レツデレラ   -retsuderella-


来華さんのチャットにて、リレー小説として書かれた
シンデレラのパロディです。
メンバー
来華さん:高山倫さん:桐宮柚葉
本当は途中参加なのですが、ご好意でこちらにも発表していいということで発表させてもらいました。
著作権は、この三人全員にあります。
編集などは、倫さんがやってくださいました。ありがとうございました。

少々長いですが、楽しんでいってください。

配役:
レツデレラ=烈
親父=大神
兄1=カイ
兄2=ゲン
魔法使い=土屋
通りすがりの貴族様=シュミット
王子=豪
ファイター=杉山闘士=ようするにファイター



むかしむかしあるところにレツデレラというとてもかわいい男の子がいました。

しかしレツデレラは、幼いころに事情があって孤児となり、現在は身寄りを引き取 ってくれた意地悪な継父と、血のつながらない二人の姉に、毎日のようにいじめら れてばかりいました。



「ふん…ミニ四駆はバトルレースこそが正しいのだ。スピードレースが良いというレ
ツデレラ、貴様などレースに出させてはやらん!」

「ぎゃはははいいざまだぜ!」 

「姉さんも大人しく父上の言うことを聞いたらどうです?」

「くっ…僕は、僕は認めないぞ!ミニ四駆はスピード勝負だ!バトルレースなんて 認めない!」


意見の食い違いから、親子と姉弟の溝は深まるばかり。

ろくに服も買ってもらえず、レツデレラは仕方なく、男の子なのに、亡くなった継母であるレイのおさがりである、ピンク色のドレスをいつも着ていました。





そのうえ、レツデレラは他の姉に比べればあきらかに満足なパーツも与えられず、

レースにも出させてもらえず、

いつもいつも家事ばかり。


さらに、せっかく作った大切なマシンを、 酷いときは姉のマシンで切り裂かれること もあります。



「僕のヤイバで切り裂いて上げますよ」



そして やっぱり姉のマシンに、つぶされてしまったこともあります。



「つぶせぇブロッケンG!!!」


そのたびにレツデレラは一生懸命マシンを直して、時には改造を重ねてきました。









そんな折り、国際ミニ四駆連盟(お城)からレースの招待状がレツデレラの住む家 に届きました。

もちろん、ミニ四駆を愛するレツデレラは出たくって仕方ありません!!





しかし…







「お前の招待状はない」

「そ、そんな・・・!嘘だ!〜参加は自由〜どなたもお気軽に☆って、そのチラシに 思いっきり書いてあるじゃん!」
「これは前口上というものだ・・・実はココにマシーンを持った人だけと書かれているのだ!!ハハハハハ」



継父は、あきらかに嘘と分かる大嘘をついてまで、レツデレラを意地でもレースに 行かせてくれません。



「・・・ま、マシンなら・・・・僕だって・・・・」

「はーっははっははは!そんなおんぼろマシンで城に行く気ですかぁ?」

「お前にマシーンなどないんだよ」



そういって、レツデレラの目の前でマシーンを踏みつけたのは、姉のカイです。



「…ソニック…!」



レツデレラは泣きながら手を伸ばしました。

継母と姉の二人は、哀れなレツデレラを見て大笑いをしながら、自家用ミニ四駆に のってお城に出掛けていきました。



「…ソニック…ごめんよ、走りたいよな…僕も・・・・走りたい、もう一度お前と、公式 レースで風を感じてウィニングラン!したいよ・・・」



その時です、突然家の前の庭に、物凄く明るい光がさしこみました。



「…?この光は、いったい・・・」 



レツデレラは、そっと窓の外を覗きこみました。

するとそこには、白衣を着たヒゲ面の変態・・・もとい魔法使いの土屋が立っていたのです!!



「このミニ四駆でお城へ行きたまえ!」

「そ・・・それは・・・!?でも僕には、ずっと一緒に走ってきたソニックセイバーが…」

「しかしそのマシンはもう限界だろう。だからこのバンガードソニックを…君に、あげよう」

「えっ!?ちょっと魔法使いさん!!!」



魔法使いはレツデレラに無理やりマシンを押し付けていなくなりました。

ひょっとして押し売りだったのでしょうか。でも、新しく貰ったマシンはとっても綺麗で、そのうえ速そうです。

レツデレラはすこし悩みましたが、結局もらったマシンを持ってレースへ向かうことにしました。









さてレース会場(お城)へ向かうためには乗り物が必要でした。

しかし、魔法使いはミニ四駆だけ置いて去って行ってしまいました。

これからどうしたら良いのでしょう?



とりあえず徒歩でてくてく歩いていたシンデレラの目の前に、白馬の馬車に乗った 黒髪の美少年が通りかかりました。

貴族のシュミットです。



「やぁそこの一般ピープルさん、君もレース会場に行くのかい?」

「うん。でも乗り物がないんだ。このままじゃレースに間に合わないよ、どうしたらい いのかなぁ」

「じゃぁ私の馬車の後方にしがみ付くといいさ。乗せて上げるよ」

「本当ですか!?ありがとうございます」



レツデレラは喜んで後方にしがみ付きました。

大丈夫、こう見えて筋力はかなりのものです。

どのくらいかというと、片手でそんなに年の変わらない弟を持ち上げられるくらいです。







・・・そうです。



実はレツデレラには生き別れになった弟がいたりします!

しかも、その弟がじつは王子だなどと知る由もない烈は、喜び勇んでレース会場に向かいます。

なんで兄弟なのに、かたや一般ピープルで、かたや王族なのか、細かいプロセスはそのうち語ります。

いまは各自、てきとうに妄想しててください。





















さてレツデレラはついにお城へとたどり着きました!

お城の中はレーサーでいっぱいです。



「凄いレーサーばかりだ・・・僕はこんな所でレースができるんだな」



お城には、古今東西(アメリカとかドイツとかイタリアとかその他諸々)の凄腕レーサーが勢ぞろいしていました。



「あの人が、レースの主催者だな…」



そういって、レツデレラが見上げた先には、きらびやかに着飾った、いかにも王子といった風格の青年が立っています。

抜けるようなスカイブルーの瞳に、深海を思わせる青色の髪、そして端正な横顔 …レツデレラは思わず見とれてしまいそうになりました。

そんなレツデレラの心を知ってか知らずか、バルコニーに立った王子は、皆を見渡し、高らかに言いました。



「今日は俺の主催するレースに参加してくれてありがたく思う!俺と勝負したい奴はいつでもかかってこい」



声もかなりレツデレラの好みでした。というかクリーンヒットでした。

これがいわゆる一目ぼれでしょうか。



一斉に歓声を上げるレーサー達の中で、レツデレラはただ一人、ぼうっと王子を 見ていました。

そして王子も気づいたのでしょうか、ふとレツデレラに視線を向けたのでした。









その瞬間です!









ガタリと音がしたかと思うと、豪王子は勢いよくレツデレラの方向へ向かって転んでしまったのです。





『おぉっとぶつかるのはごめんだぜ!』




と思い、レツデレラはとっさによけようとしましたが…気が付けば腰に王子の手が 回されています。



「…え?」



レツデレラは驚きます。さっきまで遠くにあった、あのスカイブルーの瞳が目の前に ありました。

近くで見る瞳は、まるでサファイアのようでした。 



「お前もレースにでるのか?」



そう王子は問いかけました。



「あぁ、出るよ。僕の名前は烈、みんなにはレツデレラって呼ばれてる。君の名前は?」



レツデレラは相手が王子であるにもかかわらず、爽やかに(慇懃無礼にとも言う)名乗りました。



「俺は豪、お前みたいな奴も出るんだな、楽しみにしてるぜ」



そういい、豪は微笑むとレツデレラの手を取りました。



「助けてくれたお礼だ」



そして、手の甲にそっと口づけを交わした豪は、ニヤリと笑みを浮かべました。



「〜〜〜しょ、初対面で人の手の甲に唇押し付けるとは何事だこらぁぁぁ!」



レツデレラは真っ赤になりながら王子を殴り飛ばしました。

言っておきますが、あくまでも照れ隠しです。

レツデレラはシャイ・ボーイなのです。





完全に不意打ちだった豪王子はひっくり返りました。

打たれた場所は痛みましたが、レースに支障は無いようです。



「いてて…何するんだ」



しかし、起き上がったその瞬間、豪の頭の中になにかこう、懐かしいような嬉しいような感覚が蘇ってきたのです。



「なんなんだ・・・打たれた瞬間に感じたこの気持ちは」



そしてレツデレラもまた、こう、腹立たしいような懐かしいような泣きたくなるほど嬉 しいような、不可思議な感覚が蘇ってきたのでした。



「僕は…ずっと昔、誰かに・・・同じことを・・・?」



二人は突然沸きあがって感情に戸惑いました。

しかし、首を振り、最初に我に返ったのは豪でした。



「……そんなわけないよな、俺の兄貴は…」



豪は兄についてこう聞かされていました。





「貴方様のお兄様は、とあるミニ四駆嵐に捕まり、そのまま連れていかれ、消息を たってしまったのです」





ミニ四駆嵐とは、ミニ四駆が走ると生まれる風の流れ…つまりダウンフォースがなんたらかんたらどーたらで、ようするにものすごい風の嵐なのです。

飲み込まれたらまず助からないと言われています。





しばらく見つめ合ってあった豪とレツデレラでしたが、執事の声に気づき、豪はくるりと後ろを向きました。





「またな、レツデレラ!レースで待ってるぜ!」



そうして豪は、風のようにレツデレラの前から消えたのでした。



















「さぁーて、いよいよ、王子の本妻権争奪・舞踏会レースがスタートだぁ!」



レースとなるとどこからともなくしゃしゃり出てくる杉山闘士(ファイター)が、今日もはりきって実況をしています。

城内の空気は、一気に緊迫感を増しました!

しかし、いつのまに『本妻権争奪』なんてことになっていたのでしょうか。

ひょっとしてゲンやカイが優勝したら豪王子と結婚するんでしょうか。



(まあ、僕は男だから関係ないけど…)



どうやら今回のこのレース、女性が優勝したら王子と結婚、男性が優勝したら望みの褒賞をもらえるのみたいでした。



(望みの褒賞かぁ…どうしよう。やっぱり高額パーツ?それとも金一封?)



レツデレラが頭の中であれやこれやと貰える褒賞の中身について考えているあいだにも、ファイターの実況は続いていきます。



「コースはこの城の中だ、階段あり、厨房あり、最後は中庭のロングストレートになっている、このコースを0時の鐘の音が鳴り終わる前に、一番速くゴールできた者が、勝者となる!」



ファイターのコース説明が終わり、スタートフラッグが振られました!







「レディ・ゴー!」







レツデレラは一心不乱に走り続けていました。

周りのレーサーを物ともせず、ピンクのドレスを翻し。

その度に何度男共が倒れたことか。アメリカのパンの様な男とか男とか・・・。



レツデレラ、ああレツデレラ。

その麗しき姿は白鳥のよう。

しかし、華麗に舞う姿は白鷺のようであり、他のマシンを追い抜いて疾走する姿は 風を切るように空を飛ぶ燕のようでもあります。



複雑なコーナーもなんのその。



「…悪いけど、コーナーは得意なんだ」



地を蹴り、軽やかにクリアしていきます。











連続コーナーが終わった頃、レツデレラは見知った後姿を見ました。



「あはははははは、踏みつぶせブロッケンG!!」



その叫び声と共に、何台ものマシーンが潰されて壊されていくのがレツデレラの瞳に映りました。



「…!酷いことを…」



レツデレラはそのありさまに胸を痛めました。

外見で明らかに血がつながっていないと分かる姉の、ゲンが操るマシンが、他のマシンに次から次へと襲い掛かっているのです。

ミニ四駆を心から愛しているレツデレラにとって、それはとてもとても辛い光景でした。



「やめろ!なんてことするんだ!」



レツデレラはなりふり構わずゲンに向かっていきました。

ゲンは、突然現れた紅いマシーンを見つけ、嬉しそうに飴を割りました。

その行為は、



「お前のマシンをつぶす」




そういう意味を持っていました。

ゲンの口から零れたアメが合図となり、前方にいたであろうブロッケンGが、速度を落してレツデレラの後ろに付きました。

一体何をしようというのでしょうか、レツデレラはグッと拳を握り締めました。



「潰せぇぇぇブロッケンG!」 



ゲンの声と共に、重量級の車体が前輪を持ち上げ、レツデレラのソニックに食らい
ついてきました。



「ソニックー!」



レツデレラの叫び声がコースに響きます。

叫びに応え、ソニックはなんとかそれを回避しました。しかし、まだ追ってきます。レツデレラは必死で考えました。

そして、前方に高速コーナーを見つけました。



「よしっあのコーナーで一気に引き離してやる!!」



レツデレラはコーナーを曲がれるギリギリ限界点の速度まで、マシーンのスピードを上げました。



「行けっソニック、ハリケーンパワードリフト!」



レツデレラは、本当ならもう一個ランクが上のソニックで使えるはずの技を何故か披露して、ブロッケンGから逃れました。

どうして?なんて聞いてはいけません。主人公はいつだって奇跡を起こすものです。



驚いたのはゲンです、



「なんでだよ、ひきょうだぁー!」



叫んでも、もうレツデレラは遠い向こう。ソニックはそのまま走っていきます。

しかし、安心はできませんでした。

まだもう一人の姉であるカイがいます。

レツデレラは、今までずっと大切なソニックを切り刻まれてきた、辛い日々を思い
返しました。



「僕は負けない!!この先にいる、豪とレースをするまでは!!」



強敵との対決を終えた烈とソニックは、とまりません。

その速さは駆け抜ける疾風の如く、ぐんぐん先頭との距離を縮めていきます。

そして、とうとう金髪のレーサー、カイの姿を見つけました。

しかし様子が変です。

彼が操るビークスパイダーは、非常に速度が遅くなっていました。

どうやらマシンの内部に異常があるようです。

レツデレラの耳に、カイの呟きが聞こえました。



「何ですか…!あの、王子の青いマシーンは…!」



その横をレツデレラは疾走していきます。

カイは爪を噛んで、怒りを露にしていました。

一体王子と何があったのでしょうか?











レツデレラは前方に居るであろう豪王子の事を想いました。











―――抜けるようなスカイブルーの瞳、深海を思わせる青色の髪―――







豪王子の、その姿を一目見た瞬間、胸に湧き上がった感情があります。

愛しくて切なくて苦しくて…豪王子の顔を思い浮かべるだけで、なぜだかレツデレラ は泣き出したくなります。



そしてふと、脳裏に誰かの声が聞こえました。







「烈兄貴」








…そう、僕はむかし、誰かにそう呼ばれていた。いったい、誰に…?











レツデレラは、ついに先頭へと追いつきました。



青い、一つ束ねの髪。

間違いなく豪王子でした。

レツデレラの胸は一杯になりました。

何かを叫びだしたくて、いまにも溢れそうな感情が止まりません。









「…豪!」









それが、レツデレラの想いの全てでした。











「!?・・・兄・・・貴?」







心の奥底に響く、懐かしい言葉が蘇ってきました。

今までぽっかりとあいてしまっていた隙間に、大切な何かがあったことを、豪王子 は今まさに感じ取ったのです。









「あにき、あにき、烈あにき〜!」

「なんだよ、豪」

「えへへ、なぁ、レースしようぜ!」

「まだ午前のお勉強が終わってないだろう?」

「いいじゃんいいじゃん!なっ、勝負しようぜ!」

「…ったく、しょうがないなぁ。あとでちゃんと勉強するんだぞ?俺が教えてやるから
…」

「うんっ!」












それはずっと記憶の底にしまいこんでいた大切な想い出。

引き離されてしまったことが辛くて、苦しくて、無理やり、忘れようとしていた。

















――会いたかった――













烈は言葉にもならない熱い想いを抱きながら、瞳を潤ませました。

いつも自分の後ろについてきた豪。

なんでも兄の真似をしたがった豪。

泣き虫だった豪。

いたずら好きの豪。

笑った顔が太陽のようだった豪。









――僕の、弟――!









「…レツデレラ、また会ったな。お前とレースできて嬉しいよ」



豪は僅かにスピードを落とし、レツデレラの横に並んで走りました。

感覚で、目の前にいる人が自分の兄だと理解できていても、まだ豪は信じられま
せん。









――兄に恥じない王子になる――









そのために今までがんばっていたのですから。

ですが、こうして一緒に並んで走っているだけで、熱い思いが込み上げてくるのです。

いつしか二人は溢れんばかりの笑顔になっていたのでした。





しかし次の瞬間・・・階段を登るコース添いに来た瞬間、大きな大きな鐘の音が響 き渡りました。













「12…時…」 









レツデレラは、大切なことに気が付きました。



なんかとってつけたような設定で非常に申し訳ないですが、実はレツデレラは、過去にミニ四駆嵐に巻き込まれたせいで内臓の一部を損傷していました。

それゆえに、一日一回特別な薬を飲まないと死んでしまうのです。

しかし、なんということでしょう。

今日は朝からあわただしくて、まだ薬を飲んでいません。









大変です、今すぐにでも家に戻って薬を飲まなければ―――!







レツデレラは悔やみました。

どうして薬を持ってこなかったのか、どうしてきちんと薬を飲んでこなかったのか、 と、心の底から。

もっとこのレースを楽しみたい。

豪と一緒に居たい。







しかし、ここで死ぬことは、レツデレラにはできませんでした。

大切な弟に、二度も兄の死を経験させたくはなかったのです。







レツデレラは辛い気持ちを振り切って、真横を走るソニックを止めました。

パシッと音を立ててマシンが止まったことに気づき、豪王子は信じられない、といった形相で、勢いよく後ろを振返りました。



「なんでマシーンを止めたんだよ!レツデレラ・・・レツ兄貴!!」



レースを途中で止めるなど、ミニ四レーサーの意思に反する…これも昔、レツデレラが弟に教えたことです。

だけどもレツデレラは静かに首を振り、駆け出しました。

城の出口へと向かって。



「…ごめん、豪…」



溢れてくる涙がせめて弟に見えないようにと祈り、顔をうつむかせながら。















豪は立ちすくむしかありませんでした。

突然レースを止めて去ってしまった赤い髪のレツ兄貴を。

どうして生きているのか、どうしてレースを止めるのか、わからないことだらけでした。

そして、豪はレツデレラの去ったあとに、あるものを見つけるのでした。





「こっこれは・・・よく手入れされたミニ四駆のパーツ・・・しかも兄貴が俺によく見せてくれたパーツだぜ」





豪は昔、レツにセッティングなどの手ほどきを受けていたことを思いだしました。

あの時のレツの宝物だったのです。

豪は兄が落としていったパーツを大切に握り締めて、心に誓いました。





必ず、もういちど見つけてみせる。

そして今度こそレースの決着をつけてみせる。

そしてなにより…この城に戻ってきてもらう!





手元に置いた豪のマシン、マグナムと名づけたこれも、きっと兄貴のマシンと勝負をしたいと思っているはずだから。

王位なんて関係ない。ただ、もう一度兄貴に会いたい。

誓いを胸に、豪は空を見上げました。




満月がぽっかりと白く光っていました。













あの舞踏会レースから数ヶ月が過ぎました。

レツデレラは今までと変らない生活をひっそりと、豪に気付かれないように送っていました。

幼いころの記憶が戻った今、レツデレラは自分がこの国の王子だということも想い出していましたが、名乗り出るつもりはありませんでした。すでに王位継承権は弟である豪に与えられていることを、レツデレラは知っていたからです。

今更、死んだはずの兄が出てきたところで王家は混乱し、そのうえ最悪の場合、レツデレラと豪は兄弟でありながら王位継承を巡る争いに巻き込まれることとなります。

それくらいならば、たとえ虐げられる日々でも弟の幸せのため、ここで生きようとレツデレラは思っていました。

そんなおり、レツデレラはカイとゲンからこんな話を聞きました。

王子が、舞踏会レースの優勝者を探している、と。



「優勝者?おかしい、僕はあの時豪に何も告げずに去ったハズだ・・・ミニ四駆精神に反する行為をしてまで・・・だったら、優勝者は豪のはずだろう?」



レツデレラは不思議で仕方ありませんでした。他に優勝するであろう人物は居なかったはずです。





―――それとも、豪以外の誰かが優勝したというのでしょうか?





だとしたら、その人物は男性なら望みの褒賞を、そして女性ならば…王位継承者、つまり豪との婚約権を得ることとなります。

レツデレラの胸はちくりと痛みました。

そんな複雑な思いを抱えたまま、レツデレラが一通りの家事を終えた頃、玄関を叩く音が聞こえました。



「我々は王子の使いの者である。この家に、舞踏会レースに参加したものはいるか?」



カイとゲンが名乗りをあげました。

使いの者は頷いて、ふたりに上等な布に包んだパーツを差し出します。



「このパーツの所持者が今大会の優勝者である。このパーツの名前を言えた者が
このパーツの所持者とする」



そう告げる使いの者が差し出したパーツは、どれも今では手に入る様な代物ではなく、全て製造中止となってしまったものばかりでした。

こんなにも古いものを答えられる者など居るのでしょうか。

ゲンとカイは、目を丸くしました。こんなパーツは見たことがありません。

一応、二人ともがでたらめなパーツの名前を言ってみましたが、どちらも外れてしまいました。



「他にいないのか?」



使いの者が尋ねます。二人は首を振りました。

レツデレラは迷いました。このパーツには覚えがあるし、名前を言うことができる。

しかし、言ってしまえば自分の正体がばれて、王権争いになるかもしれない。

レツデレラは、迷いました。

そしてパーツを見つめます。

そのとき、懐かしい豪の声が蘇りました。





「これ使って勝負してくれよな、約束だぜっ!」






それは、二人がまだ一緒だったころ。

レツデレラが大切にしているパーツを横から覗き込んで、弟の豪はそう言いました。

城の従者がこのパーツを使って持ち主を探しているということは―――つまり、きっと、



弟は、覚えていたのです。

あの、遠い約束を。













レツデレラはいてもたってもいられず、もう王権争いの事など忘れて、皆の前へ飛び出してしまいました。





「ソレは僕のパーツです!大切な、弟との思い出のパーツなんです!!」



そして烈は、次から次へとパーツの名前を言い当てました。





「これはタ○ヤから1993年に発売されたパーツで主にマシンの強度UPをはかって作れたものです。限定で市場に100個しか販売されなかったから現在はプレミアムがついておよそ10万円はくだらない希少パーツで、かの高名な鉄心先生が独自に開発したZMCという素材を生かして…云々。
さらにこっちのモーターは高ト ルク高レブの両立を可能とした奇跡の結晶で、かつてミニ四駆業界のトップに君 臨していた『土屋研究所』という場所が100万分の1の確立で作り上げたこの世に 二つと無い希少モーターです。
なにせ開発に多額の予算が必要となったため原価 が高くなってしまい、市場に出回らず研究のスポンサーや一部の大金持ちだけが 入手することができた幻の一品で、今もミニ四レーサーのあいだで伝説視されて いるものです。こちらもプレミアムが付いて今や国家予算に匹敵するほどの価値
があり…云々」





レツデレラはそれはもう素晴らしくたくみに、誰も頼んでもいないのに、一つ一つのパーツの特徴まで、事細かに説明しました。



「おお…」



使いの者は関心しながら聞きました。

そして、レツデレラが全て語り終わったとき、使いのものは頷き、そのパーツを丁寧に取り出すと、レツデレラの手のひらに置いたのでした。



「これは間違いなくあなたのものだ、来なさい。王子が…いえ、弟君が待っておいでです…烈様」



そういい、使いの者はレツデレラに深く頭を垂れました。



「豪様はわかっていましたよ。だから、あなたを名指しせずに、”優勝者”を探せと、ご命令されていたのです」



そうだったのです。

名前を隠した事も、優勝者と言ったことも、全て弟が兄の為にした事。



きっと、『兄を探せ』そう言えば、烈が絶対に出てこないことを、豪は分かっていました。

なによりも弟のことを大切に想っていた烈兄貴は、きっと弟を醜い王位継承争いに 巻き込むくらいならば―――と、自分の身を引くことが分かっていたからです。

だから豪は、あえて『兄を』ではなく、『優勝者を探せ』と、家臣に命令したのでした。

自分が会いたいのは『兄の烈』ではなく、『誇り高きミニ四レーサーである烈』なのだと。

豪は、そう言いたいのです。

そしてそれは、ただ昔の様に二人一緒にレースがしたいと願う、豪の熱い気持のあらわれだったのです。



「豪・・・」



烈は、豪の待つ城へ急ぎました。

ピンク色のスカートを翻し、後ろに聞こえるゲンやカイの罵倒にもふり返らず、一心不乱に走り出しました。

















豪は、城の庭にいました。

一人、噴水のほとりに座って遠い昔を思い出していました。

大好きだった兄のこと。

怒ると怖くて、でも本当は優しくて、いつも兄のあとを追いかけては真似ばかりしていました。





豪にミニ四駆を教えてくれた烈。

頭が良くて、勉強が苦手な豪の面倒をいつも見てくれていた烈。

優しく微笑む顔が、天使みたいだった烈。

豪が泣いていれば、いつでも傍にいてぎゅっと抱きしめてくれた烈。





それなのに、ある日を境に、烈は豪の目の前から姿を消してしまいました。







「…烈兄貴はどこに行ったんだよ」



「豪様…ですから、お兄様はお亡くなりに」



「嘘だ!そんなはずない、みんなで兄貴を隠したんだろう。返せよ、俺の兄貴をかえせ、かえせ、返せぇぇぇぇぇぇぇ!!」








…兄がいなくなったあと、

豪は執事や両親の声にも応えず、

一年近く自室に閉じこもっていました。





兄のいない世界なんて、豪にとってはなんの価値もありませんでした。

その心は死に、顔からは笑みが消えました。

ミニ四駆嵐に巻き込まれて死んでしまったという烈と一緒に、

豪もまた、一度はその命を失ったのです。











そして一年近く経ったころ、

豪はようやく、兄はもういないのだから、兄に恥じない王子になろうと誓いました。

そして、想いだします。

そんなときに、決意の励ましとしてある魔法使いが1台のマシーンをくれたことを。

青いボディのそれを、豪はマグナムと名づけました。



「いつか、それが大切な人の元へ導くだろう」



そんな言葉を、夢と知っていながらも信じて。

確か、名前は土屋と言ったでしょうか。

今ならわかります。





彼は変だったけれど、本物の魔法使いだったのです。



































なぜだか、烈は、この広い城内で、いま何処に豪が居るのかが解っていました。

一直線に城の庭に向かいます。

会いたい、

今すぐあって声が聞きたい!

もう絶対に離したくないんだ!!

烈の想いは叫び声となって響き渡りました。







…ミニ四駆嵐に飲まれたあと。

烈は城から遠く離れた異国の地に、息も絶え絶えの状態で、地面にうずくまっていました。

皮膚は真空の刃で切り裂かれ、内臓はぐちゃぐちゃに潰され、生きているのが不思議なくらいでした。

だけど、だけど烈は死にたくありませんでした。

烈には弟がいるのです。

たった一人の、弟が。

あの子を残して、死ぬわけには行きません!

あぁ、だけど意識は遠くなるばかり。

死にたくない死にたくない死にたくないと、泣きながら、血を吐きながら、嗚咽を洩らしていた烈の足元に、誰かがそっと佇みました。

もうほとんど見えなくなっている眼で、烈はその人の顔を見ました。

その人は―――白衣を着た、顎にひげを生やした男の人でした。





次に眼を覚ましたとき、烈の手のひらには赤いマシンが置かれていました。

薬に頼らなければいけないとはいえ、生還率0といわれているミニ四駆嵐に巻き込まれていながら、烈は奇跡的に生き延びることができたのです。

手の中のマシンを、烈はソニックと名づけました。

意識を取り戻した烈は、過去の記憶の殆どを失っていました。

頭の中で、懐かしい誰かの声が聞こえるけれど、それが一体誰なのか、自分は一体何者なのか、烈は思い出すことができません。

自分が何者なのか分からず、帰るべき家も無く、ふらふらとさ迷っていた烈は、大神博士に引き取られ、レツデレラと呼ばれるようになりました。



辛い日々でした。

毎日毎日、苛められました。

だけどレツデレラは、耐え続けました。

ソニックがいてくれるから。

それに、思い出すこともできない誰かが、自分を待ってくれている気がするから。

レツデレラは、耐え続けました。



ソニックを手にしたとき、頭の中にひびいた声―――、



「いつか、それが大切な人の元へ導くだろう」




そんな言葉を、夢と知っていながらも信じ続けていました。

























豪は、兄の声を聞いた気がして立ち上がりました。

耳で聞いたのではありません、

心で、

まるでその名を渇望するかのように、



『豪』



と、叫ぶ兄の声なき声を聞いたのです。

豪は、走り出しました。

すると、やがて本当に、兄の声が聞こえてきました。

懐かしい声。

大好きだった声。

豪はその声のするほうへ向けて、一心不乱に走りました。

広い庭を、扉に向かって走りました。

走って、走って…そして、扉の前に赤い髪の少年が一人、立っていました。

赤い眼に涙をため、一直線にこちらに向かってきます。













烈は走りました。

豪も走りました。





そして、指が触れた瞬間、二人は言葉も無く、ただ抱きしめあっていました。





















「会いたかった」



「俺も会いたかった」







二人の間にそれ以上の言葉は無意味でした。

ただただ抱き合い、温もりを感じあい、そして存在を確かめ合いました。

ずっと欠けていた宝物がやっと自分達の心に帰ってきた瞬間でした。













「おかえり」 



「ただいま」







この世でただひとりだけの半身。

俺の命。





少年達は、再びこの世に生を受けました。

二度目の生は、一度目よりもさらに尊くて愛しいものでした。































「舞踏会レースの決着つけてくれるよな?」



太陽のような笑顔で、豪が笑います。



「もちろん、だけど…」



烈は自分の身なりを見て、困ったように笑いました。

ろくにきるものの与えなかった哀れなレツデレラ。髪は灰だらけ、育ての母のおさ がりである、ピンクドレスはあちこちが継ぎはぎだらけ。

一方、豪は見るからに豪奢な衣服を身にまとっています。

その格差に、レツデレラは恥ずかしさのあまり顔を伏せました。

美しくきらびやかに輝いている弟に比べ、自分はなんとみすぼらしいのでしょう。



それにレツデレラには、いくらいじめられていたとはいえ、これまで育ててくれた義 理の父と姉がいます。

彼らに恩も返さず、自分ばかりが幸せになることが、はたして許されるのでしょう
か?





しかしうつむくレツデレラの手をとって、豪は力強く微笑みました。





「大丈夫、もう兄貴は我慢しなくていいんだよ。二人で生きていこう、な?」

「…うん」



豪の言葉一つ一つが胸に沁みこんでいきます。温かく、優しい言葉を。

それは何よりの宝物でした。









これから二人は新しい第一歩を踏み出します。

今まで培ってきた全てを、これからの二人の歩みの一歩一歩に繋げて・・・二人なら乗り越えていける、頑張れる。

そう胸に刻み込み、豪と烈は走り出しました。











彼らを待ち受ける未来が、光に溢れていることを願って…。











       -fin-




 



私が参加したのはレツデレラが城についてからなのですが、それでも5時までかかったという大作。
みなさん、本当にお疲れ様でした…!
このような企画に参加できたことを心より感謝します。

2006/9/23    桐宮柚葉


レツデレラアフター
このサイトのみの公開です。
高山倫さんのところにはレツデレラ〜前話〜もあります。










 

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