change my mind
絶対に、証拠をつかんでやる。 そう思って一月。 みてろ、豪。兄貴に隠し事なんて、10年早い。 change my mind 3 雑誌の発売日。 ついにビートが表紙を飾った。 (…なんでこんな時に………) 豪はため息をつく。仕事だから断ることなんて出来ない。 横目で見ると、ちらほらと雑誌を手に取っているクラスの女の子達。 「はぁ……」 言及されてから1ヶ月ほど経つが、以後烈はそのことを一切口には出さなかった。 いつもどおり、玄関先で見送ってくれる。 雑誌だけは買っているようだったが。 何も言ってこないなら、気のせいだと思い直してくれたんだろう。そう思いたい。 「豪」 「ジュン」 いつもより早く授業が終わった放課後、帰ろうとしたところをジュンが引きとめた。 「ねぇねぇ、今日はバイトないんでしょ?」 「ま、まぁな」 なら、とジュンはにこにこして豪に詰め寄る。 どうしたんだ、いったい俺が何か悪いことをしたのか。 豪は内心で冷や汗をかく。そんな豪の心境も知らずに、ジュンは普通に隣を歩く。 「一緒に帰らない?」 「………へっ?」 あっさり普通の誘いに、豪は面食らった。 何か聞かれるとか、思っていた。 「別に、いいけど……」 「よし、決まりね。あそこのデザート美味しいんだけどカップルが多くてね。行きにくいのよ」 ああ、そういうことか。と豪は納得した。 「俺、彼氏代わり?」 「そういうことになるわね、感謝しなさいよ」 「感謝ね……」 たまにはいいか、と豪は思い直す。最近烈の視線が妙に気になって神経逆立ってるような気もする。 土日はずっとバイトだったから、あまり行く機会はない。 手持ちのお金があんまり無いのが気になったが、なんとかなるだろう、思った。 そんな気持ちでジュンと歩いていた矢先だった。 「あ……」 ジュンが足を止めた。 「なんだよジュン……あ」 校門前に、学生服を着た人物が一人。 「烈兄貴……」 学生服姿のまま、じっとこっちを見ていた。 赤い髪と、黒い学生服はどことなくアンバランスにも見える。それをものともしないように、烈は少し手を振った。 「どうしたの、烈兄ちゃん」 「ちょっと、授業が早く終わったから、帰りに寄ってみたんだ」 「ふーん……今から豪とちょっとよるところがあるんだけど、烈も一緒に行く?」 行くと、烈は微笑んでうなずく。 「いいの、ジュンちゃん」 「両手に枯れ木と花、って感じでいいんじゃない?」 「ちょっと待て、誰が枯れ木だ誰が」 「さあねぇ〜」 くすくす笑いながら、こっち、とジュンが先導していく。 それを烈と豪は後ろから歩いていった。 「なんだかなぁ……」 豪は頭を掻いた。 「ジュンちゃんとどこにいくつもりだったんだ?」 隣で歩く烈がこっちを見ている。 「ん…ケーキ屋かどっかじゃねーの?カップルが多いって言ってたから」 大体の店は食べたことあるんだけどな。と心の中だけで呟く。 たまに、ビートのマネージャ、咲丘が持ってくるのを一緒に食べたことがある。 「それで、両手に枯れ木と花、ね」 「烈兄貴まで言うか」 いくらなんでも枯れ木はないだろう、枯れ木は。と豪は恨めしそうに烈を見た。 「別に、僕が花って訳でもないんじゃないか?」 「は?」 それ以外に考えられなかった豪は不思議そうに見る。 烈は口元を吊り上げて微笑んでいる。 なにか、怖気が走るような笑み。 豪が何か答えようと思った、その時だった。 「烈、豪、なにやってんのよ」 「ごめんごめん」 ジュンがかなり先まで進んでいたことに気づき、烈は慌てて走り出した。 「何なんだ?」 置いていかれる豪は、烈の言葉の意味がわからない。 ※ ※ ※ 店内の視線が集まっていた。 4人がけのテーブルに座る、3人。 1人は女の子で、ケーキを美味しそうに食べている。 2人は男の子で、向かい合って座っていた。 赤い髪のほうは、カプチーノとシフォンケーキを注文して、黙々とカプチーノを飲んでいる。 青い髪のほうは、甘いバニラフラベチーノをやる気なさそうにすすっていた。 「………烈兄貴、何?この視線は」 「僕が知るか」 向けられる視線の矢を受け止めながら、烈はシフォンケーキを口に運んだ。 その原因は3人が学生服とブレザーということもあったが、そうでなくても烈と豪は何かと目立つ。 烈はどことなく中性的な顔立ちと、紅い髪。綺麗という言葉が似合いそうな風貌をしている。 秀才と呼ばれる成績振りを発揮して、全国でも上位に位置するほどの実力者。 一方の豪は肩より少し伸ばしたストレートの青い髪と、前髪だけ少しクセがあるのが特徴だ。 部活はバイトの関係で辞めてしまったが、時折助っ人に出されるほどのスポーツ万能ぶり。 烈とはまた違った、格好いい、に属する人間。 二人揃って、そんなことにあまり興味は無いのだが。 そんな二人が一緒のテーブルにいるのだ。注目されないわけがない。 烈と豪は特に話すことも無く、二人はジュンがデザートを食べ終わるのを待った。 「ごちそうさま」 ナプキンで口元を拭きつつ、ジュンはにっこり笑う。 「美味しかったかい?」 「まぁね、また来たい気もするけど…高いからこれで最後にするわ」 烈は苦笑してうなずいた。 こんな痛い視線を浴びながらデザート食べるなんてまっぴらだと思いながら。 「なーなー、終わったんなら早く帰ろうぜ」 とっくの昔にフラベチーノを完食した豪は退屈そうに欠伸をした。 ジュンはむくれている。 「全く、雰囲気も味わえないんだから……」 「豪だからね」 こういうところは苦手なことを烈は重々承知していた。 それでも豪が受けたのは他ならぬジュンの頼みだから、断れなかったのだろうと思う。 「えっと、代金は…」 「いいよ、俺が出すから」 豪は伝票と鞄を持って立ち上がった。 「珍しい〜、でもいい。自分で払うから」 はい、とジュンは千円札を差し出した。 「僕もお前におごられるなんて嫌だからな」 烈も財布から千円札を豪に突き出す。 「おつりは返せよ」 「私もね」 きょとん、として豪は二人を見たが、やがてちょっとだけ笑って、 「わかった」 と、2千円受け取り、豪はそれをレジへ持っていった。 「ありがとね、烈、豪、付き合ってもらっちゃって」 「構わないよ」 「俺も」 結構視線がきつかったけど、と豪が付け足すと、じろっと烈が睨み付けた。 「私も気が付いてたんだけどね。つい夢中になっちゃって」 えへへ、とちょっと頬を掻きながら笑った。 通りを3人で歩きながら、ぽつぽつと話す。 「そういえば、烈は豪になにか用事だったの?今日学校まで来てたけど」 「ん、まあ大したことじゃないから。ジュンちゃんが気にすることは無いよ、それよりも……」 こっそり、烈はジュンに耳打ちする。 (あそこに、豪と二人で行くつもりだったってことは、デートってことでいいのかな?) 「な、何言ってるのよ、烈ってば!」 「ん?」 おかしそうに笑う烈と、顔を真っ赤にして怒鳴るジュン。 耳打ちの内容がわからない豪は、首を傾げる。 「何の話してたんだ?」 「あ、えっと……」 目をぱちくりさせながら、じっとジュンを見ている豪。 照れつつも、ジュンは豪を見つめ返した。 やがて見ていられない、といわんばかりにジュンは横を向いた。 「やっぱりいい!私、先に帰るね」 「あ、おい、ジュン!」 あっという間にぱたぱた走り去ってしまった。 「…烈兄貴、ジュンになんて言ったんだ?」 「さぁ?」 烈もはぐらかして、とっとと先に進む。 「烈兄貴!なんなんだよ……」 通り過ぎる壁に、ビートのポスターが貼られている。 「待てってば、烈兄貴」 少しばかり歩みの速い烈を追いかけていく豪に気づき、烈は足を止めた。 「なんだ、まだ付いてきていたのかよ」 「なんだじゃないよ!兄貴はさっきジュンになんて言ったんだ?」 「ん、たいしたことじゃないよ」 と平然と烈は言った。 「あんなに顔を真っ赤にしてたのにか?」 「う〜ん……豪と二人でいくつもりだったってことは、デートなのかな?って」 「ジュンに?」 「ああ」 はぁ、と豪はため息をついた。そんなつもり、全然無いのに。 ジュンだって無いだろう。ジュンはただケーキを食べたいだけなのだから。 「お前はどうなんだ?」 烈はにやっと笑って続けた。 「へっ?」 「ジュンちゃんと付き合う気は?」 「なっ…」 今度は豪が顔を真っ赤にした。一歩あとずさる。 「んなわけねーだろ!ジュンとは幼馴染みなだけなんだよ!」 「ふ〜ん……」 烈は興味なさそうに答えた。 豪は思い出したようにあたふたしている。 「じゃあ、マネージャーさんは?」 「あ?咲丘さんなら3ヵ月後結婚するからありえねーよ、第一、俺は……」 豪が足を止めた。 「ふ〜ん…サキオカさんっていうんだ、豪のマネージャーさんは」 その言葉の意味に、豪はやっと気がついた。 「……烈、兄貴……?」 烈はにやにや笑ったまま、豪を見ている。 豪は、青くなって立ちすくむ。 「………」 「………」 二人の間に、沈黙が広がる。 やがて、笑ったまま烈が口を開いた。 「お前の負けだな。豪」 ”勝利宣言”だった。 決定的な証拠を自分の口から言ってしまったのだ。 もう言い訳も出来なかった。 「…やられた………」 がっくし、と言わんばかりに豪は下を向いた。 「認めるんだな」 「ああ……烈兄貴の思ったとおりだよ」 このために一月何にも言わなかったのか…と豪は改めて自分の兄のしぶとさを思い知った。 「ああもう、ちくしょー!」 豪の絶叫は、烈の耳に心地よく響いた。 |
ゴーレツ以前に、豪ジュンのフラグが立ってるような・・・・ マンガで聞いた話ですが、一回別のことに話し相手を集中させて別の角度から話題を切り出してボロを出させることを、誘導旋回法、というそうです。 あと、3人が行ったお店はオリジナルですが、バニラフラベチーノはスター○ックスにあります。
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