捻挫した君
◇ 1 ◇
冬の日は暮れるのが早い。気が付けば外はもう真っ暗だった。しかも朝から雪が盛んに振り続け、彼方此方真っ白に染められている。
大っ嫌いな冬将軍は、容赦なく猛威をふるってくれている。
俺はちっと舌打ちをして駐車場へ向かった。ビルの地下にあるそこは外よりはまだマシだが、それでも吐く息が見事なくらい真っ白になる。
「……あーやだやだ! 冬なんて。なくなっちまえばいいのにね〜。」
無駄だと解っていても、ついそんな事を呟いてしまう。
ぶるっと震えながらポケットをまさぐってキーを探しているところに、携帯の着メロが鳴った。
曲は勿論、お気に入りのガンダムに尽きるかな。その時の気分で選び出したBGMだったり効果音だったり。
「はい〜はい、と。…ったく、誰よ。」
慌ててまたポケットを探って携帯の表示で相手を確認しながら、車に乗り込んだ。
暗い運転席にぼうっと光る携帯。そして、相手の名前はくっきりと「大泉」と表示されていた。
………おっかしいな。アイツは今日、テレビのロケで忙しいって聞いてたけどな。待ち時間で暇にでもなったのか?
そんな事をふと考えながら電話に出る。
「はいよ、お疲れ〜。なした?」
電話口の大泉は一瞬の沈黙の後、俺の名を呼んだ。普段のヤツからは想像も出来ないような、微かな声で。
「!? どしたッ? 大泉ッ?」
慌てて矢継ぎ早に言葉を繰り出した俺に、大泉はもう一度『しげぇ…』と小さく呟いた。
そしてやや暫く置いてから、ぼそぼそと喋りだす。
『…あのなぁ……すまんのやけど………これから空いてるかぁ………………』
全く覇気のない、何だかとても疲れた声だった。
「え、ああ。仕事は今終わって、これから帰るとこだけど………何? 飯でも食ってく?」
どうやら大泉に何かがあったことは、明白だ。しかもこれは相当に落ち込んでいるとみた。
『ん…メシっつーか………お前ちょっと来れ…ない……?』
「え、どこに? 事務所行けばいいの?」
大泉はまた暫く黙ってから某テレビ局を口にした。そう言えば今日はその番組のロケだった。
「今日、車は? 大泉。」
『……駐車場には…あるんやけどなぁ……』
消え入りそうな声にただならぬ雰囲気を感じて、俺は慌ててその局まで車を走らせていた。幸い、俺が今居る場所からそこはかなり近い。
大通りに面したその局の駐車場に入り、適当な場所に車を停めた。
薄暗い地下駐車場をざっと見回すと、少し離れた場所に見慣れたヤツの車が見えるので、そちらに近付いた。
どうやら大泉は自分の車のすぐ横に小さくうずくまり、傍には困った表情のマネージャーがやはり座り込んで大泉の肩を叩いたり何かを話しかけているようだ。
二人とも普段はガタイが良くてデカイのだが、今は何だかやけに小さく見えてしまう。
――――― 一体、お前ら何があったわけ?
「…ああ……すみません、シゲさん。何せさっきからずっとこの調子でして……私が車で送ろうとしたんですが、どうしてか梃子でもここを動こうとしないんです。」
「いや、いいけどさ、俺は。それよりどうした? 何があった? 大泉……」
俺もその場にしゃがみ込んで、うずくまったままの大泉のアタマをポンポンと叩いた。
だが大泉は俯いたまま、決して顔を見せてくれようとはしない。
「なーにやってんだよ! お前は……まーちゃん、なまら困ってっじゃねえの。ほら、顔上げれって! 一体なしたのよ……」
髪をくしゃくしゃと触ると、ぴくりと動いた。けど、まだ顔を見せてくれない。
仕方がないのでマネージャーの方を見た。
「いえ……その……私からは何とも。その………まぁ、今日収録していた番組でちょっとばかり…ありまして。」
言い辛そうに言葉を濁す。
「解った、あとは俺がやっとくからさ。まーちゃんは事務所に戻っていいよ。副社に言っといて、俺が送ってくって。……おら、大泉! 取り敢えず立て!!」
大体何があったかは察しがついた。恐縮しまくっているマネージャーにも、恐らく責任はないようだ。
他人の目も気にせず助けを求めてくる大泉に内心驚きながら、俺は大泉をえいっと引っ張りおこした。
しっかし、いくらNACSがバカみたいに仲がいいからって……こんなにストレートにマネージャーの前で俺を呼びつけたりしやがるなんて、動転しているとは言え迂闊すぎだよお前。事務所にばれたらどうする気よ。
そんな事を徒然に考えながら、手伝って貰って俺の車の助手席にでかい図体の奴を無理矢理押し込む。
そのときになってやっとまともに顔を見ることが出来たが、何と言ったらいいのだろうか――――思いっきり、大泉の目は虚ろだった。
途端に胸の奥から痛いほどの切ない想いが込み上げてくる。
きっと今ヤツは一人で責任を背負い込んで、もの凄い自責の念に駆られているに違いない。…まぁ、今は未だ推測の域を出ないわけだけど、どうやら仕事で何かをやらかしたのは確実って感じだし。
「じゃ、まーちゃんも気を付けて帰ってや。俺はこの阿呆、送り届けてくるからさ〜。」
努めて明るく言うと、俺は車に乗り込んで駐車場を後にしたのだった。
なまら辛いドライブだった。
夏場と違ってやはり少々時間がかかる上に、貝のように押し黙ったままの大泉。長い長い沈黙に押しつぶされそうになりながらもどうにか安全運転を心掛け、車は漸く大泉の家の前に到着した。
それにしてもこんなに落ち込む大泉はどれくらいぶりだろう。元々打たれ強い性格ではないけど、ここまでへこむのは本当に珍しいかもしれない。
「……着いたよ、大泉。」
助手席で俯いたままの大泉は動こうとしない。
仕方がなく先に車を降り助手席のドアを開けると、相変わらずの虚ろな目でのろのろと俺を見上げた。
「……ああ…悪い……」
こりゃダメだ。目が完全に死んでやがる。
俺は玄関ポーチに向かうと、呼び鈴を鳴らした。この際仕方がないが親父さんにご出動願うしかない…そう思って。
だけど何度鳴らしても一向に何の応答もない。ふと気付けば玄関の電気すら付いても居ない。
何となく嫌〜な予感がする。
慌てて車に戻り、助手席に顔を突っ込んで大泉に問い掛けてみる。
「…………今二人して兄貴んとこ行ってる……。」
予感大的中。ちょっと待ってよ、大泉……。俺、聞いてねえよそんなこと………。
最早誰にも頼れなくなったとなれば仕方がない。俺は何とか引きずり出そうと大泉の腕を掴んだ。
「ほら、いいから出てこいって! 降りろ大泉っ!!」
悪戦苦闘の末漸く引きずり出す。そのまま玄関に引きずっていってから、ヤツのポケットをまさぐって鍵を見つけ、扉を開けた。
「……しげぇ…………」
「ん?」
玄関でまごまごと靴を脱ぎながら、大泉はそっと俺を振り返る。
「……お前、帰っちゃうかい……?………」
―――――弱い! 非ッ常〜に……弱いんだよね、俺。こいつのこういうおねだりに。
「ああ解った解った! 居てあげっから早く靴脱げや。」
被っていたキャスケットの上から右手で頭を押さえ、俺は苦笑いを浮かべていた。
で、車に戻って大泉家の空いてるカーポートに車を入れ、また玄関に戻る。
大泉はコートも脱がずに居間のソファに座っていた。時折頭を抱え込んだり、何やらぶつぶつ呟いている。
それでも何らかの行動が見られるだけ、さっきよりはマシなのかもしれない。
それにしても…なまら寒いな。これはもう外よりは多少マシと言った程度だ。
取り敢えず勝手の解らん他人の家の暖房をどうにかこうにかつけ、次の段階に移ることにした。でないと俺、空腹で死にそう…マジで。
「飯は食ったの?」
俺の問い掛けに、大泉は顔を数回横に振った。
「じゃ、何か買ってくるか? 何がいい?」
「………食いたくない。」
おお……お前の口から食べ物に対する拒否の言葉を聞くとは思わんかったわ、大泉。
「いーからなんか食えって! 何でもいいなら適当に買ってくっぞ!」
俺は脱ぎかけのコートを再び羽織って居間を出ようとした。
「あ…ちょっ……しげ…………」
慌てて呼び止めてくるから何かと思って振り返ると、大泉が目の下により一層黒みを増したくまをつくって俺を見上げていた。
「なによ。」
ソファにうずくまるでかい物体にそっと近付く。
「………………ごめんな。」
泣きそうな面してそんなこと言うなよ、馬鹿。切ないだろ……。
「いいよ。…誰も怒ってねーって。」
くるくる巻いた前髪をそっと掻き上げて、額に軽く唇を押し当てた。
「いいこちゃんにしてろよ、大泉。すぐ帰ってくるかんな。」
掻き上げた髪をくしゃくしゃと触って、俺は思いっきり笑顔を見せた。それこそ『ニカッ』って感じで。
だってそうでもしないと、何だか俺まで泣きそうになるじゃない。
大泉のどこにも行き場のない辛さが、じんわり染みてきちまうから………。
超特急で行って帰ってきた割には、結構色々買い込んできたと思う。定番のコンビニおにぎり、総菜パンにサンドイッチ、サラダ、お菓子に飲み物類と……自分用に日本酒の小瓶を数本とつまみ用の漬け物各種。そして欠かせないのが梅干し。
これらを適当に居間のテーブルに並べ、冷やすものは冷蔵庫を借りる。他人様ん家だから、冷蔵庫を開けるのはなんかちょっと照れ臭い。
だけど大泉は目の前の食べ物にどれ一つとして手を伸ばそうとはしない。時折大きな溜息をつき、食べることなんか全く頭にないようだ。
「サンドイッチだけでも食べようや、なあ……」
隣りにどっかりと座り込み、ガサガサと包みを開けて一切れを手渡すが、なかなか口にまで運んでくれない。心此処に有らずといった感じで。
仕方がないから小さく千切って口許に持っていく。
「ほら、さっさと口開けろ!」
渋々口を開けたところにそれらを放り込む。我ながら実に乱暴だな〜とは思うけど、このままじゃいっこも埒あかねえもんな。
なんとか三切れ分を食べさせ、ペットボトルを手渡してから俺はおにぎりを頬張った。
因みにおにぎりはちゃ〜んとコンビニで温めて貰っている。ちょっと冷めちゃったけどね……。
漸くメシも食い終わり、どうにか一息ついてから、俺はおそるおそる事の顛末について触れてみた。
「でー……一体なしたのよ、お前。」
酒のあまり強くない大泉用にと買ってきたビールを一缶手渡し、俺はその辺にあったグラスを拝借して日本酒など飲む。こうなったら酒の力でも借りんと、正直やってらんないわ。
「………1×8でさ…今ロケに行ってる町のさぁ、町長が……………俺の態度が悪いって言ってさ、局に直接クレームしてくれちゃってさぁ…………」
ビールに少し口をつけ、まるで薬でも飲むようにちびちびと飲みながら、ぽつりぽつりと言う。
「で、Pが今相当に困っちゃってて…俺もどうしたらいいか解らなくなっちゃって……………いやもう、だってさあ、俺だって悪気があってやったワケじゃないでしょ、あくまでもテレビ的な事を考えてであって。……だけど、相手方はまるっきり信じてくれなくってねぇ…………」
大きな溜息をついて、ビールの缶をぎゅっと握り締めてる。
「……あくまでも演技でやってるんですよって事をその町長さんが解ってくれなくて、お前が言ったことを全部真に受けてるわけか。……あーそりゃ、きっついな。」
大泉はやっぱりその軽快な喋りが売りなわけだし、ある程度乗ってくれば多少のエスカレートは良くあることだ。そこを傍にいる俺だったり、1×8だったら木村さんなりがフォローしながらやっていくって形が出来上がっているから、今更それを変えられようもないし。しかもそれをマジで非難されるのは、かなりきついだろう。
「いや、それだけなら俺も精一杯謝罪すればと思ってたんやけど………どうも番組自体、やばくなりそうでさ。」
流石に俺もグラスを持つ手に力が入る。
「かなり上からもプレッシャーかけられてきて……Pが今、マジで悩んじゃってる。」
「――――うっわ…何よ、それ。」
そう言ってからグラスの中身をぐいっと煽った。何だかやっぱりやるせないよ。同じタレントとして、俺も身に詰まされる。
「………今さ、社長韓国行ってるやろ。お前も知ってると思うけどあの番組さ…社長が一生懸命企画考えてあそこの局に持ち込んで…それで俺が司会でスタートしてさ。だからあん時どんだけ社長が苦労して必死でやっていたか、俺すぐ傍で見てて解ってっからさ…………………俺、なんかえらい情けなくて………」
「大泉……」
肩を小刻みに震わせる大泉が隣にいた。
「何て言えばいいのよ、俺……………。あっちでそれこそ死にものぐるいになってる社長が帰ってきて、『俺があの番組潰しちゃいました』なんて、どの面下げて言えんのよッ……!」
ビールの缶をテーブルに叩き付けるように置いて、大泉は叫んでいた。叩き付けた衝撃で缶から琥珀色の中身が飛沫になって辺りに降り注ぐ。
「………大泉ッ……」
どんな言葉をかけていいのか、俺には解らなかった。だから必死で大泉の肩を引き寄せて、そのまま必死で抱きかかえていた。
暫くそのまま無言で抱き締めていた。胸が締め付けられるように苦しくて、ただ悲しくて。
自分たちはしがないタレントだ。いくら人気があるといったところで、色んなしがらみや制約の中で動いている歯車の一つに過ぎない。
どんなに周りのスタッフが良くても、その上からの判断で簡単に切られもするし番組自体も無くなってしまう。
だけどあの番組は、『どうでしょう』で注目された大泉が漸く他局で得た仕事で。しかもそれらは影で多大な尽力を尽くした社長と副社がいるわけで。
――――痛いほど気持ちが解るだけに、俺も辛かった。ただ、辛かった。
あれ、そういえば副社はどうしてるんだろう。まぁあの人のことだから、今頃はどうにかしようと躍起になっている筈だろうけど。
そんな事を考えたら、少し気が楽になった。第一俺まで落ち込んでちゃダメだよな、うん。
「……大丈夫、大丈夫だって、大泉! 何とかなるからさ、少しは元気出してくれよ。な?」
俺の顔の横にあるくしゃくしゃの髪を撫で、そんな事を耳元で囁いた。
「くよくよ考えてたってどうにもならんよ、大泉。お前が優しい奴なのはみんな知ってる。俺も良く知ってる。お前は…なまらイイ奴だ! だから、大丈夫。スタッフだってちゃんと解ってる!!」
頭をポンポンと軽く叩いてから、両手を首の後ろに廻して額をくっつけてみた。相変わらず俯きがちだったけど、俺の方が小さいからこんな時は余裕でヤツの懐に潜り込める。
……ま、それはあんまり嬉しいこっちゃないけどさ。
「俺を見ろ、大泉。」
涙で潤んでいるでかい目玉を見つめた。
「な、こんなに傍に居るべ。」
心なしか大泉の表情が柔らかくなる。まだ辛そうではあるけど。
「………ありがとなー、しげ。」
大泉の腕がするりと俺の背中に廻されて、きつく抱き締めてくる。
「礼なんか要らんから、早く元気になってくれ。」
何だか急に照れ臭くなって、くっつけていた額を慌ててひき離す。だけど今度は大泉の顔が近付いてきて、そっと唇を重ねてきた。
触れるか触れないかの微かな口付けだった。
***小林ぴぃこサマ直筆の挿し絵は〔コチラ〕***
抱き合ったまま、互いの身体を弄ぐり合う。最初は服の上から。大泉の指先が徐々にシャツの隙間から滑り込んでくる。
俺も負けじと同じように滑り込ませた。
互いの呼吸が乱れ始め、頭の中から理性が消え失せていく。
―――今この時だけでも、全てを忘れて貰えればいい。
俺のことだけ考えててくれればいい。そんな事をぼんやりと考えながら。
何度も唇を重ねては舌を絡ませる。唾液までが絡まり合い、唇を離すたびにすうっと糸が現れては室内の明かりに反射して、うっすら光っていた。
深く口付けを交わしながら、尚も愛撫を繰り返した。お互いに。
大泉の両腕はまるで溺れる人のようだ。しがみつくような勢いで、俺の身体にまとわりついてくる。
いつもなら単に奴がいやらしいからだとしか思わない。だけど今日ばかりはそれすらも切なくて。
出来ることなら精一杯、縋り付かせてやりたくて。
俺に出来る事なら、何でもしてやりたかった。
そう、何でも。
いつもだったら到底恥ずかしくて絶対に出来ないことだって、今日は自ら進んでしてやりたいよ。
そんな事を考えたら、一気に顔がかあっと熱くなってくる。
………………俺、何考えてんだよ全く。
でも一旦思いついてしまったからには、やるしかないでしょう……。今は酒も入ってることだし、この際その勢いのまま突っ走ってしまうって事で。
第一いつもいつも俺ばっかりがされてばっかじゃ、やっぱり不公平ってもんだ。
訳の解らん理屈を一生懸命頭の中で組み立てて自分を納得させ、俺は意を決して大泉の耳元でそっと囁いてみた。
「今日は俺がいいことしてやっからな………」
気恥ずかしさに更に顔が熱い。だけどここはやっぱり一踏ん張りするべきだよな。
唇に軽い口付けを落としてから、俺はそっと身体を離す。そしてそのままソファを降りた。
「……しげ?」
驚いた大泉を見上げながら床に座り込み、長い両脚の間にすっぽりと身体を収めて下から大泉を見上げた。
大泉は少し戸惑った顔をしていた。
「出血大サービスだかんな!」
照れ隠しにそんなことを言いながらチャックに手を伸ばし、そろそろと慎重に下ろして中に潜んでいる息子を解放してやる。
うっすらと先端から蜜を垂らしてそそり勃つソレに、ゆっくり唇を押し当てた。
びくっと身体を震わせる大泉が…何だか可愛い。
ああ、成る程ね。お前はいつもこんな感じで俺のを可愛がってくれちゃうわけか。
舌先でちろちろと舐め回してから、先端に吸い付いてみる。全てはこいつの見よう見真似だが。
いつも俺がされてることをやり返してるだけに過ぎない。
それでも俺に出来る精一杯のことをしてやりたかった。
口を目一杯大きく開けてゆっくりと喉の奥までソレを収める。異物が喉を刺激して反射的におえっとなるのを必死で堪え、出来る範囲で顔を上下に動かして刺激を与えた。
頭の上からはなまら気持ち良さそうな大泉の吐息が聞こえる。
………うわ、なんかちょっと嬉しいかも。
コツを掴んできた俺は余裕が出てきたこともあり、舌先を使いながら大泉のモノを愛撫し続けた。
やがて大泉の長い腕がするすると伸びてきて、やんわりと俺の髪の中に差し入れられる。
暫く髪の中を彷徨った後、ぎゅっと力を込めてきた。
―――――そろそろ、限界なのかな。
そう思った途端、大泉は自分自身で腰を使ってくる。焦って本能的に逃げようとした俺の頭をがっちりと掴んだまま、反り返ったモノでで規則的に突き上げてきた。
俺は口の中を犯され続ける。もう余裕なんて全然ない…俺も大泉も。
苦しくて、でも逃げる事なんて出来なくて……ただ無我夢中で動きを受け止めるだけだ。
一瞬であって永遠のような時間を経て、低い呻き声と共に大泉の動きが急に止まった。
一拍おいて、口の中いっぱいにどろりとしたモノが数回に分けて注ぎ込まれてくる。苦くて青臭い、大泉の体液だ。
何とか呑み込もうとするのだがやっぱり味に慣れなくて、涙目になっちまう。いやー…我ながら、情けない。
っつーか、毎回普通に飲んでる大泉……凄すぎかも。
「……あ…あらららら、やっべえ! うわ、やっちまったよ俺……早く吐き出せ、ここに! ぺって、ホラしげ!」
射精後の余韻でうっとりとしていた大泉が、慌てて両手を器の形にして俺の顔の前に差し出してきた。俺は素直に飲み下せなかったモノをだらりとその手の中に出した。
「………ご…めん……っ…………ダメだぁ…やっぱ……」
半泣きで上を見上げると、大泉も泣きそうな顔をしながら、傍にあったティッシュで丁寧に顔を拭いてくれた。
「ごめんしげ………調子に乗ってやりすぎたわ。お前が謝ることない、俺が口の中に出しちまったから。しかも……ありゃー……顔にまでかけちゃった……」
困った顔をしながらもほんの少し笑ってくれた。
その笑顔に何だか安心して、俺も少し笑ってみせる。
第一、こんな時って一体何て言やあいいの? 俺。こんな凄い状況じゃ、気恥ずかしくてどうしていいか解んねえって。
「――――あー……でもいいもん見して貰ったわ………滅多に顔射なんてせんし。ましてやしげちゃんのお口で、して貰っちゃったもんな。」
おやおや、少しばかりいつもの調子も戻ってきたようで。
「…次は無いからな………金輪際これっきりだ!」
わざと冷たい口調で突き放した物言いをしながらも、俺はホッとしてまた笑ってしまった。
口でするのはかなりきつかったけど、正直やって損はなかったかもなー……なんて、ちょっとだけ思ったりして。もう自分からこんな事するのは、なるべくなら勘弁願いたいけど。
それにしても流石にぐったりだ。なんかもう『一仕事しました!』って感じの満足感で、立ち上がるのもちょっとばかり億劫だなー…。
そんな事を徒然に考えつつ床にべったりと座り、目の前の膝に両腕をかけたまま脱力している俺を、大泉の長い腕がふわりと引き上げてくれた。
……いやー……でもさ、このままソファで続きをするのは、流石にやばくないか? 大泉。
―――と、思ったらそのまま抱きかかえられて、隣の和室へ連れて行かれる。
ソファでするのは結構嫌いじゃねーけど、他人様ん家の家具でそんな不埒な事はやっぱり出来ないと思うわけで。
和室は前と同じく見事なまでにぐちゃぐちゃだ。すっかり大泉の部屋と化している。
布団は敷きっぱなしの万年床で、辺りには鞄やらコート、服なんかが雑然と散らばっている。
シーツの上に静かに下ろされ、ゆっくりと押し倒された。
着ているものをやけに丁寧に脱がされていく。と言うか、脱がされながら愛撫されている感じで。
Tシャツを剥ぎ取られては首筋に口付けをされ、更にタンクトップを捲り上げられて胸元をまさぐられる。
荒々しくなる大泉の息遣いを間近に感じながら、為すがままにそれらを受け入れた。
唇が肌に押し当てられるたび、身体がじわりと熱を帯びてきて、自然と口から吐息が漏れてしまった。それがまるで女みたいな甘い声で…流石に慌てて唇を噛みしめ、目を閉じる。
「……しげ…」
耳元にそう囁かれながら指の腹で胸元の突起を弄くられ始めると、我慢しようとしても耐えきれずに、また吐息が口から漏れた。
そんな俺を熱の籠もった目で見つめながら、大泉の唇がそろそろと移動していく。
唾液で湿った舌先が、弄くられて固く立ち上がっている胸元にねっとりとまとわりつく度、ぴちゃ…という水音が耳を否応なしに擽った。
「……ん…っ……」
微弱な電流のような喜びが背筋を這い上がってくる。でも決してそれ以上のものではなくて、焦れったさに身悶えしてしまう。
「大……い……ずみ………」
どうして良いか解らなくて、そっと薄目を開けてみると……そこには大泉の頭があった。思いっきりいやらしい顔をして胸元を舐め回している。時折顔を上げてこっちを見ては、含み笑いを浮かべてちゅっと突起を吸い上げてきた。
そして俺はその度に、耐えきれずに小さな声を漏らしてしまうわけだ。
やんわりと歯を当てられ、甘噛みされてはまた尖った舌先で舐め回される。執拗に繰り返される巧みな愛撫に、じりじりと追い詰められながら俺は大泉の頭を両手で抱え、その髪をまさぐった。
もどかしさに身体を震わせて吐息を漏らし続けていると、漸く大泉の手が下半身に触れてきた。もう俺の自慢の息子は、雫を垂らしてぐっしょりと濡れている。
「……あらぁ…こんなに濡らして………そんなに俺に触って欲しかった? ん?」
そう言いながら、先走りの液で濡れそぼる息子に長い指をしっかりと絡ませてくる。その僅かな刺激にすら、今の俺はびくんと身体を跳ねさせてしまった。
「……こんなにしてまあ…………洋ちゃん、嬉しいわ……」
先端の割れ目に爪先をほんの少し差し入れられ、俺のバカ息子はまたじくじくと雫を溢れさせる。
その蜜を纏いながら、大泉の大きな手がゆっくりと動き始めた。
気が付けば強弱をつけて扱かれ、あっと言う間に追い詰められていく。組み敷かれ、胸元を舐られながら。
「…………っ………………………も…う…………………………っ…く…ッ…………」
混濁していく意識の中で、辛うじてその言葉を吐きだし、俺は身体を強張らせて熱いものを身体から迸らせていた。
開放感に浸って脱力中の身体を布団の上に投げ出したまま、俺は薄暗い和室の天井をぼんやりと見つめていた。
「しげ、もう少し………脚開けや。」
言われた途端、中途半端に開いたままの膝をぐいっと大きく開かされ、腰の下に枕を突っ込まれる。
あれよあれよと言う間に俺の身体は受け入れ態勢にさせられていた。
広げられた両脚の狭間、もっとも深い身体の奥に指先を宛われて思わず身体が緊張した。
いくら慣れているとはいえ、やっぱり入れられる直前ってのはどこかしら恐怖感が先立ってしまう。
当然と言えば当然なんだけどね。元々、受け入れるようには出来てないもん…俺の身体ってば。
周りを指先で優しく撫で回されてから、ゆっくりと俺の中に指が入ってくる。
いつもながら正直、相当にきつい。懸命に力を抜こうと頑張るとかえって力んでしまったりして、結局どうしていいか解らない状態でいつも大泉を受け入れることになるんだよな……。
ぐちゅ…と水音が下から響いた。
ぼんやりと見つめた半身には当然ながら大泉の指が差し込まれ、入り口付近でゆっくり蠢いていた。その掌にも指先にも白い液体が絡み付いている。
……さっき俺の身体から出された体液らしい。
途端に恥ずかしさが込み上げてきて、身体を捩るが…逃げられる筈もなく。一旦引き抜かれた指を大泉にわざとらしく顔の上に翳され、更に目の前でぺろりと美味しそうにひと舐めする様を見せ付けられた。
「…………お……まえ……ッ…………………」
恥ずかしさに言葉も出ない俺を、本格的にいつもの調子を取り戻してきた大泉が楽しそうに眺めている。
そうしてまた指は体液を纏ったまま、俺の中に戻された。今度は先程よりも奥まで突っ込まれ、じわじわと蠢く。
気が狂いそうだ。
くちゅくちゅと音をさせて、長い指が俺の中を弄くり回す。
やんわりと掻き回しては少しずつ指の数を増やしていくが、決して欲しい刺激は与えずに、まるで蛇の生殺しのように優しく嬲る。
――――――悲しいことに、すっかり調教されてしまった俺のさもしい肉体は、より強い刺激が欲しくて自然と腰を振ってしまう。
「………な……んで、焦らすのよ…………」
朦朧とする意識の中、舐めるような目つきの大泉に問い掛けるが、その口から言葉は漏れてこなかった。
ただ、ぎらついた眼差しで俺が乱れていくのを見つめている。
指がほんの少しだけ、俺の奥底に潜む最も敏感な部分に触れた。途端に背筋から駆け昇ってくる強い痺れが、俺のなけなしの理性を音も立てずに呑み込んでいくような気がした。
「………………いずみ……ぃ……………」
目頭が熱くなってくる。頭の中が真っ白になって、考えることはその事ばかり。
欲しくて―――――ただ、大泉が欲しくて、涙が滲んでくる。
「お願い………っ…………早く…………………」
大泉の口許が僅かに動いた。
「………じゃ、挿れて下さいって……可愛くお願いしてみて…………」
甘くて冷ややかな、独特の響きが脳髄の奥底までじわりと染み込んでくる。
………逆らう事なんて…出来るわけがない。
「……挿れて…くだ……………………さい…っ…………」
恥も外聞もかなぐり捨てて、精一杯その言葉を口にした。
「………素直で可愛いなぁ………お前は。」
上から意地悪く微笑んでいる。
お願いだから笑ってないで……………早く俺を楽にしてよ―――――。
「たのむ…って……ぇ…………大泉ぃ…………」
疼く身体が熱くて、苦しくて、気が付いたらまた涙が溢れてくる。
大泉の顔が近付いてきて、涙をぺろりと舐め取ってから瞼に唇を押し当ててきた。
「………お前、やっぱりなまら可愛いわ………」
唇がするりと移動して、俺の唇に重ねられた。忍び込んでくる舌の動きに、身体が蕩けてしまいそうになる。
「………ん……っ………ふ……………」
夢中で縋り付いて口付けを繰り返す中、漸く大泉の指が俺の中から引き抜かれた。
「力抜けや、しげ……」
両膝を抱えられる。居間から差し込む明かりに照らし出された大泉の身体が、その向こうに見える。
そして今や遅しと待ち構えたまま天を仰いでいる……大泉の雄の象徴も、透明な液に塗れててらてらと光っていた。
「……ッ……………ぐ…………っ……………」
押し当てられたモノが少し強引に中に入ってくる。流石にローション無しだとかなりきつい。
鈍い痛みに身体を引き裂かれそうになりながら、俺は懸命に悲鳴を噛み殺した。ここで俺があからさまに辛そうな素振りを見せたら、きっと今の大泉は行為そのものを止めてしまうかもしれない。
折角少しでも調子がもどってきたのだから、せめて今だけは愛欲に溺れていて欲しかった。
何度も何度も丁寧に突き上げられるうち、慣れた俺の身体が侵入してくる異物を受け入れ始めていた。
くちゅくちゅと小さな水音が響き、少し辛そうな大泉の息遣いと混じって俺の耳を擽り続ける。
俺って今、繋がってるんだよな―――――大泉と。
そう考えるだけで、ぞくりと身体が悦びに震えていた。我ながら、本気で大バカかもなー…俺。
規則的に突き上げられながら、漠然とそんな事を考えて。
気が付いたら大泉に向かって両手を差し出していた。
「………大泉…」
ぐいっと奥まで突き上げるようにして、大泉が身体を密着させてきた。
今日は俺がお前を思いっきり抱いてやるからな、大泉………。
そんな思いで背中に両腕を廻し、しっかりと抱き締めてやりながら唇を近付けて重ねた。
身体をぴったりと密着させたまま、出来るだけ自分から腰を使って大泉をさらに中へと誘い込み、お互いの粘膜同志を擦りあわせた。
例えようもない充足感と、溢れるような悦楽が襲いかかってくる。
それこそ正気が保てなくなりそうな程。
中から抉られる快楽と互いの身体の狭間で擦れて翻弄され、俺の息子は暴発してしまいそうな勢いだ。
大泉もかなり興奮しているせいか、もう限界を迎えてしまいそうなのが息遣いで感じ取れる。
「……おおいず…み…………」
背中に廻していた右手を大泉の髪の中に指し入れ、想いを込めて優しく梳いてやりながら耳元で囁いた。
「……一緒に、イこうか…………そろそろ。」
「…………しげ…ぇ…………」
大泉の目が俺の目を捉えた。こぼれ落ちそうな目玉が、心なしか潤んでる気がする。
いいよ、どんだけ甘えても。
お前ならきっと許せる。どんなことでも。
もう一度唇を重ね、また耳元に囁く。
「………もっともっと、頂戴よ。お前を。俺が泣くくらい、気が狂うくらい、ぐちゃぐちゃにしてみろよ……」
目の前の潤みがちな目の中に、淫らな色が光った。
大泉は口許に不適な笑みを浮かべて、ぐいぐいと確実に俺の弱いところを攻めてくる。
あっと言う間に俺の口からは悲鳴のようなものが漏れてしまう。攻め立てられるたびに。
この上もなくいやらしい音を響かせながら、大泉は獣のように俺の中を犯し続けた。
びくびくと身体が震え、目の前が白くなったかと思うとちかちかと光のようなものが点滅しだし、俺は大泉の名を何度も呼びながら……達してしまっていた。