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Autumn Night (ver. L)

〜remorse〜

姫が床に頭を打ちつける寸前で、その身体を支えた。
姫の意識はすでに朦朧としているようだった。
半開きの唇から、荒い呼吸とともに漏れ出るのは、意味を成さない音ばかり。何度、呼びかけても、言葉らしきものは返ってこなかった。
無我夢中で姫の身体をあらためた。礼節などというものは、頭から完全に抜け落ちていた。
僕に見落としがあって、姫が何者かの手にかかってしまったのか――そればかりを考えた。
しかし姫の肌に傷らしきものは見当たらず、あたりには飛び道具の類も転がっていなかった。
姫は身を縮め、全身を小刻みに震わせ、ときには僕の上腕に身体を擦りつける仕草さえ見せていた。
ぐったりしているようでいて力の入りきったその身体は、ずいぶんと熱かった。――発熱の悪寒に苦しんでいるのだと、ようやく納得した。
原因が、毒矢や毒針といったものではないとわかれば、僕にできることはなかった。
暖を求める姫を抱きしめたいと思ったけれど、彼女が必要としていたのは医術の心得に基づく確かな手当。
震え続ける姫を寝台へ運び、毛布でしっかりとくるんでから、暖炉脇の薪を籠ごと、豪快にひっくりかえした。
けたたましい物音にも目を覚まさない姫が気がかりだったが、遠くで扉を開け閉めする音が聞こえたから、すぐにその場をあとにした。
期待通り、侍従の少年がやってきて、姫の異常に気づいた。
わずかに遅れて王子が駆けつけ、典医が呼ばれ、姫の部屋周辺は夜更けらしからぬ騒ぎとなった。
僕はそれを、ただ見守るしかなかった。


不意に脇腹が痛んで息を詰めた。
座りこんだまま、身体を軽く折り曲げて鈍痛をやり過ごす。
肋をかばいながら呼吸を整える。
今日の痛み方は昨日までと比べて、明らかに酷い。夕べ少し無理をしてしまったかもしれない。
もとをただせば、一週間前、林でジーンとやりあって痛めたのだろう。異常を感じはじめたのは王宮に戻ってきてからだが、他に原因は思い当たらない。
走ったりよじ上ったりすれば不快感があったが、無視できないほどではなかった。いざとなればどんなに痛んでも無視しきるつもりだったし、実際、倒れる姫を受けとめたり、抱きあげたりしたときは、痛みに構ってなどいられなかった。――それで悪化したらしい。
ずっと、このあたりに自生している薬草でしのいできたが、ここまで酷くなると効果は薄い。見まわりにも食料の調達にもひと苦労だ。
本当はこういうときに良く効くものがあるが、採取するには季節はずれだし、加工に時間と手間がかかる。ほしければ一族の蓄えから手に入れるか、どこかから失敬するか――王宮内にあるとすれば、典医の部屋だろうが……。
酷い痛みは一過性で、だんだんと治まっていく。
ゆっくり身体を元に戻し、頭を木の幹にもたせかけた。冷たい空気が、こめかみに浮いた汗を弄して流れていく。
投げ出した足の先で、小さな光が踊っている。
城の裏手の林の中。太陽は高いが、日射しのほとんどは常緑樹の枝葉に遮られ、下まで届くのはごくわずかだ。風が木々を揺らすたびに途絶えそうになる、頼りない光。
姫は助かるだろうか――十中八九、ただの過労と風邪だが、不安でたまらない。
夜明け近くまで様子を窺い続けたが、結局、姫は目を覚まさなかった。
瀕死の王子をも救った典医がついているのだから大丈夫――何度も自分に言い聞かせる。睡魔もすぐそこまで来ている。だがあと少しのところで眠れない。
後悔が、不安と一緒になって意識を揺さぶり続けている。
倒れるほど身体を酷使し続けた姫――僕はあれをやめさせることができたはず。なのに決断を先へ先へと送り、こんな事態を招いてしまった。
姫のおかしな行動の理由など、きっと本当は、最初から気づいていた――僕を探しているのだと。
ただ、彼女の夜歩きは、僕と会う前から始まっていたから――愚図坊とともに二人の部屋へ向かったときも、どういうわけか彼女は、自分からバルコニーに出てきたから――。
その、たったひとつの出来事にすがって、翌晩以降の一人歩きの理由を、正しく推察しなかった。姫には僕と会う以外の目的がある――そう思おうとしていた――噴水脇での姉弟の会話に、逃げ道を塞がれるまで。
いや。そんなこと以前に、姫の事情がなんであれ、僕から出向いて彼女に自重を求めることは、いつだってできたのだ。毎晩のように、近くで彼女を見ていたのだから。
取引でもいい、脅迫でもいい、彼女に無理をさせないよう、出歩かせないよう、もっと前に手を打つべきだった。
不始末の連続だ。
昨日の晩でさえ、姫の身に異変がなければ、僕は土壇場で踵を返していたかもしれない。殴り殺したくなるほど意気地のないやつだ……。
溜息は肋に負担がかかる。ぶりかえす痛みに眉根を寄せた。


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捏造の旋律

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