change my mind 2 scarlet voice!




「なんか、星馬くん日に日に上手くなってる、って感じだね」
十数回目の音合わせでキーボード担当の女の子、美優はそう呟く。
昼休みをとろう、ということで、一人だった烈は美優と一緒になることになった。
「そ、そうかな…」
「うんうん、確か秘密でもあるの?」
「練習しただけだよ」
教室に通ってる、とは言えない、いったらきっと3人から非難の眼を向けられることくらい、烈にもわかる。
しかし、3ヶ月で練習してる4人に追いつくのはそれしか方法が無かった。
豪の協力も多大にある。決して本人にはいわないことだが。
「まぁ、弟の協力のおかげかな」
ここなら言ってもいいだろう、と甘い卵焼きを口に放り込んだ。
「弟、弟って…あのビート?」
美優も、ビートのことは知っている。友達がビートのファンだったためだ。
「そうそう、あいつ、今度ギター始めちゃって」
「へぇ〜」
「ついでに音程とって貰ってる」
「なら練習もうまくできるね」
烈は苦笑して、その練習ぶりを話す事にした。
「すごい人に練習してもらったって言ってた」
「すごい人?」
「この前、弟がぐったりして帰ってきたんだ」


   ◆     ◆     ◆


「れ、烈兄貴ただ、い、ま……」
言ったとたん、ばたっと玄関に倒れこんだ。
「ご、豪!いったいどうしたんだ」
「へへ…烈兄貴、俺やったぜ…完璧だ。俺はやっぱり天才だ」
ふふ、と笑う豪、憔悴した表情の中に、ぎらぎらと瞳だけが輝いていた。
「天才はいいから。お前土屋研究所に練習しに行くって」
「あはは…すっげー人に特訓してもらった。今なら何でも弾ける気分だぜ」
「はいはい、とりあえずそこから動け。じゃまなんだよ」
烈はその身以上に大きい豪をひきずる。
2階の自室に送るのは無理だった、とりあえず居間まで豪を運ぶことにする。
腕を回すと、さらりと髪の房が落ちた。
ぼそっと豪は何かを呟く。
「烈兄貴といっしょに…出たいな…」
「豪…?」
「……」
そのあと、豪は何も言わなかった。呼吸音だけが聞こえる。どうやら眠ってしまったらしい。
「…一緒に、か…」
確かに歌ったら楽しいだろうな、と烈はふと想像した。そんなことはない、と一笑して、豪をひきずる。
翌日、豪のレベルは飛躍的に上がった。
どうも土屋研究所にてとんでもない人から教わっているらしい。
思い当たる人はいる、しかし、本当に出来るんだろうか?
「豪、いったい誰に教わってるんだ」
聞くと、ぎく、と肩を震わせた。
「烈兄貴…」
「なんだよ」
「聞かないでくれ…」
その瞬間だけ、豪は崩れ落ちた。
「……?」
しかし、上手くはなってるからいいだろう、と烈はそれ以上のことを聞いていない。
もう数週間たつ、今になっても。


   ◆     ◆     ◆

いいな、と笑って、御飯を口に運んだ。
「キーボードって大変?」
「うん、だけど楽しいよ。ピアノもできるけど、こっちの方が好き」
一人じゃないから、と美優は笑った。
「そっか、がんばろう」
「うん、ジュンも応援してくれた」
「…ジュン?」
聞きなれた名前に、烈は首をかしげた。
「ああ、友達なの。別の高校だけどね」
「まさかと思うけど、名前は佐上ジュン?」
美優は目を見開いた。
「星馬くん知ってるの?」
「知ってるも何も…幼馴染だよ。弟と同じ高校なんだ」
「へぇー、ジュンってさ、最近恋わずらいなんだ」
くすくす笑う。
「恋わずらい?」
「気になってる人がいるのに、素直になれないって」
「そ、そうなんだ…」
心当たりは…ある。とうとうジュンが自覚し始めた、と考えていいものだろうか。
こればっかりは本人に会わないとわからない。
豪はおそらく全然気づいていない。あのバカはそういうときにはとことんバカだから。
「(教えるのもなぁ…)」
冗談だと笑って終わりだろう。そういえば、ボーカルとして歌うことをジュンに教えていない。
報告がてら、今度会いに行くのもいいかもしれないと、烈は思った。
「ジュンちゃんを文化祭に呼ぶ?」
「もちろんだよ」
「そっか」
一層頑張ろうと、気を引き締めることにした。
そして、豪を呼んでやろうかな、とこっそり思った。

一方で3人の会話も、烈の声を受け入れる状態にはなっていた。
「どう思う?」
「上手くはなってるよな」
「これならなんとかいけるだろ」
初挑戦のボーカルにしては上手い。元々烈の声質が元のバンドに似ていたこともある。
元はツインボーカルの曲だが、今回は烈が全て歌う。
生徒会から急遽出された案だったが、やるからには全力でやるという烈の宣言どおりだった。
このまま、上手く行けばいいと、ドラム担当の部長は思う。
「……俺は、まだ納得できねぇ」
「…?」
言ったのは、ギター担当だった。
「確かに上手くはなってる。けど声が気にいらねぇ」
「それはお前の好みの問題だろ?」
「……」
思うのは、音と合わない、ということだ。これっばかりはいくら上手くてもどうしようもない。
チューニングは出来ている。メロディーもできているのに、どうもしっくりこない。
「…ちょっと、外に出てくる」
そういって、足早に教室から出て行った。
「…仕方ないな」
「あれ、どうしたの?」
美優は部長に尋ねた。
「外に行ってくるって」
「そっか、じゃあもうちょっと練習は後かな」
「そうだな」


   ◆     ◆     ◆


外に出て、石ころを蹴り飛ばした。
わかっている。文化祭のイベントなんだから、そんな力入れてすることも無いことも。
あの優等生が嫌いといえば嫌いだが。歌は別に成績も関係ない。
はぁ、とため息をついた瞬間。
「…っつ」
痛みを感じて腕を押さえた、前に起こした腱鞘炎がぶり返したらしい。
「こんなときに…」
脂汗が噴出す。まだこんなことしてる場合じゃないのに。
「ちくしょ…」
何もかもが嫌だ。だけど、ギターを手放したく無い。
本番まであと一月だっていうのに。
腕を押さえながら、ぎり、と歯を食いしばった。



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