you are no⇔w⇔here
 



その真実を知ったときショックじゃなかった、って言ったら嘘になる。
けれど、その腕を見たときに確信して、どうしようもないことを知った。
今の俺が誰が作ったのか、と聞かれたら。

烈兄貴だ、と自信を持っていえる。

2. you are now here

「本当、なの…か?」
信じられないような顔をする烈に豪は苦笑するしかなかった。
「うん、ホント」
すばやく手首を豪がひねってみせると、かきん、という金属音がする。
「俺ね、11年前に豪に似せて作った、アンドロイドなんだ」
SFみたいだろ?と豪は肩をすくめた。
「うまれたときからずっとそう、烈兄貴に合わせて、身体のパーツを少しずつ変えていたんだって」
目の前にいる豪は、偽者のロボットで…
本当の豪は1歳のときに、死んでいる。
1歳といったら、烈の自我などほとんどない。
だったら…
「最初から…嘘だったのか?みんなして、僕を騙してた?」
「烈兄貴…」
「お前を、ずっと…弟だと思ってた俺は…なんなんだよ」
不安そうに烈を見上げる豪は、全部プログラムされた感情。
豪にぶつけてもどうしようもない怒りがふつふつと沸いてくる。
しかし、他にぶつける相手もなく。
「なんで…何で今教えたんだよ!ずっと知らないほうがよかった…」
「…ごめん」
うつむく豪に、それ以上怒ることもできず、処理できない苛立ちだけが募る。
いつもなら突っかかる豪も、このときばかりは何も言わなかった。
「証拠でもあるのか?」
「え?」
「お前が、ロボットだって言う証拠でもあるのかよ!」
「……」
少し、困惑した豪だったが、やがて頷き、おもむろにマイナスドライバーを取り出した。
「豪…?」
そして、そのまま、ドライバーを振り上げ、そして…手の甲に突き刺した。
「…っつ!!」
烈の全身に怖気が走る。
手の甲には傷ができ、赤い色があふれている。それにお構いなく、豪は突き刺したドライバーを抜こうとせずに力強く引っ張った。
皮膚が裂ける音がした。そこまでして、ドライバーを離す。
床に赤が落ちた。
若干の汗が額に浮かび、豪はその傷口を乱暴にぬぐう。それはあっというまに止まった。
「これでも、信じられないのかよ…?」
恐る恐る、手の甲を烈に差し出す。
「……」
手の甲の傷の中には、コードが幾本も絡み付いていた。
赤に塗れた配線は不気味そのもの。烈がじっと見る暇もなく、豪はすぐに手を引っ込めた。
「普通なら、この時点で痛いって思って止めるだろ?」
傷を隠して、豪は言う。
「一定の痛覚を越えると、それ以上痛いって感じなくなるんだ」
今まであんまり怪我しなかったしな。と、目を閉じる。
「これでも…信じない?」
「……」
真剣な目で、豪は烈を見つめた。その眼も実際は作り物。
理解はできる、感情が追いつかない。
そのうち、烈はパニックに陥っていた。
「い、嫌だ…」
「烈兄貴?」
「なぁ、豪…嘘だって言ってくれよ、そんなことを考える兄貴は馬鹿だって」
「……」
「ずっと、僕はアンドロイドを弟だと思ってた?そんなわけないじゃないか。ずっと一緒にいたのに、気づかない、わけ…ないじゃないか」
豪は答えない。ただ、烈を見上げている。
「烈兄貴…」
「豪も、父さんも母さんも、みんな知ってたのか?俺だけが豪を弟だって思って、まるでピエロじゃないか」
豪だけが、烈の表情を見ていた。
絶望と、拒絶が入り混じり、知らないうちに涙を溜めた、その表情を。
どう言ってもなんの意味もない。事実しか、言うことはない。
「……ごめん」
言った瞬間、烈は駆け出していった。
そのまま、バタンという音がする。豪は追うことも出来ず、ため息をついた。
「俺だって…、知りたくなかったよ……」
豪は立ち上がり、外を見た。
雨がぱらつき、真っ黒な雲が一面を覆っている。時折、不気味な音が鈍く鳴り響いた。
「烈兄貴…」
豪は意を決して、外に出た。
まだ言ってないことがある。それだけは、本当のこと。



それでも思い出だけは、変わらない。



「烈兄貴、俺達、ずっと一緒だよな」
豪の言葉が耳に蘇る。
あれもこれも、全部、ロボットの豪?
信じたくなくて、それでもさっき見た現実はまさしく本物で、なにがなんだかわからない。
いきなり豪がアンドロイドだって?
小雨が降る中、走っていった先は、小さな公園だった。
小さな頃、豪と何度も遊んだ覚えがある公園。あのとき、豪はいくつだっただろうか。
2.3歳くらいだったと思う。
烈のまわりをいつでもくっついていた。
「…あのときから、豪は今の豪だったんだな…」
きっと、アンドロイドの豪を両親が与えたのは、自分のため、なんだろう。
当時2歳、何も覚えていないとしても、ショックだったのは間違いない。
きっと父さんも母さん自身も。
だからどうにかして、弟を作った。この11年ずっと、家族であり続けた。
知らなかったのは自分だけ。
豪がロボットだったことより何よりも、それが悔しかった。
「烈兄貴――!」
呼ぶ声がする、烈が振り返ると、豪が走ってくる音がする。
「豪!」
傘も差さず、雨に濡れそれでもなりふり構わずに。
「豪、なんでここに…」
全速力で走ったのか、ぜいぜい息を吐いていた。
ずっと、具合が悪そうにしていたのに。
「烈、兄貴に…言い忘れたことが…あったから……」
そして、勢いよく顔を上げた。
「俺を”豪”にしてくれたのは烈兄貴なんだぜ!」
「え…?」
「確かに俺はあれだけど!兄貴のこと大好きだ!それだけは絶対譲れない!」
数メートル先の烈に聞こえるため、には大きすぎる声を出して、豪が叫んだ。
「お前、それを言うためだけに、わざわざ来たのか?」
「当然だろ!俺、は…」
言おうとした瞬間、豪の身体が揺らいだ。
「やば…」
足に負担をかけ過ぎた、と豪が思ったときはすでに遅かった。
倒れる、と思ったときその身体は宙に浮いていた。
「…?」
「バカだよ…お前、なんでロボットのクセにそんなバカなんだ?」
苦笑しながら烈の声が聞こえる。
豪が見上げると、烈の赤い瞳が見下ろしている。
倒れようとしたところを、烈が抱きかかえてくれたことに気づく。
「俺は優秀なアンドロイドだからな。まぁ、もう耐久年数…
過ぎてるけど」
困ったように、烈の腕なのかにもたれこんだまま、眼を閉じた。
「耐久…年数……?」
「家帰ろう、烈兄貴」
ようやく落ちついたのか、手を離し、ふっと笑った。
そのとたんだった。

轟音と、とてつもない光が、二人を包み、

烈は、それに目を開けていられず、腕を覆った。



「…う……」
どうして、自分が地面に倒れているのか、烈にはわからなかった。
服は泥で汚れている。
立ち上がると、公園にあった木が、根こそぎ倒れていた。
(そっか…雷が…当たったんだ…)
直感で理解して、起き上がってみた。木の焼ける匂いが鼻につんと来る。
目の前で倒れた木は後一歩違えば、直撃していたかもしれない。
そして、下をゆっくりと見て、烈は凍りついた。
「ご、豪……!」
巨大な枝の下敷きになり、豪は倒れていた。
目を覆っていた間に木が倒れ、豪はとっさに烈をかばっていたことを知る。

「へへ…烈兄貴、大丈夫か?」

足を見ると、右足首が幹によって潰されていた。
ぱちぱちと音が鳴り、水溜りには複数の液体が混ざっている。
それでも、豪は苦悶の表情を僅かに浮かべただけで、痛々しい様子は見せなかった。
「お前…俺をかばって…?」
「…まぁな。俺も役には立つだろ?」
そういい、笑顔を見せた。
「豪…」
そうだ、豪はこういう奴だった。無鉄砲で、誰かのピンチには駆けつけずに居られない。
自分が損をしても、やらずにはいられない。
確かに豪はとっくにいなかったかもしれない。
けれど、こいつは間違いなく僕の弟だ。
誰であろうとなんであろうと、こいつは…豪なんだ。
烈はそのことにようやく気が付いた。
「んっ―!」
豪は腕を伸ばし引っ張ろうとするるが、抜けないことを知り、顔をしかめた。

「まいったな…抜けないや。烈兄貴手伝って」

泥がついた顔で、烈に言う。
「しょうがないな」
中学生の力ではなんともできないかもしれないが、豪のことがばれたらまずい。
烈は精一杯の力をこめた。



君はここにはいない。けれど…心はきっとある。



某日、晴れた日。
「あれ、烈くんじゃないか」
ファイターは最近見かけなかったれ烈に声をかけた。
「ファイター、お久しぶりです」
すっかり成長した烈を見て、眼を細める。
引退して、レーサーとしては、半ば伝説になっているひとり。
豪はとある事情で6年生になって引退した、と発表されている。
前より大会は少なくなったとはいえ、まだまだ人気のミニ四駆のレース会場は、大勢の人でにぎわっていた。
「あれ、豪くんは」
「いるよ」
こっち、と烈が指を刺すと、豪はゆっくりとこっちに向かってきた。
「おーい、ファイター!」
手を振った、その両手には、松葉杖が握られていた。
「豪くん、怪我したのかい?」
「…ちょっとね。だけどレースを見に行きたいって言うから」
烈が笑うと、ファイターもらしいね。と笑った。
「ファイター、まだファイターやってるんだ」
「失礼だなぁ。僕はおじいさんになってもやってるつもりだよ」
「ファイターならやってそうだ」
豪はそういい、ファイターを見上げる。



「烈兄貴、なんで今教えたのか、って聞いたよね」
「ああ…」
「俺ね、もう演算装置の耐久年数が過ぎてるんだって」
「演算、装置…?」
「俺のメモリーの許容量は10年が限界。それを少しでも長く持たせるために勉学の基準値を落としたんだ、でも…1年が限界だった」
「そうだった、のか…」
「身体はいつだって代えられる。だけど…記憶ばっかりは…どうしようもないよ」
そういい、豪は烈の胸に体重をかけた。
「俺も、自分が人間じゃないって知ったの、倒れてからなんだ。病院に連れてってくれない理由も、そこでわかった」
「………」
「ごめんな、烈兄貴。でも俺、不思議と怖くないんだ。もうすぐ兄貴のこと忘れちゃうのに、忘れても、忘れない気がするんだ」
「豪……」
「一番好きなことを一緒にやれたのも、俺が俺でいられたのも、全部、全部、兄貴とみんなのおかげ」



「さぁ、レースもいよいよ終盤に入るぞ、一番最初にゴールするのはどのマシンだ?」
「おお、今のマシンすっげー!」
豪は思わず立ち上がって腕をぐるぐる回している。
「豪、あんまり動くな」
「悪い悪い」
歓声の中、2人に気づく人はほとんどいなかった。
固く留められた包帯の中は、あのときの傷がそのまま残っている。
レースが終わり、表彰式が終わり、みんなが帰るころになっても、2人はただずっと、そのベンチに座って、その会場を眺めていた。
時折、思い出話をしながら笑う。
「烈くん、まだいたんだ」
閑散とした会場になったころ、まだベンチに座ってた烈に、ファイターが声をかける。
「うん、もうちょっと…見ていたくて」
「そうか、あんまり遅くならないように帰るんだよ」
「わかりました」
隣で豪は、うつらうつらと眠っている。
「ほら、豪。起きろ」
「んん…?」
ファイターに挨拶でもさせようと烈は思ったが、豪は眼を覚ましたときには、既に後ろを向いて歩いてしまっていた。
いつだって、タイミングは少しだけ遅い。
あと少し早ければ、違った結末に、なっていたかもしれないのに。
記憶が消えてしまうのならば、一番好きな場所で消えたい、という豪の言葉に、烈はうなずくしかなかった。
再起動すれば、また豪に会うことが出来る。けれど、それはもう昨日までとは違う。
ならば、一番好きな場所で、一番好きな人のそばにいたいと、豪は言った。
「ね、烈兄貴…」
薄目を開けて、豪は微笑む。
「なんだよ」
「俺、ね…解析不能のロジックがいくつかあるんだ。なんなのか、俺でもわからない。けどもし…」

そのロジックが、記憶が消えても残っていたら。

「また、烈兄貴に……あえると、思うんだ……」
「…そう、だな……」
うん、と豪は烈の肩に顔を寄せた。
髪がぱらりと落ちて、瞳を隠す。2人の姿は、一対の双子のように、溶け込んでいた。
「あったかいな」
「お前のほうがあったかいじゃないか」
その言葉に、豪は口元だけで笑みを作った。

「…れつ、あにき……だ… き…よ」

「…豪?」
からん、と松葉杖が落ちる。
「…なぁ、豪、もう一回言ってくれよ…何て言ったんだ?」
「……」
「お前さぁ…前に言ったじゃないか、ずっと一緒にいるって」
「……」
「一人じゃ不安なんだ」
「………」
豪の頬に、雨が落ちる。
いくつもいくつも零れ落ち、それでもやむことを知らずに、降り続ける。
身体を揺すっても、もうその涙を拭えない。


「お願いだ……一人にしないでくれよ……豪……!」


烈の声は、次第に嗚咽に変わっていく。
「一人に…しないでくれ……」


































視覚経路、異常なし。
触覚経路、異常なし。
聴覚経路、異常なし。
味覚経路、異常なし。
嗅覚経路、異常なし。
記憶回路、異常なし。
身体動作、異常なし。
人工皮膚移植、外見共に問題なし。
最低常識をインプット完了。

メモリ、オールクリア。
バックアップメモリ、フォーマット。


再起動。


「………」
眼を開ける。それが第一の動作。
ベッドで眠っている。
「豪」
聴覚にて人の音声を確認。自分のことだと仮認定。
「……」
音声の方向へ首を向ける。
視覚にて人の姿を確認。
男性、年齢13歳程度、赤い目と赤い髪を第1認識。
顔をメモリに保存。
「豪、おはよう」
ゴウ、自分の呼び名と認識。
ベッドから上半身をあげる。
「おはようございます」
常識的な呼び方を返す。表情の変化を確認。
これは、困っている…のだろうか。
「そんな言い方しなくていいよ、もっと自然に…っていってわかるのかな」
自然に。意味を任意解釈。
12歳の子供の呼び方に変更。
「おはよう」
表情の変化を確認、今度の表情を喜びのカテゴリに分類する。
「おはよう、豪。僕のことわかる?」
ゴウ、を自分の名と認識する。
顔を分析、既存メモリに情報なし。
しかし、解析不明ロジックに僅かな反応あり。
完全に解析不能、既存のデータに影響が及ぶ可能性があるため以後これを無視。
「知らない」
首を降るという拒否の動作。
表情の変化を確認。カテゴリ分類不能。
「…僕は、お前の兄貴の烈だ、お前は俺を烈兄貴と呼ぶんだ」
レツ。レツアニキ。
反芻後、解析不能ロジックからわずかなノイズを確認。
「はい、烈兄貴」
「よろしい、お前は僕の弟だ」
弟、同じ母親から生まれた順が遅い男を指す。
兄貴、という言葉と照合、レツは自分の兄であると認識。
「…おかえり、豪」
レツの動作を確認。自分の背に腕を回している。
抱きしめるという動作だと認識。
「…どうした?」
「嬉しいんだ、これから、ずっと一緒にいような。豪」
「………」
今回のメモリ許容量は60年。
それまでに既存のメモリを保存したまま容量拡大できる確率、80,356%。
「一緒にいられると思います。烈兄貴」
「そうだな」
まだ自分は何も知らない。
解析不能なロジックが解析できるようになるのにはまだしばらく時間が必要。
この烈という兄は、見ると理解不能な感情を自分の中に引き起こした。


ゴウは、それを嬉しいという表情で表すことにした。


 


前編:you are now here

 

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