を撫でながら内心ドキドキしていた。
咄嗟のことにからだが動いてしまって気が付いたらこの状態だ。もの凄く嬉しいが、理性の歯止めが利かなくなりそうで恐かった。
「……………どこにも行かないで………………お願い……………」
そう言って花男は泣いていた。
「―――――行かない行かない。ちゃんとみんな君の傍にいるから。大丈夫だから。」
子供をあやすように言い聞かせ、落ち着いた頃合いを見計らって再びベッドに寝かせた。
花男は秀一の作務絵の袖を握り締めたまま静かに寝入ってしまった。
袖を握り締めた手をゆっくり外し、額に滲む汗をタオルで拭き取ってから冷却シートを張り替えた。
気が付けばもう深夜だった。
明け方近く、部屋はうっすらと明るくなってきていた。
目を覚ました花男はゆっくりと起き上がり、枕元に置かれていたペットボトルに手を伸ばした。
渇いた喉にスポーツドリンクが染みるような感覚とそれが身体の隅々まで行き渡るような感覚。生き返ったような気がして大きく息を吸い込んだ。
ふと床に見慣れない物体が転がっているのを見つけてよく目を凝らして凝視する。
大きな布の塊のようなものが緩やかな動きで上下に動いている。
「やだ…っ………秀一…ッ………!?」
慌ててベッドを飛び降りた。床にごろりと転がって眠っている秀一の顔を覗き込み、起こそうと肩に手をやると冷えている。
慌ててタオルケットを引っ張り出してきて上に掛け、気持ち良さそうに眠る秀一の寝顔を泣きそうな表情をして見つめる。
「…………バカ………」
それだけ呟くと唇をきゅっと噛みしめた。
「おっはよー花男くん。熱はどうかな?」
床で寝たわりには風邪もひかず元気いっぱいの秀一だ。花男の口に体温計をひょいと突っ込むと、いそいそとレトルト粥を温めている。
暫くして体温計の電子音が鳴り、花男が取り出した体温計を覗き込んでいた。
「大丈夫みたい………下がったわ。」
そう言った花男の前に温めたお粥を持ってきた秀一は満面の笑顔だ。
「良かったー、昨日だったら花男くんがこのまま死んじゃうんじゃないかと思ったべや。」
そう言って笑う。
「……ありがと。本当に助かった……。それより秀一は身体、大丈夫? 床で寝てるの見つけたときは心臓が止まるかと思ったわよ……」
熱々のお粥を匙でかき混ぜながら、花男が上目遣いで秀一を見る。
「ん?全〜然平気。元気元気!」
ポーズをとっておどけてみせる。本当は身体のあちこちが痛いのだが、そこは微塵も感じさせないように頑張っている秀一だ。
「…………嘘ばっかり……でも本当に有り難うね。」
花男に花のような笑顔が戻ってきたところで秀一は帰り支度を始めた。その様子を寂しげに見つめる花男。
「あ、花男くん………今日もお店開けちゃ駄目だからね! みんなには後で俺からメールしとくからちゃんと今日一日もゆっくり休んでるんだよ! 僕は夕方になったら様子見に来るからね、いいね?」
秀一の真面目な顔つきと迫力に呑み込まれ、顔を縦に頷かされる花男。そんな姿に満足そうに秀一は帰っていった。
残されたのは静まりかえった部屋と病み上がりの自分だけ。
ついさっきまで明るい声が溢れていた部屋に一人になると、途端に寂しさが込み上げてくる。
そんな感情をぐっと呑み込んで、花男はもう一度布団を引っ被り眠りについた。
夕方、またもや合い鍵を使って寝ているであろう花男を起こさないようにと静かに扉を開けた秀一。
手には食料を沢山詰め込んだビニール袋を引っ提げている。
「はーなーおーくーん……起きてるかーい?」
小さく声を掛けながら中に入るとボイラー音が微かに聞こえる。キッチンの隣りに有る浴室からのようだ。
慌てて背中を向け、持ってきた食料を冷蔵庫に収納していると浴室の扉が音を立てて開いた。
「お邪魔してるよー……」
気まずそうに背中を向けながら秀一が声を掛けた。
「汗でベタベタだったからシャワー浴びちゃった!」
花男が言い訳をする子供のような口調で言うと、悪戯っぽくぺろっと舌を出した。
「冷えちゃうといけないから上にもう一枚羽織った方がいいよ、花男くん。髪も早く乾かさないと……」
「やあねえ秀一てば……お母さんみたいね、まるで。」
そう言いながらもピンク色のパジャマの上にガウンを羽織り、洗面所に向かう。
その間に秀一は持ってきた食べ物をレンジで温めたりしていた。
「昼はちゃんと食べた?」
ドライヤーの音が聞こえなくなると奥にいる花男に声を掛ける。
「寝てたから食べてな〜い、お腹ぺっこぺこよぉ……」
笑いながら出てきてお腹を押さえる。
「食欲が有るってことは随分良くなった証拠だねー。」
秀一はダイニングテーブルの椅子を引いて花男を座らせる。
「……ありがと。何だか迷惑掛けっぱなしでごめんね………」
心底すまないという素振りで秀一を見上げた上使いの目と湯上がりのほのかな色気が相まって、秀一は軽く取り乱しそうになるが此処も必死で我慢。
「いや…………こんなの何でもないから! ホントいつも花男くんには世話になってるし、ほら困ったときはお互い様って言うべ! な! 今……今、鍋焼きうどん作るから待ってて!」
レンジ台の前に立ち、買ってきたアルミの鍋に入ったうどんを作った。
といっても袋から破って液体を注ぎ火に掛けるだけなのだが、花男は美味しいを連発して全て完食した。
秀一もうどんや温めたおかずを食べ終えてしまうと、食後のお茶を淹れる。そんな姿を見ながら花男がふと口走った。
「秀一のお嫁さんになる人……幸せねえ………こんなに気の付く旦那さんってなかなかいないと思うわ。」
うっとりとした目でそんな事を言われ、秀一はいてもたってもいられなくなる。
「あんた昔っからそうだもんね………優しくて………色んな人に気を遣って…………あたしみたいに我が儘じゃなかったもんねえ………」
遠い目をして昔を懐かしむ花男。
あの頃は―――無邪気に七色台を駆け回っていたあの頃はまだこんな感情なんてこれっぽっちも抱かなかったのに………ただの仲良し四人組だった筈なのに。
胸の奥が不穏にざわめいた。
「嫁さんなんて………全然考えてないんだ、今は…………それに僕はそんな優しい奴じゃ…ないよ………」
手にした湯飲みを強く握り締めながら平常心を心掛けて精一杯普通に答える。
――――花男だから――――
その言葉を懸命に呑み込んで下を向く。
「でも……いずれは結婚しないとね………お寺の跡継ぎの問題もあるでしょ………早くいい娘見つけなさいよ………」
花男の言葉が一つ一つ鋭利な刃物のように胸に突き刺さった。
―――花男じゃなきゃ―――
また言葉を呑み込み、口を真一文字に引き結ぶ。
今何か話そうとするととんでもないことを口走りそうだ。
「……秀一?」
下を向いたままの秀一の顔を覗き込む花男の心配げな顔が視界に飛び込んでくる。
「やだ、怒ったの……? ごめんなさい…そんなつもりじゃ…………」
おろおろとする花男が秀一の肩に手を置いた途端、呑み込んでいた言葉も想いも堰を切ったように溢れ出た。
「違う!怒ってなんかいないんだ………ただ嫁を貰うなんてまるっきり考えてないんだ………花男くんしか! 僕には花男くんしか………必要ないんだ!!」
大声で捲し立ててからはっとして口を押さえたが―――時既に遅し。
慌てて顔を上げ、花男を見ると明らかに動揺した顔で口をぱくぱくさせている。
一度決壊した想いはもう歯止めが利かずに溢れ出るままだ。
「僕は花男くんが……………………………好きなんだ………………」
目頭が熱くなる。どうしてこんな事になったんだろう………一生隠し通そうと思っていたのに――――ずっと傍で見守れればただそれでいいと思っていたのに―――――。
「…………う………そ………………」
花男はそれだけ言うのが精一杯のようだった。花男も何故か目に涙を溜めている。
「嘘なんか言わないよ! 知ってるだろ!? 寺の息子は…………」
「………嘘吐かないだっけ………あんたの口癖よ…ね…………」
秀一の言葉に被せるようにそれだけを言うとガタガタと音を立てて立ち上がった。
「ごめん―――――ごめんなさい……………」
そう言って床にしゃがみ込んで肩を震わせている。時折小さな嗚咽が漏れた。
「僕こそ………ごめん………………急にこんな事言われたって花男くんが困るだけだよね。」
頭を抱え言葉を続けた。
「ごめん、本当に困らせるつもりじゃなかったんだ…………花男くんには好きなヤツがいるんだもん……やっぱり困るよね………俺がそんな目で見てるなんて知ったら嫌だよね、やっぱり………」
「そうよ…………困るわよ!…………こっちは必死で諦めようとしてるんじゃない…………なのに何でそんな事……言うのよ………………秀一の馬鹿…ッ…………鈍感………!!」
花男が悲鳴のような声でそう言って後は嗚咽を漏らすだけだ。床にしゃがみ込み、自分の両肩を両手で抱えて震えている。
秀一は秀一で言われた言葉の意味が理解出来ずに呆然としていた。まったく予期せぬ言葉。正反対の意味。
そんなものがじわりと染み込んできてようやく自分の耳を疑う。
「ちょっ…………待って花男くん………………それって…………………………………」
乱暴に椅子から立ち上がり、しゃがみ込む花男の傍にしゃがみ込んだ。
「…………馬鹿……大馬鹿野郎…………あんたなんて嫌いよ…………嫌い! 大っ嫌い!!」
叫ぶ花男の肩を引き寄せて両手で包み込むように抱き締めた。
「いやよ………やめて…っ………こんなことされたら………………………」
腕の中で抗う花男は大粒の涙をぼろぼろ零している。秀一は何が何だか理解出来ないまま……今目の前にある現実が本当は夢なのではないかとしか思えなくて―――暴れる華奢な身体をただ抱き締めていた。
この腕の中で子供のように泣く花男は、自分の願望が具現化しただけではないのか………?
「花男くん………花男……くんっ…………お願いだから聞いて………くれ…………」
「いや……ぁ…ッ………あんたなんか嫌いだってば…………本当よ…ぉ………ッ……………」
目に涙を幾筋も零しながら花男が秀一の顔を睨み付けるが、そんな顔すら綺麗だった。
「花男くんが…………好きだったんだ! だけど花男くんに好きな男がいるなら僕はいつまでも傍で見守る友人でいたいと思ってた………でも、もし……………………もしも僕の勘違いじゃないなら…………」
花男の後頭部を両の掌で抱え込むようにして小さな顔を覗き込んだ。
秀一ももう両の目から涙が溢れてきそうだが、懸命に堪える。ここはまだ泣くところじゃない―――泣くなら、嬉し泣きか玉砕の時だ。
その先の言葉を飲み込んで、じっと花男の涙で潤んだ瞳の奥を覗き込む。
花男の口から本当の答えを聞きたくて………。
花男はより潤ませた目で秀一を見据える。その唇はきつく結ばれていたが突然ふっと自嘲気味の笑みを漏らした。
「……………嫌いだって言ってんでしょ…………自意識過剰なんじゃないの、秀一………止してよ。」
秀一の顔が途端に強張る。
「遊びなら相手して上げてもいいわよ………………こんなおかまでいいんなら、ね………。でも本気は真っ平御免だわ…………」
花男はいつもの花のようなふんわりとした笑みではなく、張り付いたような笑顔でそう続けた。
「それが――――――花男くんの答えなの?」
秀一は二、三回ぶるぶるっと頭を振り花男の目を睨み付けるように見据えた。花男も負けじと睨み返す。
「本気よ。大体今更幼馴染みのあんたにどうこうなんて感情―――あるわけないでしょ。勘違いしないで。解ったらもうこの手、離してよ………窮屈ったらありゃしない………」
再び腕の中で身を捩る花男。秀一から顔を逸らして横を向けた頬にうっすら新しい涙の筋が光っていた。
「花男………くん!」
秀一はふうっと小さく溜息を吐いた。
「もういい加減にしようよ…………。花男くん、昔っから嘘吐くのなまら下手くそなんだよ………」
そう言ってしゃがみ込んでいた身体を持ち上げて立たせたかと思うと、ぷいっと顔を背けたままの花男を
軽々と抱え上げ、歩き出した。
花男は突然の事に小さく悲鳴を上げて秀一の首に縋り付いている。
秀一は寝室に入り、昨日と全く同じ手順で花男をベッドの上に恭しく降ろしてやる。
「ほら、また泣いてた…………」
花男の頬にまだ乾いてない涙の跡を見つけ、人差し指の背で拭った。
「何よ………急に抱き上げるから恐かったのよ…っ………………」
口ごもりながら慌ててぷいっとそっぽを向く花男。
「恐かったのは………本当にそれだけ?」
秀一は出来るだけ冷静な口調で訪ねる。花男のベッドの上に身を乗り出し、片膝をかける。
上半身を起こして座っている花男の下半身を易々と跨ぐと、立ち膝の状態で花男の両肩をがっちりと掴んだ。
「……やだ…………ちょっ…………秀一…………!?」
花男が声を震わせながら泣きそうな顔をして見上げてくる。
「あれ?――――――遊びでなら相手してくれるって言ったのはそっちだよ――――もっとも僕は本気だけどね。遊びでなんて…………好きな女抱けないよ………」
秀一は視線を反らさず言葉を花男に、いや自分にも言い聞かせるようにゆっくりと紡いでからそっと唇を重ねた。
軽く触れるだけの口付けだったが、秀一の鼓動は破裂せんばかりに高まる。
唇を離して、その顔を覗き込むと花男はまた唇をきつく噛みしめている。睨んでいた筈の視線はふらふらと彷徨い、慌てて下を向いた。
「花男くん…………好きなんだ…………どうしようもなく好きなんだ、止められないんだ……………鈍感で、馬鹿でどうしようもない男だけど………花男くんが傍で笑っていてくれたらそれだけで幸せなんだよ、本当だよ!」
秀一は感情の高ぶりと共に冷静な口調を保てなくなり、最後は半ば叫びのようでもあった。
俯いていた花男がゆっくりと秀一の顔を見上げ、目に涙を溜めて睨み付けた。
「―――――あんたは………お寺の跡取りで、早く結婚して子供作らなきゃいけないでしょ!! あたしなんかに好きだなんて言ってちゃいけないの! 駄目なのよ!!………どうして解ってくれないの……」
しゃくり上げながら叫ぶ花男。
「嬉しかったわよ………すっごく……………こんな「女のなり損ない」でしかないあたしを好きだなんて思ってくれてるだけで……どんなに嬉しかったか…………でもやっぱり、駄目なのよ…………」
そう言うと精一杯の力で秀一の身体を押しのけようと藻掻く。
「好きだったのはあたしよ……………………ずっと、ずっとずっと振り向いて欲しかったの……………」
五作が亡くなって自分を責めていた花男を心から励まし抱き締めてくれたあの時から、花男の心は秀一しか見ていなかった。
「…………花男くん」
秀一が両の目に涙を浮かべてもう一度抱き締める。小刻みに震えている小さくて華奢な身体を。
「寺なんて、どうでもいいんだ…………跡継ぎなんて要らない。花男くんさえいてくれれば………」
花男の身体がびくりと震える。
「馬鹿な事言わないで………おばさまだってあんたが結婚するのを楽しみに待ってる………あたしじゃその期待に応えられるわけない! 男のあたしじゃ!!」
秀一の両腕を押しのけられずにいた花男の両腕が秀一の作務衣の胸元を握り締めた。そのまま顔を押し付け、しゃくり上げる。
「寺もお袋も何にも関係ない……花男くんが男だなんて思ってないし。僕にはただ一人の女の人だから。」
そう言った途端にぐいっと胸元を引っ張られた。花男が掴んだまま引っ張っている。
「あんたは………何も解っちゃいないから………………この身体を見ても好きな「女」なんて言ってくれるの? ねえ!?」
悲鳴のような叫びと共に花男は来ていたパジャマの胸元をはだけた。力任せにボタンを引き千切って開けられた胸元はつるんとなだらかで、女性の様な豊かな膨らみはどこにも見当たらない。
今までは下着やパッドなどで膨らみを上手に演出していただけだった。
「花男くん………」
困った顔をしながら秀一が慌ててパジャマの胸元を持って隠そうとする。
「直視出来ないでしょ! まるっきり男の胸だものね! でも…これが現実なのよ………秀一…ッ…」
花男が自重気味に笑いながら呟いた。
「え……もっと見て良かったの? なぁんだ……損した………」
秀一が笑いながら呟いたかと思うと、パジャマの開けられた胸元からするりと手を滑り込ませた。
「この胸が………どうかしたの?」
怖ず怖ずと肌をまさぐったかと思うと、胸元の突起に指の腹を当てて優しく撫でる。
花男が小さな悲鳴を上げて逃げようと身体を仰け反らせると、秀一の目の前に薄赤い突起がお目見えした。
「………可愛い………」
そういってそれを唇で軽くつまんだと思えば愛しげに舌でそっと舐める。
「や…ぁ………嘘…ッ……………」
小刻みに震える手で必死に秀一の顔を引き剥がした。
「――――花男くんがどんな姿してたって………愛しいよ。そんな事は全然障害にはならないんだよ、解ってくれた?」
花男が赤い顔でふるふると首を横に振る。
「決めた! 花男くんは僕のお嫁さんになって貰うから!! それで納得してくれる?」
花男が顔色を赤から青に変えて秀一を睨み付けた。
「あ………んた、本気で言ってんの!? どうやったらそんな結論になるのよ!?」
目を白黒させる花男を笑顔で見つめる秀一は、とびきり晴れやかな顔をしている。
「だって花男くんが好きだから……………跡継ぎは修行に行ってる弟がいるから全然問題ないよ。」
「何を馬鹿な事…………」
花男が再び真っ赤な顔をして俯いた。
「馬鹿な事じゃないよ………時間をかけてみんなに解って貰おう、ね?」
秀一が顔を近付けて花男の唇を唇で塞いだ。花男は秀一の言葉に応えるようにそれに応える。
淫靡な音を立てて舌が絡まり合う中、花男の長い指が秀一の肩口を彷徨いやがて首に巻き付いた。
随分長いこと深い口付けを交わしていた。
まるで今までの長いすれ違いの時間を取り戻そうとするように………。
花男の身体をゆっくりとベッドの上に押し倒し上から覆い被さる。
再び唇を重ねながら花男の身体を優しく弄ぐった。最初はパジャマの上から……花男の呼吸が荒くなるのを合図にするりとその下に手を滑り込ませる。
肌は思っていたよりもずっとすべすべと滑らかで肌理が細かかった。
素肌の上を両の掌が自在に滑り、花男を乱していく。
邪魔になってきたパジャマの上を丁寧に脱がせてしまうと秀花男が身を固くした。やはりまだ全てを見られるのは恥ずかしいらしい。
「………電気………消して…………」
消え入りそうな声で呟いた。
秀一は慌ててリモコンを取って照明を消すと、途端に暗闇が訪れる。
徐々に闇に目が慣れてくると花男の白い肌がぼんやりと窓から入ってくる月明かりに映えて、夢のように綺麗だった。
「花男くん…………なまら綺麗…………」
ぼそりと呟きながら再び肌の上に覆い被さり、今度は唇と舌と両手を使って花男の上半身を存分に撫で回す。
その間、花男は湿った吐息を口から漏らしながら秀一の名を愛しげに呼んだ。
時折舌先などで与えられる微弱な快楽に小さく身を震わせながら。
執拗に舌先で舐め回され唇で摘まれ、吸い上げられた花男の胸元の突起は唾液でしっとりと濡れて淫らに赤く色付いていた。
片方の突起は唇で愛撫され、もう片方は執拗に爪先で弄くり回されている。
花男が艶めかしい吐息を漏らして身体を震わせた。
そんな姿を愛おしく思いながら秀一が指先をするすると下まで滑らせ下腹部、腰の辺りを弄ぐり始める。
途端に花男はさっと身を強張らせ秀一の腕を自分の手で握り締める。まるでその先の動きを制止しようとしているようだ。
だが秀一の腕は花男の抵抗にも挫けずパジャマの上から太股を円を描くように撫で回す。
反射的に身を捩って逃げようとした花男の脚に自分の脚を絡ませて、やや強引に両脚を開かせ太股の間まで手を滑らせる。
その腕の動きを止めようと花男の指が秀一の腕を握り締めていた。
「………秀……っ…………お願い…………………そこは…………」
身体の下で花男が震えながら切れ切れの言葉を絞り出す。そんな様子がいじらしくて花男の首筋に顔を埋め、唇で愛撫しながら耳元に囁いてやる。
「大丈夫…………怖がらないで……………………………花男くんが好きだよ……」
耳元に顔を近付けて耳たぶを口に含み甘く噛んでからもう一度耳元に精一杯の心を囁く。
「恥ずかしがらないで………………花男くんの全部が好きだから………全部愛しちゃ…駄目かい?」
びくっと花男の身体が震えた。
「花男………くん…………好きだよ……………大好き………」
パジャマの薄い布越しに花男自身にそっと触れてみる。その存在を誇示するように固さを持ち始めている……そんな事がとても愛しい。
花男の顔に自分の顔を近付け、荒々しく唇を貪った。
舌を淫らに絡ませ唾液を舐め取りながら、布越しに爪で引っ掻くように花男自身を少しずつ愛撫する。
唇をそっと離すと唾液で光る花男の唇から甘い吐息が漏れた。
パジャマの中に手を滑り込ませ、下着の更に下に息づくものに優しく触れてみる。
花男は秀一の首に両腕を回してしがみついて小さく震えていた。
秀一の指先がそっと花男自身に触れる。くちゅ…と小さな音を立てて指先に絡む先走りの蜜。
「いっぱい濡れちゃったね……」
そう言って花男の唇にかるい口付けを繰り返すと、花男はどうしていいか解らないと言った表情で秀一を見上げた。
その瞼にも口付けしながら指先で花男自身の先端に触れ割れ目に爪を軽くめり込ませ、溢れてくる蜜を指先に絡ませては五本の指でゆっくりさすってやると、花男の身体が耐えきれずに震えた。
「……ん…っ……………あ……………秀……一…っ…………」
熟れたように赤い唇が透明な唾液を時折滴らせながら、甘い声を漏らす。
それは秀一の耳にとても甘美に響く調べだった。
「もう………イきそう?……………我慢しなくていよ、花男くん……」
闇の中でうっすらと赤らんでいる頬に口付けを落としながらそう囁いた。
勿論手の動きは緩急を付けて調整しながら。
花男は虚ろな瞳で秀一をひ必死に見上げ、首に回したうでに力を篭めてしがみつきながら、大きく頷いた。
「秀一…ぃ……っ………………あ……………………ッ…………………」
ほんの少し強く擦っただけで花男は達したようだった。ぎっちりと絡み付いていた腕からふわりと力が抜けて花男はシーツの上で脱力している。
手の中に放たれたものを握り締めて月明かりの元でそっと開いてみると白い液体がとろとろと指の隙間から垂れているのが見えた。
ソレを舌先で舐め取ると、青臭い独特の味が口の中に広がる。
ちょっと顔をしかめながらもシーツの上に呆然と手足を投げ出している半裸の花男を見つめながら手の中のものを舐め取り、もう一度花男の上に覆い被さる。
首の下や背中に両腕を回し、強く抱き締めた。
花男がぽそりと呟いた。
「…………嘘みたい…………これ、夢かしら……………」
秀一の作務衣の下に白い手を滑り込ませて首筋に小さな音を立てて吸い付いた花男は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「夢なら………朝には残ってない筈よね………」
「花男くん……確認すんなら自分のほっぺでもつねればいいべや………こんな目立つとこに跡付けちゃって……どうすんの、これ。ええい、お返ししてやるぅ!」
口調では窘めているが顔は笑いながら秀一が同じように花男の首筋に幾つも跡を付ける。
ちりっとした痛みが肩口や首筋に感じられるたび、花男は小さく呻いて身体を震わせた。
「―――そんな色っぽい顔しないでよ…………」
自分に覆い被さっている秀一に絡み付くように抱きついていた花男が作務衣の上半分を丁寧に剥ぎ取ると、軽やかな手つきでベッド下に投げ捨てた。
裸の秀一の胸に顔を寄せながら、右手をするすると秀一の下半身に伸ばし目的のものに辿り着く。布越しにもはっきりと解る怒張したソレを愛しそうに撫でさすりながら、布地の下に指先を忍び込ませた。
「……秀一………大好き……………」
呪文のように呟きながら怒張を煽るように長い指先を絡み付けて扱いてやる。
秀一は熱い息を漏らしながら花男の唇を荒々しく奪い、花男のものに手をやる。
お互いの性器を扱きながら甘い言葉と吐息で静寂を彩っていた。
気だるい心地良さが辺りの空気を支配している。
脚を絡ませたまま時折口付けを繰り替えし、互いの肌の感触と体温を確かめては夢見心地になる。
秀一の腕の中の花男は時にいじらしい少女のような雰囲気を漂わせたかと思うと、少年のような涼やかな凛とした表情を見せる。
そして快楽に溺れる様は妖艶な淑女のようだ。
秀一は花男のすらりとした白い両脚を開きその間に顔を埋めその間で息づくものを口に含んだり舐め回すと、花男は小さく声を上げながら身を震わせた。
白い指が秀一のやや癖毛な髪の頭を掴み髪の間を所在なさげに彷徨う。
先端から零れてくる蜜を音を立てて吸い上げてから、秀一の唇は今まで愛撫していた場所からやや離れてその下の奥まった部分に押し当てられた。
花男がびくりと身体を震わせる。
奥まった部分にそっと舌を伸ばして唾液をたっぷり絡ませた舌先で軽くつつく。
「しゅ………っ…………う……………」
戸惑いがちな花男の小さな声が愛しい。
一旦身体を離し、まごつく花男を見下ろした。
あられもない姿をした花男は視線を彷徨わせているようだ。
細い腰を掴み、仰向けから易々とうつ伏せにしてしまうと、突き出された形の良い双丘の狭間を舐め上げた。
「ひ……っ……………あ………ぁ…っ…………………」
漏れ聞こえる艶っぽい声にはどうしていいかわからないという戸惑いのようなものが感じられた。
秀一はただ無心にそこを舐めては解していく。唾液がいやらしい水音を奏でていた。
時折自分の指に唾液を絡ませ、その部分を音手見たり撫でたりしてみるが、どうにもまだ固く閉じて自分のものを受け入れそうには思えない。
根気よく指先で入り口を弄くり回してみる。
「い…………痛くない? 此処……大丈夫?」
やや強引にこんな事をさせてしまって怖がらせたか、怒らせてないか――――そんな事を思いながら恐る恐る背中越しに声を掛ける。目にの前に映る花男の白い背中が月明かりに映えてとても綺麗だ。
「……大丈夫……でも……何か変な感じ……………」
花男が秀一を振り返りながら小さく笑った。ほんのり花のような笑みだった。
良かった、怒ってないみたいだ――――そう思うと、自分以外の男とはどうしていたんだろう――――そんな下世話な疑問も浮かんでくる。
舌先を尖らせて唾液と共に狭い場所にねじ込みながら、頭の中は得体の知れない嫉妬で一杯になってくる。
「はな………花男くんさ…………………………聞いていい?」
意を決したように大きく息を吸って続ける。
「―――――――誰かに抱かれた事って……………無いの?」
最後は消え入りそうな小さな声になっていた。
花男はやや暫く黙っていたが、ふうっと小さな溜め息を吐いてから頭をぷるぷるっと震った。
「有ったらこんな苦労してないわよ……馬鹿ね…………」
そう言うと突き出していた尻をすっと引き、態勢を立て直して起き上がった。突然行為を拒否された形の秀一は既に半泣きの顔をしている。悪戯をして怒られる直前の子供のような何とも情けない表情で目の前で起き上がる花男を見ている。
花男といえばすこしふくれっ面で秀一の前に座り込んだ。
「ばあか! なんて事聞くのよ………………………ま、聞かれても仕方ないか………………」
ふっとを下を向き、言葉を濁す。
「ごめん………ごめん、花男くん…………だけど僕、自身が無くて………もし前の彼氏とか思い出してたらどうしようって………そればっかり考えちゃって…………」
花男はまだ俯いている。
ベッドの上で裸のまま向き合って二人で俯いている。
「――――――解った、全部素直に言うから……まず、ずーっと彼氏なんていなかったから! でもママに頼まれて枕営業みたいなことなら……ある………」
花男は哀しげな顔をして秀一を見つめた。
「どうしてもって頼まれて………当時五月蝿かったお客さんとホテルは行ったけど…………」
秀一が涙目で花男の言葉を聞いていた。
「絶対に抱かれてはいないから………………それだけは信じて!」
秀一はなにも言えないまま大きく頷く。
「本当に好きな相手じゃなきゃ…………そんな事出来やしない…………」
そう言いながら秀一の膝の上に大きく跨って両手で抱きついた。
「秀一じゃなきゃいやよ……絶対に嫌!」
秀一の顔やら額に口付けの雨を降らせる。
「御免! 花男くん本当に御免!!」
秀一が泣きながら花男を抱き締めた。しなやかな筋肉の付いた身体は到底女には見えなかったが、秀一には極上の女性よりも美しく見えていた。
白い肌に食い込むくらい力強く抱き締め、振ってくる口付けを唇で受け止めながら舌を絡ませた。
情熱的だがお互い辿々しい口付けを交わしながら、秀一の腕は滑らかな双丘にまわされる。
指先で狭間を辿り、先程まで舌で舐っていた場所を弄くり回した。
その度に花男の口からは小さな声が上がる。
指先に唾液をたっぷり絡ませその場所をつついては中にほんの少しめり込ませた。なるべく花男が痛くないように細心の注意を払いながら徐々に指先を侵入させていく。
最初は固く窄まっていたそこがゆっくりと指の愛撫を受け入れ始めると、指を一本ずつ増やして柔らかく解した。
秀一の頭や肩口に縋り付いて甘い吐息を漏らしている花男の胸元に舌を這わせ、赤く色づいた突起を口に含む。
「………っ……は………………ぁ……………………」
自分の身体の上でしどけなく乱れる花男を嬉しく思いながら、舌先を転がす。
指先は随分と解れてきた花男の中で最早自在に動けるようになってきた。
内壁を掻き回すようにすると甘い声が一層艶っぽさを増すのは、少しは気持ちがいいのだろうか。
そんな事を思いながらいきり勃ったまま放置されていた自分の分身にもう片方の手で触れてみる。
先端から先走りの液体を止め処もなく垂らしていた。
「……花男くん…………もう…挿れていい?…………痛かったらごめん…………」
天を仰ぐものに手を添える。指先で解し続けた場所から指をゆっくり引き抜くと花男が身体を反らせたが、続けて自分の猛った雄を宛うと花男の腰を持ち、中を穿った。
「……ひ…………………ッ……………や………………あ……………」
悲痛な悲鳴を上げて花男が秀一の肩を掴んだ。ぎりぎりと爪を立てて身体を仰け反らせる。
「ごごご…ごめ………っ…………」
秀一は慌ててそのまま中途半端な状態で穿つのを止めた。
花男は涙を目に溜めながら小さく首を横に降り、どうにか呼吸を整える。粘膜が引きつれるようなぴりぴりとした痛みが下半身をひっきりなしに襲うが、そんなことよりも喜悦の感覚の方が強かった。
「……大丈夫………………………嬉しい…から平気…っ…………」
そう言って秀一にしがみついて耳元で囁く。
「嬉しい…………秀一…大好き…っ………………」
花男は目に涙を滲ませながら何度も囁く。
そんな花男がいじらしくて。秀一はもう一度中に自分の分身を穿つ。
小さな呻き声と共に花男がびくっと震えた。
先程よりは奥まで納めたようだ。ねっとりと全体的にまとわりつくような内壁の感触に秀一は思わず感嘆の声をあげてしまう。
「………うわ………花男くんの中………すげえ気持ち……いい…………」
ぎぢきちと絡み付く感覚に早くも達しそうになるのを堪え、なるべく自分のものが出す液体で滑りが良くなるのを待つつももりだ。
「ホント? 本当に気持ちいい? うれ…しい……」
花男がそう言いながら自分で腰をゆっくり上下させる。痛みで顔を引きつらせながら。
「花男……くん…………無理しないでいいから!」
慌てて華奢な身体を抱き締めて動きを止めた。少しでも花男を楽にしようと右手を花男の下腹部に這わせて緩やかに刺激を与えながら少しずつ慣らした。
やがていやらしい音を立てて秀一のものが花男の中を出入りする頃には、最初の頃の悲痛な悲鳴とは違った甘やかな喘ぎ声が静かな室内に響き渡るようになっていた。
「う…………っ………ぁ…………は…………………」
秀一の腰の動きに連動して艶めかしい声を上げながら、時折花男は頬を涙で濡らした。
「泣かないで……花男くん……………お願い……………」
限界間際の荒い息の下、秀一が花男を抱き締めて囁いた。ぽろぽろと珠のような涙を零している花男が愛しくて仕方がない。
「ご……めっ…………嬉しいの…………こんなに嬉しい事って……………」
切れ切れに呟きながら花男が秀一の肩口に爪を食い込ませ、小さく悲鳴を上げた。
「しゅうい…………ち…………や…ッ………………あ…………………ぁ……………」
身体を小刻みに震わせながら羞恥のにくたいに縋り付き、秀一の雄で突き上げられる度、痛みの他に充足感にも似た快楽と痺れるような快楽がない交ぜになって花男の身体を突き抜けていった。
花男の身体をしっかりと抱き抱え、秀一は脚を大きく開いてしっかり秀一を受け入れていた花男の身体を自分と繋がったままベッドの上に横たえた。
上から覆い被さり身体を出来る限り密着させて丹念に腰を使う。ようやく甘い吐息をあげ始めた花男を大事にしたくて。
右手で花男自身を弄びながら、達するタイミングを見計らう。
本当は今すぐにでも中にぶちまけてしまいたい――――が、どうせならやはり一緒に昇り詰めたかった。
「花男くん……可愛いよ…………こんなにいやらしい顔して…………」
頬を紅潮させながら快楽に震える花男を煽るように耳元でそっと囁く。花男はその言葉にびくびくと身体を震わせて、口許に嫣然とした笑みを浮かべた。
「秀一…………もう我慢しなくて………いいよ………あたしの中を秀一で一杯に満たして………」
そう呟くと秀一の肩口を掴んでいた両手が顔を大事そうに持ったかと思うと、自ら顔を近付け情熱的に唇を重ねてきた。
秀一のなけなしの理性はその行為に容易にはじき飛ばされ、獣の如く激しく腰を使う。
花男の細い悲鳴まじりの喘ぎ声と秀一の荒々しい息遣いが、静かな室内で絡み合い混ざり合って溶けていくようだ。
程なく秀一は花男の中に今までの全ての想いと、これから先の人生で変わらず保ち続けるであろう愛情を込めて、その身体の中に勢い良くぶちまけた。
花男も秀一の掌の中に同じく吐き出し、朦朧とした意識の中この上もない幸福感の中で意識を失った。
東の空がうっすらと白み始める頃、花男は目を覚ました。
綺麗にパジャマを着せられ、秀一の腕の中だ。
目の前の秀一は花男のベッドで窮屈そうに腕枕中ではあるが、穏やかな寝息をたてていた。
その寝顔を夢見心地でぼんやり見つめてしまう。
寝室の窓の外では風に吹かれて白樺の枝がさわさわと音を立てている。
昔、秀一が送ってくれた苗木を街から運んで庭に移植しいたその木は今はすっかり枝葉を大きく広げていた。
辛いことがあったとき、必ずこの木の世話をしては恵織村を思い出した。
村に残っている五作と秀一や都会で頑張る友人達を思い、懸命に頑張っていた。
今は生まれ育ったこの村で……一緒に移ってきたこの木と共にこの地に根を張り生きていこうと思っていた。
風にさやさやとそよぐ枝が水平線の向こうから昇ってきた朝日に輝いていた。
「………あんた、飲み過ぎだよ!」
酔いの回った千鳥足で太鼓の周辺を歩く秀一に、花男が見ていられないといった風に声を掛けると間髪無く返事が返ってきた。
「うるせえこのくそばばあ!」
そう返した秀一は笑顔だった。
いつもと何ら変わらないやり取り。花男が秀一の元に嫁いでからこの何十年も常に繰り返されてきた光景だ。
最早誰も諫めるものはいない。相変わらず仲の良い夫婦だなぁ…くらいにしか思わない。
そんな二人を高志は少し後ろから、いつもの温厚そうな笑顔で見つめていた。
ふくれっつらな顔でやや離れた場所に立っていた花男は秀一の傍にそっと近づき、恵織村最後の花火が上がるのを待つ。
もう五十年、いつもこうして一緒に祭の夜を過ごした。
目を瞑れば走馬燈のように昔のことが思い出される。
華々しい花火が打ち上げられる直前、秀一がそっと腕を伸ばしてきて花男の肩を抱いた。
何も言わずにただ力強く肩を抱き寄せながら夜空を見上げる。
花男が頭を秀一にもたれ掛け、そっと目を閉じた。
ふと五作がこの場所にいるような気がして、小さく呟く。
「……師匠………見てくれていますか………自分達はこの村最後の祭を見届けます……」
子供の頃の事を鮮明に思い出し、きゅっと口を結んだ花男。
「うん? なした?」
秀一が花男の顔を覗き込む。
「ん…なんでもない……さ、花火が始まるよ!」
そう言って花男は花のような笑みをほころばせて秀一にに擦り寄った。
秀一は照れ臭そうに笑いながら花男の頬に軽く口付けし、再び夜空を見遣る。
乾いた大きな音と共に一発の大きな花火が今夜空に打ち上げられ、寄り添う二つのシルエットをほのかに照らしていた―――――――。
BACK
*お戻りはブラウザを閉じましょう*
長らくご無沙汰しておりました。
久し振りの43ですねー。
それにしてもゲロ甘い。。。しかもベタ(笑)
そんな秀一×花男ですが、お楽しみ頂けたら嬉しいです。
でもこれってBLの範疇に入るのかなあ?
花男くんは心が完璧に女の子になっちゃったよー(笑)
しかも秀一がもの凄くヘタレ攻めだ(笑)
芝居の中の4さんはお坊ちゃんで優しいキャラだったので。。。