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Autumn Night (ver. L)

〜deviousness〜

王族暗殺の依頼が、ジペルディ家と無関係だと思ったことはない。マクリール家が消えれば、王位はジペルディ家に転がりこむのだから。
暗殺を企てた理由が、純粋な私怨や怨恨だと思ったこともない。なにしろ標的は王族。莫大な報酬を用意せねばならないし、伴う危険も並大抵のものではない。
だから、依頼をしたのはジペルディ家か、ジペルディ家に権力を握らせたいどこぞの貴族だ――そう思っていた。真相を掴む前に、あの日がやってきてしまったけれど。
ジペルディ家の我が儘娘……あんな夜更けにジーンとなにを話していた? いや……あれは単に話をしただけではないだろう――深く考えたくない。
『新しい依頼人』――彼女がそうなのだろうか。
確かに彼女なら、暗殺をやめさせようと必死になるかもしれない。カイン王子に甚く御執心で、しばしば姫を困らせていた。
仮に彼女がそうだとして――なぜ、よりにもよってジーンを頼るのだろう。
あいつの悪ふざけにつきあうのは相当な負担だ。あの晩も、会って早々、やつの不躾な振る舞いに苛立っていた。好きこのんで部屋に招き入れているわけではないのは明らか――まるで弱みでも握られているかのようだ。
彼女の周囲には王国の有力者達が揃っている。父親、母親、妹を溺愛している補佐殿――困りごとなら彼らに泣きつけばよいのに、なぜ、それをしない?
……できないのだ。暗殺の依頼を出したのが、ジペルディ家そのものだから。
まさしく『世代交代』。ジーンはあの無力な姫君を、身内にぶつけようとしている。
――まだ推測の段階だ。二人の奇妙な密会だけで、すべてを決めてかかることはできない。確証を得なくてはならない。
宮廷楽士だった頃と違い、今の僕がおもてだって出入りできる場所は少ない。王宮内に限ったことではなく、一族にも戻れない状態だ。
だが、それを補って余りあるほどの時間が転がっている。暗殺計画の黒幕――今度こそ突きとめる。
顔を上げれば緑の天蓋。陽が透けて見える。
城の裏手の雑木林。最近はここが一番くつろげる場所だ。どんな手練れでも、気配を消しきって移動するのは難しいから――ジーンも例外ではない。
かさりと、遠くで枯葉を踏む音がした。

「よお。来てやったぜ」
ジーンはいつもどおりの飄々とした様子で現れた。
来なくていいよ、遊んでこい――正直な思いは腹の底深くにしまいこむ。
「どーだ? 曲者、みっかった?」
「見つけたように見えるか?」
「なんだ、今日も機嫌ワリぃのか?」
「別に。……そっちこそ、なにか新しい話はないのか?」
「ねーなぁ。代わりってわけじゃねーけど……ほらよ、若からの差し入れだ」
ジーンが包みを投げてよこす。僕に明かせるような『新しい話』はないらしい。……ならばお互い様だ。
「差し入れ?」
「そっ。お前が曲者捜しで王宮に入り浸ってるっつったら、持ってけってよ」
袋の口を緩めると、着替えや食料の類が見えた。真っ当な代物ならありがたい。とりあえず受け取っておくことにする。
「お姫さん元気?」
「知らないよ」
「ったく、冷てーな。見舞いくらい行ってやれよ」
「機会があったらね」
戯れ言を受け流しながら胸中で吐き捨てる――そんな機会、一生ないよ、と。
姫にはいずれ会わなくてはならないかもしれない。だがそれは、見舞いなどという穏やかなものにはならない。取引か、脅迫か――彼女次第だ。
願わくば、僕の存在が病とともに、彼女の中から消えてなくなることを――姫は順調に回復してきている。

今日のジーンはさほど絡んでくることなく立ち去った。高貴な玩具を堪能していることの表れかもしれない。やつが消えた方角から視線を下ろし、目を閉じた。
あの謎の逢瀬は結局、話題に上らなかった。あれが世代交代計画の中枢に位置するものなら、まだ話すときではないということだろうが――黙ってさえいれば、いつまででも隠し通せると思っているのなら、見くびられたものだ。
それにしても、正気の沙汰ではない。
相手はジペルディ家の令嬢。父と兄は王子に次ぐ王位継承権をもっているし、彼女自身、どこかへ嫁ぐまでは――場合によっては嫁いだ後も、王族待遇だ。
あいつの面倒な悪ふざけは今に始まったことではないが――ジーン、今度ばかりは身を滅ぼすぞ――。
そこまで考えて、苦笑した。
『君が僕のものになってくれれば』――人のことを言えた義理じゃない。王女相手にただならぬ想いを抱いてしまった分、僕の方が質が悪いかもしれない。
差し入れを隠して林を出た。
十一月ともなると、日の入りは早い。太陽は高く上がらず、昼を過ぎれば暗くなるのはあっという間だ。
朱が勢いを失いつつある空の下、いつものように王宮内を見てまわる。
と、白布頭が衛兵の隙をつきながら、王宮深くへ向かっていくのが見えた。
今日も行くのか、まめなことだ――失笑しかけて、すぐにそうではないと気づいた。
やつが進んでいくのは、双子の安全を脅かすものとして、僕がずっと警戒してきた道。間違えようがない。
あいつ、なにをする気だ――!
目的は姫の部屋だと直感した。屋根を蹴る。最短距離を走る。
間に合ってくれ――急速に冷えていく身体の中で、そればかりを叫んだ。


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捏造の旋律

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