へそぼし

02

 啓子を連れて、むつみはステージの裾にやってきた。
 由宇の淫靡なダンスが終わり、場内は短い休憩時間に入っていた。トイレに行った客が多いのか、観覧席はがらがらとなっている。
 その間、一人の男がモップを片手にステージの中央を掃除していた。ちょうど、由宇が踊っていたあたりである。
 男は彼女が股間からまき散らした愛液をぬぐっているのだ。それを見て悟ると、啓子は顔をひどく曇らせた。
「由宇……」
 娘の名前を呼んで涙ぐむ啓子を側にあった粗末なスツールに座らせて、むつみは彼女の背中にそおっと抱き着いた。自分の柔らかい胸をぴったり押し付けると、啓子の身体がぶるぶると震えているのがわかった。
「あら、啓子さん緊張してるの? 町内会のエイジフリーのミスコンじゃあ遠慮なく水着姿見せているくせに、何あがってるのかしら?」
「わ、私をこれからどうするつもりなの?」
「啓子さん、さっきのが気持ち良すぎてボケちゃったの? 由宇ちゃんに会わせてあげるっていったじゃない」
 むつみの両手が啓子のまとった黒いマント越しに胸をつかんだ。啓子は大袈裟にビクンと反応する。
「いけない人だわね、啓子さん。やっぱりさっきの快感が忘れられないのね。頭はボケるわ身体はさかってるわ、意外に淫乱だったんだ」
「そんなわけ――んっ!」
「じゃあこれは何? おっぱいの先でカチカチになってるこのいやらしい乳首はなあに? マントの上からでもすっごく熱いけど、ねぇなあに? 啓子さん」
 意地悪そうに口元を引きつらせて笑いながら、むつみは啓子の乳首をモントの布地ごと真前にぴんと引っ張る。
「い、いやっやめてっ!」
「あんまりいやらしい声出してるとお客さんに聞こえちゃうじゃない」
「……うぅ……」
 結局むつみの責めに啓子は声を出さないように耐えるしかなかった。むつみはそれをいいことに、今度は啓子の纏った黒いマントをはらりとはだけさせた。襟のボタンがむつみの手でとられると、マントはゆっくりと啓子のきめ細かい肌を滑り落ちていく。柔かそうな肩を撫で、白い胸を滑って、さんざんもて遊ばれてマゾヒスティックに勃った紫色の乳首を弾いて啓子に小さな喘ぎを漏らさせる。
 マントは啓子の腰の少し上、臍の辺りに引っ掛かった。
 むつみはあらわになった啓子の乳房に掴みかかると、その硬くなった乳首をさっき同様につまみ、交互に引っ張ったり、両方引っ張って互い違いに円を描いたりする。
 啓子の胸は、熟しきった柔らかい果実のようにこんもりと丸みを帯びていて、若々しい張りがあった。子供を持つ三十後半の年齢のものとは思えないほどに形がいい。それがむつみの手によって引っ張られて円錐状に醜く変型していく。
「ひうぅぅ」
 唇を噛んで苦痛に耐えようとする啓子。すぐそこには娘のいやらしい躍りにすっかり酔いしれた男達が、性的興奮に暑苦しい息を吐きながら次の公演を心待ちにしている。少しでも声を出せば、むつみの言う通り彼等はこちらの方を向くだろう。好奇と性欲で不気味にぎらついたたくさんの視線――かつてミスコンで賞を総なめしていた啓子は、異性に自分の体をまじまじ見られることにそれほど抵抗はなかった。だが今や「畸形」に一歩近付いたような自分の、しかも何一つ身につけていない裸がそんな視線にさらされるのは耐えられなかった。
 声を押し殺さなくてはならなかった。だが、むつみはそんな啓子に挑みかかるように更に強く、ちぎれんばかりに乳首を引っ張る。
 それでも甘い息一つ出そうとしない啓子に、むつみは片方の乳首を引っ張るのをやめ、彼女の乳首を前歯で軽く噛んだ。
「ぐぅ」
「必要以上に我慢しなくていいのよ。声さえ出さなかったら少しくらい乱れてもいいのよ」
「そ、そんな――」
「素直になりなさいって。前から言ってるじゃない、気持ち良いのを表情に出さないで我慢してると精神的に壊れちゃうって」
 むつみは甘噛みした啓子の乳首を汁っぽく舌で舐めて先で転がす。さっきまで何かをこらえるようにしていた啓子の苦しそうな表情からふっと力が抜け、二重の目蓋を伏せ気味にして切ないまなざしをこぼす。
「うっうんっ」
「うふっ、そうよね。気持ち良かったらやっぱり大きな声出してヨガりたいよね。いいわ、これをくわえてなさい。ものすごくいい気分にさせてあげる」
 啓子の返事を待つことなく、むつみは脱がしたマントの端を彼女の口に押し込んだ。自分はしゃがみ込んでそのままマントの裾から中に入り込む。啓子の股を押し開いてその奥に潜るむつみの頭が、マントに膨らみを作ってもごもごと動く。それはゆっくりと浮き上がり、さっきマントの引っ掛かっていた臍のあたりに迫る。
「んっ! ふひっ!」
 突然啓子はビクンと体をのけ反らせた。華奢な背中の筋肉を完全に緊張させて、危う気に痙攣させる。
「うおおおおおうっ、うぬううんっ!」
 マントをくわえた口で、くぐもった悲鳴を上げる啓子。
 一方、そのマントの内側ではむつみがぴちゃぴちゃと音を立てて何かをしゃぶっているようであった。まるで布団の中で奉仕をする女のようにマントにこんもり出っ張りを作った彼女の頭は前後に動いている。
「あぁ……おいしい、すごくおいしいよ啓子さん。私の手術がこんなに芸術的に仕上がるなんて思っても見なかったわ、この舌触り、温度……分かる? すごく甘く感じるのよ、まったりしてて、とろぉりしてて……」
 マント越しにむつみが興奮気味に啓子に話す。啓子自身にも、無理矢理の手術で自分に取り付けられた醜いモノに嬉しそうに舌をしのばせてむしゃぶりつくむつみが見えるようであった。
 しかしむつみの頭をずっと見ることはできなかった。神経を伝って押し寄せて来る、抗いようもないむずがゆい感覚。それが体の神経を鈍らせ、弛緩させる。
「ふおおおおっ、おお……お……」
 鼻から熱っぽい息を吐き、体を震わせる啓子。彼女の意識はふわふわと自身の体から心地よく離れていこうとしていた。そのまま離れていけば、彼女は心地よい恍惚の境地に至るはずであった。
 しかし、すんでのところでむつみは啓子のモノから口を離してしまった。
「うぉぉお、ん……んっ!……う」
「ううん? そのままイっちゃいたかったの?」
 もぞもぞとマントからむつみは出てきた。その口元はよだれでぬれそぼって、この暗いステージに差し込んで来る舞台の照明に艶かしく輝いていた。
「でもだめよ。せっかく由宇ちゃんに会せようとしてるのに、肝心の役者さんがそのままイって気絶されたら意味ないもん」
「んむっ!?」
 むつみの言葉に、啓子はマントをくわえたままで目を見開き、少女のようにきらきら輝かせた。それを見てにっこり笑いながら、むつみは啓子の膝の上に馬乗りになると、はだけた啓子の胸を両手で掴み、さっきは荒々しく弄んだ乳首を時々指の腹でいたわるように撫でながら優しく揉みあげる。
「はうっ、あっ」
 胸の愛撫に気持ちを良くした啓子の口からマントがはらりと落ちる。それはまたさっきのように、臍の辺りに引っ掛かる。
「折角会うんだからおめかししないとね。ここで着替えとお化粧するから、静かにしてるのよ」
 啓子の鼻の先に唇を寄せると、むつみは目をたるませて意地悪そうに笑いながら、そばにあったダンボール箱を引き寄せて中に手を突っ込んだ。

   *

「さあ、では先ほど見事な踊りを披露してくれた矢場ゆうちゃんにもう一度出ていただきましょう!」
 全く似合っていないテカテカの背広を着た男がステージの真ん中に立って、大声を張り上げた。
 袖から少女がゆっくりと裸足で現れる。その輝かんばかりに白く小振りな足の指を見ただけで、観客達はどよめき立つ。
 由宇が、先ほどと同じ姿で現れた。飾り石の装飾できらきら輝くベリーダンサーの衣装に、臍のルビー。彼女は目を伏せ気味にして恐る恐るステージの中央に立つ。観客達の視線が彼女を捕らえて縛り付ける。由宇はまるで金縛りになったような気分になった。
「ゆうちゃんは今まで毎日みんなにセクシーなダンスを見せてくれてます。そこで今回、当クラブでは特別に、彼女へ格別のプレゼントを送りたいと思います」
「プレゼント?」
 司会の言葉に由宇はうつむいていた顔をあげる。
「今日ここに、ゆうちゃんのママの矢場啓子さんが来ております!」
 驚く由宇。だがその表情は端正な彼女の顔に似つかわしくないほどに複雑であった。嫌がっているようで、しかし喜びを隠せないでいるような、むずがゆい皺を目尻や眉間にうっすら浮かべている。
 両手を口元に寄せて腕をちぢこまらせる由宇の小さな肩に、司会が馴れ馴れしく腕を回す。
「ゆうちゃんのママ、僕も見たんですがなかなかの美人です。今日は特別な衣装で登場していただきます」
 「美人」という言葉に、観客から「おおっ」と本能的な歓声がもれる。
「……さあ、もうお客さんもしびれを切らしちゃってるところで、早速ご登場頂きましょう。矢場啓子さーんっ!」
 脳天気に呼び掛ける司会。
 すると、二人の女がステージの裾からやや摺り足で現れた。そのうち一人は顔以外を黒いマントで覆っていた。
 だが観客はその女――啓子の顔を見ただけで歓声をあげる。まったく、その顔の若々しさは子持ちの女のものとはおもえないくらいにみずみずしい。
 そんな啓子がレザースーツに身を固めた女――むつみにぴったりと付き添われて、司会と由宇のいるステージの中央にやってきた。
「ま、ママ……」
「いや、由宇……お願い私を見ないで」
 由宇と啓子はお互いに顔を反らす。二人とも身を屈め、自分の姿を見せまいとしている。
 だが、むつみと司会の男がそれをよしとするわけがない。二人はそれぞれ啓子と由宇を、羽交い締めの要領で後ろから正す。
「ほら啓子さん、ちゃんとゆうちゃんの晴れ姿を見てやんなさいよ!」
「ゆうちゃん恥ずかしがらずに。ほら、ママが目の前にいるよ」
 司会、さらにむつみの声がステージ脇のスピーカーから発せられる。それに観客が盛り上がり、突然の余興が盛況を極める。
「さあ、母子の感動の再会です。皆さん盛大な拍手――」
「あっと、ちょっと待って」
 司会の言葉をむつみが遮る。
「拍手をするのはまだ早いわ。そもそもゆうちゃんがここで働いてる理由って、ママの手術代を稼ぐのが目的だったわけで。それなら、いまここにいる手術後のママの姿を見てからの方がいいわ。ゆうちゃんも見たいでしょ? もっとセクシーになったママの体」
「……ああいやぁ、この体は由宇に見せたくないっ!」
 足をガクガク震わせて啓子は顔を伏せる。
「ま、ママ……」
「由宇、ママの体はこの女に醜くされて――ふぐうっう!」
 むつみはすかさず啓子の口を押さえて彼女の言葉を封じる。またもむつみの顔には小悪魔の笑いが浮かんでいる。
「だめよ啓子さん、体見せる前に言っちゃったらお客さんが楽しめないじゃない」
 そう言ってむつみは観客席のほうに向くと、爽やかな笑顔を振りまいた。
「――さあて皆々様がた御紹介が遅れました。私はゆうちゃんのママの啓子さんの体の整形手術をさせていただきました執刀医の森島むつみというものです。もともと啓子さんは顔・体ともに非常にバランスがとれていたのですが、今回の手術ではセックスアピールに専念してみました。これで啓子さんも今までとは全く違ったセクシーな女に生まれ変わったのです。さあ、前置きはこのくらいにして早速このマントをとってしまいましょう!」
 間髪いれずに、むつみは思いきり啓子のマントを引っ張った――!

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