煎餅屋・神代京介の毎日I

                   この商売を遣り始めてからどうにも小腹が空く
                  様になって困る…いや、この言い草は贅沢と言う
                  ものだな。
                   「千草」の主・京介は一人ごちて、ついと苦笑
                  い。学生自分を振り返れば如何にも若さ任せの不
                  規則生活。そりゃあちゃんと腹が減ると言うのが
                  不思議な生活だ。蒼…香澄がああ迄規則正しく育
                  ったのは…ああ、反面教師か。面目の立つ余地も
                  無いな。
                   時計を見れば確かに11時半。多少早いが昼飯
                  時だ。上手い珈琲が飲める店で一服、と言うのも
                  良いんだが、どうせ場所塞ぎの熊が家で待ち構え
                  て2杯は付き合う事になる。
                   …そう言えば…そうだ、序でがあるならあの店
                  で良い。蒼が煩く言う栄養バランスも先ずクリア
                  できるだろう。
                   「先に昼行くけど、良いかい?」
                   「お早いお帰り!若旦那が居ないと売上に響く
                  から」
                   手伝いのヒロの声に送られて、三軒隣の暖簾を
                  潜る。

                   「あら、千草の若旦那。今日はお早いですね?」
                   「一寸ね。あ、ご主人居たら一寸お願いしたい
                  んだけど」
                   「もう今一息つく頃でしょう?今朝からずっと
                  糸解しやってたみたいですから。味噌交ぜで良い
                  ですか?」
                   「後茶で」
                   「ハイな」
                   丁度僕が店を構えるのと前後して出来た食事処
                  「禮丼」。此処は奥さんがずっと表を仕切ってい
                  る。店の名前の由来は、実は奥さんの俳号其の侭
                  だ。夫婦の苗字が不破。ご亭主は俳人の不破云亭。
                   此処の売りは石焼鍋を遣ったピビンバ(韓国風
                  混ぜご飯、と言えば良いのか?)のヴァリエーシ
                  ョンだ。本場で作られている正統派は勿論、和風
                  にも洋風にもアレンジがあり、それで居て決して
                  外れが無いと言う評判だ。本当の昼時に来ると待
                  ち時間で1冊小説が読めるので、今位の時間に来
                  れる商売に実際感謝している。
                   「やあ、若旦那」
                   「……云亭さん、随分な隈だね」
                   「糸解しは良いんだが、BBSの渡り歩きだか
                  らねぇ…些か疲れたよ。で、何をお探ししましょ
                  うか?」
                   「このメモの上から2番目だけど…」
                   「どれどれ」 
                   ロイド眼鏡を外して、メモで瞼を擦る様にして
                  見ている。
                   「原書は一寸難しいかも知れない。案外デジタ
                  ルの方が早いかな?早ければ夕方には伺いましょ
                  う!とりあえず一段落してるし」
                   で、大きな生欠伸。
                   「飯、食べて置いた方が良いですよ」
                   「昼時過ぎてからに食いますよ。禮丼さん、後
                  10分で交代ね?」
                   「20分!少しでも休んでらっしゃいな」
                   「じゃあ甘えましょう」
                   主人退場の一瞬後、僕の眼の前に注文の品が置
                  かれる。味噌と鯛の昆布〆をあしらった石焼ご飯。
                  混ぜて焦げ加減の味噌を味わい、番茶を注いで茶
                  漬け風もまた美味い。食欲がなくてもつい箸が進
                  んでしまう。
                   「若旦那、今日も健啖ですねぇ」
                   「此処の飯が美味いからですよ」
                   「其れで太らないってのがあたしは釈然としな
                  くって」
                   「体質みたいですね。まあ、良し悪しですよ」
                   「弟さんが、最近ふっくらされてませんか?」
                   「……冗談でしょう?」
                   「思い過ごしなら良いんですけどねぇ」
                   「気を付けて見ましょう。御馳走様」
                   どうにも不吉な見立てを貰ってしまった。


                   《コメント》
                    先日見たローカル番組で見たピビンバの
                    特集に触発されて出来たような話ですね。
                    因みにこの夫婦の俳号、読み下すと「ふ
                    わうんてい」「ふわらいどん」となります。
                    一寸した言葉遊びですわ。元ネタは…言
                    わぬが花ですか。 

煎餅屋・神代京介の毎日其の拾壱



煎餅屋・神代京介の毎日H

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