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Golden Ears of Barley

〜5〜

『変わり果てた僕を見てがっかりして』
『じゃあ、なぜ僕を見てくれないんだ』
カインの言葉が頭の中で回り続けている。有用な考えを生み出すことなく、ただぐるぐると。
今はとにかく気分を変えなくてはいけない。
お茶を飲んで一息ついてからバルコニーに出た。あえて陽のさす場所に立ち、空を見上げる。
太陽は中空を過ぎたけれど、カインが戻るには少し早い。きっとまだロデルの家にいる。
二人で楽しくお話できているかしら――行って確かめられれば良いのにと切実に思い、溜息を零した。
ジークに相談すべきかもしれない。この状態が長引けば、カインの教育や公務に影響が出ることもあり得る。
カインの特殊な体質を知っているのは、私とジークだけ。なにか起きたとき、いち早く対応するためにも、できるだけ私がついていなくてはいけない。――このままでは、それができない。
体質のことを抜きにしても、私はたった一人の肉親として、誰よりも近くでカインを支えるべき立場にある。なのに、支えるどころか傷つけて、拒絶されてしまった。
「……ジークには、説明しないといけないわね」
もし今日、カインと話しあうことができなければ。……考えたくないことだけれど。
空を見ていたはずなのに、いつしか俯いていた。
気分を変えるなど、とてもできそうにない。手摺りに手をつき目を伏せた。
『昔の僕なら、そうしたから?』――そう問われたとき、確かに私は否定しなかった。
実際、私が考えていたのは、事故にあったカインが最期になにをしようとしたかばかりだった……けれど。
『昔の僕を懐かしんでる』――まさかそんなふうに思われてしまうなんて。
目蓋の向こうは明るいのに、闇を見ているような心地になる。
しっかりしなくては……狼狽えているだけでは、なにもできないのだから……――陽の光に意識を向け直そうとした。その時。
「きゃ……」
悲鳴さえまともにあげられないほど唐突に、光を遮られた。
一瞬の出来事。
目を開けると同時に、バサバサと羽ばたく音が頭上近くを過ぎっていく。
「鳥……」
なにかが落ちてきたのかと思った。
去っていく大きな黒い塊を見送りながら、ほっと胸を撫で下ろした。
けれどまたすぐに息が止まった。
勢いよく既視感が湧きあがってきて、そこにカインの声が重なった。
『姉上! 危ないっ!』――そう叫んでカインは私を突き飛ばし、私の身代わりになって大怪我をした。こんなふうによく晴れた日に起きた、エシューテでの事故。
お父様とお母様のことも、きっとあんなふうに守ろうとしたに違いない。
ああ、そうだわ……――思わず口元を覆った。
カインを傷つけない答えは、昔のカインはどうしたか、ではなく、今のカインならどうしたか、だった。こんな簡単なことが、どうして夕べわからなかったのかしら。
どうして……――場所が、あの場所だったから……お父様達がすぐそばにいて、お父様達ならどう思うかばかり考えていて、だからそのまま、昔のカインならどうしたかを考えはじめてしまって……。
……それだけじゃないでしょう? ずっと『うわのそら』だったじゃない。
言い募る声は、窘める声に追いやられて霧散する。
印象深い、青みがかった黒髪が、固く閉じた目蓋の裏でやわらかく揺れて消える。
『なぜ僕を見てくれないんだ』――カインが残していった言葉が、頭の奥で木霊する。

結局この日、カインとはほとんど言葉を交わすことができなかった。
頃合いを見計らってカインの部屋へ向かい、扉のそばで待っていたけれど、ロデルの家から帰ってきたカインは、私の前を素通りしかけた。声をかけなければ、そのまま部屋に入っていたかもしれない。
呼びかけに、カインは足を止めてくれたけれど、無表情のまま、私と目をあわせようとしなかった。
そして私がなにを言うより先に、疲れたから休みたい、週末も一人でゆっくりしたい、と言い残して、扉の向こうに消えた。
その一部始終を見ていたエミリオは、さすがに表情を強ばらせていた。


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捏造の旋律

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