you are no⇔w⇔here
 


前編:.you are no where


僕の家は4人家族。
優しいお父さん、少し厳しいけど頼りがいがあるお母さん。
そして、生意気で明るい弟。
それが僕の家族。

烈兄貴、と僕を呼び、いつでもくっついてきた。

青い髪に、青い眼。一緒にミニ四駆に夢中になって、走り回った。
小学生になっても、かわらなかった。
ずっとそうだと思っていた。
その日を知るまでは。

「烈兄貴、学校行っちゃうのか?」
制服に着替えた僕に、豪はそう問いかけた。
「ああ、お前は大丈夫なのか?」
「うん…」
最近、豪の様子がおかしい。突然倒れたり、立ちすくむ。
そのたびになんでもないって豪は笑うけど、心配だ。
もう12歳、来年は中学に行くって言うのに、こんなに休んでばっかりで大丈夫なのだろうか。
「いってらっしゃい、兄貴」
豪はパジャマ姿のまま手を振った。


告げたくても告げられない、君を泣かせてしまうから。


ドアを閉めた烈を見送り、豪は息を吐いた。
「なんで、いっしょにいてくれないんだよ…」
豪は一人呟くと、眼を伏せた。
その様子を、母親の良江が見つめている。
「ごめんね、豪…まだ、動ける?」
「うん、大丈夫」
「そう…」
正確に時間を答えた豪にも良江は動じず、うなずいた。
「豪には、辛い思いさせちゃったかしら…」
「いいよ、俺を兄貴の弟して育ててくれたこと、感謝してる」
笑って、豪は答えた。
「朝ごはん、食べる?」
「おう、頼む」
ふらつく足を止めて、豪は額に手を当てた。
「俺、の身体……あとどれくらい持つかな……」
調べれば秒単位でわかるだろうけど、そこまで調べたくは無かった。
どうせなら止まる前くらいずっと記憶に刻み込んでおきたかったのに、と豪はふと思う。
まぁいいか。とその考えを振り切った。

止まるだけなんだし、と思い直して。
歩きだすと、身体が軋む。
今日は寝てようか、それとも無理に動かそうか悩み、結局動かないことにした。
動くなら、烈の前だけでいいや、と思う。
居間のソファに座り、豪は目を閉じた。


一方の烈は、いつもどおりの学校にいる。
「星馬、俺さ、面白いニュース手に入れたんだ」
見上げると、同級生の八田が烈を見ていた。
「ニュース?」
これ、と見せたのは、子猫がロボットの親猫に甘え、眠っている写真だった。
「AIと機械工学を駆使したらしいけど、すごいよな。あの猫までこんな風になるんだ」
子猫は銀色の親猫と一緒で、とても幸せそうだ。
話を聞くと、親猫が死んでしまい、悲しんだ飼い主がこの猫を与えたのだという。
動きが滑らかなロボット猫は尻尾を振り、子猫の興味を引く。
「すごいだろ?」
「でも、この親猫はどうなんだろうな。可愛がってるのがロボットだなんて」
「気づいてないからいいんじゃないのか?」
「そう、だな…」
じゃあ気づいたらどうなるのか。しかし、まだ飼い主がいるからいい。
そういう考え方も出来る。
「お前、最近元気ないな、どうしたんだ?」
何も言わない烈に、八田は眉を寄せ、心配そうに烈を見た。
「ああ…豪が最近体調崩してて」
「あの風邪すらしなさそうな弟が?」
八田も豪のことはよく知っている。烈とは正反対、突っ走るのが信条の弟のことを。
「だから、ちょっと心配なんだ」
「ちょっと…なのか?」
「え?」
にやにや笑う、気まずくなって愛想笑いで返した。
「本当は学校サボりたいくらい心配なんじゃないのか?」
「んな…そこまで気にして無いってば」
「ま、お前ならそうかもしれないけどさ、弟は淋しいかもしれないな」
「あの豪が?」
「いつもくっついてるからさ、お前がいないと淋しかったりしてな」
「もう12歳だ、そんなことないよ」
烈は笑って返した。

授業が終わると、雨が降っていた。
ざあざあ降りではないが、歩いて帰れそうにはない。
他の生徒も、走っていったり、迎えに来てもらったりしている。
「参ったな…降水確率40%だったのに…」
秋の天気は変わりやすいという、そのことをすっかり忘れていた。
見上げても、雲の切れ目は無く、灰色の空がどこまでも続いている。
「はぁ…」
豪はたぶん、家で寝てるんだろう。本当に体調悪そうだった。
大人しくしていることが、その証拠。
(しょうがない、歩いて帰るか…)
そう思って、前に出たときだった。
「烈兄貴」
校門に向かって、ぱたぱた歩いてくる人影。
「…豪!」
私服に着替え、傘を持ってこちらへやってくる、豪の姿だった。
髪も僅かに濡れて下に落ち、ズボンの裾も雨が飛び散って濡れていた。
「よかった、ちょうど帰るところだったんだな」
悪戯っ子のように笑い、烈がいつも使っている傘を差し出した。
「な…バカか豪!家で寝てろよ豪」
「いいんだ、俺暇してたし」
くすくす笑う。どうやら本当に暇してたらしい。八田の言葉が蘇る。

”弟は淋しいかもしれないな”

そんなわけがないと思っていたが、豪の暇していたから来た、というセリフにあながち嘘ではないかもしれない、と思った。
もう12歳、されど12歳、ということなのか。
「大丈夫なのか?」
「だいじょーぶ。俺風邪ひかないし」
豪はなんてことも無いように笑った。
「じゃあ、帰ろう?」
「しょうがないな」
傘を広げ、二人は歩き出した。



その時間に、終わりは必ずやって来る。



「豪、本当に大丈夫か?」
「うん……」
時折歩きにくそうに身体を揺らす豪に、声をかける。
足取りはおぼつかなく、荒く息を吐く。
「お前、なんでこんな状態なのに、家で寝てなかったんだ」
「家で寝てたって、変わるわけでもないしな」
苦笑した。そして、そのまま歩いていく。
「身体が冷えるだろ」
「そういうの、俺は関係ないから」
人事のように言う。
その様子に、烈はぴんと来た。
「豪…お前、何か隠してるのか?」
「…!」
足を止める。
「な、なんでだよ…」
「お前がそんな風にすること事態が隠してるって言ってるようなものなんだよ」
「烈兄貴……」
困ったように笑う。いつもバカ元気という印象しかない豪がこのときだけ、泣きそうな表情をした。
涙を溜め、それでも笑ってみせる。
「ど、どうしたんだよ豪…そんな顔して」
「俺…」
とうとう俯いて、あまりにも傘で遮れないところから雨が零れる。
「俺……っ」
言葉に出すことも出来ず、ただ泣き続ける。傘を落とし、顔を伏せて。
「豪、豪どうしたんだよ」
隠してることがそんなに言うのがきついことなのか、烈にはわからなかった。
「う、うわあああっ……」
制服が濡れるのも構わず、豪は烈にしがみついた。
その両目からたくさんの涙を流しながら。
「豪…」
何も分からない烈はただ、泣く豪の背中をさすってやることしか出来なかった。
「れつ、あ……」
その瞬間、豪の身体から力が抜けた。
烈の手をすり抜け、雨の降るアスファルトに崩れ落ちる。
「豪!」
泣いたまま、意識を失い倒れた。
突然のことに、狼狽するしかない。しかし、このまま豪を放っておくことも出来ない。
「しっかりしろ、迎えに来たほうが倒れてどうするんだよ」
烈も傘を畳み、2人分の傘を鞄に押し込む。
そして、豪を背負った。
「豪…」
だらりと垂れさがった腕から、軋む音が聞こえる。

「はぁ…はぁ…」

身体を引きずるように、家の前に着くと、良江が不安そうな顔をして立っていた。
「烈、豪!」
「よかった…母さん、待っててくれたんだ、豪が…」
「わかった。豪をこっちに」
「うん…」
手放した瞬間、烈の顔にも安堵の顔が浮かぶ。
良江は手早く豪を部屋に寝かせ、タオルで身体を拭いた。、
「烈、シャワー浴びておいで」
「うん…」
シャワーを浴びても、烈の気持ちは晴れない。
烈の前であれだけ号泣した豪を見たことが無かった。
秘密といっても、それだけ泣く理由は、今の烈には無い。
しかし、豪にはある。
それがなんなのか…烈にはわからない。

私服に着替えて居間に行くと、豪はソファの上でブランケットをかけて寝ていた。
まだ、あれから眼が覚めていないらしい。
良江は夕食の準備をしている。
「母さん、豪を病院に連れて行こうよ」
「……」
「何か悪い病気かもしれない。だったら早く治そうよ」
「烈…」
何故か、悲しそうな眼をして良江は烈を見る。
烈は嫌な予感が走った。
「母さん…?」
「豪は病院に連れて行けないの…」
「なん、で…?」
「それは…」
良江は口をつぐんだ。

「それは、俺が話すよ」

いつの間にか、眼を覚ましてた豪が、そのままの体勢で首だけ回して、烈を見た。
「……豪」
「豪、いいの?」
「もう、時間無いし…言えないまんまじゃ、嫌だもんな。あれ持ってきて」
(あれ…?)
良江は頷き、烈に1枚のスクラップを渡した。
「これが…豪の秘密、よ……」

新聞の切り抜き、それは10年前のものだった。
それをみて、烈の表情が凍りつく。
「…ごめんね…烈……」
良江は崩れ落ちて泣いた。
嗚咽だけが響くが、烈にはまったく現実味がなく、ただ呆然と表情を崩さない豪を見ていた。


○月○○日未明、××橋で自動車の追突事故が発生。
この事故で、星馬豪くん(1)が死亡、星馬改造さん、妻良江さん、長男烈くんが軽い怪我を負った。
事故の影響で橋は一時通行禁止に……



「何、これ…豪が…死んでるって?」
豪はその言葉を聞き、身体を起こした。
その眼は、どこか空ろだ。
あまりのことに、烈の頭は混乱する。ただ一人、豪だけは静かに烈を見ている。
さっきまで、泣き続けた姿とは打って変わって、落ち着いていた。
決意した。そんな顔をして。
「俺は、ここには本来いない人間…なんだよ」
ごめんな、と母と同じことを、烈に告げた。
「そんな、だって…お前はここにいるじゃないか」

「星馬豪そっくりの、人形…はね」

眼を閉じる。そのまま、豪は動かない。
その腕を少しだけ上げる。

ぱき。と嫌な音がした。

 


後編:you are now here

 

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