045:年中無休



年中無休相談所。
年中無休で愛し合う(予定)カップル二組。



「……青島ちゃん」
「どうした、そんな顔して」
泣きそうな顔して、大家の原嶋敬吾さんは俺の名を玄関先で呼んでいた。
ていうかノックぐらいしなさい。
ドア閉めて靴を脱いで、ずかずかと部屋に入って来る原嶋ちゃん。
パソコン前の椅子に座っている俺が椅子ごと振り向くのに、俺の膝に縋りついて、この世の終わりみたいな声で言う。
「……新が、俺を食いに来る……!」
「あ、やっと告白したんだ」
「……あっちがね」
そんな心理状況なのに、俺の言葉にきっちり答えるのが原嶋ちゃんらしい。
「お前も返事したんでしょ、菅野くんがそんな勇気がある訳ないし」
「そーだけど……無理。絶ッ対無理。無理無理無理、恥ずかしくて死んじゃう……!」
俺は笑いながら、彼の頭を撫でる。
「んな生娘でもないくせに」
しかしその手は、原嶋ちゃんの怒りの雄たけびと一緒に払われる。
「娘じゃないけど、初めてだっつーの!」
「え、童貞?」
「違うわー!」
だよな、30越えてそれはないよな。
しかし俺は抗議をしてやる。
「……こんなアパートやってて?オネエ口調が板についてて?俺たちのあしらいに慣れまくって?」
「そうよ。住民の90%以上がホモだろうと、小さい頃から姉貴の口調が移ってこんな口調だろうと、兄貴が真性ホモでいつの間にかホモの冗談口説きあしらいが上手くなってようと!」
今までに何度も繰り返したやりとりをして、でも気付かない振りで1回も話題に出さなかった名前を出してみる。
「塚本くんとは?」
「……何で、そこで。つーかあんた知ってたの?」
「俺が知らない訳がないでしょ」
分かりやすいあなたと、長い間付き合ってる俺が、気付かない訳がない。
そう答えると、眉を寄せてうだうだ言う。
「……あいつとは、性癖の不一致というか一致しすぎというか……」
「ふうん」
「じゃなくて今よ問題は」
正直な原嶋ちゃんが話題を元に戻すのに、俺は苦笑して言う。
「まあねえ。……大丈夫でしょ、菅野くんはノーマルだし」
「男のあたしを好きになってる時点で、ノーマルじゃないでしょうが」
何ズレた事言ってんの。そう付け加えそうな彼に、俺は手を左右に振る。
「違う違う。それじゃなくってさ。……SM好きそうじゃないし、覗き癖はなさそうだし、独占欲強そうだから乱交はないだろうし、フェチは我慢できる程度なら」
長々言う俺の言葉を、案の定遮る原嶋ちゃん。
「……そういう事聞きたくて、訴えてんじゃないわよ」
「じゃあ何」
ある程度本気で、俺は聞く。
「どうしようもないホモ同士の、他人にはどうしようもない悩みを聞いて、どうしようもないって言って欲しいんだ?」
そんなに露出狂みたいな真似したい訳?
どちらかっつーと猫のような性質の俺は、彼らのような恋愛は受け入れられない。
そんな俺の顔色をうかがうような目で、原嶋ちゃんは俺を見上げる。
「……もしかして、青島ちゃん。……機嫌悪い?」
「やっと気付いたんだ」
言ったそばから矛盾してるけど。
「……林田くん、もう?」
「旅に出ましたよ」
あの旅に生きる男は、俺たちの家に寄ることはあっても、帰ってくることはない。
薄情って訳じゃない、その気まぐれさにも、いい加減慣れた。
「……ごめん」
だからそんな顔しなくてもいいのに。
「別にいいけど」
苦笑する俺に、ぐう、と眉を寄せて、原嶋ちゃんは、
「飲もう」
「はあ?」
こんな昼から?
そう声を上げる俺に、苦笑いを見せる原嶋ちゃん。
「晩酌でいいわよ。……少しぐらい飲まないと、あたしもやってらんない」
「……どっちのやれないだっつの」
「青島ちゃん」
ジト目で見上げてくる彼に、両手を上げて降参する。
「……今のは俺が悪かった。……でも、前みたいな状態になるまでは飲まないようにね」
「――あれは、自分でも後悔しまくってんだから、言わないでおいて」
しかし俺が攻めると、あっさり原嶋ちゃんは負ける。
けれど人生には負けずに、気合を入れて立ち上がる。
「よっしゃ、うっまいもん作ってやる!」
「おすそわけ、お願いします」
沈黙。
気まずそうな原嶋ちゃんの顔。
「……いい加減分かってますか」
「ええ」
原嶋ちゃんの、一度分かって見れば単純な精神構造くらい。









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