へそぼし

01

 日本の旅行も最終日になった時、面白いものを見せてやると日本人の友人に誘われ、ルデニフは夜のごみごみした歓楽街にある古びたビルの暗い階段を降りて地階に入った。
 看板どころか表札すらない無愛想な鉄の扉を開けると、むっとするくらい濃密な花の香りと艶かしい音楽が飛び出してきた。扉からは想像もつかないくらい広い部屋のほとんどは銀色のスツールで占められ、既に何人かがそれに腰掛けて、一番奥のステージの方を見ている。
「あー、もう始まってますねぇ」
 友人は大きな声でルデニフに話し掛ける。
 ルデニフは二重顎を背広の襟に擦らせてステージを見遣る。
 紫、赤、黄――色とりどりの光が交錯する中で、一人の少女が踊っていた。
 南太平洋某国財界の要人であるルデニフは、その財力に物言わせていろんなところへ旅行しては、舞踏会やバレエ、はてはショーパブのダンスやストリップに至るまであらゆる踊りを目にしている。
 しかし彼女を見るやルデニフの胸が少しばかり色めきたつ。彼自身、数十年来久しい感覚であった。
 確かにそこで踊っているのは、十代も後半にさしかかったばかりの少女に違いない。目はライトの光をきらきら反射していたし、露出している肌もきめが細かく、それ自体が輝いているかのようだ。
 しかし彼女の踊りには、その見かけの年以上の艶かしさがあった。
 服のせいもあるのかもしれない。彼女が着ているアラビアのベリーダンサー風の衣装はあまりに薄い生地で出来ているようだ。服に覆われた彼女の肌はもちろん、彼女がほとんど用をなさないほどにきわどい白のスキャンティーを履いていることも、胸にブラジャーをつけていないことも全てあらわになっているのだ。その履いているスキャンティーの布地も、良く見れば小さな葉っぱで覆えてしまいそうなほどにしか生えていない恥毛が透けて見えるほどに薄い。その衣装はまさしく年増のストリッパーが一人でも客を引き付けようと身に纏う代物だ。
 その透けた服で丸見えになっているかわいらしく弾む彼女の両胸の桃色をした頂きには、銀色の小さなピアスが施されている。それはステージのスポットライトの光に輝き、小さいにも関わらずその存在感を強調している。
 だがそれ以上にルデニフの目を引き付けたのが、透けた衣装にすら覆われていない彼女の細くきれいにくびれた腹の中心――臍の穴にはめ込まれた大きなルビーだ。乳首でてらてらと光るピアス以上に、それはスポットライトの光で綺麗に輝いている。彼女の身体にまとわりついたエロティックな印象は、全て臍のルビーにあるのかもしれない。
 そんな姿の少女が、今ステージで腰をくねらせ、さかんに胸を打ち震わせて踊っているのだ。彼女は客席に向かって、白い歯を見せてにっこりと微笑んでいる。彼女の腕は客を手招きするようにゆったりと自分の胸と前方を絶えず往復する。その目はどことなくとろんとして、瞳にはまるで欲求を満たされたいような妖しい光を称えていた。
 立ち姿勢だった少女は、円を描くように腰をくねらせながら、ゆっくりと膝を折る。
 床についた膝を肩幅に開き、立てたかかとの上にぷりぷりとした尻を置くと、少女は腰のかわりに上半身をうねらせる。くびれたウエストがひくつき、胸がさっき以上に弾む。
 少女の手が、やや開いたその股の上にそっとあてがわれる。指は、透けた生地の服の下へゆっくりと潜り込んでいく。さらに、小さな下着の中へ入っていく。客側には、その彼女の指先が自分自身の花芯に向けて這い進んでいくのが手に取るように分かる。
 見れば少女の頬は赤らみ、少し開いた口は恥じらいでほころんでいる。
 ――いや、違う。
 ルデニフは少女の腹を見てそう思った。そこには、自慰を試みようとしている彼女の腕に当たって擦れる臍のルビーがあった。それは当たる度に窮屈そうに臍の穴で踊っている。少なくともルデニフには、ルビーに臍の肉壁を擦られて感じているように見えるのだ。
 そうこうしているうちに、少女の指が、あらわな肉裂の上端に当たった。その途端に彼女は身体をビクンと震わせ、背筋をのけ反らせる。大きく開けた口からは、悩ましい喘ぎ声を出しているに違いない。だが、音楽にかき消されてその鳴き声を聞くことができない。
 彼女は腰を八の字に動かしながら、さらに指先で自分の恥裂をまさぐり始めた。次第に濡れそぼって更に透けていくスキャンティーの布地。指が赤いクレバスの奥へと潜り込んでいくのが、さらによく見える。
 だがルデニフは、その少女のいやらしい自慰の光景を見つつも、臍のルビーを肘で擦り回しているのを見のがさなかった。――クリトリスやヴァギナの入り口をまさぐって感じているのも事実だろうが、間違いない、彼女は宝石を嵌めた臍を弄んで感じている!
 その時、彼は自分自身の身体に変化が現れたことを感じた。久々の、煮えたぎるような感覚。胸にぐらぐらと沸き立ったものが、下半身に流れ込み、一つの固まりとなって溜まり始めている。
 肉の竿がゆっくりとその鎌首をもたげ始めていたのである。
「お、おお……」
 復活した自分の下半身をチラリと見て喜びながら、ルデニフはさらに少女を食い入るように見た。
 スキャンティーをぐっしょり濡らしてなおさらに指先を潜らせる貪欲で可憐な恥裂、波打って身体に広がった快楽に時々ふるふると震える乳房、それから、目立たぬところで肘でいじめられる臍の穴。
 ルデニフは想像する。膣の入り口で沸き立った感覚が、弄ばれる臍の被虐的な快楽と交わって、彼女の理性をじわじわと溶かしていく様を。理性でまるでさなぎのように封印されていた彼女の中の性的本能が、その空を破って少しづつ羽を伸ばしていくさまを。
 それを考えただけで、彼の肉竿はますます燃え上がる。肉竿は自ら意思を持って、少女のあどけない膣壁の感触を想像し始めているようであった。今までの経験に基づいて、膣肉の温度やヒクつき加減まで詳細に妄想していく。妄想しながら、煮えたぎる欲望でその頭を大きくし、吠え声を上げんばかりにさらにいきり立つ。
 ――あの少女の瑞々しい膣穴の中で暴れ回りたい……それこそ自分がいた跡が残るほどに、形までも変わってしまうほどに!
 踊り子の少女が細いウエストをゆっくり回すように動かし始めた。うねるように動く臍のルビー。余計に肘に当たって自分からいじめられているかのようだ。肘に当たると、その穴一杯にルビーをくわえこんだ彼女の臍は、さも苦しそうに弾む。
「……うっん、ぐ……」
 堪えた口から出たようなそのうめき声は、今踊っている少女のものなのか? ルデニフは一瞬自分の耳を疑った。だが、再び聞こえてきた時、彼は確信する。
「あ……んうっ、ぁ……あ」
 濃厚なBGMにところどころかき消されてはいるが、確かにそれは彼女の声であった。なんとかわいらしい声だ。自分の国に、あれほど澄んだ声を持つ少女がいただろうか?
「い……う……いぃ」
 腰を妖しく揺さぶり、くびれた腹を挑発的にくねらせながら、少女は観客席に向かって笑顔を見せる。本人には今できる限りのとびっきりの微笑みを作ったつもりなのだろう。だがその瞳は自慰の快楽からか病的に潤んでおり、唇もまた唾液でてらてらと光っている。
 ――求めているんだ。
 ズボンの中で肉竿をびんびんに硬くしたルデニフは、まるで悪い熱に浮かされたように自分の妄想に酔った。
 ――あの子は愛に飢えた自分の体を満たして欲しいんだ。……満たしてやりたい、あの可愛らしい体を思いきり抱き締めて、何度も何度も自分のモノで貫きながら、あの可愛い声で快楽の歌を歌わせて、とびっきり淫らな踊りをさせてみたい!
 ステージの上ではいよいよクライマックスが迫ろうとしていた。少女は膝を立てると、上半身を前に倒して四つん這いになってみせる。さっきに続けて股間をまさぐりながら、今度は胸をふるふるとゆらしながら、ときおり体の下から濡れそぼった股間と臍のルビーをちらつかせる。心底嬉しそうに、だがその顔にどこか不満そうな面影をたたえながら、彼女は後ろ斜め上に突き出した尻を揺すって見せた。
 ルデニフの肉竿が、危う気に脈打つ。

   *

「一生懸命に踊ってるわ。ほおら、そろそろあなたの娘がエクスタシーの階段を昇り始めるわよ」
 ここは、ステージ横の薄暗い楽屋。白黒の小さなテレビ画面を、二人の女が見つめている。
 画面にはルデニフの見ている踊り子の少女が映っていた。彼女はステージの床に尻をついて足を大きくM字に開き、濡れそぼって透けたスキャンティーを観客に見せつける。白黒の画面でも、少女の肉襞の小さな皺の一本一本がよく見えた。彼女は、布地の上から自分の肉襞を指で丹念にたどり、時々布を貫かんばかりに穴の奥に向けて指を突っ込む。スピーカーのないテレビなために、背をのけ反らせて恍惚とした表情を浮かべた少女がどういう声を出しているのかわからない。
「ああ、なんてこと……由宇(ゆう)の馬鹿、どうして……?」
「馬鹿とは失礼よね。親孝行してんのよ、あの子。あなたの手術代を稼ぐために一生懸命ステージでああやって踊ってるのよぉ」
「私の事なんて……放っておけばいいのに」
「何言ってるの啓子さん。せっかく生まれ変わったあなたの事、娘に見てもらわないでどうするのよ」
 椅子に座ってテレビ画面から目を反らす女を、彼女は懸命に諭しているかに見える。だがその口元は邪な喜びで奇妙に歪んでいる。
 椅子の女は、顔以外の全てを黒いマントですっぽり覆われていた。顔だけ見れば、二十の後半ほどに見える。だが、それほどの年齢で、あのステージで淫靡な踊りを踊っている少女ほどの子供がいるのは普通に考えておかしい。
 だがこの女、矢場啓子が三十六歳の未亡人なのだと本当の事を言われても、やはり誰も信じないであろう。
 それほどまでに、啓子の顔は若々しかった。小皺の一つすら見つけられないその肌は、まるで子供のように艶やかだ。輪郭は丸く小さく、切れ長の目もピュアな光沢を持つ瞳をその奥にたたえている。
 しかしその顔は今、悲しみに歪んでいる。
 何もかも、啓子の周りを回ってあれこれとこうるさくいびる憎々し気な女のせいであった。
 ツーピースの黒いフェイクのレザースーツに身を包んだ彼女は背が高くスレンダーであった。啓子より面長で、髪もそれにあわせるように腰まで伸ばしている。だが、その瞳には啓子の持っているような無邪気な光沢はなかった。
 高いヒールのブーツをカツカツいわせ、森島むつみは邪な笑いを浮かべて黒いマントに覆われた啓子の身体をなめるように見る。
「でも手術は大成功よね。あなたみたいな綺麗な身体に、セクシーなチャームポイントをくっつけるのって結構大変なのよ?」
「こんなののどこが『セクシーなチャームポイント』なのよ」
「わかってないなぁ啓子さん。町内会のミスコンに連続優勝しているあなたなら、この生命の神秘に基づいた美的感覚というのを分かってくれると思っていたのに……」
「……死んだ方がましだわ、こんな禍々しいものをつけられて」
「意外にネガティブなのね、啓子さんったら。もう少しポジティブにさ、『うれしいわ森島先生。これでいい男の人とベッドインして、由宇のために再婚しちゃおかしら』なーんて言えないの?」
「私はそんなに腰の軽い女じゃないわよ!」
「さあて。いつまでそう言ってられるかしら?」
 むつみは、自分の邪な笑いを啓子に見せつけるようにしながら、その手を彼女のマントの中に入れた。
「こおんな気持ち良い性感帯身体につけられて」
「っひっ! あ……やめ、にぎらな――うあぁああっんうっ」
 それは奇妙な表情であった。眉間に皺をよせているあたり苦しんでいるようにも見えるが、口がほころびかけているのをみれば、快感を必死に堪えているようにも見える。
「いいのよ、無理に我慢しなくても。もっとねだってもいいのよ。ほら、気持ちいいんでしょ?」
「うぅう……あ、あぅ」
「医者の端くれとしても忠告するけど、気持ち良いのを表情に出さないで我慢してると、精神的に壊れちゃうわよ?」
「うあああああっ!」
 首を激しく横に振って、啓子は必死に耐えようとしているようだ。だがむつみは彼女の腹に差し伸べた腕の謎めいた動きを止めようとしない。
 彼女にしてみれば、啓子の様子を見ているのは非常に楽しかった。腕の動きを激しくすれば、啓子の喘ぎ声は大きくなってひどく乱れるし、やや勢いを弱めて細やかにすると、まるでマッサージでも受けているかのように甘い吐息をもらしながら、悩ましいかすれ声をあげるのだ。
「くふふふふふ、いいのよ。今まで緊張の連続だったから随分疲れたでしょ。自分に正直になって、素直に感じなさい。何もかもどうでも良くなるくらいに、ものすごく気分が良くなるわ」
「はぁはぁ、……そんなわけ……ひぅううううううっ!」
 新しく自分の身体に取り付けられた性感帯からくり出される強く甘い感覚に意識を揺さぶられる啓子。
 喘ぎ声をあげ、ひたすらに首を揺する彼女の前では、白黒テレビに映る娘が、スキャンティーに指で穴を開け、そのまま肉襞を貫いて快楽のさなかに舞い立っていった。

 

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