煎餅屋・神代京介の毎日
其の拾壱

 傍から見れば新しい体操の一種か、それとも
創作ダンス、若しくは一種のパフォーマンスに
見えたと思う。音楽が無ければ。
 蒼の前にはすらりと伸びた1本のアンテナ。
其のアンテナに沿って右手が細かい動きを見せ
る。其の動きと共に紡ぎだされるのはハミング
の様な、何処か頼りない電子音。
 『荒城の月』『白鳥』、そして、傍らのピア
ニストのオリジナル曲。演奏会場である小ホー
ルが静かだったのは音を聞き逃すまいと言う観
客同士の暗黙の了解だったのかも知れない。
 予定曲を演奏し終えて二人の挨拶。そしてア
ンコールの拍手。
 ピアニストは今度は傍らの、これまた奇妙な
機材群の前に陣取った。オルガンの周りにスピ
ーカーを3つ配置したかのような、そんな感じ
の『楽器』。そこから紡ぎだされた音は、蒼の
前の楽器の出す音に似ていて、其れでいて深み
のある音。
 アンコールの曲目は、『六段』だった。

 「お疲れ様でした!」
 「ホーント、疲れたよ。でもカゲリも随分練
習したんじゃないの?」
 「ブランク、結構厳しかったっスから」
 高校の後輩でもあり、腐れ縁でW大の後輩に
もなった結城翳は鼻の頭を掻いて見せた。
 「神代さんに褒めらんなかったら、あのまん
まピアノに触ってなかったし」
 「良い音だったもんね」
 「ピアノの質が良かっただけでしょ?」
 「そう?調律結構狂ってたじゃん」
 事も無げにあっさり言う先輩だ。
 「其れに外見とのギャップもあって結構面白
かったし」
 「どーせ俺はピアニスト向きな外見じゃあり
ませんよーだ」
 どちらかと言えばロックミュージシャン風な
外見の翳である。まあ、世界には革ジャンパー
をステージ衣装にした弦楽カルテットも存在す
るのだから良いとは思うが。
 「でもぼくにまでお鉢が廻ってくるとは思わ
なかったな。これ、えーと…」
 「テルミンです。まあ、廉価版で初心者でも
扱いやすいタイプですけど」
 「本式はアンテナ2本だっけ?」
 「出来ないっしょ?多分」
 「多分じゃなくて絶対。…あれ?」
 「何か?」
 「ずっと前TVで見たテルミンって、違う形
だったと思ったけど」
 「開発初期の奴だったんじゃないですか?」
 「そーかも。あ、もう一台のあれは?」
 「オンド・マルトノっス。多分これ、音聴い
た事あるっしょ?」
 「コマーシャル?」
 「まあ、シンセの爺さんみたいな感じらしい
し」
 「ふーん」
 「ところでさー、カズミ先輩」
 「ん?」
 「最近、太った?」
 無言の脳天鉄拳。
 「ってーなー」
 「いきなりはそっちだろ!」
 「でも最近、顔丸くなった様な気がすんだけ
ど」
 「……マジ?」
 「これで嘘ついてどーしますよ」
 「顎の下に筋肉って」
 「付く訳無いっしょ」
 取り付く島も無いお返事である。
《コメント》
煎餅屋にもカゲリ登場。しかも
ピアニストです。
学年・年齢については原典参照の上、蒼が
順当に学校に行っていると言う設定の上で
選択しました。
登場楽器については葡萄瓜の変な注釈よりも
正確な情報を掴める下記のリンクから
辿って下さい。

煎餅屋・神代京介の毎日I

オンドマルトノ奏者ハラダタカシのページ     イシバシ・テルミン

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