change my mind 2 scarlet voice!


翌週、金曜日。
「だーっ!出来ねぇー!」
ぴんとはじかれた弦は、それでも綺麗な音だった。
一方、豪の表情は悔しげに唇を噛む。
「なんでだよ…」
練習のおかげで、なんとか様になる技術だけは身につけた。
しかしあるコードがどうしても弾けない。指が届いてもタイミングが合わない。タイミングを合わせると音が外れる。
「う…」
練習しなければ出来ない、そんなことは豪でもわかる。
しかし繰り返して3日、これだけ弾けないとなると意地も沸くが、やがてめげてくる。
アコースティックギターだから、というわけでもない。
(どこか思いっきり音出せるところ無いかなぁ…)
学校だってそんなことは出来ない。ギター教室では限界がある。
「大きな音を…出しても平気なところ…」
はっ、とひらめいた。
飛び起きて、急いで出かける仕度をする。
「母ちゃん、俺ちょっと出かけてくる!」
「どこに行くんだい?」
「土屋研究所ー!」
言うが早いか、豪は玄関を飛び出した。
足取りは軽く、鼻歌まで歌いだすほど。きっとあそこなら、大丈夫。


最近行かなくなった土屋研究所だったが、今でも変わりなく、そこにあった。
「こんにちは」
「あ、豪くん。久しぶり、どうしたの?」
出迎えたのはJだった。見たことがある研究員も2,3人いる。
大きなギターケースを持ってきた豪に、Jは不思議そうな顔をする。
「…豪くん、ギターやるの?」
「そう、だからちょっと場所貸してくれないか?」
「場所って?」
「大きな音を出せるところ。練習したいから」
出したのは、持ってきたアコースティックギター。
「そういうこと」
いいながら、Jは会議室の1室を開けた。狭くも無く、防音も完璧だ。
「すっげぇ」
「モーターの研究とかしてると、どうしても音が出ちゃうからね」
「へぇ」
感心しつつ、豪はチューニングをはじめた。
「豪くん、それで、何弾くの?」
「カバー曲弾きたいんだ」
差し出したのは教室から取り寄せてもらった、烈が歌う曲の楽譜だった。
「へえー。ベースも難しそうだね」
「J、楽譜読めるのか?」
「まぁね、ある人に教えてもらったから」
「ある人…?」
豪が首を傾げると、こんこん、とノックの音が響く。
「どうぞ」
がらりと音がして、出てきたのは見知った顔の人だった。
「豪くん、久しぶりだね」
「土屋博士、久しぶり」
「元気そうでなによりだ。ん、ギターかい?」
「ああ、ホントはエレキギターなんだけどな。持ってないからこれで練習」
そういって、びいんと弦を弾く。
「そうか…」
博士は何かを思い出すように首をひねった。
「博士?」
「いや、確かエレキギター、あるような気がするんだ」
「ホント!?」
博士が言うには、研究所を建設するときに持ってきた気がする、とのこと。
正確な場所は覚えていないらしい。
「ちょっと待っていなさい」
そういい、走っていってしまった。
「博士…エレキギターなんて持っていたんだ」
「案外、バンド経験あったりして」
からかうように、Jが笑う。
「まさかー、あの博士が?」
「ねぇ豪くん、僕にベースの弾きかた教えてくれたの、誰だと思う?」
「…?」
ちょいちょい、と豪を招くと、囁いた。
「……大神博士」

「……」
「……」
しばし、見つめあう二人。
「あははは…」
「あはははは…」
ひとしきり笑い、真顔になった。
「冗談だろ?」
「冗談に聞こえるよね?」
にっこりと笑顔。
「……」
「……マジ?」
こく、とうなずくJ。
「よく、考えてみて」
「ああ」
「大神博士が、ベースのコードを知っていて」
「うん」
「土屋博士が、エレキギターを持っていた」
「うん」
「二人が自分からやるとは思えない。じゃあ誰が首謀者だと思う?」
指を豪の前に立てて、謎掛けのように真剣な目をする。
「土屋博士と、大神博士が、嫌といえなかった人物…」
「そういうこと」
「つまり…」

「ワシということじゃな」




「「うわああぁぁ!」」
二人して窓のほうを見る。
「ひさしぶりじゃのー、豪、J」
「て、鉄心先生…」
窓の外、淵にもたれかかって、アイスキャンディーを舐めていた。
「こう暑いとたまらなくてな、涼みに来たんじゃ」
「そ、そうなんですか…では玄関から来ては…」
それでも笑顔を崩さず、応対するJ。
「ふん、そんな間柄でも無かろうに」
そういい、鉄心は下駄を脱ぎ捨てて窓から侵入した。
「あはは…変わってねぇ」
「そうだね…」
二人は苦笑するしかない。
じっと見ていた鉄心だったが、豪の持っているものに興味を示した。
「豪、それはギターか?」
「おう、練習しに来たんだ、コードが上手くいかなくて」
「ここだったら、大きな音も出せるからね」
「そうかそうか、感心なことじゃ」
ほほ、と不思議な笑い声を出し、髭をなでる。
どうやら邪魔をする気は無いみたいだ、とJと豪を胸をなでおろした。
そのときだった。
「おまたせ豪くん、ギター見つかった…って、鉄心先生?」
ちょうどよく、土屋博士が戻ってきた。
「ほっほっ、土屋、懐かしいものを持ってきたの」
「どうしてここに?」
「暑かったら涼みに来たんじゃ」
「はぁ…」
土屋博士を軽くいなし、さて、と鉄心は豪に向き直った。
「豪、ギターが上手くなりたいか?」
「そりゃ…なりたいけど」
その瞬間、にや、とサングラスが怪しく光った。
「……」
Jは触らぬミニ四駆の神に祟り無し、と何も言わなかった。
「教えてやる、ついてこい」
「え、いいのか?」
「ふふ……」
鉄心は笑みを崩さない。豪は内心で冷や汗をかく。
動こうとした瞬間、むずと腕を掴まれた。
「土屋、あとで茶を頼むぞ」
ずるずる…と床に衣擦れの音がした。

「たーすーけーてー」
豪の声に反応するものはいない。
ばたん、と扉が閉じた後、部屋にはJとエレキギターを鉄心に渡した博士が残された。
「…博士、いったい昔何をやったんですか?」
その言葉にはふっ、と土屋博士は遠い目をした。
「Jくん、大人には誰にもいえない過去というものがあるんだ」
「……そうですね」
お茶は高いものにしよう、とJと土屋博士は仕度をはじめた。





scarlet voice! 〜豪とゆかいな仲間達 featuring 鉄心〜



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