紅蓮の死神
紅蓮の死神と漆黒の死神の戦いが始まる。 自分の能力で決着を付けたいという意思に応えて、俺の力はバスターソニックを強化するに留めている。 中途半端だからこそ、星馬烈に与える影響を最小限にとどめている。 その間に、俺は別の視点での探索に乗り出した。 ブレットにやられた後、俺の記憶は一時途絶えている。 まさか、フラグメントフィールド"澄み渡る蒼穹の牢獄"の扉がロストブルーの中に埋め込まれていたとは思いもしなかった。 そこにゴーがいたことも。 扉が開いた後は、俺はロストブルーの修復に乗り出して、そのあとのログをさらったのみだ。 気になることがある。 ゴーとディオスパーダと、俺。 人間とGPチップの違いはあれど、人の目に触れることのなかったテスト版サーバーを一人きりで過ごしてきた。 そして、俺がロストブルーを得て、正規版に剣を探しにいった後は2人きりだ。 テスト版サーバーを掌握し、崩壊に導いた奴が、ゴーの行方がわからなかった? 本当に、ディオスパーダはゴーに何もしなかったのか? その、疑念だ。 あいつの目的はわかる。そして、俺の存在がある以上、ゴーはディオスパーダの対象外だ。 なのに、どうして不安が拭えないんだろう。 ゴーが、俺を置いてどこか遠くに行ってしまいそうな気がして、ならなかった。 そして、俺はテスト版サーバーの解析に乗り出した。 テスト版サーバーの中のオペレーション領域に、ゴーはいた。 静かにそこに留まっていた。どうやら眠っているらしい。だけど。 …様子がおかしい。 ゴーの場所はテスト版サーバーそのままで、安定しているのにも関わらず、樹が蠢いている。 ゴー自体が異常事態といわけではない。 樹が何者か干渉を受けている、と考えたほうがいいだろう。 いや、樹だけじゃない。テスト版サーバーそのものが異変を起こしている。 そう思うが、そうであってほしくない、という俺の思いが最悪のシナリオを描くのを阻害する。 ゴーを守る、護りの樹。 あれは、ゴーのPCを主軸として展開される自動修復機能を持つ防衛プログラム。 命令を受け付けるのは主軸になっているゴー。そして製作者の俺だ。 なのに、俺の意図しないところで樹が動いている。 何かが、狂いはじめている。 "…兄貴……" 判断力に優れた兄貴なら、どんな判断を下すのだろうか。 その兄貴は、retsuの中で、今静かに、胎動している。 ACT10. 痛みの向こう側 漆黒の死神は冷たい笑みを称えてそこにいた。 今は見えないけれど、その体の中には豪を閉じ込めているものに解除キーがある。 お互いに相手を見つめていると、まるで鏡に映った向こう側のようだ。 「…一応聞いておくけど、引いてはくれないよね」 「……アタエルモノハ、ヒトツダケ」 まったく会話になっていない。 それでも意味はわかる。引くどころか、こっちに来るだろう。 吹き飛ばした霧が、また覆いはじめる。そして。 かつん、と鎌の先で地面を叩いた瞬間、飛び上がった。 ソニックを構え、一気に振りぬいた。 「フェニックス・バーン!」 叫んだ声は、まったく同時だった。 紅と闇の炎が激突する。 2人の中間で激突した炎で、相手が見えない。けれど感じる。 これは、殺気だ。 (来る!) 「スキル、ウィンドフレンド!」 移動スピードを上げて、後ろへ飛んだ。 「オソイヨ」 眼前に、自分の顔が映った。相手に黒い瞳に映った、自分の顔。 (しまった!) 「ウィンエリア・ファルシフィケーション」 「がっ……!」 何が起こったかわからないまま、僕の体は宙に飛ばされていた。 地面を転がってゆく。 「うっ……!」 叩きつけられて、ようやく停止した。 「コレデ、サイゴ」 「……!」 一気に飛ばされた間合いを詰めてきた やはり容赦しない。本気で潰しにかかってくる。 「くっ…!」 なんとか立ち上がろうとするけど、動けない。 腕に力を入れるけれど、足が動かない。 漆黒の死神の先端に黒い炎が宿る。 「くっ…!」 「フェニックス・バーン」 黒い炎が、視界を隠す。その瞬間だった。 「アイテム:ランダムトリップ!」 一瞬にして、その場から別の場所に移動された。 「移動、した…」 しかも、さっき勝手に喋っていた。 どうやら、エリア内のようだが。さっきの攻撃から身を守れたらしい。 『まったく、危なっかしいたらありゃしねぇ!』 唐突に、マグナムの言葉が表示される。 「マグナム…お前が今使ったのか?」 『文句ならあとで聞いてやる。それよりretsu、自分の腹のあたり見てみろ』 「こ、れは…」 身体の腹の部分に、黒い染みができていた。さっき、漆黒の死神の攻撃が直接当たった部分。 それが時間に経つにつれどんどん広がってゆく…。 痛みは感じないが、これは…。 『ウィルスの一種だな、ほっとくと狂うぞお前』 さらりと、怖いことを言ってきた。 「精神を壊される、ってこと?」 『まぁそんなところだ。どうする?』 精神崩壊…豪のようになってしまうのか、と思考の隅に留め、次のことを考える。 「あまり、時間かけていられないね」 足の部分は回復を使ってなんとかする。 何とか立ち上がるが、漆黒の死神はすぐに追いかけてくるだろう。 「…この傷、えぐるしかないか」 『ちょ、ちょっと待てよ。それどういうことか分かってるのか、自分の精神えぐることになるんだぞ。痛みだって…』 「…けれど、このままでもいられない」 豪を助けるんだから。そして、あの鍵を奪う。 躊躇は無い。 実際の身体をえぐられる痛みはあっても、実際そうなるわけじゃない。 ソニックの刃をあて、そして。一気に押し込んだ。 「ぐっ…!」 痛い、痛みという言葉がなんだかわからないほどに痛い。 ぎり、と歯をくいしばった。 それでも、僕は叫ぶ。 「マグナム、黒い部分全部ぶっ飛ばして!」 今の状態ではまともに黒い部分を吹き飛ばすには、僕自身だとためらいがかかる。 それじゃダメだ。ウィルスなら残せばあとで侵蝕される。 でも、マグナムなら。できる。 『retsu、なんでそこまでする?一言でいいから答えろ。ぶっ飛ばすから』 もう何言っても聞かないことを、マグナムは承知しているのだろう。 「…あいつは、破壊をすることに使命感を感じてる…それを楽しいと思いはじめてる……否定してるのに」 『見えるのか、相手が』 「……悪役を演じすぎて、悪になりそうになってる、のかな。だから、助けてあげたい」 ずーっと自分の中で心に引っかかっていたこと。 WGP戦でのアイゼンヴォルフ戦がそうで、自分が上位でゴールしたとき、マシン4台はクラッシュ。 決勝レースの箱根越えのときも、悪路でマシン2台を振り切ったため、2台はリタイアになっていた。 正々堂々と、レースで走っているはずなのに。どうして、と。 相手が悪いわけじゃない。自分がバトルレースをしたわけでもない。 けれど、その罪悪感が、ずっと心にとどまっていた。 それが…自分が悪役を演じ始めたとたん…思った。 これが本来の自分だったのかもしれない、と。 豪がいなければ、自分はこうなっていたかもしれない、と。 完全な人なんてどこにもいない。豪が、僕がそうであるように。 考え方の違い1つで、間違いも悪も生まれる。 豪を助けたいと、必死で思っているあいつのために。 『わかった、歯くいしばれよ!』 「うん」 『…バースト!』 「……!!」 精神を引き裂かれる熱い痛みに、絶叫すら飲み込まれる。 痛い…気を失ってしまいそうだ。 痛い、痛い、痛い、痛い…… 涙が零れ落ちた。わかっているのに、痛みに耐えられない。 言葉が出ない。 『ウィルス部分は全部飛ばした……俺ができるのは…ここまでだ』 視界が、暗くなってゆく。 とくん、と鼓動が止まる感覚がした。 「……ソニック」 お前は、どう思ってた? 僕が感じてたこと、思ったを、全てさらけ出した。 僕の中にいたのなら全て知ってるんだろう? お前と離れてた間、僕が何をしてたのかも。 ふわりと、頬に当たる感覚がして、瞳を開けた。 そこではじめて、自分が眼を閉じていたことに気がつく。 「…羽根?」 しかし、剣ではなかった。 朱色の羽毛だった。それがふわふわと視界に揺らめいている。 ばさりと、音を立てて、赤い鳥が舞い降りた。 翼は熱せられたガラスのように透明なのに、炎が灯る。 「ソニック…なのか?」 翠の瞳が、じっと僕を見つめていた。 『……まったく、烈はもう少し素直になるべきだよ』 そう、言葉が聞こえた。 その鳥は翼で身体を覆ったかと思うと、翼を広げたときは、姿を変えていた。 ほんの、4,5年前の自分。 小学生の星馬烈の姿に。 「思えば、ずっとお前を困らせてばかりだったな」 紅蓮の死神の姿で、リアルに近い過去の星馬烈に対面するのは、正直辛いところもあった。 その「辛い」という感情すら、ソニックに伝える。 ソニックは、優しく、けれど悲しげに、笑っていた。 『もっと、早く…僕を頼って欲しかった。君が抱える引っかかりは、僕自身のことでもある』 「…そう、か……そうだよ、な…ソニック…」 辛くないはずがないんだ。一番その現場を近くで見てきたのだから。 『マグナムはあんな奴だけど…お前のことも心配してた』 「それ、は…」 『けど、謝っちゃダメだよ。自分が悪いと、思っててていてもね』 「…どう、して……」 『君が悪いと思っていることを、マグナムが悪いと思ってしまうから。それじゃきりが無い』 「じゃあ、僕は…どうすれば……」 『君が、友達にしていることを、僕たちにもすればいい』 「ソニック……」 『もう1人じゃないことを分かっているなら、ぶちまけてしまえ。君がわがままだと思っていることも、全て言ってしまえ。それが…』 「それが、友達?」 ソニックが、僕の頬に手を触れる。懐かしい、温かい感触だった。 『わがままと分かっていても認めるよ。僕は、烈が好きだよ……迷って、失敗して、喜んで、勝って。そうして僕は成長してきた』 「ソニック…」 どうして、忘れていたんだろう。 ソニックはいつでも傍にいてくれたのに。早くなりたいと無茶して、怪我して、それでも走って。 お前とならなんだって出来るって。心から信頼してた。 それなのに…。 「もう1人でやらなくちゃ」って思っていた。 『迷いも、失敗も、いっぱいした。一人で、よく頑張ったね』 そんなこと、言われる資格はないと思ってる。けど、嬉しかった。ソニックに言われたことが。 「…ありがとう、ソニック」 『どんなことも、乗り越えてきた。今度はゴーを、助けよう。3人で』 「…うん」 ソニック、お前が僕の真実、闇も輝きも全てが、お前の真実。 ぎゅ、っとソニックが自分を抱きしめた。 「…ソニック?」 『…解析終了。PC"retsu"とのフルシンクロ開始……烈、眼を閉じてて』 「……」 眼を閉じると、ソニックの記憶を感じ取れた。 GPチップを受け取ってから、その小さな機械の中で感じていた、仲間との絆。痛みや、喜び。 綺麗なカーブを描いて他のマシンをすり抜けていく感覚。 自分がメンテナンスをして、調子のいいときは、いつでも笑ってた自分。 怪我をしても、何もできかった不安。 ソニックを通して見た世界。 そして。 この世界に来てからの現状、悲しみ。 人を傷つけて、冷たくなっていった自分。 烈を助けたいと願い、出来る限りのことをはじめていた。 来たばかりから全てを知ることは容易ではなく。眠る形でGPチップ"Sonic"として成長していた。 だから目覚めるのが遅かった。 マグナムが介入しても、追い出したりしなかった。 マグナムも烈を助けることが豪を助けることになると理解していたから。 複雑な感情が入り乱れる。 同じように、迷って、それでも前に進んでいた。 「ありがとう、ソニック…お前はここまで、やってくれていたんだね」 髪にかかっていたターバンが解けた。 眼を開けると、自分の姿をしていたソニックは紅い光にに包まれて、消えていく。 『決着、つけにいこう』 「行こう、ソニック」 +++++++++++++++++++++++++++++ (くっ…) retsuが気を失った後、俺はPC"retsu"から強制排除された。 本来のパートナーが目覚めたことを、確信した。 (たぶん、retsuもリアルで気絶してるなこれは…) そっちのことはさっぱりわからないので、見つからないことを祈るのみだ。 retsuが侵蝕された部分を自分の炎でぶっ飛ばすなんて暴挙にでるとは思ってなかった。 いや…思っていたが、やってほしくないと思っていた。 ゴーが思っていたときもそうだが、星馬烈は…復活の際には何をするか分からない、ゴー以上の1回の爆発力を持っていると俺は思っている。 それに兄貴が加われば…俺とゴーよりも恐ろしいことになる。 だが、しかし。 「フェニックス・バーン!」 「こんな状況でどうしろって言うんだ兄貴ィ!!!」 retsuが気絶したあと、すぐに漆黒の死神に居場所を気づかされた。 追い出された俺は、ペットのマグロクに戻り、マグロクを最大レベルまで改造して"retsu"を背負って逃げていた。 漆黒の死神は容赦ない。フィールド全部壊す勢いだ。 「ディオスパーダ並みの暴れっぷりじゃねーか…って、こいつは羽根の集合体か」 「ワイルド・トルネード!」 「だあっ!!」 全体攻撃が来たのでこんどは空中に非難した。 けれど。 目の前に死神がいる! にや、と烈の悪巧みをしている顔が浮かんだ。 「……!」 「イクヨ!」 鎌を振り上げる。その刃から、黒い炎が走る。 空中じゃ逃げ場が無い。どこにも足がかりはない。翼を使おうにも、retsuを背負ったままじゃ間違いなく振り落としちまう。 ここまでと思い、思いっきり叫んだ。 「チクショー!目覚めるならさっと目覚めやがれ兄貴ども!!」 「そういう言い方はどうかな、マグナム」 『そうそう、弟しての基本がなってない』 チャット画面に二つの言葉が並んだ。 発言者はretsuとソニロクとある。 「なっ…!」 気がついたら、retsuが起き上がっていた。さっきまでの苦悶の表情すら見当たらない。 それどころか、どこか楽しそうな表情をしていた。 「ごめん、マグナムちょっとだけ足場になって」 『…え?』 次の瞬間には、俺は地面に向かって落下していた。 retsuが俺を蹴って足場にして、死神に向かっていったのだ。 『おいおい…マジかよ』 飛びながら、retsuの姿が変わっていく。 髪からターバンが解けて、服の色が灰色の近い銀色になっていく。 ばさり、と音がした。 retsuの背中から、翼が生えていた。 『…不死鳥、だ……』 ふと、そんなことを思った。 「フェニックス・バーン!」 漆黒の死神が、黒い炎をretsuにぶつけてくる。 でもあれではもう、死神は勝てないだろう。 「バスター・フェニックス・バーン!」 絶叫をあげる暇も無いだろう。 煌く紅い炎が、漆黒の死神を包んで、落ちていった。 って、俺も落ちてるんだっけ。 すっかり焼け野原になってしまった庭園に着地すると、retsuも着地した。 降りた瞬間、俺は元のちびなマグロクに戻っていた。 さすがに、疲れた。 「ふう…、マグナムありがと、助かったよ」 『にしても、俺たちがいない間、こんな風になってのか…』 『俺じゃなくてそっちの死神に言ってくれ』 retsuは、ソニックとシンクロした。 しかも武器として使うんじゃなくて、その意思を表に出しつつだ。 姿も、変わっていた。 俺は腕しかしなかったけど、受け入れたことでフォームが変わっている。 全体に銀色で、ところどころ元のフォームの面影があるものの、頭にあったターバンが消えた。 代わりに、肩の装甲から翼のような硬い羽根がついている。今は短いけど。 鎌は全体的に細くなってて、刃の鋭さが増してるみたいだった。 俺とは違って、細かさを求める兄貴らしいといえば、そうなる。 しかし、死神に翼。 死神だって神様だし、翼があっても、いいか。と俺はあっさり認めることにした。 『烈』 兄貴が呼びかける。 「うん」 何も応えずに頷くと、retsuは漆黒の死神に向かって歩いていった。 『お、おい…!』 『マグナム、手を出すなよ。これは烈の問題だから』 兄貴に言われてしまってはどうしようもできず、俺はここでretsuを追いかけてゆくしかなかった。 「ウゥ……」 漆黒の死神は、呻いていた。 あれだけのダメージを喰らってなお、立ち上がろうとしていた。 今なら、あいつの体に埋め込まれた剣も、抜き出せるだろう。 「イヤダ…マケタクナイ……コンナ。トコ、ロデ……」 揺らめきながら、立ち上がろうとする。 ようやく立ち上がっても、立っているのが精一杯だった。 「…ゴーニ、コンナトコロハ…ミセラレナイ!」 『なっ……』 なんでこいつはゴーのことを? 一方のretsuは全て分かっている様子で、漆黒の死神の前に立った。 そして、にこりと笑って見せたのだ。 「…いいんだよ、ゴーに見せちゃっても。あいつは呆れるだろうけど、なんだかんだで俺の事知ってるんだから」 「……」 漆黒の死神はあっけにとられていた。 俺もそうだった。 「打ち明けても、いいと思う。ちゃんとそのあとで償いができるんだから」 retsuが言うと、全ての力を無くしたように、漆黒の死神が崩れ落ちた。 「イイノカ…ソレデモ…ゴーハボクヲ……」 「ああ」 しっかりと、頷く。 しばらくして漆黒の死神は眼を閉じると自分の胸に指をいれた。 剣を、ずるりと引き出す。マグナムセイバーを。 そして、retsuに手渡した。 「…オマエガモッテイケ」 「ありがとう」 剣を受け取ると、漆黒の死神はゆっくりと消えてゆく。 「君は…もうひとりの僕だ」 retsuがそう言うと、漆黒の死神はretsuと同じ、優しげな微笑を見せた。 奴が、枝に貫かれるまでは。 「ガッ……アアアアアア!」 消えかける寸前だった死神から溢れるのは、声すらならない、不協和音。 それにこの枝…は、護りの樹の枝だ。 俺とゴーしか扱えない、護りの樹の…。 『なっ、どうしたんだよ』 『様子がおかしい、いったいどうなって…それにこの枝…マグナムお前……』 『違う、俺じゃない…!』 『じゃあ誰が……!』 「しっかりしろ!」 retsuが駆け寄る。しかし、枝によって弾き飛ばされた。 「…ゴーハ……タスケタイ、ト、ネガッテ、イル…」 虚ろな眼で、刺し貫かれたままで、漆黒の死神が呟いた。 「助けたい…?」 「トビラガ、ヒラク」 それが、最後だった。 漆黒の死神は、最初がそうであったように、霧になって消えた。 「うわっ…!」 霧が一瞬での全員の視界を覆い、次の瞬間には消えていた。 『大丈夫?』 「大丈夫、ありがとう。ソニック」 『あのー、俺は?』 『お前はタフだから、最初から心配してないよ』 『ひでぇ…』 『でも、ありがとうな。烈を助けてくれて』 珍しいくらい素直な兄貴の感謝の言葉に、俺のほうが面食らってしまった。 『烈は一度ログアウトしたほうがいい』 唐突に、兄貴はそういった。 「どうして?」 『いくら僕とシンクロしていたとでも、リアルのほうに疲労が溜まってるはずだから』 「……でも」 『1時間くらいならなんとかなるだろ。俺もロストブルー取りに行きたいし』 これだけ時間がかかっていたらたぶん修復は完了してる。 しかし、当人のretsuは困った顔をしていた。 『烈?』 ソニックも不安な顔をしていた。 「できないんだ、ログアウト。それどころか……、リアルでディスプレイ見てる実感も無い」 『え?』 『なんだよ、それ…俺たちじゃあろまいし…』 「たぶん、ソニックやマグナムと…同じ感覚だよ」 混乱しているのに、妙に落ち着いた様子で、retsuは呟く。 「This World is My World……本当に、そうなったようだね」 空に、白い木の葉が舞う。 雪のように白い木の葉が。 まるで俺たちを誘うように。 |