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Autumn Night (ver. L)

〜clash〜

ずいぶんと早いな……王宮からつけてきたのか。あいつは昔からかくれんぼが得意だったから、どこかで一部始終を見ていたとしても不思議はないし……そうでなかったとしても、後回しにすれば厄介だ。
木立に紛れようとする気配はひとつ。近い。
やつからは死角に入る手で剣を取る。――来い。それともこっちから行ってやろうか?
「あれ? やっぱ気づいちゃった?」
挑発のつもりだろうか。陽気すぎる声とともに、気配はあっけなく正体を現した。
大股なら三歩――十分、心地悪い距離だ。
両手は見える位置にある。武器を持っていない。だが確かに僕の背中をとろうとしていた。
あるいはこいつは囮で、ほかにまだいる――?
「そうぴりぴりすんなって。愚図坊は、ま、あーなる運命だったってことで……」
やはりこいつ知っている――地面を蹴れば、間髪入れずに剣戟の音が鳴り響いた。誘いに乗った僕の剣を、ジーンは逃げずに叩き返してきた。武器を取る動きの速さからして、端からやる気だったことは疑いようがない。
「こっえー! オレまだなんもしてねーじゃん」
「『まだ』な」
さらに一撃、もう一撃――ジーンはまったく体勢を崩さない。当然だ――おそらくこいつが一番、面倒な相手なのだから。
ただ、加勢に入ろうとする気配は感じられない。退屈な手を好まないジーンが、数に訴えてくるとも思わなかったが。挑発的な態度をとった時点で、差しの勝負を望んでいると踏んだが。
願ってもいないことだ。今なら一対一。これで殺れなければ、二度と勝機は訪れまい。
「そーやって一族全部相手にしようってか? お前も頭かたいねー」
「宗旨変えする気はないよ」
だから無駄な説得は試みるな――言外に告げて、ジーンの間合いに踏みこむ。
剣を剣で打ち、弾き飛ばせなかったそいつを腕で受け流し、剥き出しの胸部めがけて斜めに薙ぐ。
飛び退ってかわしたジーンを追えば鈍い光が生まれ、わずかに身を捩った僕の左の頬を掠めていった。――二本、使ったな……あと何本持っている?
「必死だねー。そんなにあのお姫さん、いいんだ?」
「無駄口を叩く余裕があるらしいな」
間合いを取り直したジーンの足元すぐそばに、邪魔そうな木の根。攻め入れば、不快感露わな舌打ちが金属音に混じった。
そんなところに立つからだよ――構えを突き崩すべく猛攻に出る。だがジーンは防ぎきって逃げた。今度は僕が舌を鳴らす――ジーンじゃなければ決着がついていただろうに、と。
「おもしれーな、これ。私闘は御法度っての、掟から外さねぇ?」
地獄でやってろ。
体勢を立て直す暇は与えない。飛びこんで、斬りかかると見せかけて足を払う――と見せかけて反応を引き出す。重心を乱したジーンの身体へと刃をふるう。
防がれても続けざまに叩く。三本目、四本目の針は、放たれる前に薙ぎ払った。
闘いの流れを完全に握った。反撃に転じようとするジーンの動きを、すべて見切ることができる。出鼻をくじき、攻め返し、追い打ちをかける。
だが――決定打につながらない。何度仕掛けても、あと一歩のところで防がれる。
このままではこちらが先に参ってしまう。僕は、焦りすぎているのか?
「なぁ、そろそろお話し合いしよーぜ?」
いや……ジーンの声にも疲れが滲んでいる。押しきった方がいい。
得物の握りを変えながら一息に近づく。
向けられる刃を払いのけ、その腕に組みつく。引きよせる。
ジーンが余裕のない声をあげた――断末魔の絶叫に変えてやる……。
刃を叩きこもうとした身体は、しかし次の瞬間、期待以上の勢いで突っこんできた。
僕も、驚きの声をあげてしまったかもしれない。
終止符を打つはずだった腕を捕られた。深く踏みこまれ、足元から均衡を崩した。身体が完全に、宙に浮いた――。

「……だからっ……愚図坊もこれくらい、思い切りよくやってくれりゃ良かったんだよ……」
顔の真横で呻き声を聞きながら、大きく咳きこんだ。
うまく受け身をとれなかった。倒れた場所は比較的やわらかかったが、上半身に大の男一人分の体重をくらった。勘弁してほしい。
僕の剣は、木の根に打ちつけた手からこぼれ落ちていた。ジーンがこれを狙っていたかは定かではない。
ジーンの剣は、やつが自ら手放したらしい。でなければ、僕は背中に致命傷を負っていただろう。
「ってぇ……」
演技とは思えない苦悶の声。警戒心はそのままに、脇を緩めてやれば、ジーンは身体を起こしながら利き腕を引き抜いた。
手首か肘をやったな――様子を窺いながら起きあがり、取り落とした短剣にそろそろと手を伸ばす。が、
「なにお前……まだやんの? 勝負ついたじゃん」
ジーンが吐き捨てた言葉はあまりに的確で、その気も失せた。
勝負はついていた。僕がジーンの腕を押さえた直後に。やつが垣間見せた焦りに、僕が動揺してしまった瞬間に。僕はこいつに、生かされた……。
「どーすんだよこれ……こんな怪我して帰っちゃ、長老達、誤魔化すどころじゃねーじゃん」
「……なにを企んでいる……?」
「……世代交代! 今はこれ以上、教えてやんねー!」
わめきちらしながら、ジーンは右腕を剥き出しにする。まだ異常は認められないが、この痛がり方では、しばらく手甲もつけられないかもしれない。
世代交代――なにもかもが馬鹿馬鹿しくなって、木の根本に倒れこんだ。大方、愚図坊の長老ごと、気に入らない実力者達を排除したいのだろうが……。
「……そうならそうと、最初に言え」
目蓋の向こうに朝陽を視ながら、盛大に溜息をついた。


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捏造の旋律

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