ねこねこびより



「なー母ちゃん、家って猫大丈夫だっけ?」
食事時、豪は突然話を切り出した。
「なんだい豪、捨て猫でも拾ってきたのかい?小学生じゃあろまいし」
「そうだぞ、大体、お前ちゃんと育てられるのかよ」
じと目で見る烈に、豪は目線で応戦しながらも御飯をかきこんだ。
「だれが捨て猫拾ってきたなんて言ったんだよ。預かって欲しいって言われただけだ」
「預かる?」
「俺の部活の先輩がさ、3日ほど旅行に出かけるんだって。それで、その間猫を預かって欲しいって言ってきたんだ。俺以外の奴、みんなダメだって断られて困ってたから…」
俺が最後の頼みなんだって、と豪は味噌汁をすする。
「まぁ、そういう事情なら構わないけど…烈は?」
「僕も、2,3日程度なら大丈夫。その先輩っていつから旅行なんだ」
「今週の土日」
えっ、と豪を除く3人が顔を見合わせた。
「どうしよう、今週の土日って言ったら…」
「私達も温泉ツアーの予約が……」
「ええ、マジで?」
「お前聞いてなかったのかよ……」
はぁ、とため息をつく烈。良江と改造はどうしようかと話している。
「ごめん…でもさ、俺ちゃんと面倒見るから、いいだろ?」
お願い、と手を合わせた。
それを見て思うところがあったのか、烈が口を開いた。
「…母さん、豪が出来ない分は僕が何とかしておくから行っておいでよ」
「烈…」
「烈兄貴…」
「ま、こういうのを放っておけないのが兄の性というか」
烈は苦笑いを浮かべた。
「しょうがないね、烈…猫と豪を頼んだわよ」
「わかった」
「ちょっと待て、俺は猫と同類かよ」
膨れっ面をする豪に、3人は無言で同意した。


※  ※  


「ただいま。猫連れてきたよ」
「おかえり」
午前中部活に行っていた豪は、お昼になって家に帰ってきた。
家には烈一人。二人は朝、早々に出かけていってしまっている。
背中にリュック、両手にペットボックスと巨大な鞄。
「随分大荷物なんだな」
「まぁな。トイレ用の砂とかも持って行けって言われたから」
「ふーん」
玄関に重そうに置かれた鞄を居間まで持っていく。
「……」
猫独特のにおい。
まぁいまさら仕方ない、と烈は適当にそれを置いた。
「じゃあ、猫出すな」
カチャ、とロックを外し。なー、と小さい鳴き声が聞こえた。
「おーい……」
豪が呼んでみると恐る恐る、といった様子で猫が一匹。そして、もう1匹。
「猫って、二匹だったのか?」
「まずかった?」
「まぁ、まずいってほどでもないけど……」
二匹の猫は、茶色の毛並みに黒の毛が混ざっている。どうやらミックスらしい。
見ただけでは、全く区別はつかない。しかし、よくよく見ると性格がどうやら違う。
あたりをきょろきょろしてる青い首輪の猫と、緊張してほとんど動かない赤い首輪の猫。
ナー、と鳴いていたのはどうやら青い首輪のほうらしい。
「えっと、青い首輪のほうがコール。赤い首輪はレンだって」
「そうなんだ。よろしくな。コール、レン」
話しかけてみても答えが返るはずもなく。
じっと烈を見ていたコールだけが、ナー、と一声鳴いた。

「でも全然動かないんだな。先輩の家で見たことあるけどさ、もっと活発だったぜ」
「当たり前だろ、いきなり他人の家に来たんだから」
「あ、そっか……」

豪がコールに手を出して、額あたりを撫でている。
「2日ほど、俺たちが面倒見るけど、大人しくしててくれよ」
答えるようにコールが鳴く。
それをじっと見ているレンが、豪のもとに足音も無く近寄る。
「なんだよ、お前も撫でて欲しいの?」
ナー、とコールと似たような声で一度だけ鳴いた。
「よしよし」
大人しく撫でられるレンは、その場にぺたんと座った。
「(なんだよ、豪ばっかり)」
嫉妬している、というか。なぜ疎外感を覚えなければならないんだ。と烈は思った。
この家でコールとレンが見覚えがあるものが豪しかいない、ということは分かってはいるものの。
「俺は勉強してくるから。邪魔するなよ」
「兄貴?」
不思議そうに首を傾げる豪に、烈は無視して駆け上がった。
「…どうしたんだろ?」
まぁいいか、とため息をついた豪に、そろって見ているコールとレン。
「お前らって、確か兄弟なんだっけ?」
先輩の聴いた話だと、かなりひどい境遇だったらしい二匹。
今は先輩の大切な家族だと言っていた。
「大変だったんだよな、お前ら幸運なんだよ」
ナー
レンが珍しく、1匹で鳴いた。
「なんだよ、暇なのか?」
う〜ん、と豪が鞄をごそごそ探してみると、猫じゃらしのおもちゃ。
「ふふ…」
ちらちら動かしてみると、すぐに反応したのはコールだった。
しっぽを揺らし、飛び掛る。
「おっと」
さっと、よけてみるとうらめしそうにもう一度コールが鳴いた。
「お前な…」
レンは一方で自分の毛をぺろぺろ舐めている。
コールはコールで気ままにボールで遊んでいた。
どうやら、豪の相手は必要ないらしい。
「あ、そうだ」
ちょっと待っててくれよ、と豪は立ち上がり、階段から声を上げた。
「烈兄貴〜」
「なんだ?」
「ゲームやらない?」
がちゃりと音を立てて烈が部屋から顔をのぞかせた。
「お前な…レンとコールの世話したらどうだ」
「いつまでも相手してるって訳にはいかないだろ、ゲーム借りてきたんだ。一緒にやろうぜ」
「……」
烈はしばらく無言でいたが、やがて階段をゆっくりと降りてきた。
「で、何をやるんだ」
「ふふん」
じゃん、とばかりにみせたソフトは。
「ぷよ○よ?」
「そう」
4つの色のぷよを消す単純なゲーム。
その分、対人となると高度な”組み”を必要とするのだが…
「お前じゃ俺には勝てないな」
ゲームを見て、烈は即答した。
「なんだとー、こう見えて俺結構強いんだぜ!」
「どうだか」
「じゃあ勝負だ、俺が勝ったら晩飯作ってやらぁ!」
豪が勝ったら晩御飯作成。
烈の頭にふよふよと想像が浮かぶ。
豪の作る晩御飯……確か豪は、確かに手先が器用なところはあるが、調味料など、絶対に大雑把に入れる。
そうなったら……
烈は表情をきつく変えた。
「よし、その勝負乗った!」
…絶対に、勝たなくてはならない。

たとえ、一度も烈がこのゲームをやったことが無くても。


「…あ〜負けた――!!」
”ばたんきゅ〜”の表示が出てもう何回目だろうか。
とうとう豪が音を上げた。
(…よかった……)
烈は内心ほっとした。
豪と勝負する前に攻略本を読み込んでおいて正解だった。
確かに単純なゲームではあるが、几帳面なところがある烈は、器用にぷよを組み込んで連鎖を仕掛けた。
反対に豪は、勘で色を適当に組み合わせていき、適当なところで連鎖を点火させる。
一緒に借りてきた攻略本に、”フィーリング連鎖”とあったが、たしかにそうだな。と納得する。
上手くいくと怖いが、信頼性があまりない。
ただ、こっちが仕掛けようとする瞬間に豪がフィーリング連鎖を起こしてしまい、連鎖地点が埋まってしまったときだけは、烈が負けた。
恐るべし、フィーリング連鎖。
もうちょっとやりこもうかな、と悔しがる豪を見て思った。
「兄貴ひどい。いきなり5連鎖とかあり?」
「ちょうどよく色が来たから仕掛けただけだ」
「攻略本、貸すんじゃなかった…」
呻きつつ豪は攻略本を見たが、うまくはいかないらしく、すぐに本を閉じてしまった。
「でも俺、階段積みしかやってないんだよ、挟み込みとか出来ないし。めくり階段積みすると6連鎖以上できるんだな」
「も、もういいです……」
うっうっ、と得意分野を一つ烈に完全に破壊され、豪は沈んだ。
「じゃあ、晩御飯は俺が作るんだな」
「わかった……」
しゅん、と落ち込む。そんなに作りたかったのか?と烈は不思議に思った。
「俺の手料理を烈兄貴に食べてもらいたかったのに……」
「お前に料理なんて出来るのかよ」
「へ?俺、結構料理できるんだけど」
「…本気で言ってるのか?」
「本気も本気」
にこにこ笑っている豪。ちょっと面食らっている烈。
ナー、とコールが鳴いた。
「いつのまに……」
「いつのまにか♪」

ばし。

思わず裏手で突っ込んだ。
「痛ってー、何するんだよ」
「ごめん、気持ち悪かった」
「………」
暴力兄貴、と口だけで呟く豪を無視して、烈は冷蔵庫を確認する。
「じゃあ豪、お前買い物行ってくれよ」
そのあたりにあったメモ帳に、何かを書き込むと、はい、と渡す。
「これ買えばいいのか?」
「そう、お菓子は自腹で買えよ」
「ガキじゃあろまいし…それくらいわかってるよ」
渋々メモを受け取ると、豪は行ってくると一言だけ行って、外に出て行った。
「はぁ……」
付けっぱなしだったゲーム機とテレビのスイッチを消し、適当に新聞を掴んだ。
ナー
「ん?」
鳴き声が聞こえて、ふと見ると、足元に猫がいる。
「お前は…」
見ると、青い首輪をしていた。
「コール、って言ったかな」
撫でてみると、コールは気持ちいいのか、しっぽを高く上げた。
「ナー」
「あっ……」
くるりと回ってコールは烈の傍から離れた。
そしてさっきの鳴き声の主である、レンの元へと歩み寄る。
「ナー」
まるで知らない人に近づくな、とコールに言っているようで。

どこか見たことのあるような光景に、烈はふと苦笑いをした。


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カウンタ:502キリバンリクエスト「豪様と烈兄貴の休日」
ただの休日じゃ面白くないため、withネコたち。

私自身、ネコを一度も飼ったことが無いため、友達に行動を聞きまくりました。
どうやらすぐは大人しくしているらしい。
ネコの名前、コールとレンは適当ですが、性格をわかりやすくするため、豪、烈と頭文字を一緒にしてます。

ぷよぷよ、烈兄貴は説明書を全て読まないと始められない派に一票。(笑)
 


 

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