change my mind 2 scarlet voice!




1曲目が終わった。
今はドラムとキーボード、ベースの3人でのインストに入っている。
「大丈夫か?」
舞台袖に戻ってきたケイに、豪が声をかける。
「なんとか、な…痛って…」
「ほら」
豪が投げてよこしたのは、保冷剤。
よくお弁当に入っているものだ。
「これで冷やしとけよ」
自分のギターを抱え、にやりと笑う。
「お前…」
そのとき、すぐ傍で同じく舞台袖に戻ってきた烈が声をかける。
「豪、準備いいか?」
「OK」
ケイがふと見上げると、豪はすでに舞台の外に出て行こうとしていた。
「豪」
「ん…?」
「…頑張れよ」
そのときのケイの顔は、珍しく笑っているようにも見えた。
「ありがとな」


イントロの曲が終わり、軽く着替えた烈が出てきた。

「バスター!」
呼び声に応え軽く手を上げると、歓声が上がる。
スタンドマイクを持ち、一回瞬きをすると、息を吸い込んだ。
「みなさん、今日は来てくれて本当にありがとうございます。ボーカルはまだ初めて間もないですけど、精一杯頑張りました」
会場を見渡して、薄く、しかし本当に嬉しそうに烈は笑った。
「今日、こうして歌うことが出来たのも、みなさんの歓声と、そして、ブラスバンドの協力があったからです」
若干後ろに下がり、手を伸ばした。
「部長の杉倉くん、ベースの十基くん、そして、キーボードの美優さん。さきほどまでギターを演奏してくれたケイくん」
順々に紹介していくごとに、一人ずつ音を鳴らす。
「…そして、事情があり、1曲しか弾くことができなかったケイの代わりに、弟が参加してくれることになりました」
ばらら…、と次の曲のイントロが流れる。
次々と、ドラム、ベース、キーボードがそれに連なる。
一旦全てのライトが消え、一点だけにスポットライトが当たった。

「…みんな、よろしくな!」

ビートになりきった豪が叫ぶと、歓声が一層大きくなった。
周りの声は、驚きと、黄色い悲鳴と、聞き取れないほどの声援で溢れかえる。
ギターをぎんぎんに掻き鳴らす豪は、本当に楽しそうだと、烈は思った。
きっと、頭の中でイメージしてたことが出来ているのだろう。
「それじゃ、行きます!scarlet voice!」

限界を知らない君のために
僕は何をすることができるだろう
頼りない未知の翼をはためかせ
どこまでも空高く響かせること

焼ける痛みを得て
目覚めるその思い
呼ぶ名は唯一つ
翔ける星のように

叫んでみるから よく聞いて
もう言わないよ 一度だけ
常識なんて いらないし
道徳だって 踏みつぶす
紅い声 かれるまで
紅い夢 消えるまで
君にさえ 届けばいい
君にだけ 叶えばいい


元々ギターの声とボーカルのツインボーカルで構成されるこの曲は、二人揃って好きな曲でもある。
ギターのパートであるBメロを、豪をきっちり覚えていた。
一緒に歌うなんて、何年ぶりだろう。
ギターの難しいコードをこなしつつ歌って見せた豪は、最初の練習のときに皆を驚かせた。
烈より低いながらも、綺麗な声をしていたからだ。
「へへーん」
どうやらこっそり呼吸法を練習していたらしい。
それは上手くいっていた。
本番で実際に声を合わせることも、数時間で何とかなったのだから。


灯火近く 足がすくんでいても
熱情に恋し 全ては二人で飛ぶために

叫んでみるから よく聞いて
もう言わないよ 一度だけ
叫んでいるから よく聞いて
一人のために 一度だけ
紅い声 かれるまで
紅い夢 消えるまで
君にさえ 届けばいい
君にだけ 叶えばいい


君にさえ、届けばいい。そんな思いがあるだろうか、と烈は思う。
今は居ないけど、きっといつかは出来る。そう信じている。
ギターの最後の音響が響いて、2曲目が終了した。
豪が手を上げる、烈も手を上げる。
パアン、と軽快な音で、お互いの手をひっぱたいた。

「さて、最後の曲になります。今日はありがとうございました。思いっきり楽しんでいってください!」


歓声が響く。これがビートのバスターの本当の最後の登場となる。




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