change my mind 2 scarlet voice!




烈が豪に電話することはほとんどない。
豪から電話することのほうが圧倒的に多いため、烈はそのときに用件を言ってしまうからだ。
その烈が、いきなり豪に電話をかけ、しかも”病院に来い”という。
(…何か、あったのか…)
嫌な予感が胸をよぎる。
烈が言うには、いますぐ近くの病院に来て欲しいとのこと。
何故か、整形外科医院に。
用事は後で話すといい烈はあっさり電話を切ってしまった。
「ジュン、烈兄貴が病院に来いって…」
「ええ、烈何かあったの?」
「いや、口調からして烈兄貴が何かしたって訳じゃないみたいだけど…俺行くよ。ごめんな、今日は練習休む」
ジュンは首を振った。
「私もいく。心配だもん」
「そっか、ありがとな」
少し急ぎながら、豪は土屋研究所に電話をかけた。
「ああ、J…俺、豪……うん、今日練習休むって、言っておいてくれないか?……烈兄貴に呼ばれたんだ」
苦笑しながら答える。どうやら相手が向こうにいるらしい。
「怒られるのはわかってる。じーさんに上手く言っておいてくれ……ああ、風輪整形外科。それじゃ」
ぱたん、と携帯を畳む。
「一体、何があったんだ…?」
烈本人が怪我したわけではないのなら、豪に電話することはない。
夜遅くなったのを心配して、豪からかける、というパターンになるはず。
「ったく…」
訳が分からない今の状況に耐えられず、豪は舌打ちをした。


◆   ◆   ◆


「豪、ジュンちゃんも…」
病院に着くと、待合室で烈が座っていた。
「兄貴どうしたんだよ…何かあったのか?」
「俺に何かあったわけじゃない。実は…お前に頼みたいことがあって」
「俺に?」
だから呼んだんだ、と烈は深刻な顔をしてうなずいた。
「ジュンちゃんは…確か美優さんの友達だったよね」
「え?なんで知ってるの?」
いいから、と烈はすたすたと歩き出した。
「……?」
豪とジュンは顔を見合わせた。
烈のついていくままに歩いていくと、病室の一室の前に立っていた。
ノックをすると、どうぞ、という声が返ってくる。
「……?」
烈が入っていくのについて行く。
処置用のベッドの上に男子が1人、座ってる男子が2人、女子が1人いる。
制服は全て烈の学校のものだった。
皆が皆、不安そうな顔をしている。
「お待たせ、うちの弟連れてきた」
「あ、どうも…」
雰囲気に耐え切れず、軽く会釈すると、烈を除く4人がいっせいにこちらを向いた。
ジュンも部屋に入る。そして、座っている女子に眼を留めた。
見知った顔だったからだ。
「美優、どうしたの」
「ジュンちゃん…」
おろおろする美優に、ジュンは近づいて事情を聞く。
「あのね、ケイくんが…」
ベッドに寝ているケイを見る、ケイはふん、とそっぽを向いた。
「腱鞘炎が、悪化しちゃって…1週間、動かせないって…」
「えっ…」
いきなりケイと言われてもジュンにはわからない。
「文化祭…明後日なのに……どうしよう…」
「おちついて、なんで烈が美優と一緒にいるの」
美優の目は涙ぐんでいた。ジュンはなだめながら、烈を見る。
烈は目を伏せた。
「文化祭、烈兄貴がブラスバンドとボーカルやることになってるんだ」
そのことを知っている豪が口を開いた。
「え、そうなの?」
「ああ、それで俺が練習してたってわけ。その美優って子、ブラスバンドのメンバーじゃないのか?」
そうなの?と聞くと、美優はうん、とうなずいた。
はぁ、と豪は息を吐く。
「ギター担当のケイの腱鞘炎が悪化してな。動かせないことは無いが、これ以上無理な練習はできないと医者に宣告された」
座っていた男子の一人が口を開いた。
「文化祭はパフォーマンスもいれて3曲だ。それをケイがこなすのは無理。困っていたときにな、星馬くんが”ギターが出来る人を知っている”と言うんで、君を呼んでもらったんだ」
「部長さん…」
烈は困惑した表情で部長を見る。
しかし、当のケイだけは不服のようだった。
「俺はやる、腕が壊れたって、文化祭は出るからな」
「ケイ」
「今まで練習してきたんだ、いまさら他の奴にやらせるかよ」
「だけど…」
ぐっ、と唇が切れそうなほど、ケイは唇をかんだ。
「ここまで来て、終われるかっつの」
包帯が巻かれた腕を忌々しげに見つめる。今にも解いてしまいそうだった。
ぎっ、と豪を見る。見つめられた豪はきょとん、とした顔をした。
「お前の出番なんかいらねーよ、とっとと帰れ」
その言葉に、烈がたちあがった。
「そんな言い方はないだろ」
「あ、兄貴?」
今まで黙って見ていた烈が声を低くした。その変わり方に、全員が唖然となる。
「自分の病状を考えろ。こうなったのは誰のせいだと思ってるんだ」
「れ、烈兄貴…?」
烈が本気で怒っている。命令口調とその目つき。
あまりの変わりぶりに、豪だけがあちゃーと手を押さえた。
「みんなに心配をかけてるのがわかってるのか。バンドは個人競技じゃない。痛みを分かっていたのに、無茶な練習をしたお前のせいじゃないか。それを豪に当たるな」
目をすっと細め、ケイを睨む。
「…てめぇ…」
ケイも負けじと睨む。
緊迫した空気が流れる。
「…ジュンちゃん、どうしよう……」
戸惑う見優に、ジュンも困る。
「ああいう状態になったら烈も聞かないからなぁ…豪、なんとかできない?」
「俺が出来ると思のかよ?」
逆に聞かれ、無理か…とジュンはため息をついた。
「な、なぁ…烈兄貴…」
「豪、お前は黙ってろ」
「はい…」
一蹴で撃沈。
弟ゆえ、こういうときには弱かった。そのときだった。



ぷるるる…
「豪、携帯は病院では切っとけ」
後ろを振り向かずに烈が言う。
「わ、悪い…」
そそくさと病室を出て行き、携帯を取り出す。
「はい…」
”おお、豪か。全く練習に来ないとはどういうことじゃ”
鉄心からだった。
「悪いちょっと、トラブルがあってな…」
事の顛末を鉄心に話してみた。鉄心は珍しく、ふんふんを聞いている。
”なんじゃそういうことか”
あっさりと、鉄心は言い放った。



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