2001年12月24日

 クリスマス・ソングがどこからともなく聞こえてくる都会の夕方。歩道には沢山の人が行き来していた。家に帰るサラリーマンに混じって、わいわい騒ぎながら遊びに出かける集団も時々見かける。ビルやアーケードの隙間から地に差す日光はどこか赤っぽい。
 西高東低の見事な気圧配置は、しかしこのクリスマスイブの街に雪をもたらさなかった。代わりにもたらしたのは寒々しい冬空の晴天のみ。
 そんな天候の中、サンタクロースの衣装を女性風に模した衣装を身に着けた女が、時折身体を縮こまらせながらティッシュを配っていた。
「よろしくおねがいしまぁすっ! ……よろしくおねがいしまぁすっ!」
 道行く人に作った笑顔を振りまき、赤い手袋をはめた手でティッシュを差し出す。
 そのまま受け取っていくものもいるが、大半は彼女の容姿に一瞥しただけでそのままティッシュを受け取らずに通り過ぎていく。中には無視してそのまま通り過ぎる人や、いらないと手で制する人もいる。
 時折彼女は、人に見せる笑顔とはあまりに対照的に、疲れた表情で後ろのダンボール箱をちらりと見遣る。
 もう夕方だというのに未開封の箱が三つもある。開いている箱でさえ三分の一しか減っていない。
 午前十時に会社のワゴンから降ろされた時、一緒に社員から渡されたのは四箱。言い渡されたノルマは三箱。
 ……全然達成できていない。
 自然と深い溜め息も出てしまう。
(……だめじゃん。これじゃあ帰ったら怒られちゃうぅ)
 再び会社のワゴンが迎えにやってくるのが午後七時。よほどの奇跡がない限り、ノルマを達成するのは無理だろう。
 諦めたい気持ちもやまやまだが、それでもなんとか箱の中のティッシュを減らそうと彼女は健気に努力する。
「……よろしくおねがいしまぁすっ! ……よろしくおねがいしまぁすっ!」
 愛嬌のある笑顔を作り、道行く人一人一人に声をかけてティッシュを差し出す。
 しかし内心は、時折吹き付ける寒風にくじけそうなくらい弱気になっている。

 もう上京してきてから3年経つのだろうか? しかし穴賀りなは何一つ事をなし得ることができないままフリーターを続けていた。
 高校を卒業してすぐに貯金をはたいて上京してきたのは、小さい時からの夢があったからだ――アイドルになりたい!
 だが生まれ育った片田舎に居続けていてはチャンスをつかむ事ができないと考えていた彼女は、親の反対を押し切って東京に行く決心をしたのだ。
 しかしアルバイトをしながらあらゆるオーディションに応募したものの、ことごとく落選。劇団やプロダクション、養成スクールの門を叩くことも考えたが、かかる大金の前にあきらめるしかなかった。
 そんな中でも月日は残酷に過ぎていく。アイドルになるのに「若さ」は必須条件である。一つ年をとればその分可能性は減っていく。
 元気と快活さがとりえだったりなは、気の焦りのあまりに日々疲れていった。気がつけば昔より、いや昨日よりひどく気分が落ち込んでいると思うようにもなっていた。
 それでも彼女は空元気でも明るさを装い、手当りしだいにオーディションやコンテストに応募した。機会があればキャンペーンガールなどのアルバイトもやるようにした。
 だがそれでもいい感触すら感じることなく、ついに成人を迎えてしまった。ここまで見事にチャンスをつかまえられないことにひどく憂鬱に感じて目にくやし涙をにじませる日が多くなった。
 そんな中、新しくできたコンパニオン派遣会社がスタッフを募集していた。もちろんりなは面接を申し込んだ。
 採用してからしばらく、会社はりなに沢山の仕事を回してくれた。キャンペーンガールやイベントの司会の仕事……いつしかこの会社が紹介する仕事だけで生活が成り立つようになった。ようやく彼女にもいい風が吹きはじめたかのように見えた。
 しかしそれは会社が出来たばかりで所属スタッフの人数が少なかったからである。少しずつスタッフが多くなるにつれてりなに回ってくる仕事も少なくなっていき、さらに輪をかけて仕事の内容も貧相なものになっていく。
 そしてこの年末に久々入ってきた仕事が、テレクラのティッシュ配り。よくケバケバしいパンクファッションの男女が駅前で顔色一つ変えずにやっているあれだ。いいイメージのない仕事である。しかし今回クリスマスということでサンタ・ギャルの格好をする、というのがせめてもの救いかもしれない。
 断るにしても他に仕事があるわけでもないので、りなはもちろんこの仕事を引き受けた。
 しかし当日やり始めて、りなは自分が安請け合いしてしまったことにようやく気がついた。たかだか人にティッシュを配るというのがこれほどまで難しいとは。
 普通に配っていてはだめかと笑顔で渡してもみるのだが、それほど成果は変わらない。結局そのまま夕方まできてしまったわけである。
 そしてそのまま日は落ちて、空が暗くなりはじめる。
 くうぅと腹の虫が鳴る。
 そういえば今日の朝と昼に何も食べていなかった。遅刻しそうだったのでそのまま家を飛び出し、なかなかティッシュがはけないので意固地になって配っているうちに昼時はすっかり過ぎ去ってしまった。
「あぁあ、お腹空いたよぉ」
 ついついりなの口から漏れた泣き言。ここまでうまいこといかないと、例え知らぬ人が行き通う中でもぼやいてしまう。
 クリスマスイブくらい、豪勢な料理にありつきたいと思うりな。だが多分仕事が終わって帰っても、金も料理の腕も貧しい身にはコンビニ弁当しかありつけないだろう。せめて漫画にあるような丸々としたローストチキンを食べてみたいものだと幼い想像をしてみたりするが、かえって自分の寒々しい生活の現状をむざむざと感じさせるだけであった。
 すっかり空が暗くなり、街のネオンが光り始めた時に、会社のワゴンが迎えに来た。「御苦労さん」と運転席側から出てきた社員と入れ替えに、りなはそそくさとドアを開けて後部座席に滑り込み、そのまま身体を横たえてしまった。
 車の外で社員が何か言っているようだった。だがりなは車の中の心地よい暖かさの中でそのまま眠ってしまっていた。日中何も食べずに立ち仕事をしていたのが相当体にこたえたのだろう。すっかり疲労困ぱいになっていたのだ。

   *   *

 かすかに聞こえてくるワゴンのエンジン音でようやくりなは目を覚ました。体に覆い被さる気だるさを押し退けてゆっくりと起き上がる。
「あ、起きた?」
 社員の声。
 外を見ると、窓の内を薄明るくした一戸建ちが立ち並んでいた。ティッシュを配っていた街の面影はない。
「りなちゃーん、起きてるー?」
 ふと空を見てみると、黒く厚い雲が張り出している。月も星も見えない。
「しゃーねーなぁ」
 突然けたたましいキーボード・サウンドが車内を鋭く貫いた。ユーロビートだ。
 半ばぼおっとしていたりなも、さすがにこれには目が覚めた。
「……うぁ」
 ぎゅっと両耳を押さえてうずくまるりな。
 ちらりと後ろを伺って、社員はカーステレオのスイッチを切った。
「ごくろうさん。今日は随分不調だったね。いっといたノルマ達成してなかったし」
「……ティッシュ配りってむずかしいっすね。がんばったけど、みんな受け取ってくれないもん」
「でも他の人の中には四箱空にして『もうないんですかぁ?』とか連絡してくれるコもいるよ」
「う、うそ……」
「うそじゃないよ。要領の問題だよそんなのぉ」
 のんきな口調で社員は言っているが、りなはその裏に潜ませたいらだちをひしひしと感じていた。
「それよりもりなちゃん、仕事始める前にも言ったけど、ノルマ達成してなかったらお金渡せないから」
「えー、そんなぁ」
「そんなの仕方ないだろ? 自分が悪いんだからぁ」
「あーん、せっかくのクリスマスのイブくらい美味しい料理食べたかったなぁ」
「ならちょうどいい。いくらなんでも給料なしでそのまま帰すのも悪いとおもってさ、もう一つ仕事の手配しといたよぉ。パーティーのお相手する仕事」
「クリスマスパーティーの?」
「本当は受けたくなかった仕事だったんだけどね。ほら、契約した時にも言ったけど、うちはアルコール関係とか水商売? そういった仕事への派遣はNGということではねつけてたわけじゃん。だけどこんな不景気で会社自体にも仕事回って来ない状態でさ、背に腹変えられなかったんだよね。でも結構報酬も高いんだよ。給料も――」
 社員の口から漏れた金額を耳にして、りなは体に残っていた眠気とだるさを完全に吹き飛ばしてしまった。
「えぇーっ! 普通のバイトで毎日残業して一ヶ月働いてもそんな額にならんですよぉー!」
「そうだろぉ? 多分スナックとかでも相当がんばんないとこんな位にはならないよ」
「でも相手どんな人なんだろ? エロエロでセクハラでテカテカなハゲヲヤジだったらやだなぁ」
「それは多分心配しなくていいよ。変な仕事でね、相手するのは一人だけ。ベンチャーのIT企業の社長さんなんだけどさ。前にその仕事の依頼にウチのところに来たんだけど、なんていうかね、すごくビジネスマンって感じでかっこ良かったよ」
「えー、持ち上げてるだけじゃないんすかぁ?」
「とんでもない。じゃあこうしようか? もしりなちゃんの言うようなエロエロでセクハラでテカテカなハゲヲヤジだったら、そのまま帰ってくれていいよ。給料ちゃんと渡すから」
「自信ありありっすね」
「ね? かっこいい人の相手しながら、料理とか食べれるんだから上等じゃない」
「そうすね、……行ってもいいかな?」
「そうと決まれば即出発っ! このまま依頼先に行くからね。帰りもちゃんと迎えに来るからね」
 唐突に車のスピードが早くなる。社員はまたカーステレオのスイッチを入れた。さっきのユーロビートの続きが同じ大音量でガシガシ鳴り響く。
「あーもーっ、ユーロビートなんか今時はやんないですよぉー!」
 空きっ腹で精一杯の声で叫ぶりなだったが、社員は全く耳を貸そうともしないでノリノリで運転に没頭してしまっていた。

 十数分後に、ワゴンは現場らしいところについた。
 それじゃがんばってね、と陽気に言ってりなを降ろすと、そのまま社員はワゴンをかっ飛ばして行ってしまった。
 りなが降ろされたのは、大きな門構えの豪邸の前だった。社員いわく、この中に依頼主がいるということ。
 しかしなんという豪邸だろうか。りなは一目見て吸血鬼の屋敷かと思った。
 とはいえ決して古びているわけではない。壁の塗装は新築さながらピカピカだったし、大きなひびなど一つも入っていない。ただ壁の一部に沢山のつたが這っているのがどこか無気味さを感じさせる。
 黒い鉄の棒だけで構成された洋風の門扉も、どこかおどろおどろしい。昼間に見ればそうでもないのだろうが、夜に傍らの弱々しいライトに照らされているその光景は怖い。
 それでもりなはなんとか門扉の横にインターホンを見つけだし、早速ボタンを押す。
 ぴーんぽーん、と風景に不釣り合いなデジタルチャイムが鳴る。
 スピーカーから相手の応答が出る前に、カチャリと扉の開く音がした。
 途端に辺りが明るくなった。門扉のあたりから豪邸の玄関にかけて、路傍に並ぶいくつもの室外灯が石畳の道を照らし出している。
 その道をカツカツ靴音を鳴らして、一人の男がやってくる。
 室外灯の光に淡く照らされたその姿。ワゴンの賭けは社員の勝ち。
 体格的にどこか弱々しい印象は否めなかったが、背広や男性エステのコマーシャルにどんな形で出しても絵になりそうな容貌をしている。その表情にはどこか微妙に硬さを感じるが、同時に繊細に見える。例えるならば水晶の柱。白っぽい顔の肌がさらにそれを際立たせる。しかも背が高い。
 門扉を開いて、男はりなの目の前で立ち止まる。
「あ、えーとその、派遣のコンパニオンでやってきたものなのですが……そのあのえーと」
 大失態である。相手の名前を社員から聞くのをすっかり忘れていた。
 しどろもどろするりなに、男はにこやかに話し掛ける。
「ようこそサンタさん、待ちくたびれていたよ。私は大司(おおつかさ)治、この屋敷の主だ」
「あ、……オオツカサ、さん、ですか」
 少し救われた思いでようやくりなは肩をなで下ろす。
「さてサンタさん、寒いから中に入ろうか。折角用意した食事も冷めてしまうしね」
 すっとりなの肩に手をかけて、男はりなを屋敷へといざなう。
「サンタさんの名前は『穴賀りな』で良かったのかな? 社員さんに聞いたけど、今までティッシュ配りしてたんだって? 寒かっただろう」
「え? 社員さんそんなことまで言ってたですか?」
「他にもいろいろ聞かせてもらったよ。何もかも、ね。誕生日が何日かということから、今日は朝から何も食べてなくてひどくお腹が空いていることもね」
 本来コンパニオンの方がお客の事をよく知っておかないといけないのに、これでは逆である。「あはは、オオツカサさん私の事ずいぶん調べ通してますですねぇ」と快活営業スマイルで笑いながら、大司氏のことを現時点名前だけしか知らない自分を責めるりな。
(あーあ、こんなズサンな仕事内容してちゃ、芸能界も無理だわなぁ……)

 しかしそんな落ち込んだ気分も、案内された食堂のテーブルに並べられた食事を見た途端一気に吹っ飛んだ。
 まるでどこかのホテルのディナーショーに招待されたみたいだ、といえば大げさかもしれない。しかしこの屋敷内、本当にシティホテルさながらの装飾が施されていた。食堂に至っては外国の宮殿と見まがうほどで、まるで漫画に出てくるような長いテーブルには白いクロスが敷かれ、豪勢な食事はみんな銀色の食器の上に盛られている。
 なるほど、社員のいうとおりこれはりなにとってお得な仕事であった。
 テーブルの前でただ茫然と佇んでいるりなの背中を大司氏が軽くポンポンと叩く。
「いいんだよ、遠慮しなくていい。好きなものを好きなだけ食べていい。私はこれから地下のワインセラーに行ってくるからね」
 微笑みながらそう言って、りなが席に座るのを見届けてから大司氏は食堂を後にした。
 りなはまず一部ほどスライスされたローストチキンを口にした――途端に目を輝かせ、他の皿にも勢い良く飛びついた。
 とても美味しい。胃袋に収めるたび、体中にその味がしみ込んでいくようだ。腕のいいコックに料理を作らせたのだろうか?
 あっちにある料理、こっちにある料理をぱくついている間に、大司氏が食堂に帰って来た。
「ははは、気に入ってくれたかな? 知り合いのレストランに出前を頼んでおいたんだ。ミシュランの三ツ星ほどじゃないけど、私が食べて来た中では一番うまい店なのだよ」
「ほ……そ、そうなんスか」
 口に食事を頬張りながら受け答えるりなに、彼はすこし眉をひそめる。
「お行儀の悪いサンタさんだ……」
「は、あ……! んぐ……ごめんなさぁい」
「しかし少しは元気になったみたいだね。仕事の疲れのせいなのか、さっきはしょぼんとしていたから」
 大司氏はりなの向いに座り、持って来たワイン瓶を見せる。
「ヴィンテージものの赤ワインだ。一緒に飲もう」
「うわぁ、それってなんだか豪華そうですねぇ」
「どうかな? ……ワインに詳しい酒屋に薦められて買ったものだから、実際どれほどの価値があるのかわからないんだけどね」
 軽く笑いながら、大司氏はりなの目の前のグラスにワインを注ぐ。
 本当のところ、りなは少し心の中で身構えていたのだが、今ではすっかり安心していた。見た目の硬いイメージの割には案外いい人なのかもしれない。
 しかしクリスマス・イヴの夜に食事の相手を派遣で雇う、というのも少し変だ。仕事仲間や友人とかは呼ばないのだろうか? 聞いてみたい気もあったが、何か心情的に特別な事情があるのかもしれない。りなは聞きあぐねていた。
 それよりも、今回の仕事はこの男の食事相手をするのが仕事だ。なによりりなは彼と話をすることだけを考えることにした。
 とはいえ、りなにはそれほど話題の種はなかった。りなから話をする分にはまだいいのだが、大司氏がたまに新しい話題を返すと、たちまち話の流れが止まってしまったりする。だがそれも最初のうち。ワイングラスを傾けていくにつれ、りなの口は陽気に遠慮なく動いていく。
「――そんなことはわからないんですけどぉ、オオツカサさんってばオカタイっスよぉ。やっぱり若いコに振り向いてほしかったら、なんかこう、クダけるとかハジけるとかして接しないとぉ」
 すっかり酔っぱらってしまっていた。愛想笑いを浮かべつつも時折眉間に皺を寄せる大司氏のことなどおかまいなしだ。
 だが彼は、さっきのように明らかな不快感を口にすることはせず、りなの話についていく。
「そうかな? 私はこれくらいのほうがいいと思っているのだがね」
「だめっスよぉ、ダメ。最近のホストでもクダけてますって」
 りなは頬と耳たぶをほんのり赤らめ、すこし目の焦点もふらつかせていた。それに時間が経つにつれて少しづつ口調がだれてきていた。
 ふと大司氏は食堂の窓の方に振り向いた。
「……ほおぉ」
 小さな感嘆の声をあげる彼に、すかさずりなは反応する。
「ん? どうしたんスか?」
「雪だ……」
「えっ、雪?」
 まるで女子中学生さながらに、りなはばっと椅子から立ち上がり、大司氏が眺めている窓に走り寄る。
 嘘ではなかった。
 今日昼間は晴れていたはずなのに、いつの間にか夜空一面に雲が掛かっていた。そこからちらちらと粉のような雪がはらりはらりと降って来ている。
「クリスマス・イヴの雪なんて初めて見たぁ」
 静かにつぶやくりな。
 大司氏もゆっくりと立ち上がり、窓の方にやって来る。
「なるほど、……絶好の夜だ」
 彼の手がりなの両肩にそっと回される。まるでゆっくりと、優しく彼女を抱きしめるかのように。
「! ……や、やですよぉ。ウチはそういうサービスはしてないっスよぉ」
 やんわりと断って大司氏の腕を払い除けようとしたりな。
 しかし彼は突然腕に力を入れてきた。
「サービスなんか期待していないさ……」
「――ひっ!」
 りなの尾てい骨あたりに強く押し付けられた大司氏の腰前面。熱く硬くむっくりと迫り出した出っ張りの形がはっきり分かるほどに。
 それが何かくらい彼女には分かった。背筋に悪寒が走り、たちまち体をこわばらせる。
「きゃああああああ!!」
 カン高い悲鳴をあげてりなは激しく体を揺さぶる。
 だが、大司氏の腕はさらに強くりなを抱きしめる。
「可愛い声で叫ぶじゃないか。でもどれだけ悲鳴をあげても、ここからだったら誰も助けに来ないよ。この世の中はそういうシステムなのさ」
 かき分けられたうなじに大司氏の唇が寄せられる。
「いい匂いがするよ。活発そうな甘酸っぱい汗の匂いがね」
「や、やめて……やめて本当に、怖い……ぁ、ああっ!」
 大司氏の舌先がうなじを舐めた。思わずりなは首をすくめる。
 その一瞬の隙をついて彼の片手がぱっと離れたかと思うと、すかさずりなの胸を荒々しく掴み上げた。
「やっ、痛っ!」
「思ったより柔らかいね。このまま豆腐のように崩せてしまいそうなくらいだ」
 服の上から荒々しく揉みしだいてくる大司氏の手をなんとかして引き剥がそうとするが、一向に離れない。
 そちらに注意を傾けているうちに、彼のもう一方の手が彼女の服に手をかける。そのまま強く掴み、一気に引き剥がそうとする。
 ベストの厚い生地がちぎれる鈍い音。
「いやああっ! やああっ!」
 激しく首を振るりなの体を強く窓に押し付け、今度は両手で彼女の胸を強く掴む。大司氏の顔には先ほどの冷静な表情は消えていた。
「ぐああああああぁ!」
 獣の叫びを上げて、荒々しくりなの服を引きちぎる。上着も下着も関係なく、無差別に剥かれていく。
 彼の両手が、露わになったりなの胸に指を食い込ませて掴むまで、時間はかからなかった。
「あああ、いやぁああぁ……」
 外に降る粉雪のように、その乳房は白かった。それでもって豆腐さながらに柔らかく、大司氏の手指のなすがままにその程よい大きさの丸い形を歪められる。
 頂きのピンク色した肉の突起も執拗に指で弾かれる。
「んうぁあ!」
 りなの体の動きが乳首を弾かれるたびに鈍る。声をひるがえらせて背筋を悩ましくよじる。
 ずん、ずんと妖しく彼女の尻を突き上げる大司氏の腰。
「ふはは、いい感じに……いい感じになってきたじゃないか……。ほら、もっと声を出して体をよじるんだ。もっと暴れたらいい。泣け、ほら叫べ!」
「あああああぁいやぁあ!」
「犯してやるんだ、ずたずたに犯してやる!」
 りなの両胸が冷えきった窓ガラスに強く押し付けられる。大司氏の手はそのまま、まだ破ったワンピースのスカート部分がかぶさったままのりなの下半身に伸びる。
 その指の感触を脇腹に覚えて、りなはさらに震え上がった。目に涙をにじませて言葉にならぬ絶叫を上げる。
 しかし大司氏の耳はそんなものでたじろきはしなかった。叫びたくるりなの首筋を甘噛みしながら、指をさらに進めていく。足の付け根の線を舐めるようにたどり、下腹部の柔らかい表面に指の腹を弾ませて、そのままほんのりと生暖かいパンツの中に潜り込み、さらにその中に生い茂る陰毛の森の中に立ち入っていく。
「ああ……熱い。こんな冬だというのに、ここだけはこんなに熱いとはな。もっと、もっと燃え上がらせてやる。そら、この中に――」
「んぅうああああああぁあ!」
 びくんと背筋をわずかに弾ませたかと思うときゅっと腰を引き、りなは裏返った悲鳴をあげる。
 指が彼女の秘部の肉裂に沈み込んできたのだ。
 体を揺さぶっても意味はない。ただ秘裂の中に侵入して来た忌わしい指の存在をむざむざと感じるだけだ。りなは彼の腕に手を伸ばして彼の冒涜を止めようとするが、無駄であった。彼の指が深く深く入っていくたびに、むずがゆい電流の感覚が体中に広がって力を奪う。
 指は深く入っていくだけではなかった。時折一歩後戻りしたりしては、その周りの媚肉をまさぐるのだ。
「ふっぅ、んっ、んぅ、ぅうぅ……」
 我が物顔で秘裂の中をうろつく指がたまらない。我慢しても我慢しても、りなの口からは喘ぎをかみ殺したような切ない声が漏れてしまう。
 だが指は途中で行き詰まったかのようにぴたりとそれ以上奥に進めなくなった。
「ぬぅ……まだ全部はいっていないのに、ひどくきついじゃないか……処女か?」
 その言葉にりなは肩を跳ね上がらせてさらに頬を赤らめ、怯えたように表情をこわばらせた。可愛いくらいに分かりやすいリアクション。大司氏は思わず顔をほころばせ、頬にキスをする。
「今年のサンタさんのプレゼントはバージンか、んん?」
「ゆ……許して……」
「何を許すんだ? ふふ、さっきから言っているだろ……私はお前を犯す、と」
「ああいやぁ……バージン破られたらいやぁ……」
 りなの声に、食事の時ほどの元気はすっかりなくなっている。
「ふはは、処女を奪われるのがそんなにいやか、ははは……。しかしどれだけ嫌がってもだめだ。お前は私のペニスで貫かれ、悶え、最後には私のペニスにひざまづくのだ」
 秘裂に指を入れているのとは別の手が、りなの唇を撫でる。その柔らかさをじっくりと堪能した後で、ずぷりと口の中に侵入した。
「ふむぅう!」
 もちろん、口の中ではりなの上下の歯ががっちりと締まってそれ以上の侵入を防いでいる。
 と、秘裂で行き詰まっていた指が突然奥に向かって軽く突き上げてきた。
「うあっ――えあああぁっ!」
 短い悲鳴を上げた時に口が開いた隙に、大司氏はりなの汁気に満ちた桃色の舌をつまみあげた。
「かわいい舌だ。食べてしまいたいくらいだ。ああ……」
 舌を引っ張って強引に自分の方に向かせて、彼はりなの唇に荒々しくむしゃぶりつく。
「――ッ!」
 大司氏の舌は彼女の舌に執拗に絡み、ねぶる。さらに彼女の口の中の唾液をさらい、代わりに飲めとばかりに自分の唾液を送り込んでくる。
 その間にも、秘裂に埋もれた指は膣口の前ではしゃぎまわる。その動き一つ一つがじんじんとりなの体に淡い電撃を駆け巡らせる。
 ひどく熱くなってきた。……火照る秘裂の中で指が動くたび、じゅく、じゅぶと粘液がかき分けられるような感覚を覚え始めた。それを感じるたびに、りなの胸に彼女自身認めたくない感覚がこみ上げて来る――力奪われる切ない性感が。
 しかし、体をいいように弄ばれ、今でさえ唇を奪われて舌を吸われているりながその卑猥な感覚に最後まで抗うことができるだろうか。
 ようやく大司氏が口を離すと、りなはむせて咳をした。
 しかし彼はそれ以上の時間を与えない。
 さっきまで彼女の背中に預けた形になっていた上半身をゆっくりと起こすと、彼女のからだから両手を離し、そそくさとズボンのベルトを緩め、ファスナーをおろした。
 そこから彼は何かを取り出した。
 その物の形を見る前に、りなはその濡れそぼった秘裂で押し付けられる。
 抉られてしまうのではと思うほどにひどく熱く、太く、力強く脈打っているのが、熱く爛れた割れ目に強く感じる。
 一体それが何か、そして自分がこれから何をされるのか、りなにはわかった。
「いやああああああぁ! やめてやめて、やめていやああああ!」
 激しく腰を振って抵抗するが、それもすっかり見切られていた。大司氏の両手が彼女の両臀をがっちりと掴まえて離そうとしない。
「さあ、観念するんだ。おとなしく尻を突き出して私のペニスを迎え入れてごらん」
「お願い許してっ、こんなのいやなの、いやああ、やああああああ!」
「全くしょうがないコだ。引導を渡す必要があるな」
 すると再びりなの秘裂に何かが入り込んで来た。指ではない。暖かく柔らかく、どこかぬめぬめとしている。
 その感触の正体は、りなの舌が覚えていた。
「ひあっ、あああ、ああぁっ!」
 だが無理矢理荒し回っているような感じだった指と違い、それはまるであたりをやさしくいたわるように撫でさするかのような動きを見せる。
 抵抗できなかった。子宮の奥から性楽の熱い蜜がとめることも出来ずに湧き出るのをただ感じるだけであった。
 ぶぶ、ぶじゅるぷといやらしい音を立てて大司氏が吸い付くのを聞いて、りなは淫猥に反応している自分の体に強い恥じらいを覚える。しかしそれでも彼女は快感にひ弱にかすれた喘ぎをもらして体を震わせることしかできない。
 大司氏がようやく秘裂から口を離した時も、りなはしつこい余韻で未だに体をうねらせて喘いでいる。
 すかさず彼は自分の腰をりなの中に滑り込ませる。
「――ああああぁ!」
 長く大きいペニスはするりとりなの狭い秘裂をくぐり、つゆ濡れの肉襞をかき分けて、処女の肉扉を破る。
 痛々しい絶叫。
 りなの秘裂から赤い雫がにじみ出る。
 しかしそれでも大司氏は容赦なかった。りなに叫ばせるままに彼は激しく腰を動かし続ける。
「えああああああぁ、いあああああああああぁ!」
 悲鳴を上げて大きく開いた口から助けを求めるように突き出した桃色の舌先が、面向かう窓のガラスにつく。無慈悲で冷たい味。つらいにがみが舌先からそのまま全体に広がる。
 ペニスの勢いのままに、りなの裸の上半身が窓をきしませる。舌に続いて今度は硬くなった乳首のあたりが押し付けられる。両胸に氷の冷たさが貫く。
 破瓜の痛みに涙を流しながら、舌と胸を淫猥に窓ガラスに押し付けたりな。外で事情知らぬ人が見ていたら一体どう思うだろうか? 果たして彼女をレイプの被害者と見なすことができるだろうか?
 ……いや。そこに見えるのは、淫楽にうちのめされて身を任せてしまったあわれな女の破廉恥極まりない姿である。その顔は被害者の悲痛な表情は全くなく、身を焦がすような性の感覚にひたりきって惚けきっている。
 破瓜の痛みより、子宮を貫かんばかりのペニスの勢いが彼女の性器の感覚を支配していた。その前に彼女の意志など完全に吹き飛ばされてしまっていた。
 声の限りにりなはなまめかしく鳴きたくる。もう一体自分が何を叫んでいるのか、何に対して叫んでいるのかわかっていなかった。ただ子宮の欲求のままに叫んでいるかのようである。
 そんな彼女の腰のくびれを愛おしく撫で回す大司氏。
「いい……いいぞりな。いいプレゼントをありがとう。……そろそろ私も……そのお返しをしないとな……」
 彼自身も息が荒い。その目も血走り、ただひたすらセックス行為に集中していた。
「うおぉ、出してやる、肉壷の中に思いきり出してやる! 私の、私の熱く煮えたぎるスペルマをぉお!」
 獣の雄叫びを上げて、激しく腰を突き立てる大司氏。
 そして最後に強い衝撃をりなの子宮に叩き付けると、ペニスは大量の精液をほどばしらせる。
「ぇあああああああぁあっ!」
 そのままりなの意識は吹き飛んでしまった――。

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