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Autumn Night (ver. Cosse)

〜HANDSEL〜

外出先から戻り、王宮の門をくぐったら、濃青色の人影がふらふらと庭園を彷徨っていた。カインは今、一人かもしれない。
私がつきそおうとしてもいつも断るくせに、これはいったいどういうこと? まだ危険は去っていない。カインを一人にしてはいけないのに――爪の先が肌に食いこむほど強く、両手を握りしめた。
私は今日、カインを守るため、人と会ってきた。あれがカインを守ることに、どう繋がるのかは知らないけれど、あの男は必要なことだと言っていた。私はカインのために行動している。
今日だけじゃない。暗殺を見送ってもらうため、私は自分の身体さえ差し出した――なのにアナタは、そこでいったい、なにをなさっているの?
胸の奥に降り積もる憂鬱が、怒りへと形を変えるのに、そう時間はかからなかった。
でもカインの命を危険に晒しているのは、ほかでもない、私の母親。この感情をぶつけるべき相手は、お母様なのだわ――思い出した途端、煮えたぎっていたものは一息に冷めて、身体の奥底に落ちていく。
人影は神殿の方へと歩いていく。
わざわざ呼び止めて挨拶する気にはなれなかった。
今日の授業は帝王学のはず――夕焼け空の下、城へと足を向ける。

時間は少し遅かったけれど、カインはまだそこにいて、兄様と二人きりで話しこんでいた。今までもしばしば目にした光景……だったけれど。
次期国王のカインと、カインがいては王位につけない兄様。その組合せを目の当たりにして、一瞬、息が止まった。
カインは私に気を遣ってか、話を切り上げようとするけれど、兄様はカインと話し足りない様子。
特に用事はないと嘘をついて、部屋に入りこんだ。適当な書物を拾い、長椅子に腰をおろす。紐解いたところで手に負えるものではなかったけれど、読むふりをする。
ひと呼吸ほどの間をおいて、二人は会話を再開した。内容はたぶん、授業の続き。膝の上のこの本と同じくらい、難解。
字面をただ眺めながら、二人の声に耳を傾ける。
おかしな空気は感じられない。心地良い。浸っていたい。
だけど思い出さずにはいられない。この状況の脆さを、危うさを。
お母様の不満は知っていたけれど、カインの命を奪おうだなんて、そんな恐ろしいことまで考えていたとは思わなかった。
カインには、絶対に言えない。もしカインがお母様の企みを知ったら、娘の私はきっと嫌われてしまう。……それだけで済むはずもない。
暗殺の計画……お父様は知っているのかしら? 兄様は?
『アンタの母親があれを誰のためにやってると思ってんだ?』――あの男の言葉が蘇る。
まさか……だって兄様は、記憶を失ったカインを、個人的な時間まで割いて助けている――今だって。
そう、兄様が暗殺なんて望むはずがない。そんな方法で王になろうなんて、考えたりはしない。兄様に相談したら、きっとなんとかしてくれる――議論に熱中している真剣な顔を見やった。
『オレなら確かめようとは思わないね』――また、あの男の言葉が蘇る。
兄様に相談して……それでもしも兄様が、お母様のあの企みを知っていたら? 知っているどころか、一緒に計画していたら?
口止め……口封じ……――いくらなんでも、悪い方に考えすぎ。
だけど私は、早急に縁談をまとめられて、この国を追い出されてしまうかもしれない。それくらいのことは、十分に起こりえる。そうなってしまったら、誰がカインを守れるの?
『アンタに、母親以上のことはできねーだろ? あのしっかりした王女さんならともかく』
膝上の本が重い。胸がむかむかする。


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捏造の旋律

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