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Autumn Night (ver. P)

〜3〜

ようやく一人で起きあがれるようになったときには、十一月最初の週が終わろうとしていた。
金曜日の晩、私が熱を出して意識を失っていることに、偶然エミリオが気付いてくれたらしい。
発見が早かったから大事に至らずにすんだのだと、無理をしてはいけないのだと、ジークにはやんわりお説教された。
もちろん、みんなにかけた迷惑と心配の重さを考えれば、叱られ足りないくらいだったけれど。
そして、起きあがって最初にしたことが、窓辺に人影を探すことだったのだから、つくづく自分の人間性を疑ってしまうけれど。
エミリオが私の異常に気付いたのは、部屋で大きな物音がしたからだという。
なにかの拍子で、暖炉脇に置いてあった薪が籠ごと倒れて、そのけたたましい音にも目を覚まさなかった私の状態を、訝しんでくれた。
そのときの私は、ちゃんと毛布にくるまって寝ていたらしい。戸締まりもしてあったという。
でも私には、バルコニーから部屋に戻った記憶がない。
最後に覚えているのは、固くて冷たい石の床と……私を咎めるように姫と呼んだ、リオウの声。
あれはきっと夢なんかではなく、現実だった……なんて、都合よく考えすぎかしら。
性懲りもなく窓を開けて、バルコニーに出た。
陽はもう落ちたのかもしれない。空は朱が勢いを失いつつあった。
やっぱり寒い。裸足だし、少しふらつくし、治りかけの風邪を自分でこじらせるのはやめよう。
部屋に戻り、窓を閉めようとした。
――黒い大きなものが、押し入ってきた。
「……え?」
掠れた声しか出なかった。
後退ろうとしたら足がもつれた。
倒れそうになったところを抱き留められた。
黒い服、頭には白い布。この人、見たことがある。神殿脇の林で、リオウと――。
「へへっ治って良かったなー、お姫さん」
大きくはだけた胸元から、危険な匂い。鼻ではない別の部分が、強い恐怖を訴えはじめる。
「んー? 快気祝いに来るにゃ、ちょっと早すぎたかー?」
顎に手をかけられた。無遠慮に指が食いこむ。痛い、吐き気がしそう。
顔が近づいてくる。生暖かい空気が寄せてくる。
私を見据える眼差しは、凶暴な獣のよう。
この人は――このヒトは、嫌だ――!
「なにをしている」
私を捕らえる身体の後ろから、別の声がした。低くて静かだけど、激しい怒気がにじみ出た声だった。
腰を、顎を解放されて、ぺたりと床に座りこんでしまった。足の動かし方を、完全に忘れていた。
見上げた先では、赤毛の混じった獣が前屈みのまま、両手をあげていた。その首筋には冷たく光る切っ先。容赦なく肌にくぼみをつくっている。
「ははっさすが。お姫さんのこととなると、早いねー」
「僕はこういう冗談は嫌いだ」
「わーってるって。リオウ、ここで騒ぎを起こすつもりか? あとでお姫さんが困るぜ?」
短剣を持つ手はリオウのもの。それがわかっても、赤毛の男から目を離せなかった。少しでも注意をそらしたら、また襲いかかってくるような気がして。
でも視界の隅に、ぼんやりとだけど見えている。無表情なのに、とても怖い顔が。
「……依頼人だって、知りたいだろ? オレから聞くほうがラクだと思うけどねー」
「お前に話す気があるならな」
「だーからー、ちょっと待てっつってるだけじゃん。今おもしろいとこなんだよ」
短剣に向けられていた男の視線が、再び私へと降りてくる。反射的に身構えたけれど、その眼光はさっきよりは柔らかかった。
「お姫さん、本当にこんなヤツでいいわけ? 怒ると性格変わるぜ?」
答えようのない問いだった。というより、答えを整理するゆとりがなかった。
「ま、お姫さんがいいなら、オレはいーんだけどね。……さて、快気祝いも来たことだし、オレはこれで退散するわ。リオウ、今度は長居してけよ?」
赤毛の男はゆっくりと身動いでから、突きつけられた刃を指先で鳴らした。渋々といった体で、リオウが剣を納める。
男は両手をあげたまま、「じゃっ」とひと声。踊るような足取りで窓の外へ消えていった。
いつのまにか、外も室内もすっかり暗くなっていた。


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捏造の旋律

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