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Autumn Night (ver. L)

〜gloom〜

『あなたはもう、私との取引を望んではくれないの?』
『皮肉のつもりですか?』

食べてる最中に思い出すことじゃないな――城下町で調達してきた食物の、最後のひとかけを口に放りこみ、苦い思いごと噛みしめる。
顔を上げれば、夕焼けの中、城の窓辺がぽつぽつと明るくなっていく。
姫が部屋に戻ってくるまでには、少し時間がある。今のうちにもう一度、王宮内をまわっておこうか……。
今日も夜がやってくる。


自然にできた蜘蛛の巣。
無造作に撒いておいた砂利。
目立たないよう張っておいた糸。
どれを見ても、人為的な乱れはない。
ここも大丈夫だ――観察を終え、立ちあがった。
王宮内にはいくつか、僕のような人間が好みそうな道がある。その中で、姫と王子の安全を脅かしそうなものには目印をつけ、朝と夕方には必ず確認している。
王族暗殺のような大仕事を請け負う者が、下見もせずにいきなり入りこんでくるとは考えにくいから、今夜もおそらく、二人に差し迫った危険はない。だからといって油断するつもりもないが……なにしろ姫は無茶ばかりするから。
警備の様子を確認し、姫の部屋のバルコニー周辺を見てまわる。日課と化したそれらがすべて片づけば、今夜一晩を過ごす場所へと向かう。
途中、廊下から女達の囁きが聞こえてきた。
「針、ですの?」
「ええ、そう聞きましてよ」
「まぁ……そんなかわいらしいもので、人を殺めることができるんですの?」
「それが、かわいらしいものではなかったんですって。こう……槍を思わせる大きさで……」
暇なご婦人達だ――姫の多忙ぶりを知っているからなおのこと、舌打ちしたくなる。
王子王女の部屋のそばで不審な死を遂げた男の噂は、耳にするたびに尾ひれが立派になっていく。
余計な部位を育てているのは、命を狙われるだけの価値もない、暇人の群れ。対して、闖入者が狙っていた二人は、毎日を目が回りそうなほど忙しく過ごしている。腹立たしいほどの皮肉だ。
あいにく僕は、槍などという派手な得物は持ち歩いておりません。弓使いでも仕立屋でも女でもありません。ついでに言うなら、あなた方に暇つぶしを提供するために、あれをやったわけでもない――。
少し聞いて、この女達からは有益な情報が得られないと判断した。身を低くしてその横を通過する。
それにしても、愚図坊の噂は回りが早い。僕に関する話と比較すると、差は歴然。王宮上層部がいかに必死に脱獄の噂を封じているか、窺えるというものだ。
混乱を防ぎたいのか、それとも体面を保ちたいのか――いっそ公表して、警戒を強めてくれれば良いのにと思う。僕の通り道ひとつひとつが警備の隙であるだけに、歯痒くてたまらない。
愚図坊の死に様は、これだけ語り草になっているのだ、そろそろ一族にも伝わっただろう。
ジーンの小細工はまだ通用しているのだろうか。世代交代の計画はどうなったのだろう。
僕はすでに、裏切り者として狙われているのだろうか。姫は? 王子は?
ジーンは僕に一族出入り禁止を告げたきり、姿を見せない。おかげで僕は、一族の様子がまったく掴めない。なにから二人を守ればよいのかわからないまま、ただ見張っている。
王宮内ののんびりした空気ももどかしいが――ジーンのやつ、いったいなにをやっているんだ。
苛々と前髪を振り払い……もどかしさの本当の理由を思って溜息をついた。
僕は、いったいなにをやっているんだろう。
なにもかも人任せだ。姫を守るためにできることが、ただ張りついて周囲を監視するだけだなんて――情けないにもほどがある。
なぜこんなことになっているのかと言えば、ここに至るまでの時間を僕が無為に過ごしてしまったせいだ。
王宮を離れてから四ヶ月間、僕は思い煩うばかりで、なにも考えてこなかった。与えられる仕事をただこなすだけで、漠然と日々をやり過ごしてきた。
世代交代などという企てがあったとは知らなかった。ジーンの言動には、驚かされ通しだった。
まわりにしっかり目を向けていれば、今頃は、もっと確実な方法で姫を守ることができていただろうに。
愚図坊を、もっとましな方法で始末していたただろうに。
……悔やんだところで時は戻ってこない。できることをやるしかない。
できることを――。
ジーンの軽口を思い出せば、気が塞ぐ一方だった。


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捏造の旋律

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