煎餅屋・神代京介の毎日H
少女の横顔に蒼の指が減り込んでしまう。
慌てれば慌てるほど傷口を広げてしまうその
指に半ばパニックに陥りかけた時、救いの手
はさりげなく伸びた。
「ミスタ神代、慌テナイデ。再構築スレバ
イイワ」
「…ハイ」
「デモソノ程度なら…場所、変ワッテ?」
ラーゲルレープ夫人の指先が通り過ぎると、
少女の横顔に刻まれた傷は言われて目を余程
凝らさねば判らないほどに修復されていた。
「コノ程度ハオマケシテ置イテ上ゲルワ。
指導ト言ウ事デ。…慌テナクテイイデスカラ」
「有難う御座います」
蒼の元気な返事に鮮やかにウィンク一つで
答えて見せる。
W大の一般教養「美学」に実技的な面が加
わったのは昨年、神代教授の伝で講師として
セルマ=ラーゲルレープ夫人が参加する様に
なってからだ。
彼女の腕前は実際文句の付け所が無い。自
己紹介がてらに最初の講義で1コマ90分の
持ち時間中に口頭でフィギュアの現実的な面
と非現実的な面について日本語で講義しつつ、
ラファエロのダビデ像を模造して見せたと言
うのは最早伝説となっており、塑像だけでは
なく、彫刻・絵画においても其の腕前を遺憾
なく発揮していた。
しかし、其の腕前だけではなく最初の講義
内容からも伺えるはみ出し加減からも彼女は
伝説化されつつあった。何しろW大現役最強
の変人教授という有り難くない異名をとる神
代教授の紹介と言うのも手伝っている。
…まあ、講義の度に等身大の老師ヨーダの
フィギュアを傍らに携えていれば、どうして
もそうなるだろうが。
因みに、本日の課題は「レイア姫の胸像」
であった…^^;
「……あのな、セルマ君」
「仰ラナイデ、ドットーレ。自分デモ趣味
二走ッテイルト思イマスカラ」
「あれは確かに良い映画だったからなぁ」
「道ヲ間違エタデショウカ?」
「そうは思わねぇが。俺の倅…香澄は今眼
の前だが京介の方も知ってたよな」
「此処ヲ出タ後ライスクラッカーヲ焼イテ
イルソウデスネ。ユニークダワ」
「そう言う奴も居るんだから、悪いとは思
わんよ」
「有難ウ御座イマス」
潤みがちの瞳で見つめられて、ついどぎま
ぎする。ふと蘇るフローリアンでの昼下がり…。
「デモ、」
「?」
「香澄クンハ少シ方向転換シタ方ガ…彼ハ
実技、少シ苦手ミタイデスネ」
「…家庭環境が災いしたな」
思わず苦笑いが漏れてしまう。
《コメント》
今回は「仮面の島」よりゲストを迎え
ましたv^^v一寸ご無礼でしたかね?
因みに、ヨーダの等身大フィギュアは
実在します。お値段を見て暫し絶句し
た覚えがありますから。 |