淫獣楽土―異星でイブになった女― (後編)
作/(川崎龍介)(現・石榴 舞)
かん高い悲鳴のような、鳴き声がする。サラは突然の事に驚いて振り返る。
鳴き声は、かの生物だった。池の岸辺で、地面に向かってしきりに鳴いている。
「どうしたの、ピューイ?」
今さっきつけた名前で生物に問いかけながら、サラはさっきまで泳いでいた池から上がった。彼女は何一つ身に纏っていない、裸の姿であった。焼けて小麦色になった肌に水玉が踊り、水滴となって飛び散っていく。
ピューイと呼ばれた生物のところにいくと、ちょうどその目の前に小さな穴が開いていた。中を覗こうとしてサラがその場にしゃがむと、覗き込む前にピューイ長い首の一本が穴の中に入った。穴の大きさはぴったりピューイの首の大きさなので、その穴の中になにがあるのか、サラは見ることが出来ない。
ようやくピューイの首が穴から顔を出した。口に何かをくわえている。
サラはそれを見る。最初、一体それがなんなのかわからかった。
が、ピューイと初めて会った時に動いていた5本以外の首から放たれていた腐臭がそれからも漂っていた。そう、それは……。
何か分かった途端、サラは気持ち悪くなり、吐き気を催して目をそむけた。
ピューイが口にくわえていたのは、わずかな水分を残して干からびた彼自身の子供であった。
子供の屍は、親であるピューイの姿同様の姿、ブルーベリー大の手足のない胴からたくさんの長い――といっても長さはせいぜい3、4センチ、太さも数ミリ程度でまるでイカナゴのようだ――首が生えていた。
屍をくわえた首が、天高くそれを持ち上げると、他の4本の首がそれを見つめながらひっきりなしにピューイ、ピューイと鳴き続ける。
吐き気がおさまって、ようやくピューイの様子を正視できるようになったサラ。今度はどうしようもなく暗い気分に陥った。
せっかく辿り着いたオアシス。ここには地球でいうところの植物のようなものがまばらだが沢山生えていて、それには非常に美味な木の実や果物も実らせていた。「これでしばらくは生き延びられる!」と深い安堵と喜びで心を満たしたサラ。だが、ピューイのその悲しみに暮れる姿を見て、無意識に彼女はオアシスの外の荒れ地に目を移した。先の見えない地平線。陽炎が立ち上り、その地平線さえ歪ませる。
ピューイは、子供を生みにここへ来たのだ。しかし例え穴を掘ってそこに産み落としても、地面に這い上がってくる前に地中の灼熱で干上がって死んでしまう。このままピューイが子供を産み落とすことが出来なかったら、今までの苦労は全くの水泡と化して干上がってしまう。
今のサラの考え方はひどく悲観的になっていた――、以前には元気だったであろう首のほとんどがほぼ死んだ状態にあるピューイだから、死期はかなり近いように思われる。ひょっとしたらピューイは、この星で生まれて脈々と進化を続けて来た生物の系譜の、孤独な末裔なのかもしれない。子孫を残すことなく死んでしまったら、それは種の「絶滅」ということになる。ピューイの最後の1本の首がぴくりとも動かなくなってしまった時、それは種の「絶滅」を目の当たりにするということだ……。
サラは怖くなった。リアルな想像の中に、リアルな孤独と絶望を見い出してしまった。
途方に暮れ、途方に暮れ、途方に暮れ、途方に暮れ、途方に暮れ……
そばにあった岩に体を寄せて、サラはうずくまる。脚をぴったり閉じて、そこに両腕を組む、体操座りをして顔をふせる。寄せた胸の柔らかい谷間に、彼女の涙が滴り落ちる。それは谷間に吸い込まれ、しばらくするとあとかたもなく消え入ってしまった。
◇
7がつ15にち はれ 日番 ウーム
今日の目当て
ものをたいせつにしよう。
(この間の諸項目中略)
今日思ったこと:
先生、まえからきになっていたのですが、なんでバスがとしょかんになってるの? バスはうんてんしゅさんがうんてんしていて、どうろをはしっていて、たくさんのひとたちをのせるためのものじゃないの? でも、しょうがっこうのうんどうじょうのすみっこにあるバスは、本をたくさんのせていて、うごいたのをみたことがないです。タイヤはパンクしてるし、クラスの男の子はバスのしたにもぐってはなにやらかなぐを取ってあそんでいました。「きょうのめあてをやぶっちゃいけないよ」としかったら、男の子は「こんなのさいしょからつぶれてるんだから、どうせいいじゃないかよ」といってききませんでした。
先生のことば:
ウームさん。あのバスがうんどうじょうにやって来たとき、もうつぶれていたの。ほんとうはそのまま捨てられてしまうはずだったものを、こうちょう先生がとしょかんに作りかえるからって、バスのかいしゃのひとからもらって、しょうがっこうにおいといたものなの。
だから、あれはあれでいいのよ。バスはもうどうろを走れないけど、がっこうのみんなが本をよむためにのってくれてきっとよろこんでいるよ。
バスのとしょかん、これからずっとだいじにつかっていこうね。
◇
サラのスーツはことごとく破かれ、下着も荒々しくもぎ取られてしまった。
彼女の胸にたわわに実った乳房に、ステファンは手で荒々しく掴み、形を潰さんとばかりにもみしだき、ぴちゃぴちゃ唾液を口から漏らしながら食らいつくようにしゃぶり突く。
抵抗するサラだったが、いくら手で押し退けようとしても、ステファンの力に全くかなわない。おまけに荒々しく胸を責め立てられるばかりに、あらがう手にも力が入らない。
ステファンの責めは胸だけに終らなかった。うめき声を上げて悶える彼女のその唇にまでも、荒々しく吸い付いたのだ。まるで押さえ付けるかのようなキス、だが舌はそれと裏腹にやさしく相手に絡み、淫らな踊りに誘い込む。
サラは揺れに揺れていた。もう耐えるのにも懸命で、いやそれすらも怪しくなってきた。
荒々しく胸を愛撫していたステファンの手は、その獰猛さを次第に衰えさせる。今度は感触を確かめるように、舌で味わうように体を撫で回す。獰猛に胸をもみしだいたあと、それはまるで逆立った毛並みを整えるような撫で回しになり、それは肩、背中、横腹、へそのあたり、尻、ふとももと、サラの体の曲線をたどるように、いじらしくもあやしく移動させていった。
それから、手は彼女の内股へと移っていく。これにサラは驚いた。慌てて脚をピッタリ閉じようとしたが、逃れることを許さない舌のダンスに付き合わされて頭が動揺している状態では思うように脚へ力が入らず、逆に片脚を彼の小脇に抱え上げられてしまった。
もちろんショーツも無惨に引き裂かれ、サラは文字どおり丸腰であった。尻がじかに冷たい床についていて、自然に薄く整えられたデルタの茂みもあられもなくステファンの前にさらされていた。
その茂みの中に、ステファンの指が潜り込んでいく。毛をかき分け、奥に息づく柔らかい割れ目を探り当てると、そのままずぶずぶと中に入っていく。
サラの肉体の神秘な空虚への侵入。それはやるせない衝撃となって、彼女の体を駆け巡る。
それが、彼女の心中のものを思いきり覆してしまった。
「いやぁ、あう、やめ……」
ようやく舌のダンスから解かれたものの、彼女は自分が知る中でどうとも表現できない、ただやるせなく悶々とした感覚に縛り付けられてしまった。
「……先生の中、やわらかくって暖かいよ」
「ひ、んんん! お願い、もう、だ……あぁ」
ステファンの指は、サラの膣内を地道にまさぐり続けていた。
サラの陰唇がしっとり濡れ始める。やがて、透明な粘液で陰部は濡れていく。
もうサラは抵抗しなくなった。乳首を舌でこね回された末にかじられて体をひくつかせ、臍の穴に指が入ってきて敏感に腹筋を力ませ、性器の中にいる侵入者が動くたびに三日月の形をした二つの肉貝を閉じ合わせようとする。
「ああ、ああぬう……や、やめ、やめてよ、おねがいやめてぇ!」
だが、サラは認めたくなかったが、やるせない感覚は次第に快感へと変わっていった。頑固にそれを否定しても、目は連綿と体をくすぐられているかのように潤み、口元はほころんで、そこからよだれがだらしなく頬を伝う。
「先生、先生、すごいね、もうこんなになってるよ……」
ステファンがサラの膣内に入れていた指がだんだん活発になっていく。彼は彼女の股間から沸き出してくる粘液を指に絡ませては見せようとしているようだったが、当の本人は押し寄せてくる快感のあまりにそれすら正視できない。
「ああ、いやぁ、んうあう……」
悦楽の中に溺れそうになりながらも、サラは必至でこらえていた。だがそれは、切り立った断崖の縁で爪先立ちしているようなもの。もう時間の問題である。
が、そこでステファンがサラの陰部から指を引き抜いた。陰唇から自分の指に愛液の糸が引く。彼は濡れそぼった指をしゃぶる。
高いところから突き落とされるのが分かっていれば、いっそそのまま突き落とされた方が気が楽だろう。むしろじらされたら、たまらない。
サラはまさにその状態であった。
もう押し寄せる快楽に身を許したいが、それができない。
切ない。――彼女の信念に潜んでいた空虚が物悲しく哭く。
「先生、もうたまらないだろ?」
指から口を離し、ステファンが話しかけてきた。サラは、躊躇しながらも弱々しくうなづいた。
「僕もです、先生。――触って、ほら」
ステファンはサラの手を強引に引っ張り、何ものかを握らせた。それは非常に熱く太く長く、時々脈打ってはまだ大きくなろうとして自身を固くしならせていた。
サラの手が握り締めたもの、それはりっぱに反り返ったステファンの男のシンボルであった。見た途端、彼女はまるで電気風呂に入ったような軽いしびれを体に感じた。頭に心地よい熱さが沸き上がり、やもすればそのまま気を失いそうになった。
「もう、我慢できないんだ、先生」
もっと良く握ってとばかりに、自分のイチモツにサラの手をさらに包み込ませるステファン。
「先生の中にこれを入れて、僕のザーメンをたくさん注ぎ込みたいんだ。――ねえ、このまま一生一緒にいようよ先生、ね、結婚しよう?」
「結婚」の言葉が出た途端、サラの頭にまたも熱く激しい衝撃が駆け巡る。嫌悪というよりは恥ずかしさの入り交じった屈服感に彼女は酔いしれる。――そうなんだ……自分は今、教え子に陵辱されてるんだ。でも、なんだか「いや」じゃない、嬉しくって恥ずかしいこの「気持ち良さ」ってなんなの?
ステファンはあられもない姿のサラの前に立つ。肉棒もそのオーラを惜しみなく放ちながらそそり立っている。
「先生……先生はどうなの? 僕と――?」
手を両太ももにかけ、サラは頬に熱い血がかけ上るのを感じながら、ゆっくりと脚を開いた。
きっとステファンの目に、サラが今まで人に見せることのなかった陰唇の中身がさらされているだろう。充血して肥大して固くなったクリトリス。控えめに口を開く尿道口に、待ちわびて痙攣しているバギナの入り口。それらは今までになく充血して、涙を流してステファンを誘い込もうとしているのだ。
「先生、今まで見てきたなかで凄く綺麗だよ」
「――ああ、早く来てよステファン! 一緒になろ、なろうよぉ!」
それは嘘紛れひとつないサラの心の叫びであった。
ステファンはしゃがみこみ、自分の腰をゆっくりサラに近付けていく。
亀頭がクリトリスに触れる。強い性感にひどく息を荒げながら、サラは目を潤ませてステファンを促す。
「入れて、早く、お願いぃ!」
サラの胸が激しく鼓動を打つ。――もういよいよだ!
と、そのときであった。
教室の扉が開き、用務員の人が入ってきた。
「あんたら、なんばしょっとぉ?!」
彼女の田舎訛りの一声は、二人を凍てつかせるのに充分であった。
満たされぬ欲望、突き付けられた現実。サラの頭の中がスパークする。
「ぁ……ぁぁ……ぁ……あああああああああああああああああああ!」
激しく泣き叫んだ……
◇
中途半端に絶頂を迎えた後で、どれだけ放心していただろう?
サラは岩にもたれて、一人両足を開いていた。身体中じっとり汗をかいており、息はまだ荒い。
手を見ると、さっきまでの自慰でじっとりと粘液がまとわりついていた。そういえば、さっきまで燃え上がっていた性器は、まだ濡れて熱い。
――私、どうしてこうなっちゃったんだろ?
胸のあたりを抱きながら、サラは一人うずくまる。しかし、再び彼女は手指を陰唇に潜ませる。
「あぅ……っん」
指を踊らせるたびに、子宮が溶けるほどまでに熱くなり、さらなる快楽を求めてとめどなく愛液が沸き出してくる。
切なく声を漏らすサラ。彼女の頭には、教え子ステファンの熱情的な言動がこだましていた。
体には、彼の愛撫の記憶が甦る。彼があのとき執拗に舌でこねくりまわしていた乳首ははち切れんばかりに充血してかたくなる。あの時抱えられた片足も折り曲げ、股間をあらわにさせる。
「はぁあっん! ぅう……」
このオアシスに来てからもう何日経つんだろうか? もうサラは覚えていなかった。人がいないのを良いことに、岩陰で始めたこの自慰もいつしか日々の習慣となってしまっていた。
昼は食べるだけ食べて水辺で戯れ、夜はこうして自慰に耽る。それはある意味では楽園のようであった。
だが、その中にあってサラの心中は暗かった。――空虚はもう埋まらない。
それが、さらにサラを自慰に駆り立てる。
「あああ! あぁっ」
おびだたしい量の愛液を流して、サラは悩ましく悶える。夜空に悲しく放たれてかき消される彼女のあえぎ声。
背を反り返らせ、全ての意識を燃え上がりそうな子宮にやると、サラは膣に沈ませた指を踊らせる。いよいよ、絶頂を迎える準備に入ったのだ。
しかしその時、後ろに不気味な気配を感じた。我に返り、とっさにサラは手を離してそちらに振り向いた。
――ピューイだった。サラのもたれる岩の反対側から、5本の首を覗かせて彼女を見つめていたのだ。
動揺するサラ。いくら相手が人でないにしろ、さっきまでの自分の恥態を見られていたのを考えると、寒い風に当たったかのように鳥肌が立った。
とっさに立ち上がり、サラは走ろうとする。が、思いきり地面に倒れてしまう。
彼女の足を引っ張ったのはピューイの首の一本であった。地面の砂が頬の汗でくっ付いたのをそのままに、サラは何がなんだかわからずにピューイを見る。
が、ピューイの他の首もそれぞれサラに襲い掛かる。
一本は、先ほど足に絡まった首と役割を分担し、左脚に固く絡まる。
一本は、ものすごく力強く、そして非常に素早くサラの両手を首に絡めとって、自由を奪った。
一本は、ぐるりとサラの胴に巻き付いて胸を締め付け、窮屈そうにしている汗ばんだ乳房の谷間にその首の先端を埋める。
そして、一本は――
◇
「ねえねえ、おかあさ〜ん。 あのバスあのバス……」
「なあに? サラちゃん」
「たくさんごほんあるねぇ」
「そうねぇ。サラちゃんも、小学校に入ったら、たくさんご本読もうね」
◇
「うあぁぁあ! あうっ、……あうっ、……あうっ、……あうっ、……あううっ!」
今サラは高く持ち上げられ、股間から持ち上げてくる強い衝撃と圧迫感に身をよじらせる。快楽の渦? 強烈なショック? ――サラの思考能力は消え失せていた。もうピューイがどうして自分を陵辱するのか、どころか、今自分がどう言う状況にいるのかさえ、考えることができなくなっている。
「はがああぁ、あぁ、あああ、あ、あ、あ、あ、あうあ、はぁ」
深々と陰唇に潜り込むピューイの首。濡れそぼった膣の中で、首は身をよじらせ、さらに奥を目指して強く突き上げる。
「ああ、あぅ、あぅ、あぅ、あぅ、あぅ、あぅっ、あぅ!」
悲鳴と言うより、突き上げた力で機械的に吐き出されているだけのようなかん高い声が夜空に響く。小気味よく、――それは人間の男女が快楽を求めて営むセックスとは全く異質のもので、ひどく単調であった。だが、体を突き上げんとする異生物ピューイのピストン運動でもそんなことは問題でなかった。
現に、半ば意識の薄らいだサラも、この荒々しい交合の中にも心地よさを見い出していた。
涙とよだれが、吹き出した汗と混ざりあって、せき止められることなくサラの激しく揺れ動く体を伝う。陰唇も大量の愛液を吐き出し、ピューイの首の動きをさらに滑らかにさせる。
と、突然ピューイの首が妙な痙攣を起こした。それと同時に、何かがサラの子宮の中に入ってくる
「――っんあぁ、あぁぁ……」
子宮の空間一杯に、丸い物が入れられる。それはサラの体温で温められるだけで、硬くはないが決して柔らかいわけでもなく、ただすっぽりとそこにおさまっていた。目では見ることの出来ないそれを、サラは子宮の柔らかく厚い筋肉で感じ取っていた。
しかしサラは不快に思うばかりか、満たされたかのような不思議な感覚になっていた。
ゆっくりと、サラの陰唇からピューイの首が顔を出す。愛液がピューイの首にもまとわりつき、糸を引く。それはゆっくりとサラの腰あたりにまとわりつく。愛液でしっとり湿ったピューイの首、かすかに動くたびにサラの横腹をくすぐる。
胸に巻き付いていたピューイの首が、ゆっくりとほどけて離れ、首をもたげる。サラはうつろな目でその様子をじっと見つめていた。まだ入っているかのように疼く膣内を感じながら、身体中にはものすごくけだるく心地よさに酔いしれている。
――今度は何をされるのだろう?
それは不安ではなく、期待だった。
そして、首がサラの股間目掛けて飛び掛かった。まったくサラの期待通りだった。
首は深々と彼女の性器に深々と顔を埋め、またも串刺しにせんとばかりにピストン運動を展開した。
「ああああぁぁぁ、あぁ、ぁあ!」
非常に力強い揺さぶりをかけられながら、今度はサラもいつしか自らの腰をうねらせていた。意識的にしろ無意識にしろ、それは彼女の歓迎の態度そのものであった。
「丸いもの」が入れられた子宮が、ピューイの激しい突き上げとサラ自身の腰のうねりで激しく揺さぶられ、溶けてしまいそうなくらい熱く燃え上がる。
「あぅ、あぅ、あぅ、あぅ、うぁ、あぁ、あ、あ、あ、あ、あ!」
今度は確かな快感がサラにもたらされる。もはや彼女はそれだけに突き動かされていた。腰をよじらせるだけでなく、束縛の解かれた乳房を淫らに揺さぶり、突き上げられるたび背も反り上げる。声すらもう機械的な物でなく、快楽のフィルターに通された甘い鳴き声となっていた。巻き舌で、鼻にかかり、誰かに媚びるようなよがり声。
太い首が深々と突き刺さった陰唇も、さきほど以上に愛液を分泌し、引き出されるたびに、内側に秘めたラビアを外に見せる。もうクリトリスは充血し、陰唇から顔を出さんばかりに勃起していた。
サラは、屈服され切ってマゾの境地にその心を横たえていた。
そう、それはまるであの時――ステファンに陵辱された時に感じたのと同じ感覚であった。
激しい交合の末、またもピューイの首が奇妙な痙攣を起こす。と、途端に強い勢いでサラの子宮に熱い液体が注ぎ込まれた。
「ああぁぁ、いいっ……」
自分が感じた通りの事を口走って、サラは陰唇の筋肉をきゅっと締め付けた。そのままぐったりとして、ただピューイの4本の首に支えられるのに任せた。
しばらくして、白いねばねばした液にまみれたピューイの首が顔を出す。その後で、サラの股間の黒い茂みに潜む割れ目から、白い滴が沸き出して、砂の地面に滴り落ちた。
◇
「君には失望したよ」
士官学校の校長室で、サラは校長に吐きすてるようにそう言われた。
「ぶっちゃけた話、こういう不祥事を起こされると学校の名誉にも関わるんでね。これ以上ここに君を置いておくわけにはいかないね」
「でもあれは……」
「『あれは』? 『あれは』何だ? 空き教室とはいえ、高潔な場所である校舎をああいう形で汚しておいて、何かまだ言い訳するつもりかね?」
「そんな、先に手を出したのはステファンですよ!」
「先に手を出したとかそんなのは問題じゃない。……用務員の聞くところによれば、君も随分求めてたそうじゃないか。抵抗ひとつせずにな!」
校長は指を差してきつくサラを叱りつける。
しばらく間を置き、校長が一息ついて再び話す。
「ステファンは将来有望な生徒だ。卒業後は我が校の名に恥じない立派な兵士となって活躍してくれるはずだ。彼も可哀相な奴だ。よりにもよってこんな淫乱な女に恋心を寄せていたとはな」
「その発言はセクハラじゃ――」
「うるさい! はっきりここで君に言っておくが、もう君は裁判に訴訟の手続きを済ませる時間はない!」
サラに何ら言わせずに続けて校長は宣告する。
「君には今から『移民訓練センター』に行ってもらう。そこで一年間訓練を受けて、宇宙船でどこかの星に行ってもらう。せいぜい宇宙船のクルーとナニしまくって子供でもこさえるんだな!」
「……そんな言い方って……」
「ステファンも、今回の事はすぐに忘れてもらわないといかん。そのためには君を二度と彼の前に出すわけには行かぬのだ。訓練が一年で、宇宙船で打ち上げられてどこかの星に着陸するまでに30年以上、そこから到着の知らせを地球の宇宙センターが受信するのがさらに10年以上後、だ……ステファンもそのうちに忘れるだろう。いいことだ」
その時、校長室の扉をノックする音がした。校長が促すと、二人の青いツナギを着た男が二人やってきた。
「もう彼女には言ってある。早急に連れていってくれ」
男達は半泣きになっていたサラの両手を抱えて、まるで犯罪者か何かのように校長室から引きずり出す。
護送車に乗せられるまでに、サラはあることを思い出した。
それは、エンジンが壊れた旧型のバスのことだった。ちょうど新型のバスを導入していた時期にあったために、結局修理するより新しくバスを買った方が良いということになり、そのまま廃棄処分となった。
だが、スクラップ寸前で、とある小学校の校長がそのバスを見つけ、自分の学校で図書館として使うから譲り受けたいとバス会社に申し出たのである。かくして、バスはレッカー車で小学校に運ばれ、簡単な改装工事を受けた末に図書館として生まれ変わった。
座席の代わりに本棚を乗せ、乗客の代わりに本を読みにやってきた小学生を乗せるバス――
護送車に押し込まれるように乗せられるサラ。だが、その時の彼女の顔は何か開き直ったようなせいせいした表情となっていた。
「……じゃ、行きますか?」
男の一人がそう言うと、サラは吐きすてるように答えた。
「早く行ってよ」
◇
騒がしいオアシスに夜が訪れる。
日が照る間、あれだけ騒いでいたサラとピューイの子供達は水辺で眠っている。外見も大きさも本当にパイナップルのような胴体を時々コロコロと動かして寝返りを打っている。だが、沢山の首を持つ彼らははたして別々の夢を見ているのだろうか? それとも、同じ夢を共有しているのだろうか?
そんな子供達から離れ、サラは岩陰で自慰に耽っていた。だがそれは決して快楽のためではなく、これからの事に備えるためでもあった。――同時に、そのときだけは夫であるピューイとは別の相手と交われる一時。
ステファンの愛撫を一つ一つ思い出しながら、サラは胸や陰唇に指を埋めて蠢かせる。自ら乳房の形を潰し、膣の奥をかき混ぜ、クリトリスをつまむ。サラはその時、つくづく自分が淫乱であるのを感じる。それが羞恥となり、マゾヒスティックな摂理で快感になって彼女の体を駆け巡る。
性器全体が熱くなり、股間がぐっしょりと濡れると、彼女はようやく夫を呼ぶ。
「ああ、ピューイ、ピューイ……」
ピューイはゆっくりと彼女の前に姿を現す。5本の首をもたげて、彼女の汗ばんだスレンダーな肢体を見つめる。
サラはゆっくりと両脚を開き、なお陰唇を手でいじって彼を誘う。
いつもそうやって、交合が始まる。
一本は、左脚に固く絡まる。
一本は、右脚に巻き付く。
一本は、サラの両手に絡む。
一本は、ぐるりとサラの胴に巻き付いて胸を締めつける。
そして、一本は――満たされんと求めるサラの赤々と開いた陰唇に深々と入っていく。
「あぁあああ!」
サラは空中高く持ち上げられる。そこで彼女は満天の星空のもとで、突き上げるピューイの首に身を任せるのだ。
甘い声を響かせて、サラは星空を見つめる。その光景は、新しい活路を見い出した彼女にとって、幸福に満ちあふれた光景であった。
子宮の筋肉でピューイの大きな卵を感じながら、火傷してしまいそうなピューイの熱い精液を感じながら、サラはどこにあるかわからない地球に向かって、しあわせのあえぎ声をあげる。
(幸運あれ)