心拍数・a new day 編
深夜、携帯が鳴った。
いつものように仕事を終え、車で自宅に帰る途中のことだ。うざったいとは思ったが、一応着信画面を見ると、うちのリーダー・森崎からだった。
「……はいはーい、大泉ですよー。今家に帰るとこなんだけど、なんか急ぎだったかい?」
「…大泉っ……あの………そのっ…」
モリの言葉はいつにも増して歯切れが悪い。
「ああん? 何だっつーのよ、焦んなって!」
こちとら、道ばたに車を止めて電話に出てんだ。用件はちゃっちゃと言って欲しいワケさ。
「落ち着いて聞いてくれ………そのっ………あの……シゲが………」
「しげがどーしたのよ? はっきり言えって! リーダー!」
心ならずもしげの名前が出てきて、流石に俺もこれは何かあったなと焦りはじめた。
「………事故った…らしい…………」
すーっと血の気が引いていく。
「事故って……佐藤は! 大丈夫なの!?」
「いや……分からない。とにかく、これから病院に行こうと思って……それで一応みんなにも知らせようと………」
「解った! 俺も行くわ!」
モリに教えられた病院は、街の中心近くにある大きな脳外科で………夜間の緊急外来もやっている。
近くの駐車場に車を突っ込んで、中に飛び込むと既に待合室には、社長をはじめ事務所の主立った人間が集まっていた。
「…社長! ………佐藤はッ?」
ちょっと疲れた顔をした社長が、俺の方に振り向いた。
「佐藤くんねぇ…まだ、精密検査中……。何でもないと、いいんだけど…。」
「事故って一体どうしたの!? アイツ……そんなヘマやらかすなんて、信じらんないんだけどマジで?…………」
俺は何が何だか解らなくて、捲し立てていた。
「自分で運転してたんじゃないんだってよ…あいつ。タクシーに乗ってて、横から車に突っ込まれたらしい。」
隅っこにいた安顕がぽそっと呟いた。
「なんか……怪我は大したこと無いらしいんだけど、どうやら頭を強くぶつけてるらしくってさぁ……」
隣にいた音尾がやっぱりぽつりと呟いてくる。
「…じゃー……まだ、どうだか分かんないって…事?」
俺は狭い待合室の入り口に、へたり込んでしまった。
しげは早朝からロケが入っていたので、タクシーを使って移動していたらしい。ついさっき仕事が終わったので、呼んでおいたタクシーに乗り込み帰宅する途中に事故に遭ってしまったようだった。
交差点で突然、横から飛び出してきた飲酒運転の車に車体をぶつけられ、後部座席でうたた寝していたらしいしげはそのまま強く頭を打って、現在意識不明だという…。
待っている時間が異様に長く、皆、沈黙の中に身を沈めている。先程、しげの親も駆けつけてきたが、一言二言、社長達と言葉を交わしてから、やはり押し黙ったままだ。
やがてばたばたと人の出入りする音がしだして、俺達は慌てて待合室を飛び出した。丁度それは、検査室からストレッチャーが搬出されたところだった………。
真っ白な血の気の失せた顔がそこにはあった。整った顔はあまりにも蒼白で、赤黒くこびり付いた血の跡が生々しくて…身体中に思わず震えが走った。
「…佐藤……ぉ?……」
呟いた声など、多分しげには届く筈もなく…看護婦や医者に囲まれたままストレッチャーはがらがらと音を立てて俺の前を通り過ぎてゆく。まるで死んでいるみたいな、しげを乗せて……。
「…大泉! 大泉………大丈夫だって!! 大丈夫だからよおっ!」
モリが俺の肩を掴んで声を絞り出した。まるでモリも自分に言い聞かせているみたいだ。
「今、社長達が容態聞きに行ってる。大丈夫だよ…大泉……心配しなくったって、シゲはすぐ元気になるってぇ…」
音尾が目を真っ赤にして呟いていた。
…ああ、そうだよな。辛いのは……俺だけじゃないよな………。
「出血は酷かったみたいだけど、怪我は思ったより大したこと無いって。心配してた内出血なんかも今のとこ見られないみたいだし…。今は脳震盪で意識が無いけど、明日には目を覚ますだろうって言っていたから…みんな、一回家に帰りなさい。後は僕と副社が付いているから……君たちは明日も仕事でしょ?」
社長がそう言って、俺達の肩をぽんぽんと叩いた。
その言葉で俺達の顔に、うっすらと安堵の笑顔が浮かんだ。
「…じゃあ…明日の朝、また来ます。シゲのこと、宜しくお願いします。」
モリが社長に頭を下げた。NACSのリーダーとして、多分モリはモリなりに責任を感じていたんだよね……。
ともかく、明日の朝になればしげも意識を取り戻すって言うし……心配ではあるけど、俺達まで仕事に支障を来すようになっちゃあ、事務所的にも大打撃になってしまう。ここはきちんと家に帰って、明日を待つしかない…。
うつらうつらとした眠りから目覚め、俺は手早く身支度を整えると、昨夜の病院に向かった。
朝の光は寝不足の俺の目には非常に眩しいものだったが、一刻も早くしげの元気な顔を見たくて気持ちがはやる。
今度は救急用の外来ではなく、正規の入り口からなるべく顔を隠して足早に抜ける。しげの病室を受付で訪ねると、殆ど走るようにして病室に向かった。
「…あのー……失礼しまぁす……」
そっと個室の扉を開け、中に入る。白い病室の中には社長夫妻としげの両親。それに、一足早く来ていたモリがいた。皆、一斉に俺の方を見る。
「…おは…ようございますー………あの、佐藤くんはー………?」
そう言って部屋を見渡すと、皆に囲まれた白いベッドにはしげが寝ていた。額に痛々しいガーゼとネットがあったが、しげはちゃんと意識が戻っていて………心底、ホッとした。
「しげーぇ…良かった、起きたんだな。心配したんだぞ、昨夜はー。」
精一杯微笑んで話しかけてみた。
「…………」
顔を少し動かしてこちらに向けられたしげの目は、少し虚ろで…何だかイヤなざわめきが一瞬、俺の中に沸き立つ。
「…大泉……あの、ちょっと病室…出ようか。」
モリがそう言って、俺の腕を掴んだ。
「何? リーダー、いきなり何よ?」
俺がモリの手を振り解こうとしたとき、しげの声が微かに聞こえた。
「…あの………ごめんなさい。やっぱり、解らないです……」
「…は?」
しげは困ったような泣き出しそうな表情で…俺を見ている。まるで、怯えた子供のように。
「いいから、大泉ちょっと来いって! ジュース奢ってやっから!!」
なんじゃーそりゃ。ジュース奢ってやるって何よ? そんな事で俺を釣って一体何を企んでんのよ?
「モリてめえ! 何だよそれ!? ちゃんと説明しろってー!!」
言ってる傍から腕を捕まれ、病室の入り口まで引っ張って行かれた。有無を言わさぬその様子に、更に俺が噛み付こうとした途端、入り口の扉が小さな音を立てて開けられた。
「…何やってんの? リーダーと大泉……」
不思議そうな顔をした音尾と、その後ろにピッタリとくっついている安田。
「おお〜、丁度良かった。お前等全員ちょっとこっち来い!」
モリは凄い力で俺を引きずり出して、廊下を歩きだす。
廊下の端にある談話室で、モリは缶ジュースを俺に渡しながらふうっと溜息を吐いた。
「でー? 何だよいきなりアンタは。しげと話しもさせないで、何考えてんだよ一体!」
俺は溜まっていた不満を率直にぶつけた。
「何それ。シゲ…目ぇ覚めたんじゃないの? リーダー。」
音尾が訝しげな顔でモリを見つめた。モリはと言えば、ソファにどかっと座ってから視線を足元に向けたままだ。
「何だっつーのよ。早く喋れぇ! 苛つくんだよ!!」
俺はジュースの缶を握りしめて、言葉を叩き付けた。
「………んん。ゴメンなあ〜……大泉。ちょっと強引で悪かったなぁ……」
強引も何も、そんなこたぁどうだっていいんだよ。一体、何を勿体ぶってんだアンタ。
「シゲなあ………ちょっと、暫くは仕事…出来無さそうだわ……」
「…って、そんなに悪いの? シゲ。」
音尾がビックリして間髪入れずに尋ねていた。
「いや……………。怪我は、今のところ大丈夫みたいだ。たまーに、一ヶ月後くらいに頭の中に水が溜まってきちゃったりする事とかあるらしいから、まだ様子見だって言うけど、今はまあ大丈夫らしい。……ただ……」
「…ただ?」
「ただって、何よ。まだ何かあんの?」
俺達が口々にそう言っても、モリの口は重い。何度か溜息を吐き出してから、ぽそりと呟いた。
「あいつ…俺達のこととか自分のこと、まったく何も覚えてないのよ………。」
イヤな予感が的中だ。さっきのあのしげの態度…どうもイヤな感じがした。あの虚ろで、何も見ていないみたいな目は…いつものしげじゃなかった。少なくとも、俺らの知ってるあいつじゃない。
「…それって、記憶喪失だって……事?」
音尾がビックリした顔で恐る恐る尋ねる。
「うん……。医者は一時的なものだろうって言ってるけど、いつ治るかは全く解らないらしい。」
「……ああ………やっぱりだよ。さっきのあいつの言葉、おかしいと思ったものー……」
俺はジュースに口を付けて、中身をぐびぐびと飲みだした。いやに喉が乾いて…気持ちがむかむかしている。緊張しているのかもしれない……。
「で、さ。結構、今はシゲ本人がワケ解らない状態で混乱しているし…怖がっちゃって、ワヤなんだよ。だから……もうちょっと落ち着いてからの方がいいかなと……俺は思うんだ。」
「…だね。」
「……ああ。そうだな。」
音尾と安田がそう言って、やっぱり溜息をついた。そりゃーそうだよな。俺だって同じ気分だもん。いや、俺の場合はそれ以上だよ…きっと。取り敢えず生きててくれただけで……すげえ嬉しいんだけどさー。
俺の顔まで綺麗サッパリ忘れてくれちゃってるのかと思うと……何だかなまら虚しい気分。少なくてもこいつらの中で、俺はあいつの特別な存在だった筈なのになー………。
「…わーかったよぉー……暫くして落ち着いてからにする。でも、なるべく早めに会わせろ! もしかしたら俺らの顔見てスグ思い出すっつー事も、あるだろ!?」
しげとの面会は、思ったよりは早かった。
俺達はヤツを怖がらせないように、目一杯の笑顔で近づいて……まるで野生動物を手懐けるみたいに、本当に気を使ってそっと接した。
しげも恐る恐るではあるが、率先して色々と聞いてくる。きっと自分でも自分が何者なんだか解らなくて、すげえ不安なんだろーなあ。いやー……辛いわ。そんなお前、見てるのって………どうしていいか解らなくなるわ…。
色々話し合ったりした結果、しげに今までの公演ビデオや、出演していた番組なんかのビデオを見せることにした。手が空いた時間に、面会に来てなるべく話をしたりもして、どうにか記憶を蘇らせようと努力を重ねる。だけど、事故から3週間を経過しても、一向にしげは何も思い出しちゃくれなかった………。
「よぉ〜っ☆ しげー! 明日、退院するってー?」
俺はいつものように仕事に向かう前、しげの病室に顔を出した。
「そうだって。もう怪我は全然いいからね、これ以上入院しててもさ〜…」
そう言ってちょっと笑う顔は、すげえ屈託が無くて…俺の心を見事に掻き乱しやがる。お前ってば…俺がどれだけそんな顔見て、抱き締めちゃいたくて、気が狂いそうになるのか…全く知らんもんなぁ。
「あ、昨日あれ見たよー、どさんこワイド。大泉くん、やっぱ面白いよな〜!」
…………うーわあ。なまら複雑な気分だわ。あの番組のあのコーナーは、お前の看板だっつーのに。番組に穴を空けるわけいかんから、俺が代役でやってんだよ…佐藤重幸の………。
「そ? いやーそう言って貰えると嬉しいねー☆ じゃー洋ちゃん、もっともっと頑張っちゃう♪」
表向きはそう言って明るく答えるさ。だって本当のこと言って、しげにツライ思いさせんのもアレだしなぁ…。
しげは無邪気にテレビで見た俺達の事や、ビデオで見た公演の感想を述べた。どれだけ凄かったか、楽しかったかを一頻り言ってから…ちょっとだけ困った顔をして呟く。
「…実感、やっぱ無いんだよね………あの中に、俺がいて…あんなに色んな事やっていたなんて、ちっとも思えないのさ。」
「んー…まぁ、焦らなくてもいいって。きっとそのうち思い出すっつーの! な?」
「だといいけどねー。一体、いつになったら…俺はこれが俺だ! って、胸張れるようになるんだろ?」
不安げな眼差しのしげが切ないほど愛しくて、思わず触れてしまいそうになる。でも、絶対に手を伸ばしちゃ……いけないんだよ…。だって、このしげは……俺との事、ちっとも知らない真っ新な、佐藤重幸だもんなー………。
翌日、しげは事務所のみんなに囲まれて退院した。照れくさそうな顔で病院を出るしげは、すっかり元気そうに見えた。
「じゃあ、佐藤くんはホントに実家には帰らないんだね?」
社長が、んー…としかめっ面をしてる。そりゃーそうだろう。まるっきり今までの記憶がない男を、一人で住まわすってのも心配なわけで。
「そうですね。出来れば、今まで住んでいた所に行きたいんですけど。その方が何か、思い出せそうな気もするし…。実家に帰っても、かえってあの人達に気を使わせるってのもあるんですけどね。」
あの人達っつーのはあれか? しげの親のことか? ………。まー、それもそうだな。今のしげにとっちゃ、まるっきりの赤の他人だもんなー。
「仕事の方は今暫く全部代役をたてるか、お休みって形で保存してあるから。取り敢えずは今、現場に慣れるって事で、マネージャーに付いてみるのとか…どう?」
社長がしげの頭をぽんぽんと叩いて、にっと笑った。このヒトも相当しげの事、心配していたからなあ…。
「…あ、でも……悪いんじゃ………」
困り気味の佐藤くんは、凄〜く可愛い。元々、根が凄く真面目な男だもんね。そういうトコって、記憶が無くてもちーっとも変わんないんだねえ。
「いっていいって! きっとその方が、記憶が戻るきっかけになるかもしれないしさ。よーし、じゃ、取り敢えず大泉くんと一緒に行動しててよ。」
おおっ!? マジですかー…っちゅーことは、もしかしてしげちゃんと俺、他のヤツとよりは一緒にいる時間多くなるかな?
「で、明日っから副社が細かく割り振りして、いろんなトコに行って現場見て貰う事にするわ。熊谷君に託すのもいいし。」
…………ああらまー。期待過剰だった? 洋ちゃんってば………
しげは、元々物覚えがいいせいか、数日でほぼマネージャーとしての仕事を、てきぱきとこなすようになった。すっかりマネージャー兼、タレント見習いと言った感じで、俺達の仕事先に付き添っている。勿論、特におじゃ街の収録なんかは、きっちりと俺の傍で仕事を観察させた。
当初しげが俺と共に局入りした際、入り待ちしていたファンの子達から歓喜の悲鳴が上がった。
…が、スタジオには入るものの、テレビに映らない。ラジオ局に入っても、同じ。そればかりか、事故前のしげと全く態度も雰囲気も違うことに、彼女たちはすぐ気付き……そこから憶測も交えた噂が、ひっそりと流れ始めた。
それは大体正確なものであったし、事務所サイドがむきになって否定することも、かえって混乱を招くと考えられ…結果、公然の秘密のような形を成して、佐藤重幸の記憶喪失という事実を、誰もが静かに受け入れた。
『俺…どうすればいいのか解んないんだよねぇ。女の子達に声とかかけられても……どうしようもなくてさ。』
しげはいつもそう言って、溜息をつく。
『仕方ないじゃん。お前はお前でふつーにしてるしかないよ〜、気にすんなって☆』
俺にはそんな言葉かけてやることしか、出来ない…。
「お疲れ〜!」
「おーっす、お疲れー!」
ラジオの録音が終わった。口々にそんな事を言いながらスタジオを出る。外ではしげがマネージャーと共に四人の会話を聞いていた。最近やっと見慣れてきた、いつもの風景だ。
「…みなさんお疲れー! な〜まら、面白かったよ〜。」
満面の笑顔で迎えてくれちゃうから、俺の心臓が高鳴ってしょうがないったら。
「おお〜っ! だろー? シゲえ。今日は朝から、俺サエっぱなしだからよ〜♪」
「何言ってんのさぁリーダー。シゲはリーダーだけが面白いって誉めたんじゃないでしょ? 俺達全員を誉めたんじゃん。」
「いやあ、すまんすまん。今日は朝からずっとシゲと一緒だからさあ。つい、ねv」
モリと音尾の他愛もない会話が耳に入って、俺は少しだけ苛立ちを感じていた。何がって…そりゃー決まってる。子供じみた嫉妬心ってヤツさ。他のメンバーと朝から一緒にいるって思ったら、何とな〜くやるせない気持ちになっちゃってねー………。
俺がなんとなく苛々してんのが解ったのか、安顕がつつっと寄ってきて、ぼそっと呟く。
「どしたの大泉くん。元気、ないじゃん。」
「あー…おめぇに言われたらオシマイだなー俺も。…別にどってことナイですよー、洋ちゃんはいつも元気っ♪」
「…あっそー……。じゃあ、いいけど。」
何だよ安田のヤツ。心配してくれてんのかよ…。
今日はもう全員が仕事は終わりだったので、各々帰るべく、荷物を持って駐車場へ向かった。
「…大泉くん?」
駐車場でいきなり声をかけられた。車のドアを開けた瞬間で、これはかなり焦ったっつーの、オイ。
「おおう、ビックリ! なしたの? しげちゃんってば…」
振り返ると佐藤くんが立っている。無造作に帽子を被ってジャケットを着込んでる辺りは、全然前と変わらなくて、正直…格好良い男だよな。こんな何気ない格好だってーのに、何でか目を惹かれちゃう。
「あ、ゴメン。驚かせちゃった?」
切れ長の目を思いっきり見開いて、どうしようって感じの顔。………可愛い。
「いや平気だけどさー。どしたの、しげ。」
「……んー……今日って、ヒマかなあって……」
「…ヒマですよん☆」
しげが退院してから、実は俺達、頻繁にしげの家に遊びに行ってた。理由は簡単。しげ一人にしておけないから。
だって、やっぱ心配だし。何よりコイツ、無類の恐がりだからねー。ただでさえパニック起こしそうな状態の今、絶対!放っておけんワケで。
「今日はモリとずっと一緒だったんだろ? どして、俺にー?」
内心、なまら嬉しいくせに、俺ってばちょっと意地悪言ってみる。
「もーくん、今日は用事があるみたいでそわそわしてたからさー。言わんかったの。」
しげはそう言って、俺の顔をじっと覗き込んできた。
「ゴメン、もしかして今日は疲れてる?」
「そんなこと、ないですよー。」
「ホント? さっき、結構疲れた顔してたでしょ。」
ありゃ。見てたワケね。……でもアレは疲れてるんじゃなくて、嫉妬してたっつったら、一体どんな顔するやら。
「へへへ…。ホントはねー、俺……大泉くんといると何かしらんけど、楽なのよv」
………お前、それって悩殺の言葉じゃん………うーわー…理性がぶっ飛んじゃいそう。大丈夫か? 俺。
しげのアパートは相変わらず薄ら寒かった。でも、何気ない話をしてるだけで、俺は結構温かい気分になれる。だって、今しげが頼れるのって俺達だけなワケで…。でもって、その中で俺が一番だったら、本当はなまら、嬉しいんだけどさ。
「もー寝るか。明日も仕事あるし。」
吸っていた煙草を揉み消し、ペットボトルのお茶を飲み干して、俺が呟く。で、慣れた手つきでクローゼットから毛布を引っぱり出した。
「あ、大泉くん上で寝てよ。」
「!………」
しげに対して欲求が溜まっているこんな状況で、不用意な言葉を吐かないで欲しいもんだね………。
「…ベッドって、事かい? ……べつに下でも構わないですよー、僕は。」
「いやあ、ダメダメ。明日だって仕事はハードでしょ? こないだも下で寝かせちゃって、風邪ひかせそうになっちやったしさ〜。」
「いいっつの。お前だって、風邪ひかすわけにいかんの! おとなしく自分のベッドで寝なさいね!」
「イヤだね。」
……あーもー。こう言う言葉、ちっとも変わんねー………すげえ頑固だし。
「じゃー君は一緒に寝ろとでも言うんかい!?」
言っちゃってから、しまったと思った。今のしげじゃ、真っ正面から受け止めるに決まってる。
「おーし解った。じゃ、隣で寝てよ!」
――――マジですか………
それって、拷問じゃないですかー………佐藤さん。
有無を言わさず、俺はしげの隣に引っ張り込まれた。
狭くないように、精一杯しげは端の窓際に身体を寄せてくれている。
「そんなに端っこに行かんくてもいいよー、しげ。」
「いや、だって…大泉くん狭いしょ?」
「平気だっつの。ほれ、ちゃんと布団かけて寝なさいよー…こんなに肩冷やしちゃってもう。」
ほんの少し身体に触れただけなのに、思わず鼓動が高まる。高まらせちゃいけないっつーのに……ドキドキして、思いっきり抱き寄せたい衝動に駆られた。
「じゃ、じゃー…さっさと寝るぞー………」
ごにょごにょと口の中で呟いて、慌てて背中を向けた。
コレは危険だ。とにかく、危険だ。
この状況じゃ俺、昔みたいにまた、しげを犯しかねん……。
それでもって、翌朝。いや〜ぁ、やっぱり拷問だったわ。
寝ようかなーってうつらうつらすると、しげがくっついてきたり蹴っ飛ばしてくるから、おちおち寝ておれんワケ……。
またこの男ってば、相変わらずの寝相の悪さの上に、ヒトのこと抱き枕だとでも思ってるんやろかー? ってくらい、思いっきり抱きついてきちゃったりして、内心ヒヤヒヤものよ、ホント。
カーテン越しの光の中で、しげちゃんは幸せそうにまだ寝てる。色付きのいい唇が、とっても美味しそうで…思わずそっと手を伸ばして、指先で少しだけ触れてみた。柔らかくて…あったかい唇は、俺の唇で思わず塞いじゃいたいけど………それは、御法度。我慢我慢。
ちゃんと記憶が戻ったら、そりゃーもぉイヤだっちゅーても、死ぬほどキッスさせて貰うかんなー、しげ。覚悟しとけよー…。クソぉ………。
事故から二ヶ月近くが経とうとしていた。病院で何度も精密検査を受け、心配されていた後遺症やその他も今のところ無く、あとは記憶を取り戻すだけだったが、しげの記憶は断片的なものすら戻ってきてない。医者はまだ時間がかかるので、様子見だとしか言わねーし。
しげの落ち込みようったら、見ていらんないくらい。なかなか記憶が戻らない苛立ちがひしひし伝わってくるけど、どうしようもないからなぁ。
「シーゲ! 大丈夫だーって。お前はお前だよ、今も昔もなーんも変わんないんだよ?」
モリがシゲの頭を撫でた。やっぱりこういう時、この人は俺達の先輩であり、リーダーなんだなあ…と、実感。
「芝居がしたくなったら、やればいい。お前なら出来るさー。タレントの仕事をしたかったら、社長と相談して少しずつやってみればいいさ。今まで俺達を見てきて…どうすればいいかは大分、解ってるだろ?」
「……うん、そだね。ありがとうね、もーくん。」
「よしよし。」
モリが最っ高の笑顔を浮かべていると、突然音尾と安田が割って入った。
「よっしゃあ! じゃーシゲ。そろそろ俺達のこと、呼び捨てにしてよ。いつまでも君付けじゃ、なんかくすぐったいしさぁ。」
「そうそう。僕も安田君なんて、佐藤に呼ばれちゃうと調子狂っちゃうなあ。これからまたテレビで仕事するなら、やっぱ……呼び捨てでしょ。」
「……えー……だけどさあ、やっぱなんか恥ずかしいなあ………」
しげは二人を見比べてから、その後ろにいた俺に視線を飛ばした。
「ふっふっふ…じゃー洋ちゃんのことも、大泉と呼び捨てで…v」
「うーわー、マジかよー? なんだか照れちゃうよ〜!」
しげの顔に少し笑顔が戻ってきた。いい感じだ。
「僕のことはー、今まで通りもーくんvっと、呼んで下さぁぁぁぁいっ!」
モリが叫ぶ。
「アンタのことはどーでもいいんだよ!」
三人が口を揃えて言ったので、しげが腹をかかえて笑い出していた。
全てが恐々のしげが、呼び捨てで俺達を呼びだすことにしてから数日。しげと俺は仕事の帰りに、最近俺のお気に入りの店で、美味いメシを食っている最中だ。
ここんとこ、俺達を呼び捨てするのがどうしても呼びにくそうだったみたいだけど…今日はやっと少し慣れてきたのか、結構普通に会話出来るようになってるねー、しげちゃんってばv
「あーそうだ、大泉ぃ! 明日のロケ、俺も行くわ!」
「おっ? 明日は音尾のラジオについてるんじゃなかったっけかー?」
「んー。変えて貰った。もう少しロケの雰囲気に慣れたいしさ。」
しげは積極的に仕事に向かうつもりだ。元々物凄く前向きなヤツだから、そのうち記憶になんてこだわらなくなるのかもしれん。嬉しいけど………俺としてはやっぱ、複雑だな。
「どしたの? 大泉。」
「ん? 何が?」
「……寂しそうな顔、してたぞ?」
しげがマジな顔で覗き込んでくる。おいおい、その辺にしとけよぉ……でないと、この場で今すぐお前を取って喰っちゃうぞぉ………。
「バーカ☆何でこの洋ちゃんが。お前、心配しすぎだぞ。」
「…そうか、ならいいや!」
…うっ。マジで可愛い顔しやがって………その凛々しい顔、笑うと極悪なくらい可愛らしいっつー事、お前なーんも知らんもんなー………。
「ところで…さ、大泉ぃ………」
「はいよ。」
「…………………あ゛あ゛〜…っと。……………………やっぱ、いいや。」
「何よ、言いかけといてー。気持ち悪いじゃないのー?」
「いいって…」
「話しづらいなら、場所変えるか?」
伝票を持って席を立つと、しげが慌てて追いかけてきた。俺はさっさと支払いを済ませる。周囲の人間からは見えないようにしげの手をそっと掴んで、店を出た。
「いくら?」
「…いいよー。たまには奢ってあげちゃう。 洋ちゃんはケチじゃないからねー。」
「………あんた、ケチなの?」
「違うって言ってるんだぁ、オイ。」
お互いにぷっと吹き出して、けらけらと笑い合った。こんなのって、なんかすっげえ久しぶり。
やっぱ俺…佐藤のこと好きなんだなあ……。
「最近掃除してねーから、ちょっと汚いよ。」
しげが適当に辺りを片付けてる。この前、一晩中悶々としていたあの時以来だ。この部屋は。
あれからは、忙しいからって適当に都合つけて、来るの避けてたんだけどさ。…だって、今度ここで二人っきりになったら……マジで理性保てるか解らんもん。
でも、今日はもう鉄壁の理性で耐えてやる! 何より、しげが相談したい事あるっつーなら、背に腹は代えられん。落ち着いてちゃんと話聞いてやらにゃー…心配だし。
「まあテキトーにしとけ、しげ。……で、さっき言いかけてた事はなんだー?」
「え? ……イヤ、まあその……いいじゃん、今コーヒーでもいれるから、さ。」
困ったように顔を逸らして、しげはバタバタと準備をし、お湯を沸かしてる。何か…ヘン。
仕事のこと……? いや、それなら多分、俺よりモリに聞くだろう。リーダーにも結構しっかり懐いちゃってるし。
顔突き合わせながら、しげのいれてくれたコーヒー飲んで……しばし、沈黙。なんじゃこりゃ。ちっとばかり、気まずいぞ。
「でー? しげ。いい加減に吐いちゃえばー?」
そう言われてしげはじっと俺の目を覗き込んだ。
「……やっぱ…無理かも。」
ぽそっと言って、視線を下に落とす。
「そんなの、言わなきゃ解んねーべや。」
「………解るってぇ………。」
「いいって! 言ってみれぇ!」
いつの間にかしげの顔…赤くなってる。うーわ、拷問だ…これ。なーまら色っぽいぞ〜、くそぅ!
「だって……その………さ。もしかして、勘違いとかだったら……俺も、なまら辛いし…………」
「は?」
コーヒーカップを握ってる手が、微かにぷるぷる震えてた。なんか、半分泣きそうな顔して…どうしたの? しげ。
「…あー…の、ね……そのぉ……あの…………大泉さあ……………」
「はい。」
「うーわー、やっぱ言えねーって!」
「ほい。それで?」
「その……勘違いだったら、ゴメンッ!!」
顔を真っ赤にして、しげはそう叫んだ後、小さな小さな声で言った。
「前の俺と……その…………何かちょっと…特殊な関係とかって………あったのかな? …って………」
その瞬間、心臓がばくばくと脈を打つ。なんだ? なんでだ? どうして、お前の口からそんな言葉…出てくんのよ?
「あっ…そ…それ……何………なんでっ!?」
「いや…ゴメン! ゴメン! 気にしないでッ!! 忘れてお願いッ!!」
「や、そーじゃなくてえ…お前、もしかしてちょっとは記憶、戻ったの?」
しげは真っ赤な顔して首を横に振った。
「……違うのさ。こないだ、昔のスケジュール手帳見つけちゃって……なんか手がかりとか有るかなーって、見てたら……日記っぽい走り書きがあったのよ…………」
「しげの……日記ぃ!?」
何を書いていたんだ?あいつは。すげえ気になるよ……。
「でさ…そのぉ……まあ、なんか色々書いてあったワケさ………ちょこちょことさ。」
「……それ、見して。」
「や! それはまずいって!!」
「まずいよーな事、沢山書いてあった?」
慌てて顔を背けて、冷めたコーヒーを一気に煽るしげの喉元に………目がいってしょうがない…。
「俺達が何してたか…書いてあった?」
「へ? 何…? 何してたって……別にんな事は………ただ、大泉が強引だったとか………その………あの………なんつーか、その…ソレっぽい事が書いてあったからてっきり、俺………」
俺の下半身から、何かがこみ上げてくる。期待混じりの高揚感と、煮詰まった欲望と、切ないほどの愛しさがごっちゃになって…ぞわぞわと、俺を蝕むのが解る。
「…してたよ。」
しげの顔が引きつった。どうしていいか解らないって顔、してるね、オマエ。
でも、大丈夫………嫌がるようなことは、もう、しないよ。二度と、無理矢理なんて…もうしない。
「あ………そう……なんだ……………………」
一瞬気の抜けたような表情を浮かべたしげの顔に、どうしてだか少し笑みが戻った。安心したように、笑顔……。
解らん………なんでだ?
「じゃあやっぱり、俺の勘違いとかじゃないんだな?」
はにかんで、やっぱり笑顔。……………………………しげ、どうしちゃった?
「俺………なんでだか、大泉のこと気になって気になって仕方なかったのよ………ずっと、どうしてだろう? って。ずっと、ね。みんな同じように接してくれてるのに、アンタだけが特別の存在だったみたい………。」
――――多分俺は、馬鹿のように口を開けていたに違いない。
「俺は、やっぱり昔の俺と変わらないんだね………? 記憶が有っても、無くても…俺はやっぱアンタが好きなんだね。」
こんなに嬉しい瞬間って…かつて、あっただろーか………俺の人生簿の中には、しげに告白されるなんてメモリーは一生刻めないと思ってたなぁ………。感動して、涙出ちゃいそう。
「…マジですか…? ……佐藤さん。」
「マジ……じゃねーと、言えないって………」
言い終わるか終わらないかのうちに、俺は向かい合っていたテーブルから席を外して、しげの隣に移動していた。
「今更、冗談でしたー! とか、ドッキリだから嘘だぜ〜…なんての、ナシな! 佐藤ッ!!」
「はいッ?」
「お願い……怖くねえから、絶対絶対! 怖いことしないから………」
そう言って、そっとしげの肩に手をやった。びくっと震える体を抱き寄せてみる。
………ああ、もう何カ月ぶりのしげだろう………ホントはずっとこうしたかったんだぞー、俺。お前の身体に触りたくて…気が狂いそうでしたよ………。
その辺のこと、解ってるのか? しげ……。
指先をしげの口許に伸ばして、柔らかい唇に触れてみる。何か言おうとする唇の動きを指で制止して、つつっとなぞってみた。案の定、しげはちょっと目を潤ませて俺を見上げてくる。…お前、唇弄られると…すぐ感じちゃうもんなあ……。
耐えきれなくなってきて、自分の唇を重ねた。何度も何度も唇を合わせ、やがて貪るように深い口付けをすると、しげの手が俺に縋り付いてくる。
全〜然っ、信じられないよ……今、こんな事になってるなんて。あの強情で喰えない佐藤重幸が、頑固過ぎて自分の感情を決して素直には表してくれんかったしげが…しかも記憶までなくしてくれちゃって、絶対に手出しできないと思ってたこの男が……自分から、好きだったなんて言ってくれちゃってるんだぞ?
盆と正月、いっぺんに来た上に、更に宝くじに当たった気分かも。
唇を貪って、舌を絡ませる。荒々しくなってくる息の下で、しげは必死で受け入れてくれてる。……すげー、可愛い。駄目だ。キスだけって思ったけど……全然止められない。いやらしいこと、沢山してやりたくて…ウズウズしてる。
いやでも駄目だ。…もうあん時みたく強引にやっちゃー、またしげが可哀相だ。
だけど身体は止められなくて。しげのさらさら揺れる髪の中に、するりと指を差し入れて、梳くように彷徨わせながら、更にしげを貪り続ける。ああ、もう限界―――――――。
「しげ……悪い、前言撤回していいか? ………怖いコト、しちゃいたい!………」
お互いの唾液で濡れたしげの唇が、淫らに光っている。そして微かに唇が動いた……俺の願いを受け入れる言葉を、その口で奏でるため…。
俺はしげを抱きかかえて、隣の寝室に入った。そして、ベッドの上に出来る限り優しく降ろしてやると、俺も腰をかけた。
「やっぱ…怖いかなー? ……大丈夫だと…思うんやけどなあ…………怖い?」
「怖いけど………アンタにされるなら、別に構わないよ…俺。」
「うっわー……そんな事、言ってくれちゃうのぉ? 洋ちゃん、これはたまらんわー…今、すぐにイってしまうって!
思わずぷっと吹き出したしげ。ちょっとは緊張とれたかな?
「出来るだけ優しくするから……もう絶対、泣かさんから!」
「………さては、前の時は泣かしたのかよアンタ。」
凛々しい眉の下で、しげの綺麗な目がきらっと光った。憶えてなくても、性格本来のものは変わらんもんねー。相変わらず、突っ込んでくるワケか、君は……。
「…ま、まあまあ……まあそれには触れんといて。だって、洋ちゃん…しげちゃん大好きだったから。最初はちょっと手荒な真似しちっゃたの……」
ちゅっと唇をほっぺに宛うと、しげの顔がほわっと赤くなった。
「…まあ、いいんじゃない? だって俺、その時からずーっと大泉の事…受け入れてたんでしょ? …はっはっは。こんな事言うと、まるで別人の話してるみてーだけど、俺のことなんだよなあ。」
ほんのり赤くなってるしげの顔に手を添えて、もう一度ゆっくり口付けを交わした。確かめ合うように、でも思いの丈を伝えたくて、思いっきり…淫らに……。
ベッドの上に押し倒すと、しげってやっぱり華奢だなー。Tシャツの上にもう一枚、羽織っているにも関わらず、細いラインが浮き出てる。手を這わせてしげの様子を見ると、ちょっと息が荒くなってて…色っぽい。
シャツの裾をたくし上げて手を滑り込ませ、思うまま弄ぐってから、片方の胸の突起を指の腹でそっと触ってみた。
「…ぁ………」
小さな吐息にも似たしげの声が漏れて…ぞくっとする。……もっと、この声を聞きたい。乱してやりたい。
反対側の突起に唇を押しつけてやると、また少し声が漏れる。極上に甘くて、酔いしれそうな…しげの喘ぎ。
ぴちゃっと音をさせて舌先で舐め、身体がびくびくと震えるのを楽しんでから、口に含んで本格的に舐ってやる。
「や……ぁ………っ………」
どうしていいか、解らんのでしょー? しげちゃん。戸惑ってるその顔…なまら、艶っぽいのさ。
二つの突起を弄くりながら、余った手を下半身に這わせていく。今日履いてるのって、わりと身体にピッタリとしたズボン。その上からしげの分身をやんわりと握り込んで、指先で微かな刺激を与えた。案の定、身体を強張らせて、涙目で見つめてくる。そんな顔を眺めながらチャックに手をかけ、するするっと中に手を入れてみた。
「……しぃ〜げぇ………………………お前すっげえ、濡れてる。」
「…そっ………そーゆこと………言うなよ…ッ………」
「バ〜カ。 だって、こんなに感じてくれちゃってるんでしょー? …嬉しいよー。」
先走って滴り落ちてる透明な液体を、指先に絡み付けて目の前に翳してやったら、顔を真っ赤にしてる。
だから、わざと目の前でその指を音をたてて舐めてから、唇を重ねて舌を絡ませた。
再び手を中に忍び込ませて、今度は本格的に指先をしげ自身に絡ませ、刺激を与え続ける。
「……ぁ……っ………うわ……あ…っ…………やだぁっ………」
喘ぎ始めたと思ったら、しげはあっという間に達してしまっていた。これには少々俺もびっくりだわ。………こんなに感じてくれちゃってたの? 佐藤くんってばさ…………。
俺はニコニコしながら、泣きそうな顔で脱力してるしげに口付けた。
「……ゴメン………俺……………」
「しげちゃん…自分で抜いてなかったんだねー……洋ちゃんちょっと嬉しいわ。……まだまだいっぱい、イかせてあげるから、そんな色っぽい顔して泣きなさんなv」
ぶちまけたものでべとべとになった服を丁寧に脱がせて、白い体液があちこちに付いた下半身に舌を這わせた。
「…や、駄目だって……汚ねえよ……大泉………」
「どしてー? しげのだよ。汚くねえよ……まあ、今全部舐めてキレイにしたげるけどー。」
ちょっと慌てて身体を起こそうとするのを制して舐り続け、そっとしげの分身に唇を這わせると、身体をびくっと震わせた。もう既に硬さを取り戻し始めていたそれの先端に、窄めた舌先を差し入れてつつくと、また透明な液体が蜜のように溢れ出してくる。
「…ぁは……あん…っ………やだ………ッ…………やだあ…………」
すーげえ色っぽい声を出すんだもんなあ。可愛くてたまんねえわ。しかも俺の頭に手を伸ばしてきて、髪の中を彷徨いだすし。俺まで気持ちがイイったらないワケ……。
頃合いを見て、ベッドの下に手を伸ばしゴソゴソと探ってみた。…ああ、あったあった。コレが無いとね、やっぱ佐藤が大変だし。
取り出したチューブの中身を手早く指先に塗りつけてから、再びしげの下半身に覆い被さった。刺激にうち震えてそそり勃つ、しげの分身。その下に顔を滑り込ませると、困惑気味でしげが俺の名を呼んだ。
「…大丈夫だから、じっとしてろよ……」
ぴちゃっと音をたてて、舌が、しげの奥深い部分を這いずり回る。入り口付近を念入りに唾液で潤してから、先程ローションをたっぷり塗りつけた指先をそっと舌で潤した部分に宛い、ずぶ…と埋めてみた。
「!!……うわ…っ………あああああッ…!…………」
パニックを起こしかけたしげの悲鳴があがる。でも記憶は無くても、さんざん俺が慣らして開発しまくっちゃった身体は、それをそう忘れるわけも無くて……容易に指の侵入を受け入れてくれちゃう…。
「ゴメンなー、ちょっと怖いなぁ…でも大丈夫だよー、しげ…。すぐ慣れると思うから。……もうちょっと我慢しろね。」
指を少しずつ埋め込んで、ちょっとずつ動かしてやると…しげの中はじわじわと蠢き始める。もっと刺激を欲するかのように、貪欲に指を飲み込もうとする。
ぐちゅぐちゅと中を弄ぐりながら、息づくしげの分身を口に銜えた。
「……うそッ……やだぁ…………あぁ…んっ…大泉…ぃ……?……」
両方から与えられる快楽に、しげの身体が悶えていた。多分、自分でもどうしていいか解らないんだろう…目にいっぱい涙溜めて俺の方を見てくる。そりゃーそうだよね…だって今……しげのなまら感じちゃうトコ、弄くっちゃってるもん。 ここ触ると、すげえ可愛い声で啼いてくれちゃうんだよね。
「…は……あん…っ……また………イくってぇ……っ………ダメだよぉ…っ!…………」
愛しい愛しい分身ちゃんを頬張りながら、ちょっと強く中を刺激した途端…しげは呆気なく達していた。
どく…どく…と吐き出される白い精を、喉を鳴らして飲み干してから、涙でぐちゃぐちゃの顔を見下ろして…すっげー嬉しくなる。やっと俺のしげが帰ってきた感じがして………胸がいっぱいさ、もう。
「…辛かった?………」
脱力してるしげの唇に軽く自分の唇を重ねて、そっと尋ねてみる。
「……んん………思ったよりは………大丈夫…でしたぁ………」
気恥ずかしいのか、ちょっと困ったような微笑みを浮かべて、しげが縋り付いてきた。
「おお、どうしたー…可愛すぎるぞぉ、お前ー……」
「へっへ………俺、大泉のこと、好きだなあ…って。」
悩殺モノの言葉をくれちゃうから、洋ちゃん、いきなりイっちゃうとこでしたよ……アブナイアブナイ。
「しげ…大好き。お前がいたら…何でも出来そう、俺。」
しげの首筋に唇を這わせ、抱き締めて身体を弄ぐった。好きな気持ちが胸の内に沸き上がってきて、まるで切ない気分によく似てるよ、これって。お前が欲しくて欲しくて、俺の心のどこかが欠けてるみたいに飢えて…欲してる。
身体を重ねて、確かめて、泥沼みたいな快楽の中におんなじように浸かっていたい…。
「今度はさっきよりずっと辛いけど…いいかい? しげ………」
「ばーか。聞くなよ………んなこと。」
両手で俺の顔を挟んで、なまら綺麗な顔で真っ正面から俺を見つめてきやがる。真摯な…本当に真っ直ぐな目。
俺はさっきのローションをなるべくたっぷりと自分のモノに塗りつけて、しげの奥まった部分にそれを宛った。
ずぶ…と先端を埋める。身体の下で、しげが声を出さないように必死で声を噛み殺して耐えてた。
「痛かったら…我慢しないで痛いって言えよ?」
なるべく時間をかけて抽挿を繰り返す。苦しがる素振りのしげの指に、自分の指を絡めて、精一杯手を握りしめる。
やがて、吐息と微かな喘ぎ声が漏れ出すまで…俺は辛いのを我慢して、時間をかけてしげを貫いた。……だってコイツ…初めてだもん。なるべく大事に、大事にしたいじゃん……。今度は前の時みたいに、無茶苦茶はしたくない。
「………おお…いず………みぃ…………」
切ないくらい苦しげな吐息の下で、しげは俺の名を呼ぶ。だから、余計…愛しい。
「気持ち……イイよ…ぉ………気が変に……なりそ……っ………」
紅潮した顔でしげは確かにそう言ってくれた。これって俺にとっての、最高の訓辞じゃーないかな…?
つい、嬉しくなって俺はしげの身体をすくい上げた。
「…!?……う…わああっ………」
あっという間にしげは俺に抱きかかえられて、膝の上に乗せられ……下から再度、俺のモノを銜え込む羽目になっていた。
「………あ……や………ぁ………ッ………」
半分くらい埋め込んだら、きゅっとしげの中が収縮して、簡単に根本まで飲み込んでくれた。そして、またいやらしく蠢くんだよねー…。
しげの赤く色づいた突起をそーっと舐めながら、下から揺さぶって中を掻き乱す。頭の上で甘く上がる喘ぎが艶っぽくて、耐えきれないくらいだわ。
「ちょっと強引だったけど、大丈夫? 辛くないかい?」
しげはふるふると頭を横に振って、俺の首もとに縋り付いてる。
「気持ち……いいみたい……………」
「そか。良かったー………じゃー自分で動いてみれ。」
「……ぇ………んなこと……………………恥ずかしいって……………」
「いいから〜、ほれv」
怖ず怖ずと腰を動かす様がまたいやらしくて、最高。息を乱しながら、自分で俺のを出し挿れしてんだぞ? こんなしげ、そうそう見れるもんじゃねーよなー……ああ、幸せ。
「…おおいずみッ………俺………も………ダメかもぉ………」
暫く動いて自分で感じるトコ探り当てちゃったしげは、必死でイかないように耐えてる。
「いいよ、イっちゃえ……俺ももう、我慢限界だわ………」
華奢な腰を掴んで下から強く強く揺すぶって……そのまま俺達はほぼ同時に達した。久々にしげの中に吐き出した解放感で、俺まで思わず泣きそうになる。
しげはぐったりとして、俺に倒れ込んできていた。俺達の身体の間には、しげの、ぶちまけちゃった三度目の体液がべったりとくっついていた………。