Soup=Spice=Soupcurry ・1



 俺はふうっと溜息を吐いた。
何故なら、いっこも歌詞が繋がらないからだ。

現在俺は、以前パーソナリティーを務めていたラジオでの企画物に携わっている。
『リアルラブソング』と題されたコーナーで、当初俺は殆ど関わらなくていい筈だったのに。
何故か生放送中に俺にお鉢が廻ってきて、曲はアーティストが作ってくれるが俺はそれに歌詞を付けなければいけないわけで。
その歌詞というのがまた全道から送られてきた膨大なキーワードを繋げて、札幌らしいラブソングを作るなんちゅーとんでもなく面倒臭い作業だった。
で、俺は送られてきたメールやFAXの束を抱えては最近いつもうんうんと唸っている。
だってね、電話帳ぐらいの厚さなのよ! 信じられるかい?
それにひとっつひとつ目を通しちゃー、あそこに繋げるかここがいいか。いやまて…これじゃ意味が解んねーっつーの! なんて、一人で頭をひねくり廻して考えている。

 まだ一番は良かった。結構すらすらと出来上がって、担当アーティストの元まで余裕でFAX出来ていたんだけど、そっから先がさあ浮かばない!! いやー困ったわこれ!! って事になったわけ。
印象的なキーワードを織り込みながら、足りない部分は俺の言葉と想いで埋めていけばいい。そうは思っていてもいざ! って紙に向かうと、ちーとも纏まりゃーしないっつーの。

 「おーおー…、ま〜た勢い良くペンぶん廻しちゃってまあ。」
ガチャッと控え室の扉が開き、『おはよーございまーす』の声が聞こえたかと思ったら、机に向かっている俺の背後からひょいっと顔を出して、平然と呟いてくる。
「おーはよー、しげ。悪ぃけどお前…ちょっとあっち行ってれ。鬱陶しいから。」
「あら、何その言い方。傷ついちゃうなあ〜俺。」
口を尖らせながらしげが睨み付ける。
今来たばっかりで鞄を手に持ったままだ。顔にはサングラスを掛けて、相変わらずしゃれーっと男前ぶってる。
「いーから邪魔すんなや。今、追い込みなんやから。」
そう言ってしっしっ…と手振りすると、いかにも不服ありげな顔をして部屋の隅に置いてあったソファにどかっと腰掛けた。
「追い込みってアンタ…先週からずっと言ってますけど。随分と長い追い込みですねー大泉さんっ!」
邪魔者扱いが気に障ったのか、不貞腐れて声を張り上げてくる。
全く、お前はガキかっつーの。


 それでもいっこもいい案は浮かばなくて、ますます俺の指の上でペンが勢い良く廻る。
あーもー、洋ちゃん逃げ出したいわー。ただでさえ忙しいっつのに、こんなに面倒臭い仕事なんてやってられないって、マジで。
そんな思いに駆られてあと一歩で挫ける寸前、コトリ…と、テーブルの上に缶ジュースが置かれた。
振り返ると、しげが照れ笑いをしてる。
「…まあ飲めや。疲れてる時はちょっと甘いものとった方がいいらしいし。俺の奢り。」
それだけ言ってすたすたとソファに戻り、またどかっと腰を掛けてる。

………気付かないうちに自販機まで買いに行ってくれたらしい。俺が頭抱えてるの見てそーっとここを抜け出して。
しげ、やっぱ可愛いなあ。
意地っ張りだけど、しかもガキみたいにうるせーけど…やっぱりそんなところが愛しいわ、お前。
俺はサンキュー…と小さく呟いて、プルタブに手を掛けた。

 そしてふと、思いを馳せる。
こんなに近くに居て、こんなに愛しいこいつのことを。
そうだ。確か一年前だっけ。
お前が嬉しそうに見つけてきたあのセーター…。
トナカイなんていう随分と不思議な柄のあれ。周りにゃー散々ダサいだの変だのと言われまくって大不評だったけど。
でもやっぱり俺には嬉しかった。だから今年もまた着ちゃってるんだよなー…あのセーター。
本当は、お前もお揃いで着たかったんだろうに。
でもあまりにもそれは分かり易すぎるって顔して、俺に見立ててくれただけだったっけ。
意地っ張りだから『俺には高くて手が出せなかった!』なんて言っちゃってさ。

俺は込み上げてくる笑いを抑えきれずに、つい声に出して笑ってしまっていた。
「おお? どしたの? 大泉!!」
しげがビックリして素っ頓狂な声を上げた。
「ああ? 何でもねーって……ちょっと、思い出し笑い。」
目玉をまん丸くしてるしげは、益々可愛らしい。
「ちょっとちょっと…大丈夫かい? 洋ちゃん…」
そう言って怪訝そうな顔で見ている。
「悪ーりぃ悪い! だけどお陰さんで少ーしばかり良いネタがうかんだぞー、しげ。有り難うよ!!」
「……は?」
やっぱりしげは怪訝そうな顔してる。まあいいわ。説明すんのも七面倒くさい。

 そうしてまた俺は思いを馳せる。
確か…あのセーター。しげん家に行くときに着ていったことがあったっけ。
お前と来たら俺が脱ぎ捨てたセーターを面白がって着ちゃって。でも案の定デカいったらない。
当たり前だわな、俺の身長とお前の身長じゃサイズは全然違うもんね。
ブカブカのセーターを面白そうに着ながら、妙にはしゃぐお前が可愛かったの…今も覚えてる。
袖から手がちょこっとしか出なくて。
裾も俺が着てるときより随分と長く見えちゃって。
女の子が男物のシャツを着てる見たいな妙な可愛らしさが、身体中から滲み出ていたっけなあ…。
あんとき俺…幸せってこんな感じでふわふわしてるんだなあって思ってた。
外はなまら寒くてしんしんと降り積もる雪だったけど、お前の選んでくれたセーターはあったかいわ。
でも、お前の笑顔は…もっとあったかい。


 「何、大泉。どしたの? バカ面して。」
突然ばんっと背中を叩かれ、ハッと我に還る。
「もうすぐだよ、時間。そろそろメイクしちゃいましょうや!」
「あ、ああ。そうだなー、悪い悪い。んじゃーやっちゃいますか。」
ぽりぽりと頭を掻きながら、思わず俺は目の前のしげを見てにんまりしてしまっていた。
「―――大泉さん、変。人の顔見てニタニタしてからに。気持ち悪ぃ〜から止めて頂戴。」


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