死が二人を分かつとも…
◇ 1 ◇
「大泉ぃ……お疲れさん。後の資料は俺が纏めるから、今日は早めに帰ってゆっくり休んでくれ〜。」
今回の仕事の相棒である森崎が柔和な笑みを浮かべながら、簡単なレポートとデジカメを受け取り自分の机の上に無造作に積み上げた。
「……ああ、森崎さんスミマセン……」
口ではすまないと言いながら、大泉は小さく溜息を吐いた。
所謂森崎は使えない部類のダメ社員だ。大泉の先輩にあたるのだが、この男と組まされると大概何らかのミスをやらかしたり、機転が利かなくて苛々させられる。で、ミスの尻拭いに奔走しなければならなくなる。
おそらく纏めると言っている上層部への報告書も、後で自分が初歩的なミスから何から全て細かく訂正しなければならないだろう。
そんな事を考えていたらついつい溜息も漏れてしまう。
「おお…そんなに疲れたか〜。んん〜そうだよなあ……とにかくお前は早く帰れ、な。」
人なつっこい笑顔で大泉の肩を軽くぽんぽんと叩き、森崎は自分の机に戻った。
大泉は狭い二課の奥に鎮座していた安田係長に軽く一礼をし、自分の鞄を抱えて扉に向かった。
扉の横には他の特命社員の動向が一目で解るようにホワイトボードが設置してある。
他の部署の人間が入ってきた時に業務の内容が悟られぬよう、内容は平凡なものにカモフラージュしてある。
そのボードをちらりと一瞥しまた一つ小さな溜息を吐いて、大泉は総務二課を後にした。
「……アイツ、随分疲れているみたいですねぇ、安田さん。」
森崎が安田にそう話しかける。安田はちらりと森崎を見遣ってから、誰にも気取られぬ位うっすらと口許に笑みを浮かべた。
「……んー………うん、まあ色々あるからねえ………」
それだけ呟くと安田は自分の腕に視線を落とし、時間を確認した。
更にホワイトボードに目をやる。そこには『音尾/佐藤:外回り(戻り予定18:00)』とだけ読みとりづらい字で殴り書きしてある。
只今の時刻は20時を少し過ぎたところだ。
安田は再び口許に微かな笑みを浮かべてから、ぶっきらぼうに森崎に話しかけた。
「あー……あれだ。森崎くんも今日は早めに切り上げちゃってくれて良いよ。それ、そんなに急いでないからさあ……」
エレベータを下り、最上階のフロアをぶらぶらと端の部屋まで向かい、手にした幾つか連なった鍵の中から一つの鍵を選んで鍵穴に差した。
開錠されたときの独特の金属音が静かな廊下に響き渡る。
廊下の窓からは夜の暗闇にネオンや家々の灯りが宝石のようにちらちらと煌めいて見えていた。
扉の取手に手を掛けながら窓の外に目を遣り、そんな眺めをぼんやりと見つめてから扉を開けて中へと軽やかに滑り込んだ。
中に入ると無人の部屋の中が寒々しい。
もう春といってもいい季節だが、夜は未だやや冷えることもある。
だが寒々しいのは必ずしも季節のせいだけではないようだ。
勝手知ったるといった慣れた風情でキッチンへと向かい、近所のスーパーで買った飲み物をレジ袋から取り出して冷蔵庫へと手際よく仕舞う。
食べ物類は小さなテーブルの上に並べた。
「あいつ……メシ、どうすんだ?」
やや口を尖らせて誰に聞かせるわけでもなく独り言ちた。
何度か掛けても繋がらない携帯を再度取り出し、大泉はリダイヤルボタンを押す。やや暫くコール音が続き、ようやく耳元に聞き慣れた声が聞こえると、大泉はぱっと華やいだ顔つきに変わる。
『……はい、佐藤です。』
「――――佐藤です、じゃねえよ! お前、今日ちゃんと戻ってくんの?」
大泉が大きな声を張り上げると、電話口の佐藤は声をひそめた。
『……あのな……今、未だ音尾と一緒だから…………うん、もう少しで帰れる…………うん、メシはさっき食べた、うん…………ごめん。30分で帰る! マッハで!!』
それだけの会話でやや一方的に電話は切断された。佐藤の背後には音尾がいたらしく『佐藤さんってば、帰るコールぅ?』なんて冷やかしの声が聞こえてきていた。
握り締めていた携帯をやや乱暴にテーブルに叩き付け、大泉は大きな溜息を吐いた。
「………食べたってかよ……こっちは腹ペコだっつーの…………馬っ鹿やろう。」
そう言いながら、テーブルに広げた食材を乱暴に掴み、キッチンに向き直る。
シンプルに整頓してあるキッチンは大泉のお気に入りの場所だ。というより料理が趣味であり気晴らしでもある彼の居場所に近いかもしれない。
勿論料理が趣味と言うと普通は腕前も確かなものだが、この男の場合はいかんともし難い。
彼特有の天才的独創的な発想で、ごくたまに劇的に美味いものも出来上がるが……大概は独創的すぎて食べられた物ではないものが出来上がるか、美味い不味いのカテゴリーから大きく逸脱した凡庸な一品が出来上がる。
美味い美味いと食べるのは本人ばかりで、大抵の被害を受けているのは佐藤だった。
今夜はその被害者も仕事で帰りが遅い。
大泉は口を尖らせたままではあるが手際よく常備してあるパスタを茹で上げ、最も好きなキャベツのパスタを作り上げた。
冷やしてあったビールを取りだしグラスに注ぐと皿に綺麗に盛りつけたパスタと共に食卓である小さなテーブルへと運ぶ。
さて食べようと着席したところで、佐藤が戻ってきたらしく玄関からガタガタと忙しない音がする。
無視してパスタを口に運ぼうとすると大きな音を立てて扉が開き佐藤が駆け込んできた。
「…ごめん! 大泉!!」
駅からココまで全力疾走してきたのだろう佐藤は、まだ汗をかく時期にはほど遠いというのに額に汗を滲ませ紅潮した顔をしていた。
「―――――今日は来るって前々から言ってあったよねぇ、サトウさん。」
食べかけのパスタをフォークで弄くり回しながら目も合わせずにそう言うと、佐藤が慌てて駆け寄ってきた。
「だってお前………音尾も一緒だし………切り上げてこれるワケねーべや…………」
何やら歯切れの悪い言い様に余計苛つきを感じながら、皿の中で滅茶苦茶になったパスタをフォークで巻き取り口に運ぶ。
今日の自慢のパスタは春キャベツの甘さも何も、殆ど味が感じられない……
そんな事を思いながら味気ない伸びたパスタをビールで流し込んだ。
自分達の仕事上、決められた時刻の約束など無意味なことは重々解っている。ターゲットから情報を引き出すために多少の無茶もするし、自分の私生活がある程度犠牲になることも多い。
そんな事は解っているが、どうしても我慢が出来なかった。自分でも何故こんな些細なことで苛々するのか理由が解らない。
「あ………キャベツのスパゲティ……俺も一口食べたい。」
隣に腰掛けて皿を覗き込み、甘えるように言ってくるとふわりと香ってくる甘い匂い。安っぽい香水の甘ったるい香りを漂わせて顔を覗き込んできた佐藤を、大泉は冷ややかに見つめた。
少し酒が入っているのか大理石か白磁の陶器を思わせる首元の白い肌はうっすら桜色に染まっている。そして白いカッターシャツの襟元にほんのり淡い色合いの紅が付着しているのを見逃す大泉ではなかった。
「食いたきゃ…食え。」
皿ごと佐藤に押し付けるとビールの入ったグラスだけ持って席を離れ、居間のソファへと腰を下ろした。
「…………なんでそんなに怒るのよ………そりゃ、メール無視したりしたけど………そんなのお前だって仕事中は同じだろ!?」
佐藤が目を白黒させながら声を荒げた。
「怒っちゃいねえよ。それよりお前、臭ぇからシャワー浴びてこいや。気持ちの悪い匂い漂わせてんじゃねえよ……食欲も失せるわバーカ!」
ちらりと顔を見ながらそれだけ言ってテレビのリモコンに手を伸ばす。しんとしていた室内にバラエティ番組の無責任な笑い声が響き渡る中、佐藤は素直に浴室へと向かった。
最近いつもこうだ。
大泉は自分の小さな嫉妬心や佐藤の言動に苛つかされて佐藤に冷たく当たってしまう。
付き合いだして一年を機に、二人で探したこのマンションへと佐藤が居を移した。大泉が実家住まいの為、ゆくゆくは二人で生活することを前提に鍵を二人で持ち、現在は半同棲のようになっている。
だが何も心配いらない順調な付き合いの中で、大泉は日に日に募る自分の中の葛藤を抱えきれなくなってきていた。
人の目を引く容姿の佐藤は勿論女性の関心を引くことも多い。
最近ではそれをしっかりと自覚しているせいか、すっかり余裕を見せる佐藤に苛立ちを隠せない。
佐藤が仕事でも仕事外でも女性に対して色目を使っているように感じられて平静でいられない。
有り体に言えば、嫉妬しているのだ。
自分でもなんて小さい人間なのだろうかと時折激しい自己嫌悪に陥るのだが、どうにも感情をうまく制御出来ずにいた。
飲みかけのビールはグラスに残り僅かとなっていた。
それを一息に喉の奥へ流し込み、勢い良く立ち上がって歩き出した。
浴室からは威勢の良い水音が聞こえてくる。
わざと音を立てないように忍び込むと静かに服を脱ぎ捨てて扉をそっと開けてみた。
がちゃり…と思ったより大きな音がして、頭を洗っていたらしい佐藤が何やら宇宙語と思しき難解な言語で叫びながら目をいっぱいに見開いて振り向いていた。
別に一緒に風呂に入るのなんてよくあることなのに……そんな事を思いながら大泉は対照的な仏頂面で中へと入り込んだ。
「………来るなら最初からそう言えアホ…………心臓止まるかと思ったわ………」
時折唇をわなわなと震わせながら呟いている。
「ああ………怖い話とか大嫌いだもんねアンタ………何、こんなのが恐かったのかい?」
やや嘲るように言い放つと、佐藤の唇がぎゅっと引き結ばれる。
こんな表情されたら―――弱いんだよなぁ…………ついつい泣き顔を見たくなる。
苛めたくなる。
そんな事を思いながら無言でシャワーヘッドを壁から外して佐藤の頭にお湯を流し続けた。
「おら、ちゃんと洗い流せよ。まだ泡だらけじゃん……お前。」
佐藤は素直に両手で荒っぽく泡を洗い流す。頃合いを見てヘッドを壁に戻すと、佐藤を壁際に追い込んだ。
大泉も頭からお湯を浴びながら壁に両手を付き、唇を重ねる。
何度か確かめるように口付けてから、そっと唇を離した。
「……まだ匂う…………」
ややぶっきらぼうにそれだけ言うと、シャワーの湯を止めコックの側に置いてあったボディソープをたっぷり手に取り乱暴に泡立て始めた。
「……………ご……めん………そんなに……?」
佐藤が困ったように顔を背けた。何か言いたげに唇を僅かに動かしている。
両手一杯になった泡を滑らかな佐藤の肌の上に擦り付けた。わざと柔らかなタッチで。
焦れたような吐息がその口から漏れ聞こえるのを見越して。
念入りに敏感な部分を撫で回し、思った通り焦れた吐息が耳を擽るようになった頃、ようやく下半身へと手を伸ばす。
泡だらけの両手を大泉の首へと巻き付けて甘い吐息を漏らした佐藤は、やがて小さな呻き声と共にその場にへたり込んだ。
同じようにその場にしゃがみ込んだ大泉の首から巻き付いていた両腕がゆっくり滑り落ちていく。
「………や………め……っ……………」
佐藤が苦しそうに呻いた。
「何を?」
大泉は唇の端をほんの少し釣り上げるように笑みを浮かべながら事も無げに言う。
その手の中で先程までうっすらと勃ちかけていたモノは、今は根本を締め上げるようにきつく握られていた。
そのままやや強めにごしごしと泡塗れにされ、佐藤は踞ったままなおも呻いた。
「ちゃーんと綺麗〜にしてあげますよぉ……佐藤さん……………さっきまで随分とコレがご活躍だったんですもんねぇ……」
大泉の目にうっすらと狂気が宿っていた。
「……ち……ちが…っ…………止め…………」
佐藤は上目遣いに大泉を睨み付けたが、どこかその視線には怯えた色が見て取れた。
大泉はお見通しと言わんばかりの冷めた表情のままその手の中で再び熱を持ち始めた佐藤のモノを強引に扱き続けた。
手の中のモノがこれ以上ないくらいに熱と硬さを保持し始めた頃、大泉はあっさりとその手を離して立ち上がり、シャワーを手に取る。
勢い良く上から佐藤に浴びせかけ、消えかけていた泡の残りを洗い流す。
達する直前で手を止められて呆然とへたり込んでいる佐藤を面白そうに見つめながら、自分にも付いていた泡を洗い流した。
「……………ちょ…っ………待てや……………」
今にも泣き出しそうな顔で佐藤が唇を震わせた。
「何よ――――洗ってあげただけでしょうが。誰が気持ちよくしてやるって言ったよ。」
それだけ言い放つと未だ呆然としている佐藤の顔めがけてお湯をかける。勢い良くぶち当たり、幾つもの流れとなって湯が滴り落ちていく様は何とも言えない色香を醸し出していた。
そう感じた途端、大泉の中にどろどろとした醜い感情がせき止められなくなる。最初はほんの少し意地悪をしてやろうと思っていたのだったが、今はもう歯止めが利かない。
咽せるほどにねっとりと佐藤にまとわりついていた嫌な残り香も、そしてその残り香の主である女を職務とは言え抱いてきたであろう佐藤も、何も彼も全てがどうしても許せなかった。
何をどうすればいいのか解らない。
ただ満ち溢れる嫉妬の心が堰き止められぬまま、大泉の心の中をどす黒いもので満たしていく。
自分の雄を持ち、座り込んでいる佐藤の顔の前に翳した。
「…………あんたが先に気持ちよくしてくれたら……ソレ、なんとかしてやるよ。」
大泉の視線の先には中途半端なまま放置された佐藤のモノがあった。
嫌とは言わせぬ雰囲気の中、佐藤はきゅっと唇を噛みしめ顔を数回横に降った。なけなしの抵抗だった。
「あんた……自分の立場、解ってる? ちょっと前にイイ思いしてきたんだろ? 俺に待ちぼうけくわしたままさぁ……」
佐藤の唇が僅かに動くが言葉にはならない。
「佐藤さん……口開けてよ…………」
大泉は自分でも何故こんなに攻撃的な口調で佐藤を責めているのか理解出来なかった。
ただ、悔しかった。
仕事の一環であろうが何であろうが金輪際佐藤が女を抱くことが許せなくなっている自分の矮小さに嫌悪の情を感じてはいるが、今はもう押さえが利かない。
「ほら…………そのやーらしい唇で俺の……しゃぶって…………」
佐藤の口許に自分のややいきり勃ったモノを近付け、唇にやんわりと押し当ててみる。
今までこんな事をさせたことは一度もなかった。
して欲しいと思ったことは何度もある。いや、毎回と言っていい。
お互いに舐め合ったり銜え合ったりといったことは何度もあるが、強引にご奉仕させるといった事は、かつてハメ撮りをネタに脅していたときすらやらせたことはなかった。
久し振りに嗜虐的な感情に突き動かされていると解っているが、どうにも制御が利かない。
それどころかこの状況で佐藤の口元に押し当てている自身の雄が興奮している。熱い血流がその部分に脈打って流れ込むのを感じていた。
「……この…変態が…っ……」
佐藤は少し顔を背けてから吐き捨てるように呟くと、唇を噛みしめた。
しげの唇はいつも淫らな色をしている……。
そんな事を大泉は思いながら、紅く色づいた形の良い唇に見とれていた。
佐藤は未だ口を固く引き結んでいる。
「……しげぇ…………」
焦れったくなった大泉は佐藤の顔を両手で掴んだ。左手で頬の下を支え、右手で顔にかかっていた前髪を無造作に掻き上げた。
この方が眺めは良い。
「ほら………お口開けて………」
その言葉に佐藤はぴくりと顔を引きつらせたが、ゆっくりと大泉のモノに唇を寄せ慈しむように押し当てた。
大泉は思わず感嘆の声が漏れそうになるのを慌てて呑み込む。
先端に柔らかい唇が押し当てられ、淫らに色付いた桃色の唇の中にゆっくりと呑み込まれていくのを息を飲んで見つめた。
自慢の雄は普段は威張れるほど立派なモノではないが、それでも膨張率はなかなかのものだと勝手に自負している。長い睫毛を小刻みに震わせながら口いっぱいに懸命に頬張る佐藤の必死な表情に感動を覚えた。
大きく開かれた口でただひたすら受け入れている姿はかなりそそるものがあったが、同時に耐え難いほどの罪悪感に苛まれた。
背中に冷や水をぶちまけられたような嫌な感覚が、途端に大泉のどす黒い欲望を萎ませてしまう。
いきなり現実に引き戻されて、慌てて佐藤の顎を両手で掴み自分のモノを温かな口からずるりと引き抜くと、佐藤は口から透明な唾液を滴らせながら、不思議そうに大泉を見上げる。
「ご……めんごめん、ちょっと冗談が過ぎたわ。少しだけ困らせてみたかっただけだから……ホントごめん、しげ……」
佐藤は何も言わずまだ口を半開きにしたまま上目遣いで大泉を見つめている。そんな姿にも罪の意識を感じずにいられなくなり、大泉は慌てて佐藤の前髪をわしわしと手で乱してから掻き上げてみた。
「ごめん――――本当にごめん、しげ…………」
先程までの苛烈な嫉妬心はただ佐藤を愛しいと想う、締め付けられるような感情に変わっていた。
迸る思いと罪悪感に突き動かされるように両腕で佐藤の頭を抱え、抱き締める。額や瞼の上に夢中で唇を押し当てた。
佐藤は呆然とその愛撫を受け入れていたが、程良いところで想いに応えるように自らの唇で受け止める。
暫く唇を寄せ合っていた二人だが、ほんの少し佐藤が唇を離した。
「俺こそ………ごめんな……………ホント俺、デリカシーなくて…………お前が怒るのも仕方ないわ……」
困ったようにそれだけ呟くと大泉の鼻に自分の鼻をほんの少しくっつけてから笑った。
「ちが……違うんだ、しげ………」
この想いをどう伝えればいいのか解らずに、思わず口籠もる。
佐藤は少年のような悪戯っぽい笑顔を見せたかと思うと、するりと両腕を大泉の首に巻き付けた。
「―――いいよ、解ってるから………大泉。」
耳元にそっと囁かれた声は何だかとてもくすぐったくて…それでいて甘い。
再び両手を伸ばして佐藤の背中まで抱え込むように抱き締めた。両腕にありったけの想いを篭めてきつく抱き締めるとその体はひやりと冷たかった。
「悪ぃ……こんなに冷えちゃって………」
大泉は慌てて佐藤を抱き抱えると渾身の力で立ち上がった。
「ひ…!? うわっ……ちょ…っ………」
いきなり持ち上げられ、大泉の首に必死に抱きついた佐藤と、しがみついてくる感覚がどうにも嬉しくてたまらない大泉。
「しっかりつかまっとけー、しげ。」
どうにか浴室の扉を開け、寝室へと歩いていく。寝室のドアは幸い開いたままだったので、そのままよろよろとベッドまで辿り着き、抱えていた佐藤もろともスプリングの利いたベッドの上になだれ落ちた。
「おま…っ…………濡れたまま!! 何やってんのよ!?」
佐藤が自分の上に覆い被さっている大泉の頬をぴしゃりと軽く叩きながら叫ぶ。
「ああ? いいべや。どうせ乾くんだし……」
そう言いながら一旦体を離して、クローゼットの前へと歩いていくと中の引き出しからバスタオルを手際よく取り出し、自分の濡れた髪を乱暴にごしごしと拭く。
髪の水気を拭ったタオルを腰に巻き付けるともう一枚を手に持って佐藤へと近付いた。
冷たい水滴がぽたぽたと滴り落ちる佐藤の頭から肩にかけてふんわりとタオルを被せ、自分の時とは真逆に優しい手つきで髪の水気を拭い取ってやる。
寝室は扉の外から漏れてくる明かりと窓の外から差し込む外灯のやんわりとした光のみで、薄暗い。
だがこのくらいの光の加減が佐藤の白い蠱惑的な肌をやんわりと浮かび上がらせてくれるのを大泉は良く知っていた。
水が滴らない程度にタオルドライし終えると、タオルを背中に掛けてやる。
それでも冷えている佐藤の体に再び両腕を巻き付け、ただ自分の体温を伝えた。
触れ合っている場所がほんのりと温かかい。
「…………お前、背中冷えてる。」
佐藤の手がするりと伸びてきて、大泉の背に回された。その途端にふわりとした温かさがじんわり肌の下に染み入ってくる。
この肌の温もりが愛しくて暫くきつく抱き締めてから、抱き合ったままゆっくりシーツの上に押し倒す。
「しげ………しげ……………ごめん。」
ほんのりと温まった滑らかな肌を弄ぐりながら、耳元で呟いた。
「………何よ…お前……」
佐藤はくすくすと笑っている。その唇に自分の唇を重ね、薄く開けられた口の中に舌を滑り込ませて絡ませた。
舌先で佐藤の舌を擽ってはねっとりと絡み付き、存分に貪ってから唇を離す。
やや荒い呼吸の佐藤にもう一度唇を重ねてから、体がぴったり重なるように抱きついて耳元に語りかけた。
「お前が仕事でも何でも女に触れるのが――――どうしても許せなかったんだ。嫉妬してた、ごめん。」
思い切って心の内を言葉にしていた。このまま奥底に埋もれさせていては、いずれこの醜い心が佐藤を追い詰め、その命さえ自ら奪いかねないと危惧したからだ。
好きな気持ちが高じて、その白い首に指を這わせたままきつく力を篭めて絞めてしまいそうな恐怖に苛まれる。
大事に大事にしたい気持ちの裏腹にあるそんな想いから目を背け続ければ、今におかしくなる―――そう思ったからだった。
「――――――ばぁか。」
耳元にそう呟かれたかと思うと耳たぶに噛み付かれた。ちりっとした痛みを感じて思わず声を上げると、体の下にいる佐藤が口許に笑みを浮かべている。
「………大泉のばーか。そんなの解ってるよ―――――――――ばーか!」
そう言いながら大泉の背中に回されていた白い二本の腕がするすると首にまとわりついてきた。
といってもいつものように巻き付くのではなく、ほんの少し前に自分がちらとでも思い浮かべてしまった様に喉仏のすぐ舌に親指が当てられている。
ほんの少し力を篭められればすぐに呼吸が止まりそうだ。
「し…げ……?」
親指にやんわりと力が篭められたのを、喉の圧迫感で如実に感じ取った。
「………このまま、ひと思いに殺してやりたいよ。そうしたらもう、二人して馬鹿な嫉妬なんて茶番は……終わるよな…………」
ぼそぼそと呟く佐藤の口許に張り付いていた笑みは消え、今はただ血が滲みそうなほどに唇をきつく噛みしめている。
「しげ……」
右手を自分の首にやり、巻き付いている佐藤の細くてしなやかな指に触れた途端、佐藤の両手から糸が切れたように力が抜けていった。
「――――馬鹿だろ……ずっと嫉妬してたよ。お前に触れてる女、全てに。だから俺もお前を嫉妬させたくってさ………俺ばっかりこんな馬鹿みたいな想いに囚われてるって………悔しくて………アホみてえ!」
そう言うと両手の甲で顔を覆い隠した。
「…………おあいこって事か……」
大泉が呟きながら優しい手つきで佐藤の手首を掴んで顔から退かし、ベッドの上に押さえつけると自分の顔を佐藤の顔に極限まで近付けた。
佐藤の目を綺麗に縁取る黒黒とした長い睫毛が、雫を乗せたまま僅かに震えている。
こんな表情が多分一番綺麗なんだよな…などと思いながら、大泉は更に思いっきり顔を近付けてみる。
鈍い音がお互いの頭蓋に響き渡り、佐藤は呆気にとられた表情で目を見開いていた。
「ってぇ……」
大泉が思わず声を漏らした。
思ったより自分の額には破壊力があるらしい。中身がたっぷり詰まっているせいか、かなり重いのだろう。
鈍い痛みがおでこからじわじわと目にまで到達し、目の裏側までじんじんしている。
佐藤といえば目を見開いたまま、信じられないものを見たような表情で口をぱくぱくさせていた。
「おま……おま…っ…………何を………!?」
佐藤の口からようやく言葉が出てきたが、動揺のあまりきちんとした言葉にはならないようだ。痛みのせいかやや涙目になっている。
先程瞼を濡らした涙とは天と地の差だと、思わずほくそ笑む大泉。
「ばーか! 俺様の可愛い仕返しじゃ!!」
そう言ってまだ戦慄かせている唇をぺろりと舐めてやる。紅く色付いた艶めかしい唇は、見るも良し重ねるもまた良し……などと思いながら舌先で擽るように舐め回してから、形良く引き締まった唇を甘噛みした。
両手首を押さえつけた格好のまま首筋に顔を埋め、首筋に舌を這わせてみる。
時折ひくっと体を震わせる様が愛しくて、舌先で擽っては唇を押し当て小さく吸い上げた。
普段はなるべく痕跡を残さぬようにと気を遣うものだが、今夜はあまり気にせず白い首筋に艶めかしい色のしるしを刻み続けた。
時折恨めしげな顔の佐藤と目が合うが、にっこり微笑んでやる。
「……ちょっ……見える場所は勘弁してや………」
業を煮やしたのか佐藤が声を上げるが、続きを遮るかのように大泉は唇を重ねた。
「…んん………んっ………ふ……」
物言いたげに呻く佐藤の唇から舌を絡めては吸い上げる。時折唇を離すと唾液が蜘蛛の糸のようにきらきらと光りながら現れ消えた。
押さえつけられている態勢から逃れようと足掻いていた佐藤の手首から手を離すと、素早く互いの掌を重ねた。
きつく握り締めると、佐藤のしなやかな指先も血が出るほどに大泉の手の甲に爪を食い込ませて握り返してくる。
指を絡め合ったまま何度も荒々しく唇を貪った。互いの呼吸が荒くなるのを感じる。
「……………しげ……」
如実に反応している大泉自身を巻き付けたタオル越しにやはり熱を持ち始めている佐藤のモノへと擦り付けた。
佐藤の腰も刺激を求めるように、焦れて緩やかに動く。
頃合いを見て唇を離し、首筋へと顔を埋め舌と唇で丹念に愛撫する。先程ムキになってつけた赤い刻印が白い肌に生々しく浮かび上がり、花びらが散っているかのようだ。
少し体を下へとずらし、程良く引き締まった胸元に唇を這わせると、佐藤の口から焦れったそうな吐息が漏れた。
胸元にある咲く直前といった風情で固く立ち上がっている薄桃色の蕾をやんわりと口に含み、存分に舌先で転がすと微かに漏れ聞こえていた吐息は甘さを増した喘ぎへと変わる。
「……いやらしい声、出すなぁ……」
嬉しそうに呟いた大泉の言葉に佐藤がびくりと体を震わせた。
そのしなやかな体を上からしげしげと眺めてみる。
薄明かりに映える肌の色が白く浮かび上がり、大理石で出来た異国の彫像を思わせる。
先程体をずらしたので離れてしまった下半身では佐藤の分身が苦しそうにそそり返り、程良く引き締まった腹筋の上に横たわっている。先端からは透明な液体をその腹の上に滴らせていた。
「………うっわ、美味そ〜う!」
そう言ったかと思うと絡めた指を一方的に解き、佐藤の両膝を折り曲げて開き、両手で抱え込んだ。
佐藤の下半身に顔を埋め、口だけでとらえて軽く銜える。ゆるやかにしゃぶり上げたかと思うと先端の鈴口辺りを舌先でつついては舐め、時折ちゅっと音を立てて吸い上げた。
「ん……う…っ………は………………………あ……………」
佐藤はその度に腰をひくつかせ、甘い声をあげている。
長くてやや骨張った指がその度に何かを求めるようにシーツの上を彷徨っていた。大泉は佐藤の両膝を自分の肩の上に掛けてから彷徨っている指に自分の指をしっかりと絡めた。
時折口から佐藤のモノが滑り落ちてしまう不便さはあったが、器用に口で銜え直して今度は奥深くまで頬張ってやる。
頭上からまた吐息にも似た喘ぎが漏れるのを耳心地良く聞きながら、顔を上下させた。最初はゆっくりと…やがて動きを早めると佐藤の声に艶が増した。
時折びくっと体を大きく震わせるのは何かを懸命に堪えているからのようだ。
「………イきそう? いいよ我慢しなくて。」
一旦動きを止めて口に銜えたままくぐもった声でそれだけ告げ、再び動きを再開させると呆気なく佐藤が果てた。
最後のひとしずくまで吸い上げてから、口の中に放たれたものを飲み下したところで、脱力していた佐藤が心底申し訳なさそうに呟いた。
「………ごめ……………俺だけイっちゃって……ごめん…………」
そう言われて、先程の浴室でのやり取りを思い出して慌てた大泉が手の甲で唇の端に付いた佐藤の精を拭きながら四つん這いで佐藤の上にのし掛かった。
ばつの悪そうな顔をしている佐藤に口付けを一つ落としてから、左隣にごろりと横たわり両腕で佐藤の頭を抱き締めた。
「あほ! んな事気にすんなや。」
胸元でまだもごもご言っている佐藤の髪の中に指を入れてぎゅっと抱き締める。
「――――――っ……くるし………死ぬ…ッ…………」
佐藤が必死で締め付ける腕の中から脱け出した。やや乾きかけの明るい色の髪が汗で頬や額に張り付いたり、所々ぐしゃぐしゃになったりしているのは必死で藻掻いたせいだろう。
そんな姿も妙に可愛らしい。
そんな事を思いながらどうやってのし掛かってやろうか思案している大泉に、今度は佐藤から抱きついてきた。
左腕を器用に首に巻き付けてきたかと思うと、右手は大泉の胸元にぴったり当てられた。
音もなく唇が重なったかと思うと、今度はやや淫靡な水音をたてて唇を吸い合う。大泉の胸板に当てられた佐藤の掌は肌の上を楽しむようにするすると滑り、胸元から腹、更には下腹部へと滑り落ちていく。
どちらからともなく脚を絡めたその合間に佐藤の右手が滑り込むと、ほとんどめくれ上がって今や着いていないも同じタオルを掴み外した。
タオルの下から猛々しくそそり立った大泉の雄が指先に触れると、佐藤はそれを指の腹でゆっくりなぞり始めた。
上から下へ行ったり来たりさせたかと思うと先端を指先で撫で回しては先走りの液をまとわりつかせた。
「……大泉…ぃ………」
悪戯っぽい目つきで大泉の表情を見つめている。その口許には何か企んでいるような含み笑いが浮かんでいる。
「………な……によ……」
精一杯虚勢を張り努めてなんでも無いという顔をするが、佐藤の指先に翻弄されて時折気持ち良さそうな声を漏らしてしまう。
指先がそそり勃つ下のモノに触れ、やわやわと握り込まれると大泉は更に感嘆の声を漏らした。
「へっへ……」
薄く開けられた唇をぺろりと舌先で舐めてから自分の唇を舐め回すが、首に回していた手が離れたかと思うと突然起き上がり、大泉の足元へと這って行く。
薄暗がりにもよく解る不適な笑みを浮かべたまま、投げ出されている大泉の両脚に手を伸ばすとその間に自分の体を割り入れ大泉の上に覆い被さるようにのし掛かり、開かせた膝を立てさせた上でその間にゆっくり顔を埋めた。
先程浴室で無理矢理押し当たられたモノに今度は進んで自ら唇を寄せる。
佐藤の充分な愛撫で充血して猛っている大泉の雄を右手を添えて口に含み、ゆるやかな動きで顔を上下させた。
「……っし………げ………ぇ……………」
苦しそうにも聞こえる声を漏らして大泉は体を強張らせた。佐藤の動きに合わせて呼吸が荒さを増していく。
どうにか呼吸を整え、ゆっくり上半身を起こした大泉は、感激と得も言われぬ快楽に潤んだ瞳で佐藤を見ながら手を伸ばした。
慣れていない為にぎこちない動きで懸命に頬張っている様子が愛しくてたまらない。
伸ばした手で佐藤の髪に触れ、ぎこちない動きを制した。
動きを止められた佐藤がきょとんとした表情で大泉の顔を見上げる。慣れない顔の動きと喉の奥まで頬張ったモノの異物感にやや涙目の上目遣いがあまりに蠱惑的で、大泉は顔を引きつらせる。
必死ですぐに引き剥がそうと足掻くが、佐藤は意地になっているのかなかなかその口から大泉自身を解放しようとせず、先端近くを舌先でちろちろと擽ってきた。
「しげっ………や…め………ぇ…ッ………」
額に脂汗が滲んでくる。目の前が歪んできて、体の震えが止まらない。
両手に力を篭めるもののどうしても力が入りきらず、どうにか引き離した時には時既に遅く――――我慢しきれずに全てをぶちまけた後だった。
どうにも罪悪感の残る開放感の中、恐る恐る佐藤を見た。
引き離す途中で暴発しましたと言わんばかりに口からだらだらと白いものを垂らし、残りは顔中にぶちまけられて悲惨な様相を呈していた。
しかも慣れないものをうまく飲み下せずに、どうして良いか解らないような戸惑いの表情を浮かべながら綺麗な顔を歪めている。
「――――――お前……何してんのよ…………」
大泉がぼそりと呟く。言葉では佐藤を責めていたが、我慢しきれずに精をぶちまけてしまった罪悪感に捕らわれていた。
長い指で佐藤の口の中ものを掻き出してから、顔一面に付いたものを拭ってやる。
佐藤は今にも泣き出しそうな顔をしていたが、そんな姿もどうにも可愛らしかった。
お湯で湿らせたタオルを持ってくると、ベッドの上でへたり込んでいた佐藤の汚れたところを丁寧に拭いてやり、綺麗になった顔のあちこちに唇を押し当てた。
そっと閉じた瞼の上に唇を重ねると、長い睫毛がくすぐったい。
自分の為に――――あんな事まで進んでさせてしまった事が、大泉の中で重い罪悪感となって留まっていた。
「ばーか………好きでやったんだよ、んなツラすんなバーカ!」
大泉の重荷をまるで見空かしたように佐藤が口を尖らせて言うと、途端に胸の奥が熱くなって佐藤に抱きついた。
「……痛ぇよ……ばぁか………」
腕の中で佐藤が呟きながら大泉の首に両腕を巻き付けてくる。
そのまま幾度か唇を重ねてから、シーツの上にゆっくりと佐藤を押し倒した。
先程思う存分所有のあかしを付けまくった首筋に顔を埋めて再び舌を這わせながら、掌全体でしなやかな体を撫で回してた。胸元の固く凝った蕾を念入りに指先で揉みほぐしては小さな吐息を引き出した。
一旦体を離して四つん這いになり、体の下にある佐藤の体をじっくり丹念に見つめた。
白く光るしなやかな体。時折ジムに通って定期的に鍛えている体は余分なものは何もなく、綺麗な筋肉が付いているが、かといって男臭さが溢れると言った風情の筋肉質ではない。
あくまで均整のとれた無駄の無いしなやかな体だった。
程良く筋肉の付いた胸板に咲きほころぶ間近と言った風情の蕾が赤く色付いているのが扇情的だ。
そっと片方の蕾に顔を近付け、やんわりと口に含む。
「ん………っ…………」
耐えきれずに漏らした佐藤の声にぞくりとさせられながら、口に含んだ蕾を舌先でゆっくり舐め回してからそっと歯を立てた。
「…っ……う…………」
佐藤の手が大泉の頭に伸びてくる。その癖毛の髪の中に指を差し入れ、力を篭めてきた。
反射的に引き剥がそうとしたらしいが、力が入りきらずに指先はただ髪の中を彷徨うだけだ。
大泉はこうやって髪を触られるのが大好きだ。
口の中にある蕾を音を立てて舐り、ややきつめに吸い上げてみる。
「ひ………っ……」
大泉の髪の中で彷徨っていた五本の指がぎゅっと癖の強い髪を掴むと、ちりっとした痛みが頭皮を襲う。
やりすぎたことを自戒しながら唇を離し、もう片方の蕾へと顔を埋めた。
先程と同じように舌先で転がしたり音を立てて舐ったりすると佐藤の指先はあてどもなく癖毛の中を彷徨いだした。
空いた手は脇腹や下腹部を撫で回している。掌全体を使って触れるか触れないか程度に、円を描くようにその滑らかな肌の感触を楽しんでいた。
佐藤は時折びくりと身体を震わせながら、大泉の愛撫に身を任せている。
大泉の長い指先が脇腹からするりと太股まで伸びていき、わざと内股を撫で回し出すと、佐藤は焦れったそうに体を小さく震わせた。
自ら脚をゆっくり開き、その奥底に潜む秘部へと誘っているかのようでもある。
ご期待に添うかのように、大泉の大きな手は内股からその奥へと伸びてゆく。
胸元に唇を這わせながらも大泉の神経は指先に集中していた。
熱を持ち始めて焦れている佐藤自身には全く触れずにその下にある柔らかなものを丹念に指の腹で揉みほぐすと、頭の上からは甘い喘ぎが漏れた。
更にその下の門渡り部分を指先で擽ってからその更に奥にある秘所を目指して指を進め、まだ固く窄まったそこに触れてみる。
指先でうっすら撫でると、佐藤の腰がびくんと跳ねた。
胸元から顔を上げた大泉は四つん這いのままベッドサイドの小さなテーブルへと手を伸ばし、小さくてシンプルなデザインのボトルを手にした。
やや開かれた状態で投げ出されていた佐藤の両脚を折り曲げて、腰の下には枕を差し込んで宛った。
折り曲げた膝を掴んで脚を大きく開かせ、先程まで殆ど見えなかった秘所を丸見えにすると、まずは顔を埋めて唇を押し当てた。
流石にその行為は佐藤の恥辱心をそそるのか慌てて脚を閉じようと足掻くが、がっちりと両手で膝を押さえ込んでいるのでまさに無駄な足掻きといったところだった。
固く閉じた秘所はこちらはまだ早春の蕾といった様子で窄まっていた。
そこに唇を幾度と無く押し当てては、口付けを繰り返す。
「……や………め…っ…………」
はるか頭上では佐藤が小さな声を震わせていた。
そんな声を甘美な音楽のように味わいながら、今度は舌先で擽るように愛撫する。
固い蕾がほころぶようにふっと緩んだのを感じて舌先をねじ込むと、甘い吐息が上がった。
わざとぴちゃぴちゃいやらしい水音を立てて舐め回してから顔を離す。
手に持っていたボトルのキャップを手際よく外し、奥まった部分と自分の指先に大量に垂らした。
ぬるぬるとぬめる透明な液体を振り掛けられたそこを指先で何度か撫で回し、指先を一本だけ差し入れてみる。
「……っ………」
途端に佐藤の体が引きつったように固くなった。
様子を見ながら指を僅かずつ動かしていく。垂らされたローションの粘着質な水音が響く中、指はゆっくりと奥まで呑み込まれていた。
慎重に入り口から中を解し、少し余裕が出来れば指を増やす。毎回こうやって丹念に慣らしてやる。
三本目の指を入れる間際にローションを追加してやや大胆に指でかき混ぜるように動かすと、佐藤がとびきり甘い声をあげた。
「……うっわ、えっちぃ声〜……」
思わず嬉しくなり呟いた。
佐藤といえば涙で潤んだ瞳で見上げてくる。
その口が微かに言葉を刻んでいるが、あえて言葉にしてこないようだ。
大泉は満面の笑顔で頷くと、リズミカルに動かし続けていた指をゆっくりと引き抜く。それに合わせて佐藤はなんとも切なげな声を漏らした。
下半身で猛っている自分の雄にローションをたっぷりと垂らして念入りに塗り込むと佐藤の両脚の膝裏を肩の上に掛ける要領で大きく開き、その間に割り入るようにしてのし掛かった。
臨戦態勢に入っているそそり立ったモノで入り口付近をゆっくり擦り付けるとくちゅ…と、いやらしい水音が響いた。
「……お……いずみ………………も……挿れ…て……お願い………………」
焦れて腰を僅かに震わせながら佐藤が苦しげに呟く。
大泉が言葉に応えるように佐藤の震える瞼に口付けをした。
「息吐いて………もっと……力抜け………しげ…………………」
ぐちゅぐちゅと音を立てて擦りつけていたモノを、入り口に押し当てて中へと押し入ると佐藤の口から小さく悲鳴が上がる。
大泉は入り口が馴染むまで動かずじっと耐え、佐藤の体が無理なく受け入れるのを待つ。
少し奥まで突き入れてはじっと待つことを幾年となく繰り返した。大泉の雄を受け入れる佐藤の中は柔らかくて、ねっとりと侵入者にまとわりついてくる。
流石に耐えきれなくなり頃合いをみて小刻みに中を穿ち始めると、佐藤の口からは先程の悲鳴とは違って甘い喘ぎ声が漏れてきた。
緩急をつけて佐藤の中を味わうように穿っては、時折中をかき混ぜるように腰を使った。
動きに合わせるように漏れ聞こえる吐息と喘ぎが耳を心地よく擽る。
「しげ………しげ………気持ちいい?」
夢中になりながら首筋や耳元に口付けながら囁いた。
佐藤は必死に幾度か頷きながら大泉の二の腕辺りにしがみついてきた。
突き上げるたびにちりっと腕に痛みが走るのは、佐藤が爪を立てているせいだろう。
「………き……」
二の腕に絡み付いていた佐藤の指がすっと離れて大泉の両頬を掴み、必死に耳元で呟いてくる。
「……好……き…っ…………おおいず……み…………」
どうにかそう言ったかと思うと、唇を重ねてくる。
辿々しく舌を絡めてきた。
こうなると大泉の僅かな理性は消し飛んでしまう。
唇を重ねたまま佐藤の両肩をがっちり掴むと、狂ったように腰を打ち付けた。
深く浅く中を穿ち続ける。
佐藤の分身はうっすら勃ちあがり二人の体の間で苦しげに揺らされている。わざと自分の腹筋に擦り当たるようにして腰を使った。
そうする事によって佐藤の喘ぎにより一層甘さが加わる。
繋がっている部分からは、激しくも淫靡な水音が絶え間なく聞こえていた。
「……っ……は…ぁ……………も………駄目……ッ……………」
腕に縋り付いていた佐藤がぶるっと体を震わせたかと思うと、白い精を体の間にぶちまけていた。
「しげ…………好き…ッ………………」
一際ぐいっと奥まで突き上げて、そう呟くと大泉も中に精を勢い良く吐き出していた。