第0章 二人の奴隷妻

 一台のRV車が、山道の途中で止まる。
 前のドアから一人の男が降りる。彼は道の脇の方を向いて、林の向こうに隠れるように建っている廃虚を見る。
 どうやら木造らしいその建物の屋根は傷み切っていて、ところどころ腐って穴が開いていた。壁も同様にぼろぼろで、白い塗装もところどころ剥がれている。もちろん、その建物に人が住んでいる気配は全くない。ただ、その建物の頂きに立つ潰れ掛けの十字架が、そこがかつてチャペルであったことを空しく知らしめる。
 弱々しい風が寂しく吹き、林の木々の葉をわずかに揺らし、黄色くなった葉を何枚かひらひらと飛ばす。
 男はRV車のリアのドアを開ける。
「おい、着いたぜ」
 彼の呼び掛けに、中にいた人間がゆっくりと出て来る。女性が二人。ほとんど裸同然の姿だ。
 二人とも、白いワイシャツの襟を模したチョーカーをつけ、両手は黒い革の手錠で後ろ手に嵌められている。他に身に着けているものといえば、口にはめ込まれた赤いギャグボールと黒いGストリング、それとほとんど爪先立ちのピンヒール。
 何も覆うものがない両乳房の先には小さなピアスが施されていて、さらに二人それぞれ臍の下にタトゥが入っている。それもまたGストリングに覆われることなく、彼女達のプロフィールを露にしていた。
「Name:MISAO
 B.D.:Aug.13.XXXX
 Blood:A
 Size:87-58-89
 Put:Aug.29.XXXX」

「Name:MISAKI
 B.D.:Apr.15.XXXX
 Blood:O
 Size:80-57-92
 Put:Sep.1.XXXX」

 二人とも、接地面積の少ないピンヒールに慣れていない様子で、車から降りるとやや身を屈めた姿勢で立っている。それが為に、二人の張りのある乳房は柔らかい果実さながら下に垂れている。
 男は両手それぞれに二人の髪を鷲掴みにすると、ぐっと上体を起こさせる。
「ちゃんと立て」
 バランスを崩して足をよたつかせた二人だったが、足を肩幅に開き、尻と胸を突き出した姿勢で何とか自力で立つ。
「ようやく着いたなお二人さんよ」
 男は懐からタバコを取り出して、火をつけて一服する。
「少しは喜べよ。人生で一番の晴れ舞台じゃねぇか、あ?」
 二人の間に入って、男は二人の露わな尻肉を軽くぱんと叩く。
「うぐっ!」
「んっ……!」
 二人それぞれに悲鳴をあげる。
 驚いたような悲鳴を上げたのが操。
 こらえたような悲鳴を上げたのが美咲。
 男は二人を両脇に抱きかかえると、二人の片胸をその手のひらに収めて揉む。
「へへへ、お前達なかなかいい奴隷妻だぜ。次々に俺の妄想を叶えてくれるもんなぁ」
 操と美咲は、男の体重に自分らが倒れないように足をふんばる。だが、時々男に乳首を弾かれると、くぐもった悲鳴を上げて背をのけ反らせる。
「なぁ操ちゃん、二回目の受精の感想はどうよ? 心配しなくてもちゃんと産ませてやるからな、へへへ」
 男はそう言って、操の下腹部をさする。操はよたよたと足を動かして後ずさるが、男は手を止めない。そのうち彼女は腰を振り始める。
「美咲はロストバージンにして子宮にザーメンが入ったわけだけど、あれから何か夢見たか? コウノトリとか白い蛇とかなぁ。はっはっは」
 笑いながら、男は美咲の股ぐらを撫でる。美咲は肩幅に開いていた足をぴっちりと閉めるが、男の手の動きを止めることができない。彼女は腰全体が横に大きい分足の付け根が離れているために股間に隙間があいてしまうのだ。彼女もまた操と同じように尻を振っていやいやをする。
 男の両側で、女二人が腰を振って微かに悩ましい声を吐く。青空の下の異様で淫靡な光景。
 やがて男の指が二人のGストリングの上から秘裂を執拗に何度も往復してなぞり上げ、淫液でおびただしく濡れているのを確認すると、二人から両腕を離して懐に手を入れた。
「そいじゃ、チャペルに入る前に検査しような」
 男が懐から取り出したのは、二本の棒のようなものであった。だがそれを見て、操と美咲は目を見開いておののいた。――妊娠検査薬。いやでも現実を知らしめる残酷な信号機。
「じゃ、膝ついて座って股開くんだ。ほら、早く! 地元の車が通るかもしれないんだから!」
 せかす男の言葉にも関わらず、操も美咲もその動作はゆっくりであった。しゃがむにしても、明らかに検査をやりたくなさそうにおどおどと腰を落とす。
 男に口で何度も急かされながら、ようやく二人はアスファルトに膝をついてしゃがみ、股を開いた。
 二人のGストリング両側の横ひものリボンを、男の指が一端を引っ張って解く。ぬめり切り赤く開いた秘唇があらわになる。
 かすかな秋風に、二人の陰毛の一本一本が敏感にたなびく。体全体の肌に鳥肌が立つ。
「じゃ、おしっこしようか」
 命令されても、尿意は意識してやってはこない。男にそう言われても、二人はすぐには出せなかった。腰をもじもじさせたり、体中に力を入れてきばってみたり、操と美咲はそれぞれで健気に努力する。
 そして、出したのは二人同時であった。
 少ない量であったが、羞恥心のあまりに再び鳥肌を立てた二人の下の穴から発射された尿は、放物線を描いて白っぽくなったアスファルトに飛沫をあげて黒いシミを作った。
 その放物線に当たるように検査薬を持っていき、その先に二人それぞれの尿を当てる。
 ようやく尿が収まり、ただ秘唇の間から雫が滴るのみとなった頃に、検査薬の当然の結果が出た。
 反応色は赤。
「でかしたな。いひひ」
 覚悟していたとはいえ、実際に見せつけられるとやはりショックは大きいようだ。二人は見て分かるほどに表情を暗くした。
 美咲は目に涙を溜めて顔をそらしてしゃっくり上げはじめた。
 操は泣きはしなかったが、ただ上体の力を全く抜いてしまったようにがっくりとうなだれてしまった。
「嬉しいよな。これ、記念にとっとけよ」
 有無を言わさず、同時に二人の膣口へ検査薬を差し込んだ。
「んっ……!」
「うむぐぅう! うぉぉぉう!」
 今度は操が悲鳴を押し殺した。美咲は突き付けられたものを拒むように激しく腰を振って、塞がれた口で叫び回って涙を流す。
「おおそうかそうか、喜ぶのはいいけどそんぐらいにしときな」
 騒がしい美咲の秘唇がくわえる検査薬を、男がぐりぐりを動かす。哀しみに満ちみちた美咲の膣の中で検査薬が暴れ回る。膣口をこすりあげ、膣壁を突き回る。
「ぉああああ!」
 思わず腰を浮かせて膝立ちになる美咲。男が検査薬から手を離すと、彼女はぐったりとなって男の肩に自分の体を乗せる。
「おめでたならなおさら急がないとな。さ、立て立て。行くぞほら!」
 操と美咲の尻を蹴って男が急かした。だが、二十センチぐらいはあるだろうピンヒールの靴を履いていては、しゃがんだ状態から立ち上がるのは難しい。
 だが、二人もこの靴は今日が初めてではなかった。まず美咲が、しゃがんでいる操の体にもたれて体勢を整えて、大きい割に弱々しそうな腰を上げる。それから、操が美咲の足に体をもたれてゆっくり腰を動かした。
 ようやく3人はチャペルに向かって歩き始める。
 二人の揺れる乳房と尻肉を後ろから見ている男。だが、二人を並べてあるいていても、それぞれで個性がある。
 美咲は内股で歩いている。ピンヒールの靴にふらつきながら弱々しく歩く姿は、命はかない乙女のイメージすら感じさせる。だが股間を覗くと、前の口に挿された検査薬が顔を出して揺れているのが見える。
 操は、美咲より背が低いせいか歩き方に安定感があった。だが、やはりピンヒールのせいでうまいこと歩けないようで、結局手錠をされた手の代わりに尻を振ってバランスを取りながら歩いている。
 二人の尻を剥ぎ取ったGストリングで男はゆっくり歩く二人に軽くひっぱたく。それほど痛くないはずなのに、二人は叩かれる度に喘ぎとも悲鳴ともつかない小さな声をあげる。それで時々バランスを崩して、尻の肉を激しく波打たせ、体を悩ましくくねらせてよたつく。
 林を抜け、廃れたチャペルが三人にその姿を表した。さっき遠くから見た時もひどかったが、近くで見るとその惨状はかなりひどかった。
 潰れた窓には蜘蛛の巣が張っていて、玄関の扉は、蝶番が壊れて左側がなくなってしまっていた。その中の礼拝堂もまた、見える限りでも長椅子の配置がめちゃめちゃになっていたり潰れていたりしている。
「いい式場だなぁ、ええ?」男はにたつきながら二人に言った。「堕ちるところまで堕ちきったお前らには、ここの方がお似合いだぜ。でも幸せだよなぁお前ら。ちゃんと婚式あげてもらって、さらに子供生めるんだからなぁ、うははははは」
 操のウエーブの利いたセミロング、美咲のストレートのロング。髪の長さこそ違いけれ、愛玩用の犬の耳みたいに左右それぞれの髪を黒いゴムで結んだ二人の頭を、男が笑いながら撫でる。それから数歩後ろに下がり、二人の様子を見る。
 最初二人は顔を上げてぼろぼろになったチャペルの朽ち切った十字架を見つめていた。
 だがまず美咲が体をふるふると震わせて、何をか叫びながらその場に崩れるように倒れてしまった。ギャグボールを嵌めた口の端から涎をとめどなく流し、目からもとめどなく涙を流し続ける。
 嗚咽する美咲のそばに、操がピンヒーツにふらつきながらも片膝をついてしゃがみ込む。しかし後ろ手に手錠を掛けられていてはそれ以上何もできない。ただ美咲を見つめる操。美咲も、手の自由が利かない以上彼女にすがって泣きつくこともできない。ただ、赤く晴らした目で操を見るのみ。
 やがて、操がゆっくりと美咲の体の上に自分の体を重ねた。お互いの乳房が押しつぶされて形を崩す。お互いの顔に相手の湿った息がかかる。
「んっ……」
「んううううっ……」
 秋空の下、廃虚と化したチャペルの前で、地面に落ちた枯れ葉の上で体を重ねて慰め合う、二人の裸の女。――男は車にカメラを忘れて来たのを思い出し、舌打ちする。いい絵なのに惜しいことをした……。
 だがこの後のことをあれこれ考えると、男は開き直った。
(……後で、もっといい絵が撮れるもんなぁ)

 

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