太陽と水澄まし

 「おや、奇遇ですな?」
 「あれー、あんた、あん時の」
 「おう、坊や。良い合いの手だったねぇ」
 「其れはお互い様。あんたも旅してんの?」
 「足の向くまま気の向くままの極楽蜻蛉。其の
日をしのげりゃそれで良い、とな。幸いこう言う
暮らしにゃ馴れとるもんでな」
 旅の途中で再会したのは、何時ぞや歌う説法を
した時に乱入して、場を変に盛り上げてくれた見
知らぬ坊主。確か…、
 「瞑々とか、言ったな?」
 「憶えていて下さったか!いや其れだけでも光
栄ですな。此処で会うたも何かの縁じゃて。…お
女中!済まんが酒瓶を2本戴けますかな!」
 「路銀は大丈夫か?」
 「帳尻さえ合えば良い事ですじゃ。…ささ、一
献召しませ」
 やけに爺むさい喋り方を…と思ったが、本当に
爺に近い、か。其の割には身のこなしが妙に確り
している。…新手の刺客?いや、違うな。こんな
草臥れた刺客も…芝居、か?
 「何難しい顔して呑んでるんですか?お酒は、
愉しく戴きましょう」
 八戒が正気を保っているなら、まあ大丈夫か。

 結局、酒場を出て宿も一緒に取り、俺達と瞑々
は呑み明かす。サルと河童は草々にダウン、か。
俺も一寸やばいな。
 「三蔵、どちらへ?」
 「厠だ!」
 ついでに風にもあたってくるか。
                    
 「良い月ですな」
 「…お前さんもか」
 「余りの青さに誘われました。でも、辛くない
ですか?」
 「何がだ?」
 「あの日と同じ月ですからねぇ。どんな巡り合
せか」
 一瞬、背筋が凍った。…お師匠様!
 そう。あの日と同じ様に、青く冴えた月だ。
 「人間じゃないとは思ったが…妖怪、でも無い
な。誰なんだ、あんた?」
 「光明三蔵法師を惜しむ者、では納得出来ませ
んかな?」
 「気持ちは有り難い。だから、余計に知りたい」
 困った様なはにかみ顔…何処かしらお師匠様に
似ている。
 「天上界の住人、地蔵菩薩が三十六体の分身の
一人、瞑々と申します」
 「地蔵菩薩の…分身だ?」
 「流石に一人で桃源郷全土は廻れませんからな。
全員が散らばったり入れ替わり立ち代ったりして、
ささやかな手解きをしておりますよ」
 「神は見届けるだけ…と言った婆ァも居たな」
 「基本姿勢は変わりません。只、最低限の手出
しはしますじゃ。最も、分身の哀しさで及ばぬ時
も有りますがな」
 そして、唇を噛みしめる。
 「あの時も、間にあわなんだ」
 「助けてくれる、つもり…?」
 「其のつもりでしたが…中途で妨害が入りまし
てな。運命だの何だのと、上から言うだけの連中
は実に気楽じゃて。自分の手は汚さずにの!」
 「観世音菩薩…」
 「で、ある筈無いでしょう!天界の役人連中で
すじゃ。今頃になって歯噛みをしていると本体か
ら聞きましたが…いい気味じゃて」
 眼を見ると涙ぐんでいた。眼の前に俺が居た事
に改めて気付き、照れた様に頭を掻く。
 「ちと、取り乱しましたな。お見苦しい所を」
 「いや、此方こそ忝い」
 自分で驚くほど、すらりと感謝の言葉が出た。
 「あんたはこれからどっちへ?」
 「この街より北の方角で声が聞こえましたでな。
夜明けにゃ出立してゆくつもりですじゃ」
 「そうか。奢って貰った酒、実に上手かった」
 「ナニ。実を申せは金の出所はそちらと同じ。
三仏神から預かった経費じゃて」
 「…結構悪だな、あんた」
 「あの観世音とも付き合いがありましたからな。
…息災で在られませ。東亜玄奘三蔵法師殿」
 「頼み…いや、願いが、在ります」
 「改まられて…どう言う事ですかな?」
 「一度、以前の名で読んで欲しいんです」
 「光明三蔵の代理、ですかな?」
 「不愉快ですか?でも、貴方にならお願いでき
そうだと…」
 「寧ろ光栄ですじゃ。ならば…」
 印を結んだ瞬間、容貌が変わる。紛う事無きお
師匠様が、其処に居た。
 「江流…、いえ、もう立派な玄奘三蔵ですね」
 其の一言を聞けただけでも、超レアだと、思った。
                 (2001.3.31)
《コメント》
一寸苦しい終わり方、かな?
「Hit&Run」の続編的な話です。
三蔵の人格、最後の方でかなり変わっ
ちゃいましたね。師匠が絡むと…。

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